「よしっ!後首二つ!!」
目の前で『シェムハザ』の首が一つ落ちるのを見て思わずティナは声を上げる。
どうやら千鶴さんも平気なようだし、私の妹弟子でもある訳なのであまり心配していないのであるが。
既にストラトス・ディーヴァは三発目。私の宝力ギリギリである。これを撃ったら数分はピクリとも動けないだろう。
『シェムハザ』は首を落とされた反動でまだ上手く動けていない。いや、それよりもコアを一つ壊されたことか。
残るコアは残りの首にある二つと胴体の中の心臓部分にある巨大なコアの3つである。
最後のコアは私がストラトス・ディーヴァで撃ち抜くしか無い。『シェムハザ』の巨体の中心部まで届く攻撃など鋼夜ですら持っていないのだから。
と言うよりもティナは一発における攻撃力と貫通力ならば世界トップクラスだ。No.2と言っても過言ではない。
勿論No.1は彼女らの師匠である『天将』だ。
あの人の第七世代能力は馬鹿げている。制限が凄まじく厳しいため滅多に使わないのだが。
とはいえ無い物ねだりをしても仕方がない。『天将』がいないならば私がやるしかあるまい。
等の鋼夜と美月だが、さっき視界の端に翡翠の光に包まれているところを発見し、慌てて駆け寄ったのだが意識を失っているらしくそこは取り敢えずミーシャに任せ、ミーディア学園の中に寝かせてきたため巻き添えを食らう心配は無い。
「後10分はチャージしないとあの巨大なコアは貫けないわね。それまで頼んだわよ、セルディ」
ティナは世界一優秀で強い自分の専属メイドの顔を思い浮かべ、健闘を祈った。
〜〜〜〜〜〜〜
「千鶴様のお陰で『シェムハザ』のコアは残り三つ。戦闘開始からそろそろ一時間。休み無しの為日本の一般戦闘員と、ミーディア学園の三年生、及び教員には疲労の色が濃い。そろそろ決めたいですね」
『シェムハザ』は一向に首を再生する気配が無い。恐らくコアを再生する事は出来ないのだろう。
となると最初に首を増やした時はどうしたのかという疑問が生まれるがそれは元々体内のコアを使って、より強力に復活するためと思われる。
そう言うセルディだが、自身も幾ら元天剣と言えどずっと陣頭指揮を取っているのだ、その疲労は計り知れない。
頼りの『蒼天皇』が倒れている今、セルディが頑張らなければ日本のイージスは総崩れになる。それだけは避けなければならない。
「さあ、行きますよデュランダル。もう少し私に力を貸してください」
繰り出させるソニックブームを必死にデュランダルで弾きながらセルディは『シェムハザ』との距離を詰める。
首が二つに減り、発射台が少なくなったとは言え『シェムハザ』がオーストラリアを1日で滅ぼしたのは首が一つの状態の時である。三つの時よりも幾分か楽になったとは言え楽観は出来ない。
一刻でも早く、『シェムハザ』の首を落とさなければ。その考えが油断を生んだ。
セルディが一瞬動きを止めたのを『シェムハザ』は見逃さなかった。いや、見逃がす筈が無い。この目障りな『緑』をちょこまかと泳がせておくほど『シェムハザ』は人間を好いてはいないのだから。
(しまった……)
セルディが気が付いた時にはもう遅い。『シェムハザ』の巨体がセルディを押し潰さんとその体重に物を言わせた体当たりを仕掛けてくる。
ティナがストラトス・ディーヴァを撃とうとも、ポーラがチューン・オブ・トゥモローを放とうとも、その巨体を後退させる事はもう不可能である。
現在における戦闘下でセルディのストーム・テンペスターを上回るフリーダムナイツなどあり得ない。セルディのストーム・テンペスターは世界で二番目に速いのだから。
それにかなうものなど蒼火桜位のものであろう。
そう、蒼火桜ならばセルディを助けられるのだ。
故に彼は迷わない。幼き日にした今は亡き妹との約束を果たす為に。
セルディの世界が大きく歪む。
『シェムハザ』が大きく左に動いたのだ。それもあり得ない程の速さで。いや、違うこれは私が右に動いているのだ。そう気が付いた時、セルディは自分が何者かに抱き抱えられているのを遅まきながら自覚する。
