(ちっ、さっきより速いし、重い!)
『シェムハザ』討伐戦開始から十五分。ティナの精密狙撃が失敗に終わり、鋼夜達は否応なく防戦を強いられていた。
何せ体感出力が二倍近く増えているのだ。
しかし、得るものもあった。
それはコアの数と場所の特定と『シェムハザ』の再生の為多くのグリモアが『シェムハザ』に吸収された為に周りの日本のイージスが『シェムハザ』に戦力を割ける様になったのだ。
既に周りのグリモアはミーディア学園の三年生のみで相対している。それでも優勢だ。
しかし劣勢なのは『シェムハザ』の方だ。
正直かなりキツイ。たぶん負けない……負けないが死者が大量に出てしまう。それは勝ちとは呼べない。呼びたくない。
だから俺は刀を振るい続ける。右、左、上、下、上下左右、360全方位から繰り出される『シェムハザ』の攻撃を剣翼の側面で受け流し続ける。
しかしそれは一つの首しか縫いとめられない。残る二つの首は俺ではなく他の者に狙いを定めている。
『シェムハザ』がソニックブームを放つ度に人の命が容易く散る。
基本的に俺の天羽々斬以外に『シェムハザ』のソニックブームを相殺する術は無い。ソニックブームを避けることが出来なかった場合、なす術なく音速の波に体を貫かれる。
基本的に迎撃は不可能なため発射の予備動作を見たら即散開が基本だ。しかしそれを阻むのがもう一つの首である。
避けたフリーダムナイツの回避地点に狙い澄ましソニックブームを放ってくる。その為イージスの面々は二回の回避行動を余儀なくされる。
激しい動きを繰り返せばフリーダムナイツの燃料消費量は増える、フリーダムナイツの燃料消費量が増えればそれだけ操縦士の宝力が減る、操縦士の宝力が減れば動きにキレが無くなる、動きにキレが無くなれば『シェムハザ』に命を刈り取られる。
当然と言えば当然の四段論法。それが戦闘の定め、しかしそれを見ている側としては歯噛みせずにはいられない。
同胞の命が、大切な仲間の命が、苦楽を共にしてきた命が目の前で失われていくのを見て何も思わない事など不可能だ。そしてそれは動揺を生み、隙が出来る。そこを目ざとく『シェムハザ』に狙われ命を散らす。
まさに今俺たちは負のスパイラルに巻き込まれていた。
「鋼夜様!」
セルディが近寄ってくる。
何やらかなり急いでいる様だ。
「かなりイージス側の感情が高ぶっております、このままでは……」
「最悪の事態も起こりうるか……」
このままイージスが同胞の敵討ちに飲み込まれ、指揮系統が崩壊したら最悪全滅もありうる。
それだけは避けねばならない。
その状況を打開したのは日本の若きリーダー、神代千鶴だ。
「皆の者!怒りに飲み込まれるな!このまま個人個人でバラバラに戦っていても『シェムハザ』には敵わん!分かっているたろう!!」
その言葉を聞き、日本のイージスの動きが止まる。
「散っていった同胞達はそんな早くの再会など望んでなどいると思うか⁉︎否!望んでいる訳が無い!彼らの望みは我々が一秒でも長く生き残り、そして彼らが愛した日本を守る事では無いのか!!」
あらん限りの声を張り上げ、フリーダムナイツの拡声機能をもフルに使い、千鶴の演説は止まらない。
「怒りは静かに内へと溜め込め!その怒りは群れとなし、強力な武器となる!彼らの意志を受け継ぎ、希望を我らの手に掴むのだ!!」
ウォォォオオオオ!!あちこちから怒鳴り声にも似た凄まじい歓声が聞こえてくる。彼ら全員怒りを必死に堪えているのだ。
だが、それを一陣の凄まじい爆音が引き裂く。
『シェムハザ』だ。
そいつはそれをうざったく思ったのか、それともただの威嚇か、ともかく全員の視線を集めた『シェムハザ』は奇妙な行動に出る。
