業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#41 それぞれの始まり

 

「この音は……」

「まさか……」

「敵襲!?」

 

突如として鳴り響く警戒音ににわかに会議室が騒つく。

この音はイージスが定めるグリモアの襲撃の際に鳴り響く警報だ。その意味は『既に市内にグリモアが侵入している場合』。

 

「出現情報は!?」

「なかったよ、フェルりん!!」

「という事はいきなり街中に現れたって事か!?」

 

イージスのレーダーは今までに一度もグリモアの出現を逃したことは無い。その為避難指示も出ていないこの状況で市街地での戦闘は初めての経験だ。

 

「取り敢えず全員外へ出ろ!武装を許可!裏切り者とか今はどうでも良い!総員グリモアを迎撃しろ!!」

「「「サー!!」」」

 

師匠の号令の下天剣十三将が慌ただしく動き出す。

オペレーターも全員指令室へと向かっていった。

 

「鋼夜……」

「大丈夫だ美月。行けるか?」

「ああ、大丈夫だ。私も戦う」

「うっし、俺から離れんなよ?」

「わかった」

 

「行くぞ、蒼火桜」「行こう、雪時雨」

 

俺たちもフリーダムナイツを展開し、ベネチアの街へと踏み出した。

 

「これは……」

「酷い……」

 

外に出た俺たちを待っていたのは町中から漂ってくる人の焦げた臭いと目を突き刺すような煙だった。

 

「くそっ!行くぞ美月!」

「ああっ!」

【『蒼天皇』、左にグリモアの反応を確認、そちらへ向かって下さい】

「りょーかい!数は?」

【三体、どれも小型です】

「おっけ、今向かう!」

 

俺と美月は全速力で左へと向かっていく。

 

「やだぁぁぁ!助けて、お母ぁさぁぁあん!」

「痛い、痛いよぉ!!」

「死にたくない……死にたくない……」

 

改めて街の状況を見渡すと、地獄絵図としか言いようがなかった。上半身を失った母親。その横で泣き叫ぶ幼い子供。足から血を流す男。道の片隅でうずくまっている若い女。

 

そして……

 

「やだ、やだ、助けっ……」

 

目の前でグリモアのレーザーに焼かれた男の子。

 

「くっ……」

「目をそらすな美月。これは俺たちが立ち向かわなきゃいけない現実だ」

「ああ、わかっている……わかってはいるが……」

 

俺がグリモアを輪切りにし、美月が男の子のもう既に判別もつかない顔をそっと撫でる。

 

「俺たちがやらなきゃ、もっと大勢の人が同じ苦しみを味わうんだ……俺たちと同じ様に……」

「っ……」

 

7年前のあの日のような子供をもう作っちゃいけないんだ。

 

「だから俺は裏切り者を許さない……同じ人間でありながらこんな事を平気で出来る奴らを許さないっ、絶対に許してたまるか」

「鋼夜……」

「行くぞ美月!早くグリモアを殲滅するんだ!!」

 

そっと後ろを振り返った時、俺を見る美月の目が少しだけ怯えていたのは気のせいだろうか。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「状況は!!」

「東は全てのグリモアを、殲滅完了。北地区ももう少しで終わるかと」

「西地区も殆ど戦闘完了、残すは南地区のみです」

「よし、天剣の名にかけてこれ以上死者を出すな!」

 

師匠の元に伝令の兵士が集まってくる。

丁度正午から始まった突発的なグリモアとの戦闘は三時間という長い時間をもって終結に向かっていた。

天剣に被害は無し、住民もそのお陰で犠牲者は少ないらしい。

だがまだ第一陣を潜り抜けただけ、恐らくこれで終わりじゃ無い。まだ二陣、三陣と来るはずだ。

こりゃあ今日は帰れないかな……

 

「よし、全員集まったな。これより緊急会議を開始する」

 

ベネチアの時間で午後6時。夏の夕日が傾きかけた時間から天剣は全員集まって作戦を練り始めた。

 

「幸い此処には天剣が全員いる。ベネチアが落とされる心配は無い。が、しかしこちらとしては全く敵の情報が無い上に、他の地域に天剣が居ないのは正直マズイ」

「確かに、我々が居ない隙を突かれては……」

「また、一つ大陸が落とされる心配があるってぇ、ことっすね」

「はっはぁ!そんなもんとっとと片付けて帰りゃあいい話じゃあねえの!」

「まだグリモアが出現してない状況で、そんな事が出来ないのは百も承知だろう」

「という事は天剣を割くという事か?」

「それが賢明だとは思うが取り敢えず今日はもう無理だ」

「もう日が暮れるのでな、明日にならんとベネチアの状況すらわからん」

「他のイージスに頑張ってもらう他あるまい」

「確かに……な」

「それに他の地域にグリモアが来てない可能性もあるしな」

 

