「「〈夜を照らし出す月の如く、月を映し出す夜の如く、月と夜は一心同体、夜が月を、月が夜を呼び合う時、月夜を裂くもの無し〉」」
「「
二人が全く同じ詠唱を唱える。これが心音夫妻が二人に与えた翡翠のネックレスの正体。二人が互いに守り合いたいと強く願った時に発動する固有能力。
翡翠のネックレスそのものが固形化された双刃夜月なのだ。朧火鋼夜と心音美月にのみ許された禁断の固有能力である。
その双刃夜月の能力は互いの宝力、感覚、思考の共有。
すなわち、鋼夜が考える事は美月に、美月が考える事は鋼夜に筒抜けなのである。そして宝力を共有するという事は美月の宝力で鋼夜が蒼火桜を、鋼夜の宝力で美月が雪時雨を、それぞれ動かせるという事である。
そしてこれが心音夫妻が研究していた固有能力の中で禁断とされた理由がある。それは、この能力は特例として怪我と死の両方をも共有するという事。
しかしそれすらも乗り越えると信じて二人は二人に願いを託したのだ。
二人ならばそんなものに負ける訳は無いと。
「さあ、行くぞ美月」
「ああ、行こう鋼夜」
二人は何も交わさずともわかっていた、それは双刃夜月のお陰か、それとも二人にとっては造作も無い事なのか。
〜〜〜〜〜〜〜
「まだ、まだぁ!!」
セルディが普段とは打って変わって怒声を上げる。それは自分自身を叱咤激励する為のもの。あと少し、あと少しなのだ。あと少しで『シェムハザ』は倒れる。だから、だから……
「倒れない……私の命は鋼夜様とティナ様の為に……二人が願うのなら、私はそれを叶えるだけ!!」
セルディがデュランダルを振るう、しかし巨大な体を持つ『シェムハザ』は十聖剣の一太刀といえどそうやすやすと倒れるほどヤワではない。
セルディがもう一撃加えようとする、その時。恐ろしい速さで『蒼』が『シェムハザ』を蹴り飛ばす。
「鋼夜様!?」
そう、蹴り飛ばしたのだ。あの『シェムハザ』の巨体を。
それどころか、全く疲れを見せていない。ベネチアから横浜まで、更に一時間にも及ぶ『シェムハザ』との戦闘、その疲れを感じさせないとは、いや。これは、固有能力?
セルディの経験がそう言っていた。紛れもなくそうだと。
聞いたことがあった、日本のフリーダムナイツの研究者が固有能力を結晶化させる研究をしていると。それがそうなのだろう。
鋼夜は蹴り飛ばした『シェムハザ』に追い打ちをかけるように剣翼を放つ。
『シェムハザ』はそれを食らいながらもまるて何かの仇を見るかのように真っ赤に染まった目で『蒼』を睨みつける。
「来いよ『シェムハザ』、俺と美月二人に勝てると思うならな」
それを聞かず、『シェムハザ』は鋼夜に突進する。その巨体を生かした体当たりだ。
しかし鋼夜はそれを流れるような動きで交差する様に回避する。更にすれ違いざまに一閃。更に回転しながら、二回、三回。『シェムハザ』の胴体に横薙ぎの剣尖が突き刺さる。
『シェムハザ』はすかさず反転し、ソニックブームを放つ。しかし鋼夜はそれを避けようともしない。ソニックブームが鋼夜に当たる直前、空中でそれが弾かれる。
美月がレーヴァテインを振るったのだ。それを鋼夜はまったく疑う事もなく避けずに信じた。
それが双刃夜月、それが朧火鋼夜と心音美月の絆である。
「凄い……」
「まったく言葉を交わさずにこれとは……」
そして鋼夜は恐ろしい速さで『シェムハザ』の周りを飛び回り、『シェムハザ』の狙いを逸らす。
それが世界最高の速度を持つ蒼火桜の本来の戦い方。
流れるような動きで『シェムハザ』の体を切り刻んでいく。そして遂に『シェムハザ』の足をもう一度切り飛ばした。
「みんなぁ!決めるぞ!!」
その言葉を聞き、コバルト・シリウスのメンバーが一斉に動き出す。
『シェムハザ』が動き出すよりも速く、あいつの心臓を貫く為に。
「奏でよ、チューン・オブ・トゥモロー!!」
ポーラがチューン・オブ・トゥモローを発動し、超高密度の銀の弾幕を『シェムハザ』へと放つ。
