朝日が美しく照らす日本、横浜市新埋め立て地区、ミーディア学園。
その光景は遠く離れた旧横浜の象徴ランドマークタワーからも見て取れた、しかしその中には人の気配というものは一切無くそれどころか横浜市、いや日本全国の地上には何処にも人間の気配というものは存在しない。
よってその光景を見る事のできる人間はその場に居合わせた人間しかいない。
しかしもしもその光景を見た人間がいるとすれば誰しもがこう言うだろう。
なんだ、これは。と。
日本のフリーダムナイツの操縦士を育成する世界最大の学校の敷地内で巨大な鷲の頭と翼を背中から生やし、その胴は百獣の王、獅子の体をもつ鋼鉄でできた化け物。
神話に登場するグリフォンと言うべき巨大な人類にとっての災厄が暴れ回っているのだ。
さらにその周りには小型、中型のグリモアが多数のフリーダムナイツと交戦を繰り広げている。
まさに世界の終わりかと疑うような光景である。
ランドマークタワーからは詳しい状況を見ることは出来ない。しかし、それが生易しいものではないということは誰の目から見ても明らかであった。
戦場であるミーディア学園では地獄絵図が広がっていた。
その巨体に見合わぬ俊敏な動きで鋼夜達と交戦を繰り広げる『シェムハザ』の目には目の前をすばやく動き回り、微弱ながらも自分の鋼鉄の体に傷を付ける蒼に目を奪われ、周りを確認する知能も無い。
しかしその余波は確実に良くも悪くも周りに居たイージスにもグリモアにもダメージを与えていた。
何せ巨体が素早い動きで体を振り回すのだ、周りのフリーダムナイツやグリモアがそれを予期して避けろと言うのが無理な話である。
『シェムハザ』は水晶の様なものでできたその青い眼球を、凶悪にぎらつかせ、首を軽く退け反らせる。
そして次の瞬間、目の前にあった海が、割れた。
ソニックブーム。
『シェムハザ』の最も得意とする攻撃方法であり、またもっとも警戒しなければならない攻撃でもある。
『シェムハザ』は自身の口から直径10メートルばかりの鉄片を文字通り音速で撃ち出したのだ。
ソニックブームとは超音速で飛行する物体が上空を通過した際に発生する衝撃波の総称である。
衝撃波とは主に空気中を伝播する、圧力などの不連続な変化の事である。
普通ならばソニックブーム如き窓を割る程度の被害で済む。しかし、それが連続的に、更に永続的に続くとなれば話は別だ。『シェムハザ』はアウターの賜物か何かは分からないがともかく永続的に衝撃波を発生させる事が出来る。衝撃波とは圧力の一種であり、そんなものの直撃を人間などという弱者がまともに食らったらどうなるか。答えなど考えるまでも無いがあえて言おう。
一片の肉も残らずこの世から存在が消え去ると。
そして『シェムハザ』はその凶悪なる一撃を地面に向けて放つ、『シェムハザ』はその一撃でどうなるかというものを正確に理解しており、もしその余波に巻き込まれたら人間の一人などどうにでもなると知っていた。だから、撃つ。地面に向かい。
『シェムハザ』は首を退け反らせ、ソニックブームの体制を取る。それを見た蒼のとった行動は……行動を止める事だった。
それを見た『シェムハザ』は諦めたのだと悟る。人間にも匹敵する人工知能を埋め込まれた『シェムハザ』にとってその程度の事を予想するのは赤子の手を捻るが如く簡単であった。
ならば望み通り楽に逝かせてやる。
『シェムハザ』はソニックブームを放つ。
そして蒼はそれを避けずにーー
ーー空間ごと真っ二つに切り裂いた。
〜〜〜〜〜〜〜
「ふう、危ない危ない」
鋼夜は今しがた切り裂いた鉄片を思い出しながらそう呟く。
まさか地面に向かってソニックブームを撃つという知能が有ると思っていなかった為、暫しの間驚いていたものの、このままソニックブームを放たれては地上のイージス達に被害が出ると思い咄嗟に俺が天羽々斬で空間ごと真っ二つにして鉄片の速度と衝撃波を封殺する。
いくら衝撃波が強くても所詮は振動。揺れる空間が無ければ意味は無い。
