業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#60 その終わり

 

少し、昔の話をしよう。

 

昔と言ってもそう遠い昔の話では無い。たった20年前の話だ。

20年前、人類はアウターとの邂逅を果たした。

その時の事は詳細に(したた)められ、後世へと書き残されている。人類史上最悪の出来事だと。

それまでも映画や小説などで人類の危機などという話は大衆娯楽として世間に大いに受け入れられていた。

だが、それはあくまでもフィクションなのである。

誰だってそんなフィクションの中でしかあり得ないと思っていた事が実際に自分の身に降りかかれば、パニックになり、絶望に打ちひしがれるのは仕方がない事だと言える。

 

あくまでもフィクションだから人間という生き物はその話を楽しめるのだ。

みんな子供の頃に誰だって正義の味方になりたいと思った事くらいあるだろう。しかし、時が経つにつれその願望は薄れていくと思う。そんなものは居ないと分かる事も勿論だが、それが存在して欲しくない、存在してたまるかという願望も少なからず存在する。

しかし、厄災は現実に降りかかった。

 

この世界は現実である。現実には正義のヒーローも悪の組織も居ない。それが通例。だから、人類は内側に敵を作り、醜い事に身内同士で戦いを始めるのだ。

だが、その成果はどうだ?実際に悪の組織が人類を攻めて来た時、人類は何が出来た?否、何も出来なかったのだ。

 

全世界の軍隊が正体不明の外敵、グリモアに対して攻撃を仕掛けた。ミサイル、重機関銃、地雷、戦車、戦闘機、そして核。人類の全ての軍事力を投入して人類は初めての外敵に立ち向かった。皮肉にも外敵が現れる事でようやく人類は一つになったのだ。

しかし、グリモアの装甲は重機関銃でいとも容易く崩れ落ちた。しかし、ミサイルでも、地雷でも、そして核でも全く傷一つ付けられないモノが存在した。それがグリモアの心臓であるコアである。

何発核爆弾を投下しようとコアを残してグリモアは消滅するものの、絶対にコアだけは破壊出来なかったのだ。

そして直ぐにコアは何処かへと消え失せてしまうのである。

 

フィクションでなら、ここで満を持して人類を救う為にヒーローが現れる筈である。しかしそれは何度も言うようにフィクションでの話なのである。現実はそう甘くない。そう言う事である。

そしてそのまま人類は敗戦を重ね、なす術なくその数を減らしていった。

しかしそこでアウター側から和平の交渉が持ちかけられた。それに飛びついたのは人類だ。こちらが劣勢なのだ、それに飛びつかない訳が無い。

しかしその内容は容認出来るものでは無かった。人類の生き血を貢ぎ続けろ。要約すればそう言う事だ。

どうやら何やらアウター側にも何か有るようだが、それは人道に反すると全世界からの猛反対を受け、それは却下された。因みに余談だが、最も反対したのは発展途上国である。この時代、発展途上国など殆ど存在しないのだが、科学がどれほど発展しようと戦争は終わらない。つまりはそういう事である。

 

しかし幾ら崇高な理念の下人類が抵抗をし続けたとしても負ければそれまでである。しかしそんな劣勢の中人類が抵抗を選択したのには三つの理由があった。

一つは建前と同じ通り和平の条件があまりにも人権に反していたから。そして二つ目はもうすぐ人類の反撃になりうるであろう反抗の手段。人類の希望となりうるフリーダムナイツが完成するからである。

そして最後は、その時、一つ希望があったからである。

 

その希望の名は、ルディア・コールシス・アルクマと、その弟子達である。ルディア、その名は恐らく全人類が知っていると言っても過言では無いだろう。恐らく全人類にこう質問したら全員が全員、答えはひとつの筈だ。

世界で一番強いのは?ーールディア。だと。

ルディア、このもう既に初老を迎えているであろうという年であるにも関わらずまだ20代と言われても信じれる肉体を持つ彼女は元世界有数の軍事国家の将軍である。

曰く、たった一人で小国を攻め落としたという逸話を持つ伝説の武人である。

 

彼女は引退後、ひっそりとイギリスの片田舎に篭り、総合武術を教えていた。幼い頃から伝説とまで言われた武人に教育を受けた子供たちはあり得ない程の才覚を見せた。

それが例えどんな子供でも最高クラスの武人に育て上げる程の教育である。それでいて誰も脱落した者は居ないというのだから、驚きである。

その中で最も強かったのは二人。この二人はずば抜けていた。一人は3歳の頃からずっとルディアに教えを請うてきた才能の塊、ジュライア・アクス・ヒスドマーノ。

もう一人は単身15の時に乗り込んできた努力の塊、滝沢秋水。

 

