「うわぁぁぁぁぁっ!!」
不味い。このままでは美月様の心が壊れてしまう。
それもそのはず、今目の前で鋼夜様が自分自身を守る為に代わりに致命傷を受けたのだから。
いや、それは美月様だけでは無いのか。
周りを見渡せばポーラ様とミーシャ様も茫然としておられる。
「いゃ、いやぁ……」
「こ、うや……」
かろうじて気を保っているのは……ティナ様と千鶴様か。
あの二人は鋼夜様の『テミスの鎮魂歌』を知っている。
ならば鋼夜様が死んでいない事がわかっている筈だ。
ティナ様と千鶴様が私の視線を察して鋼夜様と美月様をミーディア学園内に運んでくる。
「あぁ、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめん……鋼夜……」
美月様は既に茫然自失だ。もう目の前すら、恐らくは誰の言葉も耳には入っていないだろう。その謝罪は誰に謝っているのかも分かっていないと思われる。
その瞳には血塗れの鋼夜様しか写っていないと思われる。
「美月!しっかりしなさい!!」
「……あぁ……でも……でも……」
「鋼夜は死んでない!だから気をしっかり持ちなさい!」
そう言うのはティナ様だ。その言葉を聞いてポーラ様とミーシャ様もそちらを向く。
だが、誰もが信じていない。当たり前だ、誰だってこの状況の人間が生きているとは思わない。何せ全身ズタズタで、血が流れていない部分など無いのだから。
「……うそ……だ。私が……私が鋼夜を……」
「忘れたの?鋼夜は即死じゃ無い限り1日に一回なら……」
「?…………っ!!」
「思い出した様ね」
そう言ってティナ様が微笑む。
そう、先日のミーディア学園防衛戦の際に美月様はご覧になっている筈なのである。
ティナ様の言う通り白夜との戦いの際鋼夜様は『テミスの鎮魂歌』の能力を使い。戦闘に復帰している。
そう、鋼夜様は1日に一度ならどんな深い傷でも完璧に治癒する。
以前、鋼夜様にその事を聞いた事がある。何故、七つしか無い『テミスの鎮魂歌』をそんな能力にしたのか。その答えは生きる為であった。
7年前のあの日、紗夜様を守る為に燃え盛る家へと入った鋼夜様は紗夜様を助けた後、生存を願った。
その時に思ったそうだ、声が出ない程に傷付けられたら、『テミスの鎮魂歌』を使うまでもなく死んでしまうと。
ならば不死になればよかったのではないか?と私は聞いた。すると、それに帰ってきた答えは私の予想の斜め上をいっていた。
鋼夜様曰く、「俺は紗夜のお陰で生き延びる事が出来た。その命を無駄に捨てる気は無い。不死になってしまえば自分自身を犠牲にした戦闘案を組んでしまう。それでは紗夜の意思に反すると思う、だって紗夜はもう二度と死なない為にこの能力をくれたのだから」と。
その時に詳しく聞いた『テミスの鎮魂歌』の能力は凄まじかった。
詳しく説明するとこうだ。
『テミスの鎮魂歌』に出来ない事は4つ。
・『テミスの鎮魂歌』の能力を改変する事。
・自分以外の生命に干渉する事。
・叶えた能力に干渉する事。
・代償を払えないほどの願いを叶える事。
4つと聞けば意外と多いと感じる人も多いと思うが、それは間違いだ。なにせ鋼夜様は人生で出来ない事が4つしか無いのだから。
それ程までに鋼夜様と紗夜様の絆とも言うべき『テミスの鎮魂歌』の加護は凄まじい。
だからまだ鋼夜様は生きている。例え死んでいたとしても鋼夜様は『テミスの鎮魂歌』で生き返る事が出来る。
だから、私が今行うべき事は鋼夜様を心配する事では無い。鋼夜様が起きた時に悲しまない様に。一人でも犠牲者を少なくする事だ。ならばどうするか、『シェムハザ』は満身創痍の鋼夜様を狙うに決まっている。ならば鋼夜様が起きるまではミーディア学園の中に篭って籠城戦をするべきだ。既に鋼夜様が戦闘不能に追い込まれた為、指揮権は私に移っている。だから私は声を張り上げる。鋼夜様の代わりとなるべく。
「総員『蒼天皇』を守れ!!死ぬ気で守りきれ!!それでいて死ぬな!!無茶な命令だというのは理解している!!それでもだ!頼む!!」
「「「おぉーーっ!!!」」」
「総員!かかれ!!」
全員が一斉に『シェムハザ』に襲いかかる。
鋼夜様を守る為に、自身を危険な目に遭わせてまで、鋼夜にみんなが期待しているから。
ふと隣を見るとポーラ様とミーシャ様が私でも無意識の内に後ずさる程の圧力を放っていた。
仮にも元天剣であった私を、だ。
その時私は2人の才能の片鱗を見た。この2人は才能の塊だ。心音美月、ポーラ・バリトレオ、ミーシャ・アルキオス。朧火鋼夜が見つけたこの三人は、私から見ても才能の塊だ。朧火鋼夜に並ぶ逸材だ。
そして恐らくこの四人に共通する事は怒りで強さを発揮するという事だろう。
あぁ、分かった。今この2人は最高潮に怒っている。
そしてそれにフリーダムナイツが応えようとしている。
つまりこの2人は今、この瞬間。第三世代へと進化しようとしている。
その時、二人を包み込む様な光が凄まじい光量をもって私達をも包み込む。そして、無機質な機械音と共に2人が飛びだした。
全く……私のチームは頼もしいですね!
