(速い、それに鋭い。……最近の戦闘を見ていなかった所為もありますがそれにしても眼を見張る成長です)
セルディは鋼夜の反対側に陣取りながらそう感想付けた。
今の朧火鋼夜の戦闘能力は凄まじいものがある。確かに彼の師匠である『天将』滝沢秋水からはそう聞かされていた。
その結果、根拠が今目の前で見せつけられている。
『シェムハザ』の巨体を生かした強烈な攻撃をいとも容易くいなす鋼夜を見て静かにセルディは戦慄を覚える。
その姿は元天剣十二将『疾風』のセディから見ても自分よりも強いと思えるものであった。
しかも彼は未だ第四世代。それに比べ自分は第五世代。セルディ自身も自分が鋼夜に劣っているとは思わない。しかし、
鋼夜の中に秘められている秘密は『天将』から聞いた。
だか、それを抜きとしても、今の朧火鋼夜はずば抜けている。
原石。
そんな言葉が脳裏に浮かぶ、朧火鋼夜は間違いなく戦闘の才能の原石である。しかも既に『天将』によって磨かれているというのにまだ底が見えない。
正直に言おう。私はこの朧火鋼夜という人間が恐ろしい。
恐怖を覚えるのだ。
冷徹に人を殺せる精神力。
冷静を通り越した状況判断力。
恐怖など歯牙にもかけない心。
圧倒的な戦闘の才能。
それらを全て包み込む人としての優しさ。
そしてその裏に隠されたーー憎しみ。
だが、同時に危うさも感じる。このまま行けば恐らく鋼夜は早死にする。それは間違いない。そんな抜き身のナイフの様な生き方をしていればいつか必ず殺される。
そして自分はそれを望んでいない。
「ふふっ」
不思議な事だ。今自分は自分と互角に戦える人間の事を心配している。
不思議な事だ。今自分で鋼夜の事が恐ろしいと思っていたではないか。
不思議な事だ。今自分で鋼夜ならば心配ないと思っていたではないか。
不思議な事だ。本来ならば私と鋼夜はーー
ーー最も忌むべき
いや、不思議でも何でも無いのだろう。私の命は幼い頃に自分を救ってくれたティナとあの日に自分を救ってくれた鋼夜の二人の命の恩人に尽くすと決めているのだから、だから私はもっと強くなろう。鋼夜よりもティナよりも二人をどんな事からも守れる様に。
セルディは鋼夜の援護をすべく空中を駆けた。
〜〜〜〜〜〜〜
「やっぱり凄いな、鋼夜は」
そう心音美月は呟く。
なんという事はない。そんな事ずっと前から知っているのだから今更鋼夜が『蒼天皇』と聞かされようと、今更鋼夜が『シェムハザ』と互角以上に戦っていようと、驚く事などない。
だって鋼夜は子供の頃から私の
「いつか、私も」
辿り着きたい。あの高みへ。鋼夜の隣に、誇らしく立っていられる様に。私が『蒼天皇』のパートナーなんだって胸を張って言える様に。
「〈不死をも殺す強大なる刃よ〉レーヴァテイン」
私の両手に身の丈程の大剣が出現する。一点の曇りもない綺麗な刀身が私の身体を写し出す。
「たあっ!」
私はレーヴァテインを横薙ぎに振るう。私はこの三ヶ月、ずっとレーヴァテインを降り続けた。そのお陰で今ではレーヴァテインの間合いを完璧に把握する事が出来た。
刀身の先端から約十五メートル。
鋼夜に気を取られ後ろへの注意を怠っていた『シェムハザ』の尾に一線が刻まれる。
そしてその隙を突き、鋼夜が一閃。
『シェムハザ』の右耳を削ぎ落とす。
「ギギャーーオ!!」
耳障りな絶叫と共に地面に耳が落ちた衝撃が響く。
「よしっ!」
戦える。私は『シェムハザ』と戦える。
確かな手応えを感じて私は更に鋼夜の援護をすべく駆け出した。
〜〜〜〜〜〜〜
いける。着実に俺たちは『シェムハザ』にダメージを与えている。まだ誰も大きなダメージを受けていないし、右耳も削ぎ落とした。これなら!
