眼が覚めると見たことの無い白い場所であった。
(ここは、何処だ?)
自分の体を見るとどうやら足も付いているため死んではいない様だ。
「そうだ!美月は!?」
死んでいないのであれば、一緒に翡翠の光に飲み込まれた美月が居るはずだ。そう思い鋼夜は辺りを見回す。すると隣で倒れ込んでいる美月の姿を発見する。
「おい、美月!大丈夫か!?」
「うぅん……あと十分……」
「……」
どうやら大丈夫の様だ。
しかしこのまま寝てられては先へ進めない。
「起きろ美月」
体を何度か揺すると美月が寝ぼけ眼で目を覚ます。
「むにゃ?鋼夜?……此処は?……そうだ、私は今『シェムハザ』と……」
どうやら眼が醒めてきたらしい。
「落ち着け、此処に見覚えはあるか?俺たちはあのネックレスから発せられた光に包まれたら此処に飛ばされたらしい」
「ううん、ないぞ。鋼夜は覚えは無いのか?」
「残念ながら……な」
これは困った美月の両親に贈ってもらったネックレスがどうしてしまったのか全く見当もつかない。
美月の両親に贈られたネックレスが俺たちに危害を加えるとは思えないが、何故こうなったのかわからないためどうする事も出来ない。
こういう時は周りに何かあると相場が決まっているものだ。子供の頃に読んだマンガでこういう展開があった事を思い出し、鋼夜は注意深く辺りを見回す。
すると、俺たちの後方のずっと奥に小さな点があるのを発見した。
「あれは?」
鋼夜が指を指すと美月がそれにつられてそちらを向く。
「扉……のようだな」
「行ってみるか?」
「……そうするしかあるまい。全く、お母さんもお父さんも妙なものをくれたものだ」
「まあ、そういう人達だっただろ?」
「そうだったな」
美月が昔を思い出したかのように遠い目をする。
「そういえばこのネックレスは紗夜ちゃんも一緒につくったらしいな」
「えっ!?そうなの!?」
知らなかった。
「なんだ、知らなかったのか」
「おお、今聞いてちょー驚いた」
「良く紗夜ちゃんもうちに来ていたぞ?」
「なんか、この世界がこんな適当なのが納得と言えば納得だ」
紗夜は細かい事をあまり気にしない性格だったので、もしこの世界があの日に本当は見せるものなのだとしたらここはエントランスホールなのだろうか?
既にVR(ヴァーチャルリアリティー)の技術はあの時に確立していたし、そもそも美月の両親はフリーダムナイツの研究の第一人者だ。フリーダムナイツにもVRの技術は応用されているし、彼らがそれらを使って何かをしていたとしても何ら不思議は無い。
美月の両親がお茶目(控えめな表現だ)な性格であった事もあると思うが。
「んじゃあ、まあ取り敢えずあの扉まで行ってみるか?」
「そうだな。此処でうじうじしていても意味無いしな」
そうして俺たちは白い殺風景な空間を二人で進んで行った。
「案外でかいな」
なんとか扉まで辿り着いた俺たちは(結構距離があった為、フリーダムナイツを展開しようとしたが、どちらも出せなかった為走った)そんな感想を漏らした、
「そうだな、なんでこんなに大きいんだか」
「案外意味無いんじゃねえの?」
「……そんな気がする」
あの人達はそういう人だ。
その扉をくぐり抜け、中に入るとそこには一直線に伸びる回廊が。
「なんだ?此処」
「これは……美術館か?」
言われてみればその通りである。白い壁にこの独特な雰囲気、確かに美術館だ。
しかし美術館にしては足りないものがある。絵画や写真だ。一枚も並んでいない。
「まあ、取り敢えず進んでみるか」
「そうだな」
俺たちが一歩進みだしたその時。俺たちの両側の壁に一枚ずつ写真が映し出された。どうやら壁がそのままスクリーンの役割を果たしているらしい。
それは……赤ちゃんの写真だ。
「誰だ?これ」
「さあ?」
流石に赤ちゃんの写真で、なんのヒントも無ければみんな同じに見えるのは否めないだろう。
そのため俺たちはあまり深く考えずに進んだ為、予想外のダメージを受けることとなった。
俺は主に腹部に、美月は心に。
次に映し出されたのは、左側のスクリーンだ。
そこに写っていたのは……
「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぶはぁっ!みっ、みっ美月か!?これ!?」
「みっ、みっ、見るなぁぁぁあ!!」
美月が必死に俺の目を塞ぎにかかるがもう既に遅し。
俺の網膜に既に焼き付けられてしまっている。
美月は真っ赤な顔で次に進んで行く。
次に現れたのは……
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぷっ、こっ、鋼夜っ……」
「なんでこんな写真あんだよっ!?」
そこにはなぜか泣きじゃくる俺。
確かこれはお気に入りのおもちゃを壊してしまった時のものだ。
「小さい鋼夜も……良い」
「ん?なんか言ったか?美月」
「い、いやっ!?何もっ!?」
「どーせ、カッコ悪とか言ってたんだろ、はいはい、すみませんねぇ、どーせ俺はちんちくりんですよ」
しかしこれでこの美術館の意味が分かった。これは……
「俺たちのアルバムか」
多分そうであろう。最初の赤ちゃんは俺と美月だったという訳だ。
7年前の美月の誕生日は俺たちにこれを見せるつもりだったのだろう。
「そうか……アルバムか……」
しかし何故今になってこれが見れるようになったのか。
それは分からない。しかし俺たちは進むことにする。全部見ないとたぶんここからは出られないから。
俺たちが歩を進める度に何枚も何枚も俺たちの成長を追うように写真が出てくる。その度に俺たちは足を止め暫しその写真の思い出に浸っていた。
そして、出口が見えてくる。
「次で最後かな」
そう思うと感慨深いものもあるものだ。また、ここには来れるのだろうか。きっと来れないだろう。そんな気がする。
そして最後のスクリーンが映し出される。そこに映ったのは……
「お父さん、お母さん……」
美月の両親だった。しかも写真では無い。動画だ。
そして二人はおもむろに言葉を紡ぎ始めた。
「美月、鋼夜君。よく来たね、もう分かっただろうがここは二人のアルバムだよ。すまないねあの日に渡せなくて」
どういう意味だ?ここは7年前の美月の誕生日に来るはずだったんじゃ無いのか?
