8月12日土曜日。大型ショッピングセンターココモココ前。以下略。
「えーっと……」
それに遠巻きに俺を見る視線がヒシヒシと伝わってくるのだ。しかも「あれってミーディア学園の制服じゃね?」「えっ!あのフリーダムナイツの!?」「しかも何あの人!格好良くね!」「えっ、でもあの人真夏にコート?」「何?変人?」「6日連続……ふふはっ」
変人呼ばわりされるのには慣れたものの、昨日のエレナ姉の所為少しばかりの後遺症が残っている(具体的には血反吐を吐く幻覚が見える)。
「お待たせいたしましたわ」
「……ああ。ティナか」
「その間は何ですの!?」
姿形は間違いなく俺の知るティナ・ルナセリアだ。
しかし、何だろうか。言葉遣いが何時もと余りにかけ離れている所為で別人に声をかけられたのかと思った。
この状態のティナは知っている。ルナセリア家の跡取りとして高貴に振る舞う時のティナだ。またの名を猫被りモードと言う。
「その言葉遣い止めない?」
「止めませんわ!……今日は……デート……なのですから大勢の観衆が居るのですわ!」
「いや、別に周りの人が全員こっちを見ているわけじゃ……」
と思ったが、周りを見渡すと視線が全部こちらに向いていることに気が付いた。理由は簡単だ。余りにもティナが美しいのだ。
どう考えてもこんな日本の大型ショッピングセンターにいるような女性ではない。
「ご覧になりましたの?」
「うっ……」
「では、エスコートして頂けますか?
「はいはい、了解しました。お嬢様」
腕に絡ませてきたので、そう言って歩き出す。
〜〜〜〜〜〜〜
(はわ、はわわ……わ、私……)
緊張し過ぎてルナセリア家の跡取りとして振舞っていた時の口調になってしまい、後悔するがもう遅い。このままそうやって振る舞うしかない。
そして勇気を振り絞ってダーリンと呼んでみる。怒られたら謝って普通の口調に戻せばいい。と言うよりもそうして貰おうと思っていたのに。
(お、お嬢様……)
まさかのリターンが飛んできた。しかも腕を絡ませても嫌がる素振りもない。と言うよりも呆れている様子だが、それは些細な事だ。
「どこ行く?」
「ど、何処でも良くってよ。ダーリンに任せます」
「どうでもいいけどその口調とダーリンってめちゃくちゃ違和感あるぞ?」
「じゃ、じゃどう呼んで欲しいのかしら?」
内心ガッツポーズをしながらそう返す。
「んー、そうだな。あなた、とかじゃね?」
一瞬にして顔に血がのぼるのが分かった。
「そそそそそそれって……ここ婚約者…と」
「まあ、後は普通に名前だろ」
言われてみればそうである。
しかしそれではお嬢様口調は変えられない事となる。
「で、では鋼夜と呼びますわ」
「ん。別にそれなら良いんじゃねえか」
(口調にもダメだししてよぉお!!)