『シェムハザ』が堪らず、後退する。何を食らっても決して後退する事が無かった『シェムハザ』が。
それを引き起こしたのがポーラ・バリトレオ。あの、弱気だった少女である。
「駆けよ、イノーマス・ハリケーン!!」
その隙を逃さずセルディがイノーマス・ハリケーンで地面との間に爆発的な風を起こし一気に『シェムハザ』に接近する。そして、彼女の十聖剣が煌めく。
デュランダル。それが遂に、『シェムハザ』の右の首を跳ね飛ばす。耳触りな奇声をあげながら鷲首が一つ地面に落下する。
しかし『シェムハザ』は見逃さ無かった、自分の心臓に狙いを定めている一人の少女の姿を。そしてそれに狙いを定め、最後に残った首でソニックブームを放つ。
しかしそれは、
「守れ、スフィンタリア!!」
ミーシャ・アルキオスのスフィンタリアによって阻まれる。花弁型の大盾がソニックブームを余すことなく全て防いで見せた。それが、ミーシャの騎士としての誇り、背後の仲間を全て守り抜くという強い意志。
「レーヴァテイン!!」
そして最後に残った首に煌めく一筋の剣撃。
心音美月の十聖剣、レーヴァテインがその能力で『シェムハザ』の最後の首を跳ね飛ばしたのだ。
これで『シェムハザ』の残るコアは一つ、もうそしてこれで『シェムハザ』に攻撃手段は殆ど無い。
しかし『シェムハザ』には再生能力がある。もう殆どコバルト・シリウスのメンバーに宝力は残っていない。もし、もう一つでも首が復活し、ソニックブームを放たれたら最後、防ぐ術は無い。
それをわかっているのだろう、『シェムハザ』は鋼鉄の触手を伸ばし、グリモアの残遺を吸収しようとする。しかし、いつまでたってもその触手にはグリモアが当たらない。それもそうだろう、もう既にグリモアなど無いのだから。
「ふふっ、兄弟子と姉弟子の邪魔は……させませんよ?」
千鶴率いる日本のイージスが全て跡形も無く消し飛ばしたのだ。
これで、もう阻むものは無い。
「響け、ストラトス・ディーヴァ!!」
20分間分のチャージを込めたティナ・ルナセリアの固有能力、ストラトス・ディーヴァが『シェムハザ』の心臓部目掛け一直線に放たれる。
「貫けぇぇぇ!!」
ティナの絶叫が響き渡り、『シェムハザ』の体を貫いた。
「「「わぁぁぁあ!!」」」
土煙が舞い上がり、『シェムハザ』の体を覆い隠す。
ストラトス・ディーヴァが貫いたシーンを見て、ミーディア学園中が歓喜に沸く。ある一人の男を除いて。
「ーーッ!!みんな伏せろぉぉ!!!」
それをノータイムで感じ取った美月の目が驚愕に見開かれる。何せ『シェムハザ』の存在した部分から大量のソニックブームが放たれたのだから。
それは、鋼夜のお陰で間一髪避けたものの、歓喜の表情が一瞬にして失せる。
「な、んで……」
誰かのかすれ声が響く。
『シェムハザ』の心臓部には紅く輝くコアが存在していたのだから。
それは単純な理由であった。
オーストラリアを一晩で破壊し尽くした『シェムハザ』の心臓たるコアを破壊するには単純に威力か足りなかったのだ。
そして『シェムハザ』は貫かれた自分の体をソニックブームに変え、放出した。という訳なのである。
「これでも……『シェムハザ』は……」
『シェムハザ』の体を貫く程の攻撃力と貫通力の両方を持つ攻撃はティナしか出来なかった、だからティナに託した。しかし威力が足りなかった。それもそうだろう、あのコアは『天将』の一撃に耐えるように設計されたものなのだから。
しかし、今は状況が違う。攻撃力が足りない?
ならば適任がいるではないか、防御力なと関係ない、防御不可能の一撃を持つ男が。
『蒼天皇』が。
鋼夜の動きは速かった。ティナの攻撃が通じていないと見るや、全員に危険を伝え、自身の持つ最強の剣を構え、自身の持つ最高の技を放つ為に。
それを見たティナがまたも叫ぶ。今度は危険を報せるものでは無い。声援だ。
「行けぇぇぇ!!鋼夜ぁぁぁっ!!」
そして鋼夜はただ一言。その名を呟く。
「