業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#52 身代わり

何故だ。

何故こいつらは沈まない。何故何度も何度も何度も何度も!

何故こいつらは立ち上がる。

私の頭を吹き飛ばし、それは苦もなく再生して絶望を植え付け。大量に殲滅し心を折りながら数を減らしても何故こいつらは私に立ち向かう!

虫ケラの様な存在で、何故私に刃向かう!

 

こいつか、この『蒼』が精神的な主柱となっているのか。

ならばこの『蒼』を潰せば、この虫ケラ共は沈むのか。

だとすれば私のとる手段は一つだ。『蒼』を潰せば良い。

しかしながら私ではこの『蒼』を潰し切るのは難しい。

ならば心を折るか。このちっぽけな虫ケラ共の更にちっぽけな心とやらを折って仕舞えばいい。

 

ならばどうやってこの『蒼』の心を折る。

さっきからこの『蒼』は他の虫ケラ共が傷付く事を殊更に嫌う。ならばまた大量に殲滅するか?いや、それでは弱い。そして大量に殲滅してしまうとなるべく捕獲(・・)せよという命令に背くことになる。ならば殺すのは最小限が良い。どうする、誰を壊せば『蒼』は沈む。

 

この『白』か。

さっきから『蒼』の隣にいる『白』を壊せば『蒼』の心は壊れるか?まあ壊れなくても良い。その時は壊れるまでこの『蒼』の近くにいる者を破壊していけば良い。

しかしただ単に殺すのは面白くない。ならばどうする。できるだけ苦しみながら惨たらしく私に許しを請いながら一旦はその要求を飲んだ振りをして安堵に包まれたところを(なぶ)り殺しにしよう。

そうだそれが良い。

 

先ずは右腕を引きちぎる、その次は左腕だ。その次は右足、その次は左足。できるだけ苦しむようにゆっくり、ゆっくり引きちぎってやる。

ああ、いつ壊れるかな。あの『蒼』は。

憎悪に塗れるならばそれでいい。

私の尾を斬り裂いた罪は重い。

 

ああ、反省するとも。確かに私は油断していた。

我らが父に日本という国を殲滅せよという指令を受け、『アザゼル』よりも役に立つという所を見せようと単機で乗り込もうとした。だが、我らが父は他の雑兵共を連れて行けと言う。流石に我らが父に言われては断れる筈もない。

更に我らに協力的な虫ケラ共が面倒な奴を引きつけてくれているとも言っていた。そんな事をしなくても楽勝だがそこまでしてしくじる事はないだろうとたかをくくっていた。

 

だが、なんてザマだ。尾を切り取られ、頭を一つ潰され、本気を出す羽目になってしまった。

どれもこれもこの『蒼』の所為だ。

許さない、許さない、許さない。

絶対にお前は私が沈める。私が思いつく限りの最も残酷な方法で殺してやる。死など生ぬるいものには直ぐにはしない。最大限の苦しみを与えて、与えて、与え尽くしてから最も苦痛に塗れた方法で殺す。

 

そうだ、先ずは『白』と同様に手足を引きちぎってからその体を拘束し、動けない様にしてから目の前で虫ケラ共を皆殺しにしよう。

その後で我らが父に引き渡し、最大限の苦痛を伴いながら生贄にしてもらおう。それが良い。

よし、決まった。『蒼』の心が壊れていく様が手に取るようだ。そして『蒼』を失った虫ケラ共など恐れるに足らないどころか、存在する価値も無い。

 

それが私のプライドを傷つけたお前達への、『蒼』への罰だ。

覚悟しろよ、虫ケラ共。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

『シェムハザ』が一際大きな咆哮をあげる。

マリーとメリーが尾を斬り落としてから何かを考え込んでいたかと思うと、いきなり目が憎悪に染まった様に赤くなり、そして今に至る。

 

「気を付けろ、何かしてくるぞ」

「ああ、分かっている」

 

隣の美月と共に警戒を強める。

するといきなり『シェムハザ』が上空高く舞い上がった。

 

「逃げたのか?」

「いや……あれは……」

 

俺の中の警報が嫌な予感を告げている。

マズイ。あれはマズイ。多分俺の予想だと……

すると『シェムハザ』が三つの首を大きく仰け反らせた。

 

「ーーッ!!やっぱり!総員ミーディア学園の中に急げ!上からソニックブームが降ってくるぞ!!」

 

俺がそれを言い終わるかその直前かに『シェムハザ』が三つの首から連続で地面に向かいソニックブームを放つ。

それは何時もの10メートル級の致死量の大きさの鉄片ではなく、30センチ程の主に相手を傷つけ動きを鈍らせる用途のものだ。

一昔前の兵器で例えるならばそう、クラスター爆弾だ。

 

