業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#39 それぞれの開始

「くぁぁぁあ、おはようセルディ」

「おはようございます、ティナお嬢様。お加減は如何でしょうか?」

「……良いとは言えないわね。何せ……鋼夜が居ないのよ!?」

「左様でございますか」

「何よその態度!?貴女の主人が落ち込んでるのよ!?何とかしてよ!」

「無理でございます」

「……まあ、そうよね。うーん、私もダメね。ずっと会ってなかったのにたった二日会えないだけでもうダメみたい」

「取り敢えず朝食を取りに行かれては如何でしょうか?」

「そうね、さあ行きましょうセルディ。今日を乗り切れば明日には鋼夜が帰ってくる筈よ」

 

そう言って金の髪を綺麗に整えてからティナはセルディと共に食堂へと向かっていった。

 

「あっ!おはようティナちゃん!セルディさん!」

「おお、おはようティナ、セルディさん」

 

そこでちょうど偶然に出会ったのはポーラとミーシャである。二人とも朝食を取る直前だったようだ。

 

「あら、おはよう二人とも。珍しいわねこんな時間に食堂に居るなんて」

 

まだ朝食の時間は朝早く、普通この時間ならば朝稽古の汗を流す為に二人ともシャワーを浴びている時間帯である。

 

「うむ、鋼夜と美月が居ないからな。あまり稽古のバリエーションが無くて直ぐにやめてしまったのだ」

「うん、やっぱり美月ちゃんと……鋼夜君が居ないのは寂しいね」

 

こんなところでもあいつは他の女に影響を与えているのかと思うと少しばかりの嫉妬を覚えるティナであったが、まあいい。と直ぐに気を持ち直す。

 

「そういえば二人はチームは決めたの?」

「ううんまだだよ。ティナちゃんは?」

「私は鋼夜のチーム一択ね。私の未来の旦那さんなのだから当然でしょう」

「み、未来の旦那さん……ううん、まだ私にもチャンスはあるはず、で、でも美月ちゃんも居るし……ううう」

 

その言葉を聞いてポーラが何かしらを考え込んでしまったが、気にせずミーシャが続ける。

 

「だが、チームのリーダーは確か第四世代以上でないとイージスに許可が下りないのでは無かったのか?」

「あっ、う、うんそうね。え、えっと……そ、そう!鋼夜は私は第四世代になれるって信じてるもの、それまで待つわ!!」

「ほう、それはいい心がけだな。それが一途というものだ」

「ミーシャはどうするのかしら?」

「私はイリーガル・ブルーのチーム一択だな。聞けばまだイリーガル・ブルーはチームを組んでいないと言うではないか。ならば私にもチャンスはある!!」

 

(即ち鋼夜のチームね。本当あのバカは天然ジゴロなんだから)

 

「そういえばセルディさんは如何するの?」

「私……ですか?そうですね……私もイリーガル・ブルーのチームに入れてもらいましょうか」

「セルディさんはチームに入っていないのですか?」

「はい、私は元々『ローゼン・クロイツ』でしたが、天剣に加入してしまったため、今はフリーです」

「「『ローゼン・クロイツ』!?!?」」

 

その言葉にミーシャとポーラが飲んでいた紅茶を吹き出す勢いで食いつく。

 

「はい、私は元々そこに所属させて頂いておりました」

「うわー、すっごーい」

「『ローゼン・クロイツ』といえば世界最強と呼ばれた女性だけのチーム。流石だ……」

「でもセルディ?天剣のチームに元天剣が入るのはいいのかしら?」

「いいのではないですか?特にダメとは言われていません」

 

(と言うことはここにいるメンバーとあとは美月、それにライラとオルトでチームは決まりね。チーム名は……そうね、『ティナと鋼夜のハニーハニーラブ』とかどうかしら)

 

ティナの残念なネーミングセンスが露呈するのを止めたのはセルディであった。

 

「そういえば最近大きな襲撃は何処でも起きていませんね」

「ああ、そういえばそうですね」

「何処かからいきなり大戦力が襲撃……という事にならなければ良いのですが……」

 

セルディのその不吉な予想は人の多い食堂の雑音に紛れ、大気へと消えていった。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

(ああー、ダメかー……)

 

一方その頃鋼夜は昨日の天剣会議を思い出し大きなため息を吐いていた。

けっきょくあの後鋼夜という餌に食いつくものはおらず、大きな進展もないまま一日が過ぎてしまったのだ。

天剣の中に裏切り者がいるという情報は今此処に居るものには開示されたが、大きな混乱を防ぐ為、まだ世界には公表されないこととなった。

 

今日も午後から会議の予定だが、予定ではそれが終わって直ぐにそれぞれの駐留する地域へと戻ってしまうため、この会議中に裏切り者をあぶり出すのはかなりむずかしくなってしまった。

 

コンコン。

 

その時鋼夜の、イリーガル・ブルーの割り振られた部屋に控えめなノックが響く。

美月たちならばノックなどせずに入って来いと言っているのでおそらく部外者だ。取り敢えず中から声をかけることとした。

 

