「お早う御座います『蒼天皇』様。屋上にヘリを待たせております。どうかお早くお支度を」
早朝、他の生徒に見つからない内にミーディア学園を出発するために俺たちはイージスから派遣されるオペレーターの方と共に屋上へと向かった。
ティナとセルディにだけ別れを告げ、俺たちは三泊四日の小旅行へと出かける準備をしていたのだが……
あれよあれよと言う間に目の前に立っている眼鏡をかけた長身美女に俺たちの荷物が運ばれていく様子を俺と美月は呆然と眺めていた。
「だ、誰だ、この女の人は……」
「ああ、美月は知らなかったな、この人は俺のオペレーター、エレナ・エレサール。師匠達の他に唯一俺の正体を知ってる人だな」
「エレナとお呼びください。貴女が蒼天皇様のパートナーの心音様ですね?お話はお聞きしております。それでは貴女の荷物も早く」
そして美月の荷物もヘリに積み終え、エレナが俺たちの前に立った。
「なんというか……凄まじい人だな……」
「ああ、あの人前までは凄腕のフリーダムナイツの操縦士だったらしいんだけど、何を思ったかオペレーターに転向したんだって。その腕は……凄いぞ?」
「それでは準備が整いました。それではどうぞ」
そう言って俺たちは敏腕オペレーターに四人掛けの小型ヘリに押し込まれ、あっという間にミーディア学園を後にした。
そしてヘリの道中。
「それでは自己紹介から、私の名前はエレナ・エレサールと申します。フランス人で、前は僭越ながらフリーダムナイツに乗らせて頂いておりました。今は『蒼天皇』様の専属オペレーターをさせて頂いております」
「専属オペレーター?」
「天剣十三将には一人一人にそれぞれ専属のオペレーターが付くんだ。一人でも欠けたら大惨事だからね」
「その通りで御座います。心音美月様」
「様付けは止めて下さい。貴女の方が年上でしょう?」
「今年で20になります」
「「若っ!!」」
普通に話しているように見えてこの敏腕オペレーター、一人でヘリの操縦をこなし、全く揺れを感じさせないテクニックを駆使しつつ、更に会話をこなすという離れ業をこなしているのだ。
因みにヘリの理由は、大型のジャンボ機などだとグリモアに狙い撃ちされる危険が高まる為である。
「それで、『蒼天皇』様。チームはお決まりになったのですか?」
「うっ、まだです」
「全く……なるべく早くお決めになって下さいと申しているでしょう!?世話の焼ける天剣です」
「ごめんなさい……」
それを見ていた美月がいきなり吹き出した。
「ぷっ」
「なんだよ美月!?」
「いや、なんだか鋼夜たち、姉弟みたいだな」
「そうですね、貴方は弟です」
「なんで!?なんで俺そんなにも敬われないの!?俺一応天剣なんだけど!?」
笑い声に包まれながら、俺たちは一路ベネチアへと向かった。
「にしてもなんでベネチア?」
「いきなり変更になったのです。どうせ『絶対防御』殿の気まぐれでしょう」
「あの人中々にマイペースだからなぁ」
「いつか会ってみたいものだな」
「ん?今日会うけど?議題の一つが美月のレーヴァテインだからな。お前も2日目の会議の時に来てもらうぞ?」
「と、という事は……あの『嵐女帝』殿にも会えるのか!?」
「おう、多分会えるぞ?」
美月が喜ぶのも無理はない。
何せこの天剣十三将序列三位、『嵐女帝』とは少し前に最強と呼ばれる女性のみのチームを率いたイージス最強の女性なのだから。
因みにそのチームの一員がフェルリア先生だったり、セルディだったりする。
そんな訳で、『嵐女帝』は全フリーダムナイツに乗る女性の憧れなのである。
「到着まで残り5時間ほど掛かるかと、それまで仮眠を取っていてはいかがでしょうか」
