ミーディア学園第一訓練室。
本来ならばそこでは多くの生徒が日々の研鑽の為訓練をしているはずである。
しかし、今この第一訓練室は二つのチームがほぼ貸し切り状態で使っていた。そのフリーダムナイツの数、11機。
本来ならば数百のフリーダムナイツを使って訓練する施設であるのにそれは贅沢な使い方と言える。
しかし廊下には多くのミーディア学園の生徒が訓練室を覗き込んでいる。
律儀にも訓練室に足を踏み入れる者は居なかったが。
彼らは訓練室を我がもの顔で使う不良グループに訓練室を追い出されたとかいう訳ではない。むしろその訓練を見に来たのだ。
訓練室に居るチームはミーディア学園では殆ど存在しないミーディア学園のなかのメンバーだけで作られたチームである。
一つの名をティア・スカイ。これは生徒会のメンバーで作られたチームであり、一ヶ月前まではミーディア学園で唯一のミーディア学園の生徒のみで作られたチームであった。
もう一つはコバルト・シリウス。たった一ヶ月前に出来たチームであるというのにその知名度は凄まじい。
彼等はその一ヶ月で凄まじい経歴を残したとかそう言う訳では無い。そのメンバーが余りにも異質なのだ。
何せ天剣が二人も居るチームなどかつて最強と呼ばれたチーム、ローゼン・クローネ以外存在しないのだから。更にその隊長が決して顔を見せなかった天剣十三将序列十三位『蒼天皇』イリーガル・ブルーなのだからその驚きも相まって発足の記者会見をした次の日のニュースでは大きく扱われ、その知名度は今や右肩登りとか、うなぎ登りとかそう言う状態ですら無かった。崖である。
そんな凄まじいチームのリーダーが同じミーディア学園に在籍していると知った他の生徒がどうなるか、その答えが第一訓練室を取り巻くこの異質な空間である。
〜〜〜〜〜〜〜
「なんか、凄い視線を感じるな」
俺は今、コバルト・シリウスとティア・スカイのメンバーに訓練をつけている。一ヶ月前の記者会見で俺がイリーガル・ブルーという事をバラしたのでミーディア学園でも大手を振って蒼火桜を使える様になったのだ。
なったのは良いのだが、集中しろと言うには余りにも難しい状況となっている。
「何せ今まで全く素顔を見せず、誰もその顔を見た事の無いまま天剣十三将にまで上り詰め、更にその戦闘方法に憧れた若者を数多く作り、とりわけこのミーディア学園で起こった創生龍の襲撃を二回も退け、更に第一級交戦禁忌種『シェムハザ』をも倒したあの『蒼天皇』がまさかこのミーディア学園に居て、この訓練室でこれまた痛烈な記者会見で鮮烈なデビューを飾った彼のチームでもあるコバルト・シリウスとミーディア学園の生徒会でもあるティア・スカイのメンバーを訓練しているとなれば、天剣十三将の中でも若者に支持が多い『蒼天皇』を一目見ようとミーハーな生徒達がこの第一訓練室に押し寄せてくるのは自明の理ね」
「……お、おう」
よくもまあこうスラスラと言葉が出てくるものだ。
だが、それを話しているティナの顔も喜びに満ちているのだが。
「にしても……久しぶりに鋼夜の蒼火桜姿を見たわね。シェムハザの時はあんまりゆっくりしてられなかったし、それが終わったら終わったでライラとオルトにみんなのフリーダムナイツのメンテナンスを頼んだしね」
「まあな、でもこれからは嫌でも見ることになるぜ?」
「付いて行くわよ、何処までも」
「ん。ありがとう」
「……はぁ。……全く、この朴念仁め」
何やら睨まれてしまった。
今は休憩時間で、コバルト・シリウスの面々もティア・スカイの面々もそれぞれフリーダムナイツを纏ったまま床に座り込んでいる。
まだへばっていないのはセルディとティナ、辛うじてミーシャと美月か。ポーラもティア・スカイの面々よりはマシだが、ティア・スカイのメンバーは全員ノックアウトだ。
セルディは天剣として厳しい訓練を受けていたので当然として、ティナはこの訓練を俺と一緒に師匠の元でずっとやってきていたからであろう。
ミーシャと美月は幼い頃からずっと武道に携わっていたからだと思う。
今俺たちがやっているのは、安全装置を付けての乱取りだ。それもぶっ続けでの。これを俺とティナはずっとやらされていたのだ。これが最も実践的かつ効率的なフリーダムナイツと操縦士の経験を積む方法だ。