「どなたですか?」

「おお、『蒼天皇』殿。私です、グリンダです」

 

その声を聞き、俺は急いで蒼火桜を換装しドアを開ける。

そこに居たのはもう初老の男性と恐らくは俺と同じくらいの歳の女の子二人であった。

双子であろうか?顔がそっくりだ。しかし驚くべき事に髪の色が全く違う。一人は水色でもう一人は桃色である。

そのうち水色の方が俺を見て歓喜の表情を浮かべる。

 

「お久しぶりです。グリンダさん」

「いえいえ、お時間は大丈夫ですかな?『蒼天皇』殿」

 

この人はグリンダ・フォールド。

イージスの最高幹部を父に持つイージスにとっては欠かせない家系の跡取りだ。

ルナセリア、アルキオスに並びイージスに多額の資金提供をしてもらっている。更に俺も良くしてもらっていて、独自の情報など教えてもらっている人だ。

 

「そのお二人は?」

「おお、そうでしたな。この子らは私の娘。双子の」

「ま、マリー・フォールドでしゅ!!」

「メリー・フォールドです」

 

どうやら水色の方がマリー、桃色の方がメリーと言うらしい。

 

「わ、私イリーガル・ブルーの大ファンなんです!!あ、握手してもらっても良いですか!?」

「ああ、いいよ」

「うわっ!うわっ!!凄い凄いよメリー!!私イリーガル・ブルーと握手してる!!ねえねえ!!見てみて!!」

「うんうん、凄い凄いし。でもお姉ちゃん、もうちょっと静かにするし、他の人の迷惑になるし」

「ああー、凄い……私もう死んでもいい」

「聞いてないし……」

「ふははっ、すみませんね騒がしい娘で」

「いえいえ、そうでもありませんよ」

 

しかしこの二人……どっかで見た事有るんだよな……なんだっけ?

 

「よ、良かったらアドバイス頂けませんか?」

「娘もフリーダムナイツに乗っておりましてね、『蒼天皇』殿さえ良かったらアドバイスを頂けませんか」

「ええ、いいですよ」

 

俺はマリーにアドバイスをするべく訓練場へと出て行った。

どうやらここにもミーディア学園ほどではないが、まあまあ大きい訓練場があるらしい。

 

「で、では行きます!クロス・レディオン!!」

 

マリーの体を閃光が包み、その身を纏っていたのは赤いフリーダムナイツである。

それと同時にマリーが訓練場に建てられているダミーエネミーへと突貫する。

速い、直線ならかなりのスピードだ。あっ、でも曲がるのにまだラグがある。

 

「はぁぁぁ!!」

 

そして一撃、綺麗な飛び蹴りが炸裂し、ダミーエネミーがひしゃげる。

 

「ど、どうでしたか?」

 

フリーダムナイツを解除したマリーが近づいてくる。

そして俺は思ったことを一つ。

 

「君、俺みたいな動きを目指してる?」

 

そう、その動きはまるで俺のにそっくりだったのだ。

 

「は、はい。でもまだまだ上手くいかなくて……」

 

それはそうだろう。だってあの動きは俺が蒼火桜の為だけに編み出した我流なんだから。

それを証明する為に俺は少しマリーから離れると全く同じ軌道と時間で、ダミーを二つ倒す。

 

「す、凄い……」

「どうせなら俺を目指すんじゃ無くて、自分だけの色を目指しなよ」

 

そして俺はいつか師匠に言われた言葉を思い出しながら続ける。

 

「『蒼』じゃ無くて自分だけの色を目指せ」

「!!はいっ!!」

 

どうやらその言葉に胸を撃たれたようだ。

小言でそっか……とか繰り返している。

 

「それではありがとうございました『蒼天皇』殿それでは私達は日本に戻らねばなりませんので。本部への出向の帰りに寄っただけですので時間があまりありませんのでね」

「あ、ありがとうございました『蒼天皇』様!私、これから精進致します!!」

「ありがとうございました、『蒼天皇』様。またいつの日か会える日を祈っております」

 

そう言ってグリンダさん達はヘリに乗って行ってしまった。にしても日本か?何処で会ったんだっけな?

おっと、時間を結構食っちまったな、早く作戦纏めないと裏切り者が分かんねえや。

 

そう思い立ち俺は急いで自室へと戻った。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

ーーオーストラリア大陸ーー

 

たった数年前までは活気溢れる都市だったオーストラリアの首都キャンベラ。そこはたった数日で廃墟と化した。

鋼鉄の機械がたむろし、ガチャン、ガチャンという音だけが響き渡る。

そこに一匹の動物が降り立つ。そいつは鷲の上半身とライオンの下半身を持つ伝説上の生物グリフォン。

一際大きな身体を持つそいつは真っ直ぐに雄叫びをあげながら鋼鉄の翼をはためかせ北上を開始した。

大勢のグリモアを引き連れて飛ぶその勇姿は人のいないオーストラリアでは伝えられる訳も無かった。

 

そいつの名は『シェムハザ』。

 

災厄が今飛び立った。

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