業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#71 頼れる義姉との金曜日

8月11日金曜日。大型ショッピングセンターココモココ前。そこに俺は一人で待ち惚けを食らっていた。以下略。

 

「えーっと……」

 

それに遠巻きに俺を見る視線がヒシヒシと伝わってくるのだ。しかも「あれってミーディア学園の制服じゃね?」「えっ!あのフリーダムナイツの!?」「しかも何あの人!格好良くね!」「えっ、でもあの人真夏にコート?」「何?変人?」「これで5日連続……」相変わらずの変人扱いである。が、

 

「ふっ、甘いなそろそろ変人と言われるのにも慣れてきた所だ」

「変人って言われるのに慣れたら人としておしまいですよ?」

「へぶらなまらべっしゃ」

 

俺はその声を聞き、吐血した……様に見えた事であろう。

原因は極度のストレスと見事に核心を突かれたことによる突発性喀血に間違い無い。

 

「ひ、人が気にしている事を……」

「義弟の義姉として当然の指摘です」

 

その声の持ち主は誰であろう。エレナ・エレサールである。天剣十三将『蒼天皇』の専属オペレーターにして朧火鋼夜の義理の姉。綺麗なブロンドの髪を肩で揃え、スカイブルーのメガネが知的さを感じさせる。俺はここまで見事にサマースーツを着こなす女性を知らない。

とは言っても今日はスーツではなく、水色のワンピースである。金髪がそれを引き立て、もし街中で10人とすれ違えば12人位が振り向くほどの優雅さを醸し出している。

 

「あいも変わらず今日もミーディアの制服ですか。女の子をエスコートするというのに適当にも程があります」

「いや、エレナ姉は女の子と呼べる年齢じゃ……」

「あぁん?」

「……はい。私の義姉は女の子です」

 

脅迫である。世界広しといえど『蒼天皇』を脅迫出来るものなどエレナと師匠、フェルリア先生と美月、ティナ、ポーラ、ミーシャ、ライラ、セルディ……あれ?多くね?

 

「分かればよろしい……ほら」

「?」

「まったく……セルディに言われなかったのですか?」

「……ああ!……えっと、似合ってる」

「陳腐ですね」

「俺の義姉はグイグイ俺の心を抉りに来るね!?」

「義姉としての務めです」

「俺そんな義姉欲しくないんだけど!?」

「第二反抗期ですか、全く……手のかかる義弟です」

「ねえ!聞いてる!?お姉ちゃん!聞いてる?ねえ!?」

「黙れ阿保」

「うわー、ねえねえ聞いた?この人仮にも弟に阿保だって」

「変人」

「へぶらなまらべっしゃ」

 

8月11日金曜日、朧火鋼夜死す。死因、義理の姉の罵詈雑言による精神的ストレスによる失血死。

 

「立て、変人」

「へぶらなまらべっしゃ」

 

死人に鞭打つとはこの事、まさに鬼畜の所業である。俺はMでは無いのでこんな物は苦痛でしか無い。

 

「ほら、冗談はこれくらいにして。早く行きますよ」

「いや、冗談にしては結構俺の心は抉られたよ!?」

「ほら、早く」

 

そう言ってエレナは歩き始めた。そして俺も付いて行こうとするが、その前に、

 

「へぶらなまらべっしゃ」

 

エレナが転んだ。何も無いところで、しかもひとりでに。

 

「なにそれ、流行ってんの?」

 

パンパンとエレナは立ち上がって埃を払うと、

 

「ほら、冗談はこれくらいにして早く行きますよ」

「いやいや、同じ台詞を繰り返してもその出来事は無かった事にはならないからね!?」

 

何を隠そうこの朧火鋼夜の愛すべき義理の姉、エレナ・エレサール。恐ろしいほどにドジである。戦闘中やシリアスな時などは完璧にオペレートや自分に割り振られた仕事をこなす女性の憧れの様なキャリアウーマンなのだが、その日常は悲惨である。

鋼夜も最初にオペレーターとしてあった時はとても頼りになるという印象だったのだが、その次の日にはオペレーターを変えてもらおうかと本気で思ったほどである。

具体的にはその日の午後、親睦を深めるという事で二人で買い物に出掛けたのはいいが、転倒が6回、落し物が5回、忘れ物が2個、それに加えて迷子になるというおまけ付きである。

 

「うっ、うるさいバーカバーカ!」

「エレナ姉のドジは治んないよ」

「そ、そんなの分かんないでしょ!?」

 

