8月7日月曜日午前10時。大型ショッピングセンターココモココ前。そこに俺は一人で待ちぼうけを食らっていた。
勿論昨日の美月の話によりみんなの水着選びを手伝う事となったのだが、昨日の内にメンバー決めが行われた事くらいしか知らないのだ。何せセルディに目隠しをされた状態で車に乗せられココモココに連れてこられたのだがら。
「えーっと……」
それに遠巻きに俺を見る視線がヒシヒシと伝わってくるのだ。しかも「あれってミーディア学園の制服じゃね?」「えっ!あのフリーダムナイツの!?」「しかも何あの人!格好良くね!」「えっ、でもあの人真夏にコート?」「何?変人?」「あれ、でも私あの人どっかで……」
とか囁かれているのが聞こえる。
『蒼天皇』としての記者会見は一回しかやっていないし、時間も短かった為顔を覚えられていなかったのが幸いである。というより変人呼ばわりされて俺のHPはレッドゾーンである。
そこにとても申し訳なさそうな声が掛かってきた。
「あ、あのぉ……鋼夜君?」
「おお、ポーラ……か……?」
その声の持ち主は誰であろう紛う事なきポーラ・バリトレオである。因みに俺の服装は囁かれていた通りミーディア学園の制服の上に『蒼天皇』のコートである。それとは対照的にポーラの服装は半袖のブラウスに橙色のスカートである。それが余りにも華やかで俺の言葉が詰まる。
何時もの見慣れた制服とはかけ離れていてなんというか見惚れてしまったのだ。
「えっと、へ、変かな?」
「い、やぁ!?別に変じゃ無いと思うぞ?」
上ずって変な声が出てしまう。
「ほ、本当?」
「本当」
「本当の本当?」
「本当の本当」
「本当の本当の本当?」
「本当の本当の本当」
「本当の本当の本当の本当?」
「本当の本当の本当の本当」
とまあそんなやりとりを5分間ほど繰り返したが、どうでも良いので割愛する。
「えへへ、ありがと」
その笑顔が余りにも眩しくて一瞬また見惚れたのは誰にも内緒だ。
「えーと、最初から水着見にいくのもどうかと思うしどっかぶらつくか?」
「えっ、あっそうだね。じゃあどこ行こうか?」
「うーん、そうだなぁ。ゲーセンとか行くか?」
「ゲーセン?」
「うん、ゲーセン」
「えっと、ゲーセンって何かな?」
結局ゲーセンとはなんたるかをまたも5分間ほど繰り返し、興味を持ってくれたらしく俺たちはココモココの中にある大型ゲーセンことゲームセンター『O.C』へ行くこととなった。
「す、凄い……」
ゲームセンターに着くなりポーラはそう呟いた。
それもそうだろう、生まれてこのかたゲームセンターなどに行ったことのない少女がいきなり日本が世界に誇る最高の技術、ゲームの全てを集めた場所。ゲームセンターに訪れたのだから。
ポーラの目は初めて見るものに感動し続けており、あっちこっちを見て回っては感嘆の声を上げている。
「あっ、ああっ!こっ、これは……」
「ん?どうした?ポーラ」
「鋼夜君っ!これこれっ!」
ポーラの覗き込んでいるのはクレーンゲームだ。そこの中に陳列されていたのは大きなウサギ型の縫いぐるみである。
「それって確か……」
ポーラが一週間ほど前に美月の誕生日に渡した最近流行りのアニメ……えーっと名前は確か……
「そうだ、ピーター・ラビットソンだったな」
「そう!その限定縫いぐるみがこんなところにあったの!ねえねえ!鋼夜君!これどうやってやるの?」
どうやらここにあるのはポーラもお気に入りのアニメピーター・ラビットソンの主人公、ピーター・ラビットソンの限定縫いぐるみらしい。ちなみにピーター・ラビットソンとは約200年前の名作アニメのリメイクらしいのだが、これがこの時代の女子に大ヒット。視聴率20%を記録し、合計売上は3億円とも言われている作品だ。
このポーラもその一員であるらしくラビットソンの縫いぐるみを見て目を輝かせている。
「クレーンゲームはだな、お金を入れて、こうやってクレーンを動かして……」
一通り話し終えるとポーラは少し難しそうな顔をする。
「どうした?」
