「……凄い殺気だ……もしかして僕、君に恨まれてる?何かしたっけ?」
「…………」
「何か言ってくれないと、何も分からないよ?……それとも……顔を見られたらマズイのかな?」
鋼夜は不意打ちとも言える一撃を白夜に向かい放つ。
しかし白夜はそれを超人的な反応速度で相殺。何事も無かった様に話を続ける。
「まあいいや。後でじっくり話を聞かせてもらうよ。さしあたって戦闘中にそのバイザーに隠された素顔くらいは見させてもらうよ」
白夜が黒陽の固有武装。二刀小太刀、風雲雷輝を両手に構える。
それを見て鋼夜は蒼火桜の固有武装。日本刀、
「〈鋼鉄の刃よ、我が身を纏いて翼となれ〉」
小言で唱えられるそれは、白夜に聞かれる事はない。
まだ、俺の正体をあいつに明かすわけにはいかない。確実に仕留められるその時まで。
両者は空中へと飛び出し、空中で二対の小太刀と日本刀の斬撃が激しくぶつかり合う。
「来たか、鋼夜」
「久しぶりに見ましたが…更に磨きがかかっているみたいですね」
しばらくして白夜にもろに回し蹴りを食らった2人が立ち上がる。白夜を足止めして鋼夜とぶつける為に
ただ、収穫はあった。一つは思惑通りに白夜と鋼夜をぶつける事に成功したこと、それともう一つは白夜のフリーダムナイツの世代を知れた事だ。
前に鋼夜が言った通りに本当に白夜が嘘をつかないとすれば、かなり衝撃的な事実ではあったが、それならそれで対策の打ちようがあるのだ。
「……とりあえず白夜は鋼夜に任せるとして。私達はゼノギアの殲滅に向かうぞ」
「変わったわねフェル。任せるなんて」
「…私ももう子供ではいられないんだよ。それと私の方が四つも年上なのだからもう少し敬意を払え」
「……はいはい。まだ23でしょ?敬意もへったくれも無いわよ」
「後で覚えておけよ?セディ」
互いを愛称で呼び合い笑い合う二人は直ぐさま戦士の顔へと戻り、未だ群がっているゼノギアの大群を殲滅すべく行動を開始した。
そんな二人を横目で見て、苦笑しながら白夜が小太刀を振るう。
「……やっぱり天剣っていうのは強いね。結構な力で蹴った筈なのに全然応えてないな。君もそれくらい楽しませてくれるんだよね?イリーガル・ブルー」
合計二十五本からなる斬撃をたった二本の小太刀で捌きながら、白夜はさも楽しそうに一方的な会話を続ける。
しかし手数の違いというのは見た目以上に精神を消耗する。
一瞬でも読み間違えれば手数に任せた連撃が叩き込まれる。そうでなくとも少しでも体力が落ちれば捌ききれなくなる。そんなギリギリの状況すらも白夜は楽しんでいた。
しかし楽しめるだけの理由が白夜にはあるのだ。それは……
「どうしたイリーガル・ブルー!!左腕の動きが遅いぞ!!」
(くっ……てめえに言われなくてもそんなことわかってるんだよ!)