とまあそんな感じで揉めたものの、取り敢えずエレナ姉の転倒は無かった事にしてようやくココモココへと入る事が出来たのは30分後であった。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「それでエレナ姉、なんか行きたい所あるの?」

「……ない」

「まだ怒ってるの?」

「……怒ってない」

「じゃあ俺が適当に決めて良い?」

「……別に良い」

 

間違いなく怒っているがこの義姉、案外頑固なのである。これまでの経験からして時間が経てばケロっと忘れるので放置しておくに越したことはない。

 

「じゃあ、そうだな……」

 

俺の目に入ったのは、『本日サービスデー、ご兄弟のご来場で二人合わせて1000円キャッシュバック』の文字である。

 

「じゃあ、行くよ。エレナ姉」

 

また目を離すと迷子になるのは確実なので、俺はエレナ姉の手を引いて歩き出した。

そして、着いたのは……

 

「映画館?」

 

そう、映画館である。

 

「何か見たい映画ある?エレナ姉」

「えっと、そんな急に言われても……」

 

エレナはさっと上映中の映画一覧に目を通す。

 

(ラブコメ、アクション、コメディ、ホラー……何でも有りますね)

 

「じゃあ、これにしようかな」

「えーっと、じゃあ店員さん。この映画のチケット有ります?」

「はい、ございます。一番早い時間ですと……15分後ですね。失礼ですがお二人のご関係は」

「兄弟です」

「は?」

「だから、兄弟です」

 

店員さんは聞き直すのも無理は無いだろう。どう見たって鋼夜とエレナは兄弟には見えない。

しかしもう面倒なのだろう、その問答の間にも列は長くなっている。

 

「で、では本日サービスデーなので1000円キャッシュバックさせていただきます」

 

釈然としないものを抱えながら店員さんは1000分キャッシュバックしたのだった。

 

「んじゃ、ポップコーンでも買う?」

「当たり前ですね、映画と言えばポップコーン、ポップコーンと言えば映画です」

 

何がそこまでエレナを駆り立てるのかは知らないが、とにかく買うらしい。

 

「キャラメル一つ」

 

エレナが一つポップコーンを買っている間、

 

「えーっと、バター一つと、キャラメル一つ」

 

鋼夜は二つポップコーンを買っていた。何故か、それは、

 

「あら?なぜ鋼夜は二つポップコーンをへぶらなまらべっしゃ」

 

盛大にエレナはポップコーンをぶちまけた。勿論これを予期していたのだ。

俺は手慣れた動きでポップコーンを拾い集め、纏めてゴミ箱へシュート。15分経ったのでエレナの手を引いて中に入って行く。勿論ポップコーンは片手で器用に抱えて。バランスは不安定だが、エレナに任せるよりマシである。

因みにエレナの顔はちょっと涙目だった。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「はー、面白かった」

 

エレナの選んだ映画はアクションだった。フリーダムナイツに憧れる少年が苦難と挫折を乗り越え、仲間と共に世界を救う話。

 

「リアルさには欠けてましたけどね」

「いやー、俺らの戦場リアルに書いてたら誰も見てくれないよ」

 

誰もアクション映画でスプラッタなど見たくないだろう。

 

「んじゃあそろそろ時間だし、水着でも買いに行きますか?」

「それもそうですね」

 

暫く歩いていると、

 

「そういえば、久しぶりですね。鋼夜とこうやって二人で歩くのは」

「んー、そうだね。エレナ姉が初めて俺のオペレーターに就任した時以来?」

「長かったですね」

「そう?結構短かったよ」

「貴方はそうかも知れませんが、見ているこちらはハラハラしていたものです」

「まあ、俺は心配してなかったよ?」

「えっ?」

「エレナ姉のオペレートが失敗する訳ないし」

「はぁ、やっぱり私の義弟は無自覚のジゴロです」

「ん?何か言った?エレナ姉」

「貴方いつか夜道で後ろから刺されますよ」

「怖い事言わないでくんない!?」

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

8月11日 金曜日

 

今日は鋼夜と水着を買いにココモココへと行きました。

久しぶりの義弟との水入らずの時間です。一日だけと短かったですが、楽しいひと時でした。

水着もかなり長い時間かけてしまいましたが、文句ひとつ言わず選んでくれましたし。

にしても私の義弟の鈍感振りには呆れ果てるまでです。今日それとなく聞いてみましたが、誰の好意にも気付いていません。阿保です。

 

PS 取り敢えずセルディと二人で頭グリグリの刑は確定。

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