〈固有能力、チューン・オブ・トゥモロー起動。貴女の意思に神のご加護があらん事を〉
〈固有能力、スフィンタリア起動。貴女の意思に神のご加護があらん事を〉
二重に重なった無機質な機械音声がミーディア学園の昇降口に響き渡る。
それぞれコバルト・シリウスのメンバー。ポーラ・バリトレオとミーシャ・アルキオスのフリーダムナイツである。
「ここから退いて!!」
ポーラが二丁のマシンガンを構える。
そして躊躇いもなくその引き金を最大限まで引き続ける。
ポーラのフリーダムナイツ、フォーチュン・ドリームの固有武装であるこの二つは操縦士のポーラの宝力が尽きぬ限りその弾薬が尽きる事は無い。
しかし次の瞬間に引き起こされた光景は誰もが目を疑う光景であった。
何せ一つのマシンガンから放たれた銃弾が一つや二つでは無いのだから。
いや、それでは語弊があるというものだろう。マシンガンなのだから何発も連射する事は普通である。しかしその量が異常なのだ。まるで空中で弾丸が増えているかのようである。
そう、それがポーラの固有能力、チューン・オブ・トゥモローである。
その実態は自分の宝力で練り上げた物の分裂能力。
さらにちゃんと言うならば自分の宝力で作った物のコピーアンドペースト能力である。
すなわちポーラの固有武装から放たれた銃弾は比喩でも何でもなく空中で分裂しているのだ。
「鋼夜君に…近付かないで!!」
ポーラが珍しく声を張り上げると更に弾幕の密度は増す。
まるで怒りに呼応する様に、ポーラ自身の願いに応えようとするかの様に。
しかしそれを見ていたイージスのフリーダムナイツの操縦士に疑問が灯る。あれ程の密度の弾幕を食らっているというのに『シェムハザ』はあまり傷付いていないと。
その理由は簡単。まだグリモアの残骸が残っているから。足元のグリモアを常に吸収し続けているのだ。
しかしそれはそれ程までしなければポーラの弾幕に耐え切れないという事の証明でもあった。
第三世代が『シェムハザ』を一人で圧倒している。
その事は日本のイージスを大いに勇気付けた。
しかしとうのポーラは自分の力に歯噛みせずにはいられない。もっと、もっと多く、もっともっと!!
そしてポーラが辿り着いた結論は常軌を逸していた。
元々固有能力を発動した瞬間からポーラは自分自身の固有能力について完全に把握していた。今のままでは『シェムハザ』は完全には足止め出来ていない。もっと多くの銃弾を打ち込む必要性がある。
しかし私のマシンガンは二丁だけで、私の腕は二本だけだ。ならば、どうする。答えは簡単だ。
銃身を増やせばいい。
ポーラは更にチューン・オブ・トゥモローの能力でマシンガンの銃身を増やす。更に横に二つづつ。合計六つの銃身が更に分裂しながら増え続ける銃弾を撃ち出す。
気付いているのだろうか。その制御には恐ろしいまでの集中力が必要になるということを。一瞬でも気を抜けば宝力であるチューン・オブ・トゥモローも固有武装もその銃弾も消え失せてしまうということに。
そしてそれは朧火鋼夜が蒼天皇の剣翼を使用する際に最も苦心した事だということに。
もう既にポーラの固有武装はマシンガンではなくガトリング銃というべきものへと変化していた。
一発一発が普通のマシンガンの威力。更に銃弾が重なり合う事で更に凄まじい現象が起こる。
ストップストリーム現象。本来地球上に存在するものは皆平等に空気抵抗というものを受ける。しかしこれほどの密度の弾幕である。前を飛翔する銃弾が後ろに続く銃弾の空気抵抗を全て奪ってしまう。そうなるとどうなるか。本来であれば空気抵抗で若干速度が低下する際に減少するエネルギーが威力に上乗せされる。
それはすなわち撃てば撃つほどポーラのマシンガンの威力は上昇し、最終的には真空とまでは言えないがそれに近い現象を起こす事が可能という事である。
