業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#64 ボーイ・ミーツ・ガール

 ーー距離およそ100メートル。

 

 セルディと鋼夜が凄まじい勢いで斬り合っている頃。

 

 ーー風速0メートル。

 

 二人の戦闘を遠くから眺める一人の少女。

 

 ーー射線上に障害物無し。

 

 言うまでも無くティナ・ルナセリアである。

 

 ーー大型スナイパーライフル、グロリアス・エンジェル異常無し。

 

 僅か15分という短い時間制限ながらも、ティナはストラトス・ディーヴァをギリギリまで溜めてその時を待っていた。

 

 ーー戦闘開始から10分。ストラトス・ディーヴァ、充填完了。

 

 その一撃で彼女の願いを叶える為に。

 

 ーー狙うは心臓(ハート)

 

 彼のハートを撃ち抜くために(物理的にではなく)。

 

「響け!ストラトス・ディーヴァ!!」

 

 その声を通信機越しに聞いたのであろうセルディが後ろへ跳んだと共に鋼夜がこちらを見る。そしてその顔が驚愕に彩られる。完璧なる心臓狙撃(ハートショット)。これで物理的にも精神的にも彼のハートを撃ち抜く事が出来た筈である。

 

 ティナの計画に狂いがなければの話ではあるが。

 

 〜〜〜〜〜〜〜

 

 キィン!キィン!

 鉄と鉄とがぶつかり合う独特の音が訓練室に響き渡る。

 一秒一秒が全く気の抜けない剣と剣、技と技の応酬である。

 セルディは先程までの訓練で宝力を消費しているとはいえ鋼夜も既に何人ものフリーダムナイツと戦っている。条件は互角、しかし鋼夜にはまだ倒すべき相手が残っている。その事を考えると余力を残さねばならない鋼夜の方が不利である。更に鋼夜を追い詰めるのは見えない敵からのプレッシャーだ。後ろを気にすることをしなくても良いセルディと美月とティナの二人を常に気にしていなくてはならない鋼夜。この差は普段ならばどうという事はないが、こと天剣ほどのぶつかり合いにもなるとかなり大きい。

 鋼夜はセルディだけではなく、まだ見えない美月とティナの攻撃にも気を払わねばならないのだ。

 そして両者が一度大きく間を空け、数秒後に一際大きな金属音が響き渡った。

 

「めちゃめちゃ本気じゃねえかセルディ」

「ええ、その通りでございます鋼夜様。ティナお嬢様のご命令ですので」

「ティナはなんて?」

「本気でぎったんぎったんのぐっちゃんぐっちゃんのべっこんべっこんにしちゃえとの事です」

「俺それ流石に死んじゃわない?」

「冗談です」

「うわー、おもしろーい」

 

 その問答の間にも休むことなく手は動く。手が動く度にその手が持つ刀が振るわれセルディのナイフと斬り結ぶ。

 そしてまた鍔迫り合い。

 

「鋼夜様」

「なに?また冗談?」

「いえ、違います」

「んじゃあ何?疲れたから降参?してくれると有難いんだけど」

「いえ、チェックメイトです」

 

 そしていきなりセルディの力が弱まったかと思うとセルディがいきなり後方へと跳んだ。勢い余って俺は体制を崩してしまう。そしてそこに凄まじい勢いでこれまた凄まじい大きさの光線が俺の心臓を抉り取るべく放たれてきていた。

 

「げっ、ティナのストラトス・ディーヴァ……」

 

 精密で、それでいて最高の威力を誇るコバルト・シリウスの誇る最強の飛び道具である。

 しかしこのストラトス・ディーヴァ。実を言うと避けることは簡単なのである。ティナのグロリアス・エンジェルにはホーミング機能は付いていないため狙撃された場所を正確に見極め射線からズラしてやればそれでいい。

 しかし恐るべきはティナとセルディの主従関係のコンビネーションであろう。

 敢えてセルディを狙ったであろうその狙撃は正確にその意思を組んだセルディが俺の体制を崩しながら狙撃ポイントへ誘導したその所為で俺の心臓を正確に狙撃する事になるのだ。

 

「てか、天剣を囮に使うとか流石セルディ……」

 

 ちらっとセルディを見ると満面の笑みで親指を突き立てていた。そりゃあもう『今年最高の笑顔で賞 一等賞の景品ハワイペア旅行券』が貰えるくらいには、そして俺がそんな事を考えてしまうくらいにはテンパっている事も意味している。

 天羽々斬が使えないこの状況で、更に回避もままならないこの状況では剣翼を壁代わりとして使い、どうにか受け流すしかない。

 今は戦闘開始から10分。その間ずっとティナがストラトス・ディーヴァを使いチャージをし続けていたとすると倍率は……

 