ルディアは全世界に散らばった教え子を全て集め、グリモアへの反抗を開始した。その数、およそ100。しかしそれら一人一人が小国ならばたった一人で攻め落とせる実力を誇っていた。その初陣は快勝。全く犠牲者を出す事なくグリモアを退けたのだ。しかし、ルディアたちの進撃はたった一回で幕を閉じる事となる。

グリモアを退けたルディアらの前にたった一人招集に応じなかったジュライアが立ちはだかったのだ。

 

創生龍の総帥となった彼はルディアとの一騎打ちを申し込んだ。伝説の武人とその最高の弟子との戦闘。その結果は弟子に軍配が上がった。

その結果指揮系統がバラバラになり、ルディアの弟子達は一人、また一人とグリモアの毒牙にかかっていった。

そのあと滝沢秋水はイージスという組織を立ち上げるのだが、それは別の話。

 

話が変わるがここで滝沢秋水にスポットライトを当てようと思う。

彼の師匠である、ルディアは一つ弟子たちに徹底させている事があった。それは、軽々しく技を作らないこと。

彼女は技。というものに深いこだわりがあった。銃術だけでは無く、剣術や武術も教えていた彼女には技、と呼べるものは無かった。彼女曰く技とは他の誰にも出来ないから技なのであって他の誰かに出来たら技など無価値になるのだと。そんなものに名前をつける意味は無いと、そういう事だ。

 

だから彼もその弟子にそれを徹底させた。彼に出来ない技のみ技名をつける、と。

だから秋水の弟子たる鋼夜とティナには殆ど技と呼べるものは無い。勿論秋水も全くとまでは言わないが、片手で数えられるくらいしか無いのだ。

しかし、彼の弟子たる鋼夜は他の人間とは少しばかり毛色が違った。

十聖剣たる天羽々斬と魔女の力たるテミスの鎮魂歌。

この二つを併せ持つ朧火鋼夜は遂に一つ、技を創り出すに至った。

それが、天地開闢。

型の名は天照。

 

そして話は現在に戻る。フィクションなどでは無い。本物の英雄の話に。

彼の天地開闢 天照は簡単に言えばただの袈裟斬りである。

しかし、彼のフリーダムナイツと天羽々斬がそれをさらなる高みへと押し上げる。亜音速で飛翔するフリーダムナイツの速度に更に亜音速で振り切られる剣戟。更に時空をも斬り裂く天羽々斬。この二つが完璧に合わさる事でその単なる袈裟斬りは最高の一撃となる。

 

それは時空を切り裂くだけでは飽き足らず、その引き裂いた時空を更に消し飛ばす。時空ごとその存在を消し飛ばすのだ。だからそれはもう斬るというものでは無い。

彼の一撃は消すのだ。

それが天地開闢 天照。彼の誇る唯一の技。

 

鋼夜が天羽々斬を振り切ったまま、全ての武装を解除する。勝ちを確信しした訳では無い。ベネチアから全速力で飛んできてそこから更に全力戦闘。既に宝力が限界なのだ。

そのまま倒れ込む様に地面に突っ伏す。その後ろで上半身ごとコアを消し飛ばされた『シェムハザ』が大きな音を立てて倒れ込んだ。

しかしもうその音は鋼夜には届いていない。もうその意識は眠りの底だ。

その鋼夜にコバルト・シリウスのメンバーが駆け寄ってくる。

 

「ありがとう、鋼夜」

 

全員の感謝の意を込めた言葉が重なり合い、此処に世界を救った英雄の長い1日は終わりを告げた。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「こりゃあ、派手にやったなぁ」

 

その戦いが終わってから数時間後、秋水達が帰ってくる。

全員無事だ。

だが、その声には苦笑が混ざっているのは隠せていない。

彼の目の前には上半身の無い『シェムハザ』の姿。

その傷口には覚えがある。彼が唯一認めた最高の一撃だ。

 

これで決定したと思う。

此処に『クリティナの予言』は半分成就した。

しかし、まだ彼はそれに気付いていない。自分が何を成し遂げたかを。

フィクションでは無い、現実にヒーローが現れた事を。

 

「ゆっくり休めよ、馬鹿餓鬼」

 

そう言って秋水は今も後処理に追われるイージスのメンバーの指揮を執るべく動き出した。

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