目の前に居たのは、真っ青なフリーダムナイツに身を包むセルディが人生を捧げると誓った青年であった。
「鋼夜様……」
「危なかったなセルディ。ここまで良くやった、ありがとう」
〜〜〜〜〜〜〜
「傷はもういいので?」
「おう、ばっちりだ。流石は魔女の力だな」
セルディをティナの近くに降ろすと鋼夜はふっと息を吐く。
「セルディさん!大丈夫ですかって、鋼夜君!!」
セルディのことを心配したのだろう、ポーラが駆け寄ってくる。
「鋼夜、セルディを助けてくれてありがとう」
「うんや、良いって。俺にとっても大事な仲間なんだしさ」
ティナが俺に感謝の言葉をかけてくれるが、俺にとっては当然の事をしたまでだ。ティナもそれをわかっているのだろう、遅れて気が付いたように苦笑した。
そして遅れて俺の後ろから美月とミーシャが現れる。
「良かった、セルディさんは無事なのだな」
「そうですか、良かった。目覚めて早々血相変えてどこ行くのかと思いましたよ」
図らずとも一つの場所にコバルト・シリウスの戦闘員が集まってしまった結果だ。
「鋼夜君、美月ちゃん、さっきの翡翠の光は何だったの?」
「んーと、まあ久し振りの再会を楽しんでたんだよ」
本当は色々あったのだが、詳しく説明している暇はない。
「うっし、俺が寝てる間に千鶴が頑張ってくれてたみたいだし、俺らも仕事しないとね。妹弟子が頑張ってくれてるのに兄弟子と姉弟子が何もしない訳にはいかんでしょう」
それから一息ついて俺はもう一度コバルト・シリウスの面々を見渡す。
「コバルト・シリウスはこれより『シェムハザ』防衛戦の最終フェーズに移行。総員コアをぶっ壊して世界に痛烈なデビューでも飾ろうぜ!!」
「「「おおーーっ!!」」」
そう言ってみんなが一斉に飛び出していく、たった一人心音美月を残して。
「美月」
「何だ?鋼夜」
「美月のお父さんとお母さんの願いを覚えてるか?」
「勿論だ。互いに支え合って私達が世界を救う」
勿論俺も覚えている。だから俺が聞いたのは忘れたからではない、確認の為だ。
「正直俺は世界を救うとか分からん。だけどさ、俺の手の届く範囲、せめて仲間だけは絶対に守り切りたい。そう、思ってる」
「ああ、私もだ。幾らお父さんとお母さんのお願いと言われても私もいきなりは実感が湧かない。だから私も仲間を守りたい」
俺が隣の人を助けて隣の人がその隣の人を、更にその隣の人が更にその又隣の人を助ければ、それは世界を救うという事になるのでは無いのだろうか。
人は一人では生きていけない。それと同じ様にたぶん人は一人ではみんなを救う事は出来ないのだ。一人が救えるのはその人の手が届く範囲だけ、人間の手は二本しかない。
だから掴める人の手は二つしかない。だけとその掴まれた人の手はもう片方が空いているではないか、その片方に更に違う人の手を掴めばいい。そうやって全人類が助け合っていけば良いではないか。
それが俺が考える世界の救い方だ。
「美月、俺はお前を守りたい」
「私もだ。私も鋼夜を守りたい」
だから手を伸ばそう。もう二度と離すことの無いように目の前の手を掴めばそれが力になる。
「俺は『夜』だ俺がお前を映し出す」
「私は『月』だ私がお前を照らし出す」
そう、『夜』と『月』の様に互いにどちらかが欠けてもどこか足りない様に。どちらかが欠けたらその存在が意味をなさなくなるように。
その時、翡翠が俺たちを包む。あの時の様な強い光では無い。もっと淡くて弱々しい光。でも確かに存在する光、そうーー
ーー太陽には及ばないけど、夜を照らす月明かりの様な。
そしてそれは俺たちのフリーダムナイツに溶け込み、新たな力となる。
頭に産まれてからずっと一緒に過ごしてきたかのような言葉が紡ぎ出されていく。だから俺たちはそれを紡ぐ。
7年越しの誕生日プレゼントを今、此処に!!
「「〈夜を照らし出す月の如く、月を映し出す夜の如く、月と夜は一心同体、夜が月を、月が夜を呼び合う時、月夜を裂くもの無し〉」」
「「