白夜の周りに黒い光が集まる。
あれは……たぶん呪いの類だ。見ているだけで吐き気がするほどの強烈な呪詛。
「僕の雨死光は今までに殺した人間の命を、恨みを僕の力に変える能力。さあ、鋼夜。君は……何人まで耐え切れるかな?」
「殺した人間の恨みだと……」
冗談じゃない。あいつの周りに集まっている光は目視じゃあ判別できないほど多いぞ。恐らく50……いや、100は越しているはずだ。
「僕なんかじゃあ、ジュライアには敵わないけど、それでも村一つ攻め落とした事くらいはあるんだ。さあ、鋼夜の心は何人の恨みまで耐え切れるかなぁ!!?」
白夜が黒い光をこちらへ飛ばしてくる。なんて数だ……多分30はある。
くっ、しょうがない。ごめん……
そう思いながら俺は天羽々斬を振るう。天羽々斬に斬れないものは無い。しかし……それらの黒い光は斬られても直ぐに再生してこちらへと突っ込んでくる。
天羽々斬で斬れないだと!?
「違うよ鋼夜。天羽々斬に斬れないものは無い。それは正解だ。天羽々斬に斬れないものは他の十聖剣だけだからね。だけどね鋼夜。いくら天羽々斬といえど存在しないものは斬れないんだよ」
そう、天羽々斬は物体が存在しないもの。例えば空間などならば斬ることが出来る。しかし白夜の放つ光は死者の恨み。恨みだけならば斬ることが出来ても、死者という既に存在していないものは先ず斬ることはおろか干渉も出来ないのだ。
そして黒い光が一つ、俺の胴を突き抜ける。
痛みは……無い……しかしその瞬間。頭の中に声が鳴り響く。
『ゥゥ……イタイ、イタイヨ……タスケテ……』
これは?
そう考える暇もなく、更に一つ、二つ……それを筆頭に幾つもの光が俺の体を突き抜ける。
『イタイイタイコロスシネシネコロセコロセタスケテタスケテェヤダヤメテイタイクルシイタスケテシネコロセイタイシネヤメテイタイシネコロセクルシイヤメテイタイシネコロセクルシイシネコロセイタイシネコロセイタイシネヤメテイタイシネコロセクルシイイタイシネコロセクルシイシネワメケ……』
形容しがたい苦しみが頭の中に直接流れ込んでくる。
「ぐぁぁぁぁぁあ!!」
「どうだい?苦しいかい?鋼夜……そうだ、もっとだもっと苦しんでおくれ鋼夜。もっと僕に色んな表情を見せておくれ、ああ僕の愛しき鋼夜……もっとだもっと怒れ、狂え、苦しめ、壊れろ……それが極上の人間へと押し上げるんだ!!」
「……狂って……やがるな……やっぱり……」
「そうだ!その目だ鋼夜!!その殺意を忘れるな!世界の絶望を忘れるな!僕への復讐心を忘れるな!僕を恨め!僕を憎め!もっとだ!もっと殺意を燃やせ!!!!」
その時唐突に頭に鳴り響く呪詛が止んだ。
「もういいよ。そのままじゃあまともな戦闘なんて出来ないだろうしね。さあ、第2曲目だ。さあさっきよりも激しく踊り狂おう鋼夜!!」
もうすでに俺の骨折は
俺はさっきの失敗を繰り返さない様に冷静に、復讐心に取り付かれないように努めて冷静に剣を振るう。
凄まじい速度で振るわれる剣撃にそれを真っ向から叩き落す剣撃。
時刻は既に12時を周り、崩れた天井から日光が降り注ぐ。
その中で日本刀と日本刀が目まぐるしく動きあい、その度に火花を散らす。
「その動き……既に骨折は治っているね。それが鋼夜が紗夜に……『テミスの鎮魂歌』に願った願いだね」
「そうだ……傷の超速再生。これが俺が『テミスの鎮魂歌』に願った二つ目の願い。紗夜が俺に託してくれた。力だ!!」
本当は1日に1回までという制約付きなのだが、あえてここで言う必要性は無い。
「そうか……二つ目か……じゃあ一つ目は……生還かな?」
「それ以上敵に教える義務は無いね!」
「つれないなぁ。じゃあ力づくで答えさせるまでだ!!」
問答が終わり、激しい戦闘が再開される。
天叢雲剣で激しく斬りかかる白夜に対し、鋼夜は剣翼を巧みに使い、立ち向かう。天叢雲剣が剣翼にぶつかる度剣はその先からボロボロになって崩れていく、しかし鋼夜はそれに構わず崩れた剣翼をしまい、新たに剣翼を取り出す。
時より死角から白夜に向かい剣を投げるも難なくそれを白夜は躱す。
「つっ、!!」
鋼夜の体制が一瞬崩れる。白夜の気迫に、それとも気配に押されたのか、一瞬反応が致命的に遅れる。