鋼夜は叫びたい気持ちを抑え、無言でただ斬撃を振るう。
そう、鋼夜の動きに圧倒的にキレが無いのだ。理由は簡単。
普通ならばそんなものはフリーダムナイツがその出力で補正して全く関係ないのだが、こと鋼夜に関してだけはそれは叶わない。
少し朧火鋼夜のフリーダムナイツ、蒼火桜の話をしよう。先ず最初にことわっておくのは蒼火桜は第三世代である。
『戦場を駆ける蒼き流星』とまで称された蒼火桜は歴代最高のフリーダムナイツとしてその名を轟かせているが、それと同時にイージス上層部からはかなり不名誉な呼び名を付けられている。
曰く、「歴代最高の戦闘性能を誇るが、同時に歴代最高の欠陥機でもある」と。
蒼火桜に限らず、フリーダムナイツというものは操縦者の心に大きく進化の道筋を左右される。そして朧火鋼夜の心に答えた蒼火桜の辿った道筋はかなり。いや、極端に偏っていた。
蒼火桜は全フリーダムナイツの中でもトップクラスの攻撃力を誇り、速度に至っては通常時であれば世界最速と言われている。しかし速度を重視するあまり、蒼火桜の装甲はあまりにも貧弱なのである。
極限まで薄く、軽く作られた蒼火桜の装甲は第三世代の状態で、恐らくイグナイトよりも性能が落ちる。
要所要所にのみ取り付けられた装甲と呼ぶにはあまりにもお粗末なそれは、致命傷を一度でも防げれば上出来な方であろう。勿論世界最速で動ける蒼火桜はほとんどまだ実戦では攻撃を受けた事は無い。しかしまだ鋼夜がイリーガル・ブルーではない頃。滝沢秋水の元でフリーダムナイツと武術の指南を受けていた頃、それはそれは酷い有様だった事は想像に難くない。
更に蒼火桜の欠点はもう一つある。
それは異常なまでの燃費の悪さである。
蒼火桜は全身の速度を上げる為に、装甲に極薄のブースターを取り付けている。更に背中には開閉式の大型ブースターも取り付けられており、殆ど常時稼働をしている。更に蒼天皇の剣翼を併用することで世界最速を叩き出すのだが、それも装甲の脆さに一役買っているばかりだけではなく、燃費の悪さにも繋がっているのだ。
フリーダムナイツの燃料はそれに乗る操縦者の宝力である。フリーダムナイツを展開するのにも必要だし、固有武装を作り出すのにも、固有能力を発動するのにも必要なのである。そして重要なのは、ブースターを使うのにもそれが必要。という事である。
それすなわち、蒼火桜が世界最速を叩き出す為には、固有能力と全身のブースターを常時起動させなければならない。更に鋼夜はそのスピードでの戦闘訓練のみしかしていないため、強敵と戦う為には常時その状態でいなければならない。その為、操縦者の宝力を凄まじい勢いで食らっていくのだ。
世界最高レベルの二つの性能と世界最低レベルの二つの性能とを併せ持つ『最強の欠陥機』。それが朧火鋼夜のフリーダムナイツ、蒼火桜なのである。
そしてその性能は今。半分程しか出せていない。左手の筋が痺れているこの状態では、左手のブースターを起動した瞬間どんな方向に推進力が働くか分かったものでは無い。
更に通常時でも痛むため、満足に左腕を動かせないのが現状である。
(このままじゃあやべえ……けど!!)
対する白夜も目に見えて疲れが出てきた。当たり前である。たった二本の小太刀で二十五の日本刀の斬撃を受け続けているのだから。そして何度目か分からない斬撃で二本の小太刀が白夜の手から離れていくのを見て直ぐさま鋼夜は詠唱を始める。
それは朧火鋼夜がただ一撃の為、確実に仕留められる好機を待ってから取り出す最強の刀。実体の無いものすらも切り裂くことの出来る、防御不能の刀。
「《時空をも切り裂く鋭利なる刃よ》天羽々斬 !!」
勝ちを確信した鋼夜はこの時初めて声を上げる。しかしそれすらも聞かぬほど白夜は集中した様子で、詠唱を紡いでいる。
固有能力か……だけど今更唱えたって遅い!!これで終わりだ!!
朧火鋼夜の七年はただこの一撃の為に。母の、父の、妹の復讐を誓った七年前のあの日から毎日欠かさず振り続けてきた刀の一撃を。あの日から一度だって忘れた事の無い自分自身の誓いの為に。
蒼天を割る一撃を。
鋼夜の防御不可能の渾身の一撃は………
「僕の刀でも壊せないなんて………それが噂に名高き天羽々斬か、どうやら本物みたいだね」
突如として白夜の手に現れた日本刀によって白夜の体には届いていなかった。
そして白夜の手が持っている日本刀に少し掠ったバイザーが
全てを切り裂く天羽々斬。それを止めることの出来る刀…それは……
「これが僕の十聖剣。
そして鋼夜のバイザーがその中に隠した素顔を白夜に晒す。