「1024倍!?残りの剣翼全部使っても足りねえ!?」

 

 不味い、本当に不味い。このままでは全員に何でも一つ願い事を叶えることとなってしまう。その場のノリで言ってしまったその余りにも無謀なその発言がもし現実のものになってしまったらどうなるかわからない。

 例えば……「おい、鋼夜。お前は今日から私のサンドバッグだ」とか「鋼夜?貴方は今日から私の忠実な(しもべ)ですのよ?」とか「鋼夜様、貴方には今日からメイド服を着て過ごして頂きます」といった美月、ティナ、セルディの命令が眼に浮かぶ様だ。

 現実には健全な女子高校がする発言ではないような命令が飛び出てくる可能性が高いのだがそんな事鋼夜は知る由もない。

 と、頭を抱えて下を向いた時鋼夜の目に先程まで戦っていたミーシャの大盾が入ってきた。

 

「これなら!よしっ!いけぇぇ!」

 

 鋼夜は大盾を斜めに持ち、その前にありったけの剣翼を並べ自身を守る盾とした。

 数秒後、恐ろしい爆音と共に大盾に衝撃が走る。

 この様子では剣翼は全滅だ。残るは手に持つ一本のみ。しかし他の剣翼はきちんと役割を果たしてくれていたらしい。なんとかストラトス・ディーヴァの恐ろしい一撃を上空へと受け流す事に成功した。

 

「ふうっ、危ねえ」

「流石でございますね鋼夜様。しかしご自慢の剣翼はもうないみたいですよ?」

「おう、圧倒的ピンチは続くって訳だ」

 

 だが、もうストラトス・ディーヴァにチャージをする時間は無い。それならば気を付けていれば日本刀で弾ける筈だ。

 しかし今まで何本もの剣翼を組み合わせて戦っていたセルディとの戦いが絶望的になったのは否めない。

 

「だからさ、セルディ」

「何ですか?鋼夜様?降参ですか?」

「いや、セルディ。降参してくれね?」

「ノン。ダメです」

「ココモココに新しく出来たリューナ・ミゼーナのシュークリーム10個」

「……ダメです」

 

 そう、何を隠そうこのセルディ。シュークリームに目が無いのだ。具体的には彼女に払われている給料の三分の一がシュークリームに行くくらい。

 

「15個」

「……ダメ……です」

「20個」

「そ、そんなものに釣られたりなんか……」

「25個」

「私はティナお嬢様の命令に背く訳には……」

「30個」

「……………」

 

 俺はセルディに歩み寄り安全装置を日本刀で切りつけた。

 

「うーわー、やーらーれーたー。すみませんおじょーさま、セルディはやられてしまいました」

 

 案外ちょろい世界最強のメイドである。

 ともかくこれで残るは二人。ティナの最大の攻撃はなんとか凌いだしティナは接近戦はそんなに強くない。狙撃にだけ気を付けていれば良いだろう。

 

「後は美月か……」

 

 イグナイトで戦ったときには剣術ではほぼ互角だったのだ。蒼火桜の能力を引き出せない以上美月はかなりの難敵と言える。

 しかしティナの狙撃で美月とのコンビネーションが来たら確実に俺は詰む。最近は同じ部屋に居るためか結構仲も良くなっており、一緒に居るところをよく見る。

 

「先にティナかな」

 

 そう思い、俺は先程のストラトス・ディーヴァの方角に駆けて行った。

 

 〜〜〜〜〜〜〜

 

「そんな……ストラトス・ディーヴァが」

 

 ティナは目の前の光景を言葉を失ってただスコープを覗いていた。そしてその数十秒後、彼女の誇る最強のメイドが一刀の元に斬り伏せられた。通信機から聞こえてきた最後の会話のペナルティは後で実行するとしてこの状況は芳しくない。

 

「しょうがない、最後は正面切って決戦よ。良いわね?美月」

「……」

「美月?」

 

 ティナが美月の方を見ると……

 

「あうぅ、あうぅ……そ、そんな命令は……あぁでも、でも……」

 

 勝ったときの妄想で顔を真っ赤にしていた。

 

「そんな事は勝った時に考えなさい!」

「あべし!」

 

 どこからともなく取り出したハリセンで美月の頭を叩く。

 

「まだよ、まだ負けてないわ。勝つのは私達……そして……そして……ボンッ!!」

 

 ティナの頭もショートした。煙を拭きながらニタニタ笑う二人の少女。

 

「何やってんだ?お前ら」

 

 鋼夜が出逢ったのはそんな光景だった。

 




模擬戦終了!シュークリームの勝ち!
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