今此処に朧火鋼夜という一人の男を愛する力が人類の厄災を退けている。
それだけが真実である。
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しかし『シェムハザ』も何もしないわけでは無い。
いくら弾幕の密度が凄まじかろうとも所詮は自分の体積の百分の一にも満たない小さなもの。そんなものが集まろうともグリモアさえあれば回復出来る。だから『シェムハザ』は日本の言葉で言う肉を切らせて骨を断つというべき戦法をとった。
ソニックブームを連射し始めたのである。彼が最も忌むべき存在『蒼』に向かって。
それに対抗できる鋼夜も美月も今は万全といえる状況では無いのだから本来ならばそれは受け入れねばならない状況であった。他に対抗できるであろうセルディは指揮のためずっと鋼夜と美月にかかりきりになる事は出来ない。
しかし今の命令を良く思い出して欲しい。今の最優先事項は『蒼天皇』の守護である。ならばそれに対抗できる存在が存在するか。その答えはまたもノーである。
それ程までに『シェムハザ』のソニックブームの威力は凄まじい。命を賭し肉の壁となる事は出来るがそれではもう一つの命令死なない事に反する。ならばするべき事は一刻も早くソニックブームの射程圏内から退く事である。
しかし相手は亜音速で飛翔する鉄片。普通ならば避ける事も逃げる事も不可能である。それまでは。
無防備な鋼夜と美月にソニックブームが突き刺さり血の赤い花が咲き誇る事は……無かった。
突如として現れた7つの
「全く……世話の焼ける隊長だ」
そういうミーシャの顔は何処か嬉しそうであった。
これこそがミーシャ・アルキオスのフリーダムナイツ、ナイトリオンの固有能力、スフィンタリアである。
スフィンタリアの能力は簡単。7つの花弁型の大盾を召喚する能力。ただそれだけ。
しかし元来フリーダムナイツの能力はシンプルであればシンプルであるほど強力とされている。
それはスフィンタリアにもしっかりと適応されていた。
何せ何発ものソニックブームを余すことなく全て完璧に封殺したのだから。
それはミーシャの周りを自由自在に飛び回り、頭で考えるだけで思い通りの方向に飛んでいき、それを守る。
それがミーシャ・アルキオスという一人の少女が考える騎士としての在り方だから。それがミーシャ・アルキオスという一人の少女が導き出した朧火鋼夜の力となるべく編み出した答えだから。
ミーシャのスフィンタリアは軽く丈夫でまた全てを受けきることに特化した大盾である。受け流す事など毛頭ない。全てを受けきり背後を守る。真正面から全てを守りきるというミーシャの強い意志が反映されている。
「さあ、『シェムハザ』。私のこの
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そんな中一人の少女がミーディア学園の中でうずくまっていた。その名は心音美月。彼女の心は傷付いていた。
最愛の人が自分を守るために大怪我を負ったのだ。
自分が鋼夜を……そんな気持ちが浮かんでは消えず浮かんでは消えず頭の中を占領する。
しかし彼女の仲間が……いや、朧火鋼夜を狙うという意味では敵なのだが信頼できる友達が私を勇気付けた。
ティナが私を奮い立たせ、ポーラが『シェムハザ』を遠ざけてくれ、ミーシャが『シェムハザ』から私達を守ってくれている。
みんながみんな鋼夜を守る為に、その力を振るっているのだ。対する私はどうだ。目の前で鋼夜が傷付いたくらいでへこたれて、立てなくなって。私の気持ちはそんものなのか?そんなもので立てなくなるほど弱いものだったのか?
否、違う。私は誓ったはずだ。今度こそは私が朧火鋼夜を護ると!
その時、見覚えのある翡翠のネックレスが眩い光を放ち始め、私と鋼夜を包み込んだ。