それはもう、言葉では表せないほどキツイものである。
フリーダムナイツを纏っている以上、宝力と体力が両方減っていき、一瞬でも気を抜けば待っているのは地面だ。
集中力と体力が極限まで試される。
「んじゃあそろそろ休憩終わり、次は……ちょっと俺の訓練に付き合って貰える?」
その言葉にみんなが顔を上げる。この状況で一人も根を上げないのは素晴らしいと思う。
師匠に稽古をつけて貰っていた頃は俺は白夜への復讐だけで生きていた様なものだったのでキツさなど微塵も感じなかったが、それが無ければ俺は一時間と持たず根を上げていたと思う。
でも、この状況でより実践的な訓練をしないとフリーダムナイツは成長しない。
俺のチームに足りていないのは操縦士の経験もそうだが、それよりも深刻なのはフリーダムナイツの世代だ。
俺が第四世代、セルディが第六世代、ティナとミーシャ、ポーラが第三世代、美月が第二世代。
フリーダムナイツの最高到達点たる第七世代が居ないのはまあ、いい。しかし半分以上が第三世代以下なのはかなりマズイ。
天剣十三将が二人も居るコバルト・シリウスはかなり危険な地域に派遣される事があるだろう。その時に少なくとも第四世代以上でないと自分で自分の中身を守る事すらままならないと思われる。
勿論操縦士の経験も必要不可欠だが、それにしても操縦士に応えるフリーダムナイツの性能自体が劣っていてはいくら操縦士に才能があっても生き残ることは至難の技だ。
「やっぱ師匠に頼んで連れてって貰うか……」
でも今は今出来る事をやるだけだ。
俺はみんなにこれからやる訓練の内容を伝えた。
するとみるみるうちにみんなの顔が怪訝なものに変わっていく。
要約すると。
「これからみんなにはオレに全力で攻撃を仕掛けて欲しいんだ」
「……何?鋼夜君ってちょっと危ない人だったの?」
何かえらい誤解を受けている気がする。
「いや、違くて。それを俺は全力で迎撃する。俺にとっては一対多数の訓練になるし、みんなにとっては極限状態下の訓練になる」
その説明を受けてみんなの顔が納得するものとなった。
「私も本気で良いので?」
そう言うのはセルディだ。
天剣であるセルディが全力で戦えば同じ天剣である俺と違い物量で攻め込まれるだろう。いくら安全装置が付いているとはいえ天剣同士で全力戦闘を行ったら壊れてしまう恐れがある。だから普通ならば手を抜いてもらうのだが、
「ああ、セルディも本気で頼む。何せこれから天剣同士で全力戦闘する事になるんだ。その時に一対一とは限らないからね」
裏切り者の天剣が居なければの話なのだ。
天剣十三将と互角に戦えるのは天剣十三将の他にはそうは居ない。それならばセルディにも模擬戦とはいえ頑張ってもらう他あるまい。
「んー、でも訓練とはいえ鋼夜君に全力で攻撃するのはちょっと……」
「そっかー、じゃあ……」
どうするか……うーん。
その時俺の頭に名案が浮かぶ。
「じゃあ俺をノックダウンさせられたらみんなの言うこと一個だけ聞いてあげるよ」
その言葉を聞いてみんなの目が獲物を見つけた肉食獣の様に光った(気がした)。
「何でも?」
「……う、うん」
更に眼光が増した。まるでそれは獲物を前に狩を始める獅子の様な(特に女子の目が怖い)。
「鋼夜とデート……鋼夜とデート……しかも私は既に何でも一つ願いを叶えてくれるとの約束も取り付けている……それならば……それならば……」
「ああ、鋼夜と甘美なる夜を……あんなことやこんなことや……更には……更には……セルディ!五つ星ホテルのスイートルームを予約…「しておきました」…流石!さあ!待っていなさい鋼夜!」
「鋼夜君が何でも一つ願いを叶えてくれる……何でも……何でも……えへへ、えへへ」
「鋼夜が何でも一つ……い、いかんいかん!私は騎士として負ける訳にはいかないから勝つのだ……そうだ!決して願いを叶えて欲しい…から……では……で、でも……」
「あ、あのイリーガル・ブルーの鋼夜様が何でも……一つ……願い事を……ゴクリ」
「落ち着くしお姉ちゃん……私達二人で山分けだし……」
あぁ、言わなきゃ良かった。