全ての口を空へと開き、一斉にソニックブームを放ち始めたのだ。
「なんだ?」
「これは……不味い!早く止めないと!」
セルディがいきなり焦り始める。しかし他のイージスはキョトンとした顔つきのまま動かない、無理もない何故そんな事をしているのかわからないのだから。
そしてひと通り放ち終えた『シェムハザ』は今度はぐるりと顔を回し、地面に向けてソニックブームを放ち始めた。
「ーーッ!総員退避!!!!」
俺のその言葉に全てのイージス、ミーディア学園の生徒、職員がいっせいに地面から離れる。
一寸遅れて、地面が爆ぜた。
凄まじいまでのソニックブームが地面の上中から炸裂し、その衝撃で地面がめくり上がり岩を、泥を、コンクリートを撒き散らしながら凶器と化し俺たちに襲いかかる。
俺の意図に気付けず、被害を被ったフリーダムナイツもかなりいる。しかしそこは人類の切り札。地面の炸裂如き目ではない。ならば何故俺は退避を叫んだのか、それは直前にセルディの言わんとする事に気が付いたからである。
めくり上がった地面ではフリーダムナイツを着込んでいても満足な出力は得られない、よって『シェムハザ』の打った次の一手への反応が遅れる。否、次の一手ではない、前の一手だ。
頭上から凄まじい爆音とともに10メートルばかりの鉄片が落下してくる。それも一つや二つでは無い、無数の流星と化したソニックブームが頭上からおれら目掛けて降り注いで来るのだ。地面に足を取られ、イージスはまだ立ち上がれていない、このままでは抵抗すら出来ずその身を吹き飛ばされるのみだ。
「セルディ!美月!」
だが、この状況ならば俺たちの十聖剣が猛威を振るう。
『シェムハザ』から直接放たれるソニックブームは俺しか迎撃する事は出来ない。だが、もう既に目視出来ていて落下地点まで分かっているこの状況ならばレーヴァテインとデュランダルの能力が使える。
それをきちんと理解してくれたのだろう、美月がレーヴァテインを構える、そしてセルディがデュランダルを抜く。
「〈決して朽ちることの無い不滅の刃よ〉デュランダル」
その詠唱と共にセルディの右手に眩い光を放つ長剣が現れる。これがセルディ・ルナセリアの十聖剣、デュランダルだ。元々デュランダルはセルディの物では無かったのだが、紆余曲折あり今はセルディを主としている。
そして流星が地面に降り注ぐ直前、天羽々斬、レーヴァテイン、デュランダルの三本の十聖剣が空を煌めく。
俺の天羽々斬が流星を真っ二つに切り裂き、美月のレーヴァテインが幾重にも重なりあいながら斬撃を叩き込み、セルディのデュランダルがそれを斬れば……いや、それに触れた瞬間、海が割れた。
それがデュランダルの能力である。斬ったものの存在を強制的に転移させる能力。半径300メートルならば何処にでも強制転移出来るのだ。他の十聖剣同様十聖剣には効かないが、十聖剣を持っているフリーダムナイツならば飛ばせる。敵に回せば厄介だが、仲間ならばこんなに心強い能力もそう無い。
固有能力、イノーマス・ストームを巧みに使い、デュランダルで斬ったそばから凄まじい爆風を巻き起こし、アクロバティック飛行を続けながら海に転移させる。
しかし、いくら十聖剣といえど所詮は三本。守り切れる範囲などたかが知れている。
俺としてもコバルト・シリウスのメンバーを護るだけで必死だ。言い方は悪いが他のイージスは二の次である。
凄まじい衝撃と共にいとも容易く命が散る。
更に追い討ちをかけるように『シェムハザ』が直接ソニックブームを放ち始めた。
これは俺以外が相手する事が出来ないので、俺の抜けた分更に助けられる範囲が狭まる。
ソニックブームの流星群が途絶えた時、実にイージスの三分の一が戦闘不能に追い込まれていた。