『シェムハザ』はソニックブームを大量にばらまくことで簡易的なクラスター爆弾を再現したんだ。

あれを一人でも食らったら大惨事だ。それを助けようとした人が、更にそれを助けようとした人が、といった具合に連鎖的に1人、また1人と犠牲者が増える。

勿論見捨てれば犠牲者は増えない。しかしそう簡単に割り切れないのが人間という生物だ。

誰だって手の届く距離に助けを求める人がいれば手を差し伸べるだろう。それは確かに人間の持つ強さであり、優しさだ。しかし『シェムハザ』は今それを逆に取ろうとしている。

少し、あと少しだけ手を伸ばせば届く。あと少しだから大丈夫。その心が命取りなのだ。

 

更にクラスター爆弾というのも厄介だ。

十聖剣は強力な力を持つ。が、それは一対一の状況でこそ輝くものが多く、一対多数の状況下では俺たちの十聖剣は十分な力を発揮出来ない。

俺らがみんなを守る為に出て行っても余計な犠牲者が出るだけだ。

 

そうこうしている間に俺たちはミーディア学園の昇降口までたどり着く。

 

「はあっ、はあっ、ありがとう鋼夜……」

 

全速力で引っ張った為、美月は息が荒い。

周りを見回せばもう既に殆どの人が避難し終わっている。

あと数名といったところか。コバルト・シリウスのメンバーも全員いる。良かった。

と、最後の女性が走ってくる。あと昇降口まで10メートルというところだな。よし、これなら……上から凄まじい爆音がした。屋上にソニックブームが当たったのだ。

 

「きゃっ!」

 

その音に驚いた女性が転んでしまった。

これでは間に合わない!

俺は咄嗟に出て行って女性を助けようとしてしまう。ダメだ、今出ていったらまた犠牲者が。

だが、動いたのは美月だった。

 

「レーヴァテイン!!」

 

美月がレーヴァテインを振るうと女性に降り注ごうとしていたソニックブームが弾かれる。

何度も、何度も、何度も振るう。その度にソニックブームが小気味いい音と共に弾かれる。

そして美月は降り注ぐソニックブームの雨から女性を守りきった。

女性は立ち上がり、こちらに駆け寄ってくる。そして美月の姿を認めると。

 

「あ、ありがとうござ……」

 

礼を言う前にその言葉は途切れた。

女性の体は巨大な『シェムハザ』の足に踏み潰されていた。

 

「貴様ぁぁぁ!!」

 

美月がそれを見た瞬間、飛び出して行く。

 

「待て!美月!早まるな!!」

 

俺の声は聞こえていない。

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

レーヴァテインを滅茶苦茶に振るいながら、『シェムハザ』に突貫していく。

そしてそれを見た『シェムハザ』の顔が俺には笑みを浮かべる様に歪んだ気がした。

『シェムハザ』が三つの首を大きく仰け反らせる。マズイ、今の美月じゃあソニックブームは受け切れない。

そう思った瞬間。いや、もしかしたらそう思う前から俺は最大出力で飛び出していた。

 

視線の先では今、この瞬間『シェムハザ』がソニックブームを撃ち出した所だった。

 

「美月ぃぃぃぃぃっ!!!」

 

俺は蒼天皇の剣翼を放った。合計100の日本刀が50づつの塊となり、一つ目のソニックブームを、そしてもう一つが二つ目のソニックブームを撃墜する。あと一つ。だが、もう剣翼は無い。天羽々斬での撃墜は間に合わない。

 

「あぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

スローモーションの様に動きの遅い世界で俺は必死に美月の名前を叫んでいた。

 

(頼む、間に合え、間に合え、間に合ええぇぇぇっ!!)

 

そして次の瞬間、美月の体を抱き寄せる。

丁度『シェムハザ』と美月のあいだに割り込む様に。

 

凄まじい爆音と共に衝撃が身体中を駆け抜ける。

激痛が身体中の感覚を支配する。

蒼火桜がミシミシと悲鳴をあげる、骨の折れる音がする、筋肉の断裂する音がする。

気が狂いそうな激痛の中、俺はそれでも手を離さなかった。その温もりだけが俺の体に染み渡っていく。

 

「鋼夜っ!鋼夜っ!鋼夜ぁぁぁ!!」

 

誰かの声がする。ぐらりと意識が傾く。ああ、畜生痛えな。美月の顔から水が流れ落ちてきた。

最後に見るのが美月か……それも……悪く……ねえ……な。

 

 

俺は気を失った。

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