そしてその機を逃さず天叢雲剣が鋼夜の足を狙う。
「くらえっ!」
が、鋼夜はそれを待っていたかのようなタイミングでクルリと体制を入れ替える。そしてそのまま白夜のお株を奪う、回し蹴りが振り切られた遠心力によった引っ張られた白夜の背中に浴びせられる。
「ぐっ……流石だね鋼夜。やっぱり君は最高だ。だけど……僕にはまだ及ばない。君には圧倒的に足りないものがある……いや捨て切れていないもの……かな」
「何だと?」
少なくとも鋼夜はこの7年間。誰にも恥じない訓練を続けてきたと胸を張って答えることが出来る。足さばきも、剣術も、体術も、全て人並み以上……いやそれよりもひたすら毎日愚直にこなしてきた。その自分に何が足りないのか。
「それはね……人間らしさだよ。今の一撃、回し蹴りじゃあなく天羽々斬でやっていれば僕は死んでいた。だけど鋼夜はやらなかった。何故だと思う?」
「それは、足でなければ遅かったから……」
「違うね」
白夜は鋼夜の言葉に被せながらそう言った。
「鋼夜……君は僕を殺すのが怖いんだよ。一丁前に殺すとか、復讐とか言ってるけど、怖いんだろう?鋼夜……君の生きる目的が失われるのが」
「なっ……」
「鋼夜……あんまり僕を失望させるなよ……さっきの目はどうした?あんまり僕を失望させると…………殺すぞ」
今までにない殺気が一瞬白夜から発せられる。正直鋼夜は今まで殺気というものを余り信じてはいなかったしかしこの瞬間、その概念は覆される。
間違いなく今のは殺気。そう思わせるほどの何かが白夜からは発せられていた。と思うのも束の間。直ぐに引っ込んでしまう。
「まあ、冗談だけどね。愛しい僕の鋼夜を殺すなんてあるわけ無いじゃないか……まあ他の生徒なんてどうなっても良いんだけどね」
「まて、何を考えてる白夜!」
瞬間、白夜はそこらに転がっていた誰かの剣をあろうことかミーディア学園の生徒達の方へと投げる。
俺は瞬間的にブースターを起動し、追いかけるも間に合わない。
だが、間一髪の所でそれは赤いフリーダムナイツに阻まれる。
「助かりました……フェルリア先生」
「助太刀しようか?」
「いえ、一人でやらせて下さい」
「……わかった。怪我はするなよ?お前は天剣でも私の生徒だ。怪我などさせられん……もう少しでハッキングが解除できる。それまでの辛抱だ。頑張ってくれ」
「はい」
俺はフェルリア先生に見送られながらもう一度白夜の元へと舞い戻る。
「んんー。惜しいもう少しだったんだけどね。フェルリアに邪魔されちゃったよ」
「……なんであんな事したんだ」
「それはね、鋼夜の憤怒に歪む顔が見たかったんだよ。どうやら生徒に投げてもフェルリアが止めちゃうみたいだし……やっぱり狙うなら美月ちゃんかな?」
白夜はおもむろに左を振り向く。それにつられて俺もそちらを見ると……俺は後悔した。
はっきりと美月と目が合ってしまったのだ。
「鋼夜……やはり鋼夜なのだな……」
「美月……」
「何故だ!何故だ黙っていた!わ、私が……どれほど……」
「すまん、美月。後で絶対説明するから……少し待っててくれ」
「……そうやっていつもお前は私を置いていくのだな。たった一人でまた危険な事を……」
「すまん。だけど俺は美月達を守る為に……」
「何故お前は理解出来ないのだ!!」
美月が声を荒げたことに驚き、俺は思わず美月の方へと駆け寄る。その間、白夜は何も言わず、何もせず薄ら笑みを浮かべるだけだ。
「自分も同じ風に思われていると何故理解出来ないのだ……」
「あっ……」
「私も鋼夜を守りたい、私だって鋼夜には傷付いて欲しくなんて無いんだよ……」
「……ごめん美月。……ありがとう……でも……少しだけ待っててくれないか?絶対に……戻ってくると約束する」
「約束……出来るのだな?」
「ああ、『蒼天皇』の名に誓って」
「わかった……絶対だからな」
うつむき、瞳から涙を流す美月に背を向け、俺を真っ直ぐに白夜を見据える。
「出来たみたいだね。僕を殺す覚悟」
「ああ、美月が待っててくれるからな」
「ふっ、そうかい。ところで鋼夜、君は男女間の友情って信じるかい?」
「さあな!!」
そして何度目かになるか分からない剣撃が衝撃波と共にぶつかり合う。
決着の時は近い。