業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#66 握手会

「結局何日から合宿行くの?」

 

午後6時。そのままの流れで夕飯を取ることになり、コバルト・シリウスの全員でテーブルを二つ使って食卓を囲う。因みに今日の夕飯は食堂のおばちゃんが風邪のためメニューがラーメンかカレーの二択だったためコバルト・シリウスのメンバーは全員カレーだ。

 

「大体二週間位を予定してるから……まあ15日からかな」

 

ミーディア学園の夏休みは8月の終わりまで。

大体2日休むとしてそれ位が目安であろう。

 

「ハワイ島の近くなんでしょう?何で行くの?やっぱり船?」

「うん、それも師匠が取ってくれているはず」

 

そんな感じで合宿の予定を詰めていると……

 

「あ、あのぅ、すみません……」

 

見知らぬ女生徒が鋼夜に話しかけてきた。因みにその後ろには後押しをする様に二人の女生徒が控えている。

ミーディア学園の制服を着ているためミーディアの学生である事は間違いない、それにバッジが赤なので二年生だろう。

ミーディア学園はその年によってそれぞれ学年で色が割り振られる。因みに今の三年生は緑、二年生は赤、一年生は青である。

まあ鋼夜の場合は青のコートを着ているのが強制の為嫌でも目立つのだが。

 

「何ですか?」

「あ、あの一年生の朧火鋼夜さんですよね?」

「はい、そうですけど」

 

その女生徒が真っ赤に染めた顔を俯かせながら聞いてくる。

 

「天剣十三将序列十三位『蒼天皇』って本当ですか?」

「あぁ……はい。まあ……」

 

そしていきなり何かを覚悟したかと思うと手を差し出してくる。

 

「あっ、あのっ!だ、大ファンなんです!あっ、握手して下さい!!」

「あ、あぁ、……はい。どうも」

 

そして鋼夜はその手を握り返す。

するとその女生徒は「きゃーっっ!!わ、わ、わたっ!!」と言っていきなり卒倒してしまったので後ろの女生徒が引き取っていった。その女生徒は「本当にありがとうございます!!この子本当にイリーガル・ブルーの大ファンで!!」と言って少し涙ぐんでいた。

するとそれを皮切りに、

 

「あっ、あのっ!私も良いですか!?」

「あっ、俺も!!」

「私も『蒼天皇』のファンで!」

 

あれよあれよと言う間に俺らの周りをミーディア学園の生徒が学年問わず取り囲んでしまった。

食堂にはこんなに人数が収容出来るんだなぁとか考えてるしまうレベルである。何せもみくちゃで人口密度を計ればそれはもう凄まじいものだろうということが何も言わなくても分かるのだから。

俺はその数の暴力と言う名の凄まじい圧力に負け、一人一人握手を交わす。しかし悲しいかなそもそもミーディア学園に入れる入学条件というものはジュエルを持っていて、宝力を体内で生成する事ができ、フリーダムナイツに適正がある生徒というものである。

ジュエルが人体に現れる確率は圧倒的に女性の方が多く、ミーディア学園の生徒比も男女比1:3というこの時代ではあり得ない比率を叩き出している。

そのため必然的に俺が握手を交わす相手も女性の方が多い事になり、そんなものとは無縁の生活を送ってきた俺としては少々役得と言えた。が、最近になってようやく殺気というものを感じることを覚えた俺に恐ろしいまでの殺気が向けられている事に気がつく。それは俺のすぐ側、というよりコバルト・シリウスの女性メンバーからであった。

 

「デレデレしおって」

「鋼夜君?女性の恨みは重いんだよ?」

「騎士としてあるまじき行為だな」

「私というものがありながら」

 

何故か後で握手を強く求められた為先程凄まじい殺気を送ってくださっていた女性の方々に握手をすると途端に機嫌が良くなった為、恐らく御利益か何かがあると思われているのだと推察する。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

夕食を終え、自室に戻りのんびりと過ごしている時。

 

「あぁー、負けた。セルディ、貴女ポーカー強すぎ」

「お嬢様はポーカーフェイスが苦手ですからねぇ」

「そうだな、そんな事では戦場では生き残れんぞ?」

「貴女だって同じ様なものでしょう!?」

 

女性陣はどうやらポーカーをしているらしい。賭け金は甘いものらしい、どうやらいつの時代でも女性が甘いものが好きなのは変わらない様だ。

 

「ん、俺ちょっと外の自販機行ってくるわ。なんかあれば買って来るけど」

「では私はレモンティーを」

「私はそうねえ、レギュラーコーヒーで」

「私は緑茶だ」

「ん、りょーかいっと」

 

夜とはいえ八月の暑さはそう変わらない。今夜は熱帯夜になるであろう。

 

「そんな日にコート着てんのなんて天剣くらいだよなぁ」

 

セルディもコートを着ていて暑いと少しばかり愚痴を言い合ったものだ。

 

「レモンティーと、コーヒーと、緑茶っと」

 

それぞれの分の代金を支払い、片手で抱える。

 

