(これは…なんだ?)
美月の胸元に下げられた翡翠のネックレスが淡い光を放ち始める。それはだんだん強くなり、次第に光を増していく。
(暖かい……それでいて懐かしい……そんな感じがする)
見ると鋼夜の胸元からも翡翠の光が煌き始めた。
それは次第に強くなり、2人の体を包み始める。
暖かく、強く、それでいて何処か懐かしさを感じさせる光。その二つの光が重なり合う。
その時、おもむろに鋼夜が目を開く。
「鋼夜っ!起きたのだな!!」
「あぁ……なんとかな。この翡翠のネックレスが呼び起こしてくれた」
そう言って鋼夜がネックレスを取り出す。
それは美月のものと同じ様に光を放っている。
以前にも同じような事があった。朧火白夜が鋼夜を傷付け、美月をも殺そうとした時。鋼夜と美月の2人のネックレスが今と同じ様に光を放ち始めたのだ。
そもそもこのネックレスは美月の誕生日に美月の両親が誕生日プレゼントとして渡すはずだったものである。
それが何故今になって光を放ち始めたのか。そもそも何故光るのか。それは二人には皆目見当も付かないものであった。
そしてあの時鋼夜は確かに聞いたのだ。美月が殺されそうになっていて美月を守りたいと強く願った時に。確かに聞いたのだ。彼の亡くなった筈の妹、朧火紗夜の声を。
そして鋼夜は美月を庇って大怪我を負った時からずっと思っていた。強く、強く、美月を守りたい。と。
だが、ネックレスは煌めかず、意識が暗闇へと吸い込まれようとしていた。しかし先刻、美月が鋼夜を守りたいと思った時、翡翠のネックレスは確かに輝き始めた。
そしてその光が最大まで煌めいた時。2人を完全に包み込んだ。そしてそのまま光はまるで愛おしい者を抱くかの様に二人を包み込み続ける。
そして二人は確かに聞いた。
『美月……美月……』
『聞きなさい。美月』
美月はそう言う両親の声を。
『お兄ちゃん!頑張って!!』
鋼夜はそう言う紗夜の声を。
二人は訝しむ時間すらなく、光の中へと意識が吸い込まれていった。
〜〜〜〜〜〜〜
眩い光を視界の端に捉え、そちらを見ると『蒼天皇』とそのパートナーが翡翠の光に包まれているところだった。
「あれは?」
しかし現在は戦闘中。そんな事に気をとられていれば命を失う。そう教えられてきた。実際その通り『シェムハザ』は彼女の元へと猛攻をかける。
彼女の名前は神代千鶴。日本のイージスの総指揮官である。そして彼女の父親は神代一弥。日本のイージスの支部長である。
若くして父親という英才教育を施されていた千鶴は16の時に日本のイージスに入隊する。そこから僅か一年で隊長へと上り詰め、更に一年で指揮官へと上り詰めた彼女の才能はトップクラスと言えるだろう。
しかしそこで彼女は運命的な出会いを果たす。
『天将』滝沢秋水だ。
千鶴は秋水の戦闘方法に魅了された。たった一人で数十倍ものグリモアを殲滅する圧倒的攻撃力。
それでいてたった一人の仲間も失わない指揮能力。
その他全てに完全に心を奪われた。
そして彼女は滝沢秋水に弟子入りを志願した。しかし彼は門前払いをかけた。
それでも彼女は諦めなかった。何度も何度も、来る日も来る日も彼の家を訪ねては門を叩いた。それでも秋水の答えは変わらず弟子入りする事は出来なかった。
しかしある日、とうとう彼女の念が通じたのか、それともあきれ果てたのか、またまた諦めをつけさせようとしたのかはわからないが。秋水は千鶴を家へと迎入れた。
そこで千鶴は少しばかり驚愕する事となる。千鶴が門下生としてとってくれないのはてっきり弟子が多すぎる所為なのであると思っていたからだ。
しかしそこに居たのは自分よりも年下の一組の少年少女だったからである。
それがのちに知る朧火鋼夜とティナ・ルナセリアだとは彼女はまだ知らなかった。精々それぞれ顔が整っていて羨ましいと思った程度だ。だから千鶴が驚いたのも無理はない。秋水が千鶴を弟子として迎入れる条件がその少年と一体一で決闘をして勝つことだと言うのだから。
決闘には秋水の庭が使われた。精々ミーディア学園の訓練室の二分の一程度だがそれでも十分だ。
ルールは特に無し。参ったと言わせたら勝ちである。
「来い、蒼火桜」
そう言って彼が纏ったフリーダムナイツに千鶴はまたも驚く事となる。だって余りにも装甲が少ないのだから。あれでは一撃食らったら直ぐに致命傷となりうる。それから保護するためのフリーダムナイツだと言うのに彼は何を考えているのか。
