「予想通り鋼夜は東でポーラ達と交戦中……と」
ティナは空中ディスプレイに第一訓練室の立体構造化したマップを映し出していた。
その東には大きく映し出された鋼夜の姿と、青いチェスのキング。それに赤いナイトが四つ。
無論青いキングが鋼夜で赤いナイトがティナ達だ。
チェスにはナイトは四人も居ないが、あくまでマップ上を見やすくするためである。
残るナイトは七つ。相手はキングただ一人。チェスならばなんという事はない。普通にチェックメイトだ。
ただこのキング、恐ろしく強い事は言うまでもない。分かりやすく言うならばこちらがポーンであちらがクイーンだ。
日本風に例えて将棋で言うならば、七つの歩が飛車と角に挑む様なものだ。
しかし忘れてはならないのがこのティナ・ルナセリア。幼い頃よりイージスの幹部を両親に持つ世界有数の名家の跡継ぎという事である。
ルナセリア家は男女や年齢差関係なく最も実力のある子供を跡継ぎに選ぶ事で有名な家系である。
当然、ルナセリア家の中は血みどろの欲望と野望に塗れた陰謀渦巻く魑魅魍魎の巣であり、ティナが跡継ぎに決まるまでに何人消されたか定かではない。
そんなルナセリア家の中でティナが唯一信頼出来るのがセルディであり、そんな彼女の支えでティナはルナセリア家の跡継ぎとなったのだ。
しかしこのティナ、滝沢秋水、そして鋼夜に会うまではフリーダムナイツに乗った事は中で無かった。そんな彼女が何故そんな陰謀渦巻く跡継ぎ争いを勝ち残る事が出来たのか。その理由は簡単。ティナ・ルナセリアには状況を操る才能に長けていた。
地図を見れば制圧すべき場所も、安全なルートも、どこに陣地を築くかも、そして敵がどういう風に動くかも手に取るように分かるのだ。
「さあ、貴方は後何手でチェックメイトかしらね?」
そんな最も尊敬すべき主人の世にも恐ろ……可愛らしい笑顔を見てその主人に最も信頼されているメイドが一言。
「お嬢様、少々本気過ぎるのでは……」
〜〜〜〜〜〜〜
「ぐっ……やっぱ蒼火桜だと安全装置付けてても衝撃がキッツイ」
鋼夜は恐ろしい勢いで迫ってくるこれまた恐ろしい量の弾幕をなんとか捌きながら何とかその銃撃主に接近を試みていた。
しかしその銃撃主、ポーラに接近する事はおろかあまりにも弾幕の密度が凄すぎて捌ききる事が難しい。
普通のフリーダムナイツならばマシンガンの銃撃如きダメージ覚悟で突っ切ればいい。しかし朧火鋼夜の駆るフリーダムナイツ、蒼火桜だけはそんなことが出来ないのだ。ポーラのマシンガンの銃撃の衝撃だけでも十分安全装置が働く可能性があるのだ。
安全装置が働いてしまえばフリーダムナイツへの宝力の供給が断たれ、鋼夜の負けとなる。
「しょうがない、何本か折られるのを覚悟するか……」
俺は剣翼を最大限まで展開し、何本かを常時周りに配置する。これでポーラのマシンガンによる攻撃は幾らかは弾ける筈だ。
しかしそれで弾けるのはポーラの攻撃のみ、それでもポーラの攻撃をすべて弾く事が出来るわけではない。
それでいて、更に三人の第三世代の接近戦を受け切らねばならないのだ。
「鋼夜さん!!」
「覚悟するし!」
マリーとメリーの姉妹が恐ろしいコンビネーションで槌と鎌を振るう。天羽々斬を使えないこの状況では光華紫電で受けるしかない。剣翼はポーラ、そして、
「鋼夜!まだまだ容赦はしないぞ!」
ミーシャのスフィンタリアが的確に死角から鈍器として攻撃を仕掛けてくるのだ。
ミーシャの固有能力、スフィンタリアは大盾を宝力で創り出し、自由に操るというものなのだがそれをミーシャは高速で移動させ、鈍器として操ろうと言うのだ。
「前に高速移動のコツを聞いてきたときは何かと思ったけど、こういうことか」
「そういう事だ。速くなっただろう?」
「上手くなり過ぎだよっ!」
ミーシャのスフィンタリアを操る速度はもう既に俺の剣翼と比べても遜色無い。
しかし、圧倒的に数が違う。六つの大盾が合計五十程の日本刀に押し込められていく。
そして、後少しで安全装置が働こうという時。