「いいのか?」
「はい、私ならば大丈夫ですので」
「じゃあ頼むわ」
鋼夜が眠ったのを確認しておもむろにエレナが口を開く。
「心音様」
「はい?」
「単刀直入に言います、貴女、惚れてますね?」
「ふぇっ!?」
「見ていれば分かります。貴女が
口調が鋼夜に変わったと言うことはプライベートと言うことだろう。
「そうですね……私は鋼夜の事が……好き……です……まさか貴女も!?」
そうとすれば美月にとっては大事である。
もう既にポーラ、ティナ、そして気づいてはいないがミーシャも鋼夜の事が好きなのだ。これ以上、しかもこんなに美女のライバルが増えるなど考えただけで美月の勝算が下がる。
「いえ、私は貴女の言ったように鋼夜の事は弟として見ているので。貴女の思ったような事にはなりませんよ」
「……そう、ですか……よかった……」
「ふふっ、よろしければ鋼夜のどこに惚れたのか教えては頂けませんか?」
「はい!是非!!」
そうして本人の知らない所で、姉と幼馴染の仲は一気に深まっていくのだった。
〜〜〜〜〜〜〜
「それでは着きましたよ、『蒼天皇』様。イタリアは北東部、水の都ベネチアです」
エレナが五本の剣が星を形作っている旗の掲げられた大きな建物の屋上に作られたヘリポートにヘリを下ろしてそう言った。
【五本の剣で作られた星】はイージスのエンブレムである。因みにその中心には十三の星が輝いている。言うまでもなく、天剣の数だけ星が輝く。
見るとヘリポートにはもう既に12機のヘリ。どうやら俺たちが最後らしい。
「お疲れ、エレナ」
「ええ、ありがとう、美月」
「なんかお前ら仲めっちゃ良くなってねえ?」
「「ねー?」」
「……なんかムカつく」
互いに顔を見合わせ笑いあう二人に何となく疎外感を覚えながらも、俺たちはその建物の中に入っていく。
「「ここから先は天剣十三将とそのパートナーとオペレーター以外の方は入場出来ません。失礼ですが貴方方はどなたですか?」」
一言一句全く同じ発音で門番らしき二人がフリーダムナイツを着込み、俺たちから扉を守る様に立っている。
俺は何回か会ってるけど、まあ分からないよな。素顔見せんのは初めてだし。
そう、俺は今、素顔でイージスの建物の中に入っている。
理由は二つ、もう既に白夜にばれたので、隠す必要がない事と、もう一つである。
「えーと、一応俺が天剣なんだけど?」
「失礼ですが貴方の様な天剣の方は拝見したことがありません。お名前をお願いいたします」
二人の手に力が入る。いつでもあれなら武器を抜けるな。
「朧火鋼夜だ」
「そのような方の天剣はおられません。失礼ですが、お帰り下さい。もしくは……貴方が天剣という証拠をお見せ下さい」
「ん、わかった。エレナ、美月、ちょっと退いてて」
俺はその場にいる全員から離れると言葉を紡ぐ。
「行くぞ、蒼火桜」
その瞬間、俺の右腕から眩い光が放出され、俺の体を蒼いフリーダムナイツが包んだ。
「イリーガル……ブルー……」
「『蒼天皇』様……」
二人が呆然とした様子でそう言うのを見届けて、俺たちはその中へと入っていった。
その中では総勢36人の男女が会話を楽しんでいた。
「おう、来たか遅えぞ蒼天皇。全く末席が一番遅えとはどういうことだ?」
「すみません師匠、てゆうかあなた達が早いんです」
他の天剣の反応は……おおっ!初めて見る驚愕の顔だ、いいもの見れたね。
「お、お前が……『蒼天皇』?」
「はい、久しぶりで御座います。『翼竜』殿」
みんな一様にポカーンとしているな。
よし、これで掴みは上々、これでこの後がやりやすくなる。こっから先は失敗出来ないからな。
何せ……こっから裏切り者を探さないといけないんだから。