「えーっとね、私水着を鋼夜君に選んで貰うのに精一杯であんまりお金持ってきてなくて……」
「なんだ、そんなことが別にいいよ。俺が払う」
「えっ!?悪いよ!また今度にするから」
「いやいや、もう無くなりそうだし今度はもう無いぞ?」
「でも……」
「いいから、俺曲がりなりにも『蒼天皇』だぞ?一般のイージスよりは給料は良い」
その大半は貯金という名目でセルディに厳しくチェックされているので俺の手元に入ってくるお金は少ないのだが、クレーンゲームごときさして困る問題でもない。
「えっと、じゃあお願いするね?」
「おう、任された」
そして3分後。
「おし、おしっ!もうちょい!」
「あっ、あっ、あと、ちょっと」
そしてファンファーレとともにラビットソンは取り出し口へと落下する。
「「やったー!!」」
ハイタッチで喜びを共有し合う。
「ありがとう!鋼夜君!これ一生大事にするからねっ!」
大事そうに縫いぐるみを抱えながらそう言ってくれるので、俺も大満足だ。
「ん?あれ何?鋼夜君」
ポーラが指差したのはいわゆるシューティングゲームだ。
プレイヤーはフリーダムナイツに乗り、グリモアを固有武装で撃ち落とす。ジュエルを持っていなくてもフリーダムナイツの体験が出来ると話題のゲームだ。ちなみにバーチャルリアリティーである。
「シューティングゲームだな。やるか?」
「うんっ!」
俺たちは100円ずつ投入し、武器を手に取る。
そしてフリーダムナイツの選択画面に移る。
「蒼火桜がねえ!」
「しょうがないよだって鋼夜君のこと誰も知らなかったんだから」
「ちっ、こんなところに弊害が」
しょうがないので師匠のにする。ポーラはなんとミリアのだ。というかミリアのフリーダムナイツなんてあったんだな。武装はアサルトライフル。それも二丁あるのでポーラのに酷似しているのだ。
カウントダウンが始まりグリモアが現れる。
そして30分後。
「凄え!まだ無傷だぞこの二人!」
「やっべえ!動きが凄え!」
「というか、あれミーディア学園の制服じゃねえ?」
「うっわ!てことはプロ?凄え!初めて見た!」
そしてついにラスボスまで辿り着く。ラスボスは……シェムハザだ。
そして五分後。
「うおーー!遂に無傷でラスボス倒しやがった!!」
「あのっ!握手を!!」
ゲームセンター中の人がこれを見ていたらしい。
あっという間に取り囲まれてしまう。
「えっ、というかあれって……『蒼天皇』?」
「げっ……」
「うおー!本当だ!本当だ!」
「きゃー!本物の『蒼天皇』様!?」
「私大ファンなの!」
「ポーラ!」
「うん」
「逃げるぞ!!」
「うんっ!!」
俺はポーラの手を引き、人混みから脱出する。ポーラは満面の笑みだったが、逃げるのに必死に鋼夜はそれに気付くことは無かった。
「ふえー、ひどい目にあった」
「ふふっ、お疲れさま。鋼夜君」
なんとか水着売り場まで逃げ、人を撒くことが出来た。
「じゃあ、本来の目的でも果たしますか」
「そうしようか」
そうして二人は水着売り場へと赴く、まだ手を握っている事を鋼夜は気付いていない、ポーラ果たして気付いているのだろうか。二人の顔は走った為か真っ赤である事は本人以外気付いているのだろう。
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8月7日 月曜日
今日は鋼夜君と水着を買いに行きました。
ゲームセンターというものにも行ってとても楽しかったです。
ご飯を食べた後ははずっと鋼夜君と水着を選んでいました。
鋼夜君はどんなものも似合うよと言ってくれましたが、結局1番似合うと言ってくれたオレンジ色のにしました。
また、一緒に行けたらいいな。
……私の大好きな鋼夜君と一緒に
「……やっぱりダメぇぇぇ!!」
そうして私は最後の一行を消しゴムで消すのだった。
こうして今日の夜もふけていく。
「おやすみポーラ」
「うん、おやすみミーシャちゃん」
私は目を閉じ夢の世界へと誘われる。ウサギの縫いぐるみをギュッと抱えて。