「それに俺は……うーん、まあコーラでいいや」

 

ピッ、ガコン。

こうしている合間にも汗が流れてきそうなので早めに退散するとしよう。

 

「おう、鋼夜じゃねえか」

「師匠……」

 

しかしそんな俺を引き止める声有り、師匠だ。

 

「ははっ、なんだお使いか?しっかり尻に敷かれてるじゃねえか」

「ついでですよ、ついで。師匠はどうしたんですか?」

「サボりだ」

 

どうやら先日の『シェムハザ』の件での報告書が溜まりに溜まっているらしい。

 

「ああゆうのはフェルリアの方が得意なんだよ。俺が書いたら何書いてんのかさっぱりだ。って言われてなぁ」

「あぁ、師匠字汚いですもんね」

 

師匠の字は俺でも読めない。まさにミミズのオンパレードである。

 

「ミリアはどうしたんですか?」

「ん?あいつはもう寝てるぞ」

「随分と早いですね」

 

まだ9時前だ。

 

「彼奴の1日の睡眠時間は18時間だからな」

「随分と長いですね……」

 

1日で起きているのは6時間という計算になる。そんなんで良いのだろうか。

 

「まあ彼奴には影武者がいるからな」

「影武者!?」

「だってお前入学式にミリア見ただろ?」

 

そう言えばそうである。入学式の壇上で祝辞を述べていたのは今考えると紛れもなくミリアであった。

 

「あれは影武者だ。というよりミリアが『怠惰』の力で作った」

「随分と無駄な魔女の力の使い方ですね……」

 

世界広しといえど魔女の力をそんな事に使うのはミリアだけであろう。俺だって自分の影武者など作ろうとも思わない。

 

「そういや、ファニーオレンジ使うんだってな」

「ええ、合宿に使えるかと」

「誰か護衛に連れてけよな。一応十聖剣が三本も有るんだ」

「そうですね、師匠とかどうです?」

「いやー、パス。そうだ、グレースでも連れてってやれよ。あんまり娘と話す時間が無いって嘆いてたぞ?」

「んー、じゃあグレースさんがOKしてくれたらそうします」

「そういや、創生龍に潜り込ませてる密偵から情報が有ったんだが」

 

師匠が真剣な顔つきに変える。この時は天剣十三将筆頭『天将』の顔だ。

 

「近々白夜が動くらしい。ファニーオレンジへの襲撃も十分あり得る。覚悟しとけ」

「……了解です」

「それとこれは噂なんだが……」

「何ですか?」

「どうやら創生龍、というより朧火白夜は『嫉妬』の魔女の力を持つ者を仲間に引き込んだらしい」

「ーーッ!」

 

『嫉妬』の魔女。その能力は謎に包まれた魔女の力の中では最も有名と言える。

それは人の手に余る神の如き魔女の力の中でも最も忌み嫌われる存在。それは、

 

「呪いですか」

「あぁ、あれは危険だ。『暴食』に次いでトップツーだ。接触は極力避けろ。見たら逃げろ。いいな?」

「はい」

 

『嫉妬』か、厄介な奴が敵に回ったものだ。

 

「お前は英雄になるんだ。いや、ならなきゃならない。そうでなければこの世界は……」

「えっ?何か言いましたか?」

「いや、何でもない。んじゃあな汗のかきすぎで風邪引くなよ」

「いやいや、んじゃあ脱がせて下さいよ」

「なんだ、宝力の量を調節すれば平気だぞ」

「んな方法有るなら先に言えやジジイ!!」

 

かかかっ、と笑う師匠を見送りながら俺は宝力を少し絞る。あっ、本当だ。涼しくなった。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「英雄と覇王。魔女と十聖剣。人間とアウター。クルティナの予言……か……」

 

まさか自分の弟子にこんな事を押し付ける羽目になるとはな。

だが、彼奴にはまだ早い。彼奴の心にはまだ暗い闇が有る。それをどうにかしなけりゃ彼奴はまだ英雄にはなれない。

 

「なあ、師匠。教えてくれよ。俺は道を踏み違えたのか?」

 

かつて世界最強と言われた俺の師匠のいる空に向かってそう呟くも何も帰って来るはずもなく。

俺が道を踏み違えなければ今でも師匠とジュライアと三人で暮らしていられたのであろうか?

ジュライアと殺しあわなくても良かったのであろうか。

そんな事が脳裏をよぎるが、くだらないと一蹴する。

俺は俺の為に朧火鋼夜を使う。その事は変わらないのだから。

 

「弟子に自分の尻拭いをさせたくはねぇんだがな」

 

だが、それをしなければ『クルティナの予言』は最悪の形で叶ってしまう事となる。それだけは阻止せねばならない。アウターの恐るべき最終計画だけはなんとしても阻止せねばならないのだ。

 

「その為ならば俺は喜んで外道に成り果てよう」

 

例えその結果、この世界が滅ぶとしても。

 

「蒼火桜の本当の第三世代能力……か」

 

その独り言は漆黒の闇へと吸い込まれ、だれの耳にも届くことは無かった。

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