ちっ、こん中に絶対裏切り者が居るってのに、俺は何も出来ないのか……

会議は全く動かないまま、時刻は8時を回り、既に月が現れた。

その時、またも警報が鳴り響く。

 

「くっ、またか!」

 

だがしかし……状況は一変する。

ガンッという音とともに室内が暗闇に落ちる。

電力不足でブレーカーが落ちたのだ。

その時、俺は言いようのない気配を感じる。

それは最近ずっと感じていたあの感じ、殺気。

それもかなり強い、この場からの殺気、それは……

動くのは一瞬だった。

天剣は一斉にフリーダムナイツを展開する。

 

「天龍!」「パルテノン!」「シルフィオーネ!」「アルフレッド!」「災牙!」「ワイバーン!」「バルティコ!」「イフリート!」「イグニス!」「パラディオ!」「ドーリアー!」「ジェイラ!」「蒼火桜!」

 

その時俺は悟った。

 

足りない。

 

迫り来る殺気の数が異常だ。このままでは自分の身すら危うい。俺に数が欲しい。そう、『剣翼』が欲しい。

 

「来い!剣翼ぅ!!」

 

詠唱を奏でず、そのまま、自分の願いのままに。

そして数瞬遅れて、凄まじい衝撃とともに剣翼が何本か折れる。出せた!その余韻に浸る間もなく、ブレーカーが戻り全員の顔が見渡せる。

 

「まさか……裏切り者は……」

 

そこにははっきりと誰が誰に攻撃を仕掛けているか見ることが出来た。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

同時刻、日本ミーディア学園

 

「離せセルディ!!」

「お待ち下さいお嬢様!」

「離せって言ってるでしょ!鋼夜が、鋼夜がぁぁぁ!!」

 

日本は混乱していた。現時間はイタリアとの時差の為午後一時。ベネチアでのグリモア襲撃の一方が今しがた帰ってきたフォールドさんから伝えられたのだ。

更に日本に向かって『シェムハザ』が飛び立ったと聞く。

現地到着予想時刻は明日、即ち7月31日午前10時。

残るタイムリミットは21時間。

対空ミサイルで迎撃を試みるものの全く速度を落とさず気にもしていない様子である。

 

「鋼夜が死んじゃう!私が、私がぁあ!」

「鋼夜様は死にません」

「何でよ!実戦なのよ!?なんで死なないってわかるの!?」

「お嬢様、貴女は『蒼天皇』の実戦を見たことは?」

「ない……けど……」

「あのお方はグリモアなぞに負けるお方ではありません。心配するだけ無駄です」

「……そう……そうよね、鋼夜は私なんかよりも強いもの。平気……よね?」

「はい、平気です。それよりも……」

 

セルディは混乱に包まれる講堂内を見つめる。

幸い騒がしくさっきの問答を聞かれていた心配はなさそうだが、それよりも『シェムハザ』の事が気になる。

と、講堂の壇上に生徒会が現れた。

 

「落ち着きなさい!皆の者!」

「そうだし、落ち着くし」

 

水色の髪を持つ生徒会長と桃色の髪を持つ副会長。瓜二つの顔を持つ二人は、ミーディア学園の生徒で唯一チームを束ねる女である。

 

「私はミーディア学園二年、生徒会長メリー・フォールド!」

「同じく副会長、マリー・フォールドだし」

「静かにしなさい!みっともない!今ベネチアの天剣十三将に応援要請を出しました」

「こちらも戦闘中だから直ぐには行けないけど朝一で行くって言われたし」

「だから我々の成すべき事は一つ、少しでも住民の避難を手伝い、戦えるものは武器を取ることです!」

「私達がうろたえちゃダメだし、シャキッとするし」

「『シェムハザ』?そんなものは関係ない!一人でも多くの住民を救うのだ!」

 

大歓声に包まれる講堂内でポーラ達は今も帰ってこない鋼夜たちの事を心配していた。

 

「どうしたの?ポーラ、怖くなった?」

「ううん、私は……鋼夜君達が心配で……」

「私もそうだったわ」

「だった?」

「心配する必要ないわよ、鋼夜は私なんかよりもずっとずっと強いんだから」

「えっ?でも鋼夜は……」

 

イグナイトの筈だ。訓練機では戦える筈が無い。

 

「大丈夫、心配無いわよ」

 

そういうティナの顔は笑っていた。

 

 

そうよね、鋼夜……信じてるわよ。

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