〜〜〜〜〜〜〜
その時私は目の前が真っ暗になった。
錯覚では無い、目の前の光景を必死に否定しようと目を瞑ったのだ。しかし、現実は変わらない。
「いゃ、いやぁ……」
そんな声が漏れる。
しかしその後に続いたティナちゃんの言葉によってそれは否定された。鋼夜君は生きている?
正直ティナちゃんや美月ちゃんのいう『テミスの鎮魂歌』はなんなのか分からない。だけど鋼夜君は生きているって事は理解できた。そしてセルディさんが私たちに鋼夜君を守れっていう命令をだした。
まだ第二世代の私では鋼夜君を守れない。もっと強く、もっと強く、鋼夜君を守れる強さを!!
〈フリーダムナイツの進化を開始します。フォーチュン・ドリーム、第三世代へと移行。貴女の感情は恋慕です〉
そう言ってフォーチュン・ドリームが私と共に光に包まれる。頭にある文字列が流れ込んでくる。それはアタマに染み渡り、まるで産まれてきてからずっと一緒に育ってきた。そんな気持ちになる言葉だ。
私はそれを紡ぐ。鋼夜君を守る為に。
「〈明日へと切り開く汝らの曲を奏でろ〉チューン・オブ・トゥモロー!!」
〜〜〜〜〜〜〜
鋼夜が……死んだ?イリーガル・ブルーが?
初めてイリーガル・ブルーの戦闘を生で見たとき私にはこの人しかいない。そう思った。だから、私は調べたありとあらゆる文献を。だか、その正体を暴く事は出来なかった。そして『シェムハザ』がやってきた。その時に私は図らずもイリーガル・ブルーの正体を知った。
それは戦闘力は高いものの何故かイグナイトのままの私達と良くしてくれる男の子、朧火鋼夜であった。
その正体を知って私はがっかりしたのだろうか。その答えはノーである。それどころか益々イリーガル・ブルー、朧火鋼夜に対する気持ちが高まっていった。
それは多分私が初めて心からした恋なのだと思う。
だってそうだろう、憧れた男が目の前に居て、私と仲良くしてくれている上に結構イリーガル・ブルーと知る前の鋼夜も気に入っていたのだから。
ポーラや美月、ティナには悪いが、私だって譲る気は無い。だが、惨劇は目の前で起きた。
「こ、うや……」
血塗れの鋼夜を見てやっとの事で絞り出した声がそれだ。
絶望した。初めて恋をしたのに。それが1日も経たずに終わってしまったのだから。相手の死という最悪の結末で。
しかし、ティナや美月の言葉から察するにどうやら生きているらしい。その言葉に一人で叫びたい気分だ。
だが、その為には鋼夜を守りきらねばならない。
それならば得意分野だ。だって私は騎士なのだから。
さあ、行こうナイトリオン。
〈フリーダムナイツの進化を開始します。ナイトリオン、第三世代へと移行。貴女の感情は友情です〉
そしてその言葉は自然と紡いでいた。
まるでそれをずっと知っていたかの様に。
「〈強固なる盾を、絶対なる壁を、全てを封殺せよ〉スフィンタリア!!」