しかしここで引いては私は永遠に『天将』の弟子になる事は出来ないだろう。そう思い、少々可哀想だとは思ったが本気でやる事とした。
「来なさい、
そうして千鶴はフリーダムナイツを纏う。薄い緑色の美しいフリーダムナイツである。装備は片手剣とバックラー。
まごう事無き第四世代である。
対する相手は固有の名称が付いているし、どう見てもイグナイトではない為第二世代以上ではあるのだろう。
しかし千鶴は10の時より父からフリーダムナイツの操縦訓練を受け、やっとのことで辿り着いた第四世代である。
いくら『天将』滝沢秋水の弟子といえどどう頑張っても第三世代。普通ならば第二世代なりたてといったところだ。
確かに千鶴の見立ては間違っていない、鋼夜が第三世代になったのはつい最近の事なのだから。
しかし千鶴は見誤っていた。目の前にいる少年の実力を。
そして自分自身の戦闘能力を。
「嘘……だ」
数分後千鶴は地面に横ばいになっていた。
結局一太刀も当てることも出来ず、まともな防戦すら出来たかどうか怪しい。
更に言えば鋼夜は天羽々斬も蒼天皇の剣翼も使っていない。光華紫電のみで日本のイージスの指揮官を叩きのめしたのだ。
「なんで……」
この時普通に千鶴のそれまで積み上げてきた誇りや自信は打ち砕かれた。明らかに年下である少年にコテンパンにやられたのだから。
「まだまだ精進が足りない。そういうこった」
その時初めて『天将』から千鶴に声をかけられた。
聞けば彼は噂に聞く『戦場を駆ける蒼き流星』だと言うではないか。更に千鶴を驚かせたのは近々彼は天剣への推薦の話が来ているらしい。
「まあ、鋼夜相手に良くやったよ。普通なら瞬殺なんだぜ?」
それはそうであろう、あんなに高速で動きながら戦闘をするフリーダムナイツなど普通の操縦士ならば反応する前に斬られている。
「まあ、弟子とは認められないが、たまになら稽古をつけてやらん事もない」
そうして千鶴は1週間に一度だけという条件で『天将』に教えを請える事となった。
その後直ぐにティナは一度大事な話があるとか言うことで本国へと帰り、1年後には鋼夜はミーディア学園へと入学していった。
その時には千鶴は日本の総指揮官となる程の実力を身につけていたのだが。
そして話は現在へと戻る。
秋水にとっては弟子ではなかったが、千鶴にとっては鋼夜は大切な兄弟子であり、越えるべき壁だ。
それが『シェムハザ』討伐戦に参加してくれると知った時の千鶴の喜びようといったら部下が少々引くレベルであった。
そしてその兄弟子が窮地を立たされている。ならば妹弟子として、人生の先輩として、そして何より日本のイージスを束ねる者としてすべき事は何か。
最大の戦力でもある『蒼天皇』を守る事?いや違う、それは彼の仲間がその役割をきちんと果たしてくれている。ならばどうするか、『シェムハザ』を少しでも傷付けることでは無いのか。
「あんまり、兄弟子にばっかいいところ持ってかれちゃあ少々私も意地っていうものがあるんですよっ!!」
千鶴は飛翔してくるソニックブームを見切り、すんでのところで躱す。そしてそのまま流れる様に詠唱を唱える。
かつて鋼夜が見せた高速戦闘下における並列詠唱。
何回も何回も練習してようやく形になった苦労の結晶。
「〈大地に根付く誇り高き魂よ、幻想と結びて力となれ〉
千鶴のフリーダムナイツ、白樹蘭の固有武装、火鉢がまるで植物かの様に成長を始める。
所有者の思いに沿って成長を続ける能力、それが風花千靭である。
『シェムハザ』が危険を感じ取ってソニックブームで迎撃しようとするも、恐ろしい勢いで成長を続ける片手剣の全てを消し去る事は出来ない。しかし3つの首から恐ろしい連射速度でソニックブームを放ち続け、着実にそれを削っていく。
(あと少し…もう少しだけ!)
そして遂に風花千靭が『シェムハザ』の首の一つを捉えた。そしてそれは『シェムハザ』の首を包み込み、もぎ取った。
「グギァァァッ!!」
耳触りな悲鳴と共に『シェムハザ』の首が落下する。
それに合わせ、風花千靭も消滅した。千鶴の宝力が切れたのだ。
(後は任せましたよ……鋼夜……)
フリーダムナイツを維持する力も失い、千鶴は駆けつけた救護班に治療を受けるのだった。
残る『シェムハザ』のコアは3つ。