俺の剣翼が天剣の殺意を食い止める。
「はっはぁ!食い止められちまったぜぇ。中々に小賢しい真似してくれんじゃねえかぁ!」
俺の首筋には『爆破王』の爪がギリギリの所で剣翼に食い止められていた。
それだけでは無い、フェルリア先生にも師匠にも全員の首に致命傷へと至る攻撃がギリギリの所で止まっている。
「なんで……てめえが……ガティ……」
「なんということはない、我々が裏切り者。そういう事だ」
「隊長……なんで……」
「妾が何をしようと自由。そなた達とはもうチームでは無いのだから」
「あなたたち……」
「失望したかね?『雷剣』」
「フェルりんを傷付けようとするなんて……見損なった!」
「元チームメイトに裏切りられて傷心かな?」
全員すんでの所で武器を止め牽制に徹しているが、誰か一人でも動けば全員の命が飛ぶ。そういう状況だ。
「お前ら全員裏切り者って事かよ」
「ああ!その通りだぜ『蒼天皇』!だから俺っちは容赦無くお前と殺し合いが出来るって事よ!」
「という訳だ。一旦退くぞ。くれぐれも追ってくるなよ?殺し合いになる」
「わかってるよガティ。こっちもちょいと頭を冷やさなきゃなんねえんでな」
「冷静だな……」
「頭が付いて行ってねえだけだよ」
「ふん、ともかく我々は現時刻を持って天剣十三将及び、イージスを脱退。並びに
そう言って裏切り者達は飛び立っていった。
俺たちは追うことも出来ずただそれを見送るだけだ。追っていっても殺される事が分かっているのに出て行く馬鹿は居ない。それほど絶望的な状況だった。
何せ此処に残った天剣は
〜〜〜〜〜〜〜
「クソッ!!」
ドンッという音と共に師匠がテーブルを叩く。
今此処に残っている天剣。即ちイージスを裏切らなかった天剣は五人。
俺と師匠、フェルリア先生、『雷剣』のグレース・アルキオスさん、『爆炎砲』のシアン・カル・クラインさんだけだ。
「まさか八人もの裏切り者が出るとは……」
「特に『絶対防御』と『嵐女帝』の欠員は痛いですね……」
特にフェルリア先生は『嵐女帝』や元ローゼン・クローネのメンバーか裏切り者だった事にショックを受けている様子だ。当然だよな、元チームメイトが自分たちを裏切って人類に仇なすものに与したんだから。
グレースさんと師匠は特に『絶対防御』が裏切っていた事に憤りを隠しきれていない。
師匠は共にイージスという組織を作り上げた『絶対防御』と『嵐女帝』が、グレースさんはイージスという組織の顔であった『絶対防御』が裏切り者だった事が今でも信じられないんだ。
シアンさんは、ずっとフェルリア先生の隣で慰めていてくれている。あの人は……大丈夫そうだな。フェルリア先生もシアンさんが居てくれれば大丈夫だろう。
「取り敢えずこれからの事を考えないと」
「ああ、そうだな。何時迄も過ぎた事を考えてもしょうがない。取り敢えずパートナーを全員集めろ。恐らくそっちも5人しか居ないとは思うがな……」
暫くして俺たちのパートナーが全員集まった。どうやら全員無事のようだ。あちらもいきなり襲いかかってきたようだが、美月の事は多賀先生が守ってくれたらしい。
「今の状況を客観的に考えて、イージスはかなりまずい状況になっていると考えていい」
それは裏切り者がいたという事実だけでイージスの強さが揺らぐだけではなく、それに反比例して創生龍の強さが上がっていくからであろう。
「あいつらがイージスを裏切った理由は不明だが、人類に仇なすつもりなら容赦は出来ない。元同僚だろうと、俺は絶対にあいつらを許さない」
「俺も同意見です」
「私もだ」
「シーちゃんもだよ」
「私も賛成です」
美月達を見回すと全員が頷き返す。どうやら全員裏切り者を許すつもりは無いらしい。
しかし俺は一瞬シアンさんの顔によぎった表情を偶然目の端に捉える。それは……何かを迷っている表情だ。
「それにしてもこれで世界のバランスは大きく崩れた。という事ですね」
「どういうことですか?『雷剣』殿」
「それは……この世界での圧倒的な抑止力たる存在が一方に集まってしまったから」
この世界での圧倒的な抑止力。それは一つは『天剣』二つ目は『十聖剣』そして三つ目は『魔女の力』。
天剣は
と、これだけを見ればイージス側がまだ優勢のように見えるが、しかしそれはこの状態が続けばの話だ。
残りの十聖剣を創生龍に奪われては世界は滅亡への道を歩むだろう。
「それにあちらにはグリモアがある。それに、アウターの助力も見込めるとなれば……」
「やっぱりこっちが不利って事だな」
改めて状況を確認すると悲惨であった。
こちら側の不利は否めず、更にこの事を公開しない訳にもいかない為イージスの信頼は地に落ちるだろう。更に天剣は殆ど全員がイージス本部に派閥を持っている。
そのため今頃イージス本部からは大量の人員がいなくなっている事だろう。
それは全イージスの8/13の戦力が流出し、相手側に付いたという事となる。残る戦力はミーディア学園の生徒を含めても昨日までの半分にも満たないと思われる。
「考えれば考えるほど絶望的だな。まぁ、鋼夜のお陰で俺たちの命が失われなかっただけでも良しとするか」
「そうだな、鋼夜。良くやった」
「しかし……さっき貴方は固有能力を発動しましたよね?確か……『蒼天皇の剣翼』」
「そうそう、それ私も気になった!どうやったらそんなに早く固有能力を展開出来るの?あっ、もしかして超短文の詠唱なの?」
何故と、聞かれても俺には答える術が無い。あの時は無我夢中過ぎて何が何だかわからないまま剣翼が発動したのだから。超短文の詠唱?いや、違う俺はあの時詠唱なんて紡いでない。
俺はグレースさんとシアンさんに問い詰められそれを躱すのに必死で師匠の俺を見つめる視線には気付かなかった。
と、その時慌ただしく入ってくる一人の影、あれはここに勤めているイージス職員?