だが、その時だった。
鋼夜の削ぎ落とした右耳の部分がせり上がってきたのだ。
「何でだ……」
「鋼夜君!あれ!!」
ポーラの声に振り向くと、ポーラが『シェムハザ』の足元を指差していた。
見ると日本のイージスが倒したグリモアが『シェムハザ』の足から伸びた鋼鉄の触手の様なものに絡め取られている。そしてそれグリモアの全体を包み込んだ瞬間。『シェムハザ』の右耳は元通りに復元され、それどころかそれまでに付けたキズさえもひとつ残らず修復されていた。
「自己再生機能……」
信じられないものを見たかのようなセルディの声。そして驚愕のあまり立ち止まった日本のイージスの密集地帯に『シェムハザ』が口を大きく開ける。
「まずい!ソニックブームだ!避けーー」
鋼夜が言い切る前に『シェムハザ』は口から鉄片を撃ち出す。それは10人ほどの塊に向けて高速で飛翔する。
間に合わない。鋼夜はそう判断する。そして無情にも鉄片が凄まじい衝撃波を伴ってイージスを吹き飛ばす。
名も知らぬ人間が目の前で吹き飛ばされていくのを鋼夜はただ呆然と見守るしか無かった。
守れなかった。
そんな言葉が脳裏を掠める。こんな大規模戦闘だ、一人の死者も出ないほうかおかしい。それは頭では理解していても感情が追いつかなかった。
誓った筈なのに。それなのに。俺は
鋼夜は一縷の望みをかけて吹き飛ばされたイージスの元へと駆け寄る。その現場は凄惨なものだった。血という血が地面に真っ赤な花を咲かせ、そこらにヒトであった肉片が散らばっている。
そんな中一人の男性が呻き声を上げる。
「うぅ……」
「大丈夫か!!」
鋼夜が駆け寄るとその男性は少しこちらへと顔を向ける。
「そ、そうてん……おう……様?」
「ああ!そうだ大丈夫だ!今助ける!!」
「い、良いのです……私などに……構わず、あ、あの……デカブツを……」
「うるさい!目の前で誰も死なせないって誓ったんだ!」
「……ああ、貴方は……優しいのですね……」
その言葉に鋼夜は思わず手を止め、ハッとする。
「……お願い……します……どうか日本を……私の……家族を……」
そう言って静かに男性はその生涯を終えた。
鋼夜は静かに泣いた。せめてもう傷付かない様に。せめて少しでも綺麗なままで家族の元へと帰れる様に。
そう思って抱き上げた男性の体はとても軽かった。だってそうであろう、その男性の下半身は既に千切れて吹き飛ばされてしまっているのだから。
男性をミーディア学園の中に運び込み、鋼夜は戻ってきた。
その鋭い眼光は真っ直ぐに『シェムハザ』を見据えて。
「お前に……何の権利があって……」
蒼天皇の剣翼を最大まで展開し、世界最高と呼ばれた速度で一気に『シェムハザ』に肉薄する。
「お前に!何の権利があって!!」
そして『シェムハザ』の右前足を、続いて左前足を切断する。
「お前に何の権利があって人の命をそんなに簡単に奪えるんだ!!」
そして後ろ足を両方とも切断する。
その問いかけはもしかしたら若き日の鋼夜が今の鋼夜に問いかけているのかもしれない。
少なくとも鋼夜は人を殺すのに躊躇はしない。だってそれは同じ人間でありながら人間を滅ぼそうとしているのだから、大切な人を守る為には鋼夜は一瞬の躊躇も無く人を殺す。
しかし、しかし『シェムハザ』は、
「あの人達がお前に何をした!お前達が来なければ俺たちはお前達の存在すら知らなかった!お前達が来なければあの人達は死なずに済んだ!そして今も家族と一緒に笑いあっていた筈だ!!」
何の理由も無く人間を殺した。いや、恐らく理由はあるのだろう。もしかしたら人間を殺し続けなければ生きていけないのかもしれない。しかしそれならばそれでいきなり戦争を仕掛ける理由にはならない筈だ。
鋼夜の怒りが最高潮に達した時、
「鋼夜!終わったわ!!」
戦闘開始から十五分が過ぎた。