「私を前に他の女の子ばかり見ていると火傷しますよ!」
「私達にもかまって欲しいし!」
人間は勝ちを確信した時に最も油断する。それが人間という生物の嘆かわしい特性だ。
「だけどその言葉、師匠にどれだけ叩き込まれたと思ってるの?」
「なっ!」
「嘘だし!」
「えっ!」
ミーシャ、マリー、メリーの同時攻撃を全て剣翼で受け止め、すれ違いざまに連撃を叩き込む。
安全装置が作動し、宝力の供給が途絶えフリーダムナイツが維持できなくなり三人はこれで戦闘不能だ。
「やっぱり強いね鋼夜君。だけど私も諦められないのっ!」
日本刀を振り切り、その体制で膠着した状態の俺をポーラのマシンガンが襲いかかった。
しかし、この状況で最も警戒しておかねばならなかったポーラを無防備に放置しておくわけが無い。
ポーラの上空に配置してあった剣翼がポーラの安全装置を切り裂く。そのまま安全装置が作動し、ポーラもフリーダムナイツを維持できなくなる。
「やっぱ強いなお前ら。流石師匠に才能溢れる逸材と言わせるだけある。そんなこと俺にも言ってくれなかったんだけどな」
今の戦闘で失った剣翼は約半分の五十。光華紫電もスフィンタリアとチューン・オブ・トゥモローの攻撃でかなり消耗している。残る相手はティナ、セルディ、美月の三人。
「うっわ、これって結構ピンチなんじゃねえの?」
「そうでございますね、鋼夜様っ!」
「うおっ!」
俺の右頬をナイフが一瞬煌めき飛び去っていった。
「次は私が相手でございます」
「ここでセルディとか……ティナ本気過ぎるだろ……」
一瞬、両者が立ち止まり。そして両者が恐ろしい勢いでぶつかりあった。
地上で繰り広げられるその戦いはこの世界で初めて行われたであろう最速の戦いであった。
かたや世界最速を誇る『蒼天皇』の駆る蒼火桜。
かたや瞬間速度ならば世界で二番目の『疾風』の駆るストーム・テンペスター。
共に天剣に数えられる人類最強の牙である。
その速度、一秒間に幾度となく斬撃が飛び散り、火花が散る。廊下でそれを見ているミーディアの生徒の殆どは何が起こっているのかすら分からぬほどだ。
しかし訓練室で既に鋼夜に打ち倒されたメンバーはそれを一人残らず確認することが出来た。それに特に感化されたのはミーシャとポーラである。
「なんて……高い……」
「あれが……天剣……世界で最も強い人間だけが名乗る事を許される称号……」
その戦いは遥か高み。自分達とは比べものになるどころか、全て確認することすら出来ない領域。一陣の風が舞うたびに一合の鉄が斬り結ぶ。鳴り止む事のないその轟音の一つ一つにまともに当たれば一瞬で人の命を刈り取る威力の斬撃がぶつかり合っているのだ。
いつか私もあの領域へ
誰もが憧れる人類最強の称号、『天剣』
その高みへ届きうる二人の少女が初めてそう思った瞬間であった。
〜〜〜〜〜〜〜
恐るべきは『疾風』セルディ・ルナセリア。たった一つのナイフで五十もの日本刀の斬撃を受け、流し、弾く。
彼女が天剣へと至るに至った逸話がある。
それ、たった一振りのナイフで千にも登る銃弾を防ぎきった。しかも無傷で後ろに護るべき者が居るのにも関わらず。
固有能力、イノーマス・ハリケーンを巧みに使いこなしフリーダムナイツ、ストーム・テンペスターの触れた所から凄まじい豪風が巻き起こる。一振りのナイツが閃く度に流れるような動きで剣翼が弾かれていく。
鋼夜が一つ一つの剣翼に意識を集中させるのに対し、セルディはたった一つのナイフに集中していれば良い。
それだけでは鋼夜の有利は揺るがない。しかしセルディが怯む事なくそれを押し返していられるのはたった一つ、たった一つの勝る物があったから。
圧倒的な迄の経験値である。
そしてまたナイフと日本刀が斬り結ぶ。
セルディ!セルディ!セ・ル・デ・ィ!!
はい、すみません。暑さで頭やられて変なテンションです。
このセルディさん実に気に入っているキャラでございます。今は出番少ないけど絶対にいつか輝きます。
ティナに振り回される最強系超有能メイド!セルディ!