「大変です!皆様に至急お伝えせねばならない事が!」
「天剣の裏切りの件だろ?わかってるよとっくに」
「違います!インドネシアが壊滅致しました!!」
「「「「「何っ!?」」」」」
「詳しく伝えろ」
「はっ、突如として現れた第1級指定種『シェムハザ』の出現によりインドネシアが壊滅、そのまま『シェムハザ』はゆっくりと北上を開始、現在太平洋で連合艦隊との交戦を開始しております!」
「インドネシアから北上って……その先に有るのは……」
「日本かっ……」
その言葉に美月の顔が青ざめる。
俺も自分で自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。見ればその場にいる全員が同じような顔をしている。
「くそっ、このタイミングであいつらが裏切ったのはこの為か、ベネチアと日本を同時に落とすつもりだな」
イタリアと日本。この二つはイージスにとって大きな意味を持つ。イタリアはイージス本部のあるイギリスと目と鼻の先だし、日本にはフリーダムナイツの操縦士を育成するミーディア学園がある。正直そこの二つを潰されたらもう俺たちに出来ることは無い。
「到着予定時刻は!」
「日本時刻で明日の午前10時です!」
「此処を朝一で出てギリギリだな。幸いミーディアにはセルディが居る。第1級指定種ならばあと二人天剣を送れば十分撃退出来る」
「俺に行かせて下さい!」
俺は耐えきれず師匠にそう願った。
「……わかった。まず一人は鋼夜と美月だ。もう一人は……」
「それならば大丈夫かと」
「何故だ?エレナ」
「日本はフェルリア様の管轄地、よって裏切り者は居ないはず。そして日本はミーディアがあることからかなりの数のイージスがいます」
「だが……」
「大丈夫です、いざとなれば俺にはアレが有ります」
「『テミスの鎮魂歌』か……わかった。鋼夜、美月、エレナの三人は明日の朝一でフリーダムナイツを使って日本へ飛べ、鋼夜の速さならば恐らく余裕を持って日本に着く。ブースターは幾つある」
ブースターとはフリーダムナイツでの長距離飛行を余儀なくされた時に付ける後付け装備のことだ。それを付ければ宝力の消費を抑えながらスピードを更に増すことが出来る。
「すみません、奴らに破壊されたみたいで非常用の一つしか残っていません」
「じゃあエレナが付けて行け。鋼夜には元より必要ないものだし、鋼夜は1人くらいならば一緒に飛べるだろう?」
「はい、問題ありません」
その時タイミングを見計らった様に非常用回線がなる。回線を取った師匠は何事かを告げ、それを切った。
「日本からの応援要請だ。鋼夜を向かわせると言った。頼んだぞ、鋼夜。俺たちの故郷を守ってくれ」
「了解しました。『蒼天皇』の名にかけて」
俺たちは明日の準備の為三人で部屋を出て行った。ベネチアの防衛作戦に参加する意味はない。
「鋼夜……」
「大丈夫だ美月。俺たちが日本を守るぞ。『シェムハザ』なんて目じゃ無い」
「ですが『蒼天皇』様。公式なイージスの防衛作戦に参加するならばチームを組まないと……」
「いいよエレナ、あっち行ってから組もう。あいつらを危険に晒すのは嫌だけど好き嫌い言ってる場合じゃ無い」
『シェムハザ』日本到達予想時刻まで残り20時間。