「君たちが今何年に来たのかは分からないからなんとも言えないが、恐らくは5年以上経っているだろう。あの日に渡したネックレスはまだ着けていてくれているみたいで良かった。あの時の言葉を覚えているかい?『いつか二人が大きくなってフリーダムナイツに乗って戦う時が来るだろう。その時にまだ美月と一緒に鋼夜君が、鋼夜君と一緒に美月が一緒にいるのならこのネックレスの事を思い出して欲しい』覚えているかい?」
「そんな……こと……言われてないよ……お父さん」
既に美月は涙を流している。それもそうだろう、もう二度と話せないと思っていた父親と母親が目の前で動いているのだから。
「ここに来れたという事は今美月達は危険な状況にあると思う。此処に来る為の条件は『二人が互いに強く互いを守りたい』と願った時だからね」
そうだったのか。だからあの時俺たちはこの光に……
前にネックレスが光ったのはこの前兆だった……
「美月、貴女は鋼夜君をしっかりと支えてあげなさい。それが女性としての役目ですよ」
「はい……お母さん……」
「それに鋼夜君……美月を。どうかよろしくお願いします」
「はい。勿論です」
多分だが、この2人は自分達が死ぬことをどこかで予期していたのだろう。そうでなければこんなものを遺す訳がない。
「美月、強く生きなさい。美月の生きる道は辛いかもしれない。だけど沢山友だちも出来ただろう?隣には鋼夜君がいるだろう?苦しい時は頼ってもいい、泣いたっていい、苦しんだっていい、だけど、自分に嘘を吐くのはダメだ。苦しい事は分かち合って半分に、楽しい事は二人で二倍に。分かったね?」
「はいっ……はいっ……」
「鋼夜君。妻も言っていたが美月をよろしく頼むよ。我儘で人見知りでやんちゃで甘えん坊な子だが、私達の大切な一人娘なんだ。無理にとは言わない。余裕があればでいい。美月を、見てやってくれ」
「わかり……ましたっ」
動画は最後にさしかかっている。もうすぐ終わってしまう。
「最後に、短くてすまないね。これだけ言わせてくれ。君達は英雄の素質がある。今はなんのことかわからなくてもいい、いつか人類を救ってくれると信じているよ」
「美月、貴女は『月』です鋼夜君、貴方は『夜』です。
『月』が『夜』を照らし出す様に、『夜』が『月』を映し出す様に。二人で助け合って生きてください」
「「はいっ!!」」
もう直ぐ……終わってしまう……この安らかな時間が……
「私達は信じているよ。君たちが世界を救ってくれる事を……何てったって私達の自慢の娘とそれが選んだ男なんだ。絶対にやってくれると信じてる」
そう言って二人は微笑んだ。
「それじゃあさようならだ。美月、鋼夜君。また、天国で会おう」
「待って、お父さんっ!お母さんっ!まだいろいろっ!話したい事がっ!!」
美月が泣きじゃくりながら、走り出す。しかしスクリーンという名の壁にぶつかるだけだ。
「鋼夜君、美月をどうかよろしく」
「美月、鋼夜君をしっかりと支えなさい」
そう言って二人の動画は終わった。それと同時に扉が開く。あれを潜れば恐らくまた『シェムハザ』との戦いに戻るのだろう。
「行こう。美月」
そう言って俺は手を差し伸べる。あの日の様に。最初に俺と美月が出会った時の様に。
「ぐずっ……うん……」
そして美月も手を取る。彼女もまたあの日の様に。
そして俺たちは手を繋いで光輝く扉へと向かって行った。