天羽々斬は他の十聖剣以外の全てのものを切り裂く刀。例え空間とてそれは同じ、まあ直ぐに空間は修復されてしまうのだが、衝撃を止めるのには一瞬もあればお釣りがくる。
「まだ五分ちょいか、『シェムハザ』を貫くには最低十五分は欲しいな」
言うまでもなくティナのストラトス・ディーヴァのチャージ時間である。一分ごとにそのエネルギーを倍加させていく能力とティナのグロリアス・エンジェルの性能から考えるにそれ位が妥当だと言えるであろう。
「さっきのお返しだっ、と!」
俺は何故か動きを止めた『シェムハザ』の眼前に蒼天皇の剣翼で十本ばかりの日本刀を創り出し、投げつける。
『シェムハザ』は咄嗟にそれをソニックブームで迎撃するものの明らかに人間でいう動揺がある事は間違いない。
「もしかしたら結構頭良いのかもな……」
そう考えた俺は次なる一手を繰り出すべく、行動を開始した。
〜〜〜〜〜〜〜
「す、凄い……」
「ああ、間違いない。本当にイリーガル・ブルーだ」
鋼夜がソニックブームを真っ二つに切り裂く場面をポーラとミーシャは呆然と見つめていた。
流石にグリモアとの実戦未経験の二人は一人で行動させる訳にはいかないため二人一組で行動をしていたのだ。
そして目の前で見せつけられる圧倒的な力、一つは巨体から繰り出す強力無比な圧倒的な殲滅力。
対するは小さな体から繰り出される圧倒的な攻撃力。その二つのぶつかり合いは常に後者が勝っていた。
ましてやそれが自分の身近な人間だと言うのだから実感も湧かない。湧かないが一つ分かった事がある、それはその男が自分の憧れる男性だと言うことだ。
「私もいつかあんな風に……」
「ああ、私もだ」
決意も新たに二人は鋼夜の援護をすべく全速力で飛び出していく、そのため二人の体が一瞬光に包まれるのを誰も気がつくことは無かった。
〜〜〜〜〜〜〜
「うおぉぉぉらぁ!」
『シェムハザ』が横薙ぎに前足を振るえば、『蒼天皇』がそれを光華紫電でいなし、懐に潜り込みその爪を一つ切り落とす。
鋼夜の蒼火桜の防御性能だと、『シェムハザ』のどんな一撃でもまともに食らえば気絶は免れない、だからこそ鋼夜は攻撃の手を緩めない。
攻撃は最大の防御という言葉がある、今の鋼夜はその言葉を体現した存在と言えるだろう。
天羽々斬、光華紫電、蒼天皇の剣翼、それら全ての武装を駆使し『シェムハザ』の攻撃をいなし、躱し、受け止め、受け流し、防ぐ。その姿はまるで妖精が巨人の攻撃をおちょくっている様に見える。
端的に言えば、見る者を惹き付ける魅力があった。
それほどまでに朧火鋼夜という一人の人間と蒼火桜という一機のフリーダムナイツが織りなす戦闘は美しい。
自身を亜音速まで高めたスピードでひたすら『シェムハザ』の攻撃を避け、隙を突いて装甲に浅いながらも着実に傷を加える。
振り下ろされる前足は剣翼を斜面の様に使い自身の横へと逸らし、体当たりは亜音速で避け、尻尾でのなぎ払いは光華紫電を巧みに使い、いなし、口から撃ち出されるソニックブームは天羽々斬で真っ二つにする。
「まだまだぁ!白夜の方が数倍強いぜ『シェムハザ』ぁ!」
圧倒的な攻撃力を見せ付ける『蒼天皇』に心なしか『シェムハザ』が慄いている様に見える。それも束の間、『シェムハザ』がまたも首を退け反らせる。ソニックブームだ。
しかしそれは一回では終わらなかった。合計三回、『シェムハザ』はソニックブームを放つ。
しかしそれを鋼夜はーー
「狙いは良いけどまだちょっと突破力が足りないんじゃ無い?」
三発同時に放たれたそれを眉も動かさず剣翼を出現させ、迎撃体制を取る。
音速で飛翔する物体?ならばこちらも同じものをぶつけてやれば良いではないか。
鋼夜は剣翼を十本、一セットとし、鉄片の迎撃に当たらせる。音速と音速、衝撃波と衝撃波が激突し凄まじい爆音が起こる。音というのは同じものをぶつけてやれば消滅する性質を持つ、それは衝撃波も同じ。よってただの高速で飛翔する鉄片と成り果てたソニックブームに鋼夜の剣翼が負ける道理など無い。
全てのソニックブームを防ぎきった鋼夜は不敵に笑った。
「こんなもんかよ、『シェムハザ』」