「そういや、喉乾かないか?」
「そ、そうですわね。ではそこのカフェにでも入りますか?」
「ん、そうだなそうしよう」
(ああ、結局口調は変えられずじまい……これじゃあ折角のデートが……)
内心落ち込みながらカフェの入り口を潜る。
どうやらここは抹茶を売りにしたカフェらしい。
「何にする?」
「なんでも良いですわ、好きに決めてください」
「じゃあ、この抹茶ラテと餡蜜二つづつ」
「承りました、では860円となります」
鋼夜が代金を払っているのを見つめながら考え込む。
(うう、いつこの口調を直そう……こんなんじゃ鋼夜に嫌われちゃうよね……)
ティナの中で高圧的な女性というのがあまり印象よくなかったのだ。
(お母様くらい気品に溢れていたらそれも良いんでしょうけど……)
はぁ、とため息をつく。
「ほら、ティナ。あそこの席空いてるぞ」
「はい、分かりましたわ」
ティナと鋼夜は窓際の席に着く。
「はぁ……」
「なんだ?ティナため息なんて吐いて」
「なんでも有りませんわ」
「ん?なんだよ、もしかしてここ嫌だったか?」
「いいえ、別に……」
鋼夜と行く場所が楽しくない訳がない。
多分鋼夜と行くならばどんな場所でも楽しいだろう。
と、
「むぐっ!?」
口に何かが突っ込まれた。
驚いて前を向くとどうやらさっき買った抹茶ラテらしい。
「ななな何をっ!」
「はははっ!」
いきなり鋼夜が笑い出した。
「ひひとの口にストロー突っ込んどいて何笑ってるのよ!バーカバーカ!」
「やっぱりそっちの方がいいよティナ」
「はあ?」
「ティナには笑ってる顔とその口調の方が似合ってるって言ってんの」
そう言えばそうである、びっくりし過ぎて口調が戻っているのに気づいていなかった。
そして鋼夜と顔を見合わせると、
「「ぷっ、はははっ!」」
二人して笑いあった。周りの客がどうした事かとこちらを見てくるがどうでもいい。
「はぁー、ありがと。私も堅苦しかったのよ」
「そりゃどうも。ほら、食おうぜこの餡蜜美味いぞ」
「あら、本当美味しいわね」
しばし甘い時間を楽しんだ後、カフェを後にする。
「んー、この後はどうするかなぁ」
「そうねえ、普通に水着買いに行きましょうか」
「まあ、みんな結構時間掛かってたしな。ティナもそう簡単に終わらないだろ?」
「あら、女性の買い物に早さを求めるのは間違ってるわよ?」
「そうなのか」
「そうなのよ」
結局水着を買いに行くこととなった。
のだが、
「うわっ、結構混んでるな」
今日は土曜日。週末なので結構人がいる。
8月も中頃になり、水着を買うのには少し遅めの時期なのだが、ラストスパートという事なのだろうか。
「どうする?他の所行く?」
「別に私は平気よ?」
「じゃあ頑張りますか」
店内はかなりの混雑ぶりだ。
「ほれ、ティナ」
「うんっ!」
鋼夜の出してくれた手を繋いで店内へと足を踏み入れた。
〜〜〜〜〜〜〜
「これとか?」
「もうちょっと明るい色が良いんじゃない?」
「じゃあ、これとか」
「赤はねえだろ」
「じゃあ、これ!」
「派手じゃないか?」
「じゃあ何がいいのよ!!」
鋼夜は少し考える素振りを見せると、黄色の水着を手に取る。
「これとか良いんじゃないか?」
それは私が店に入ってから1番最初に目をつけたものだ。しかし他の人が手にとっていたので後回しにしていた。
自分と鋼夜のセンスが同じだったのが嬉しくてつい微笑んでしまう。
「なんだよいきなり笑い初めて」
「ううん、じゃあこれにしようかな」
「おいおい、そんな簡単に良いのか?」
「うん、鋼夜の選んでくれたものだもん」
「ミーシャもそんな様な事言ってたな」
そう言えば昨日ミーシャがまだ早い秋物の服を着ていた。ジャージ以外の服を見るのは珍しかったから良く覚えている。
(全く、油断も隙もない)
ミーシャもライバルなのはわかっている。勿論鋼夜は早い者勝ちなのでだから抜け駆けとかそんな事は考えないが、羨ましいとは思う。
「じゃあ勿論これも鋼夜が買ってくれるのよね?」
「えっ……」
「みんなにプレゼントしたんでしょう?」
「でも、ティナには抹茶ラテ…」
「したんでしょう?」
「……ったく、分かったよ。買ってやる」
「やったあ!ありがとう鋼夜っ!」
言ってみた甲斐があったというものだ。
「ほれ」
「ん、ありがと」
私はココモココを出ると鋼夜の腕に抱きついた。
「うおっ、なんだよ」
「へへっ、別にいいでしょ」
「まあ、良いけどさ。誤解されんぞ?」
「……別に誤解されようと構わないんだけどね」
「ん?なんか言ったか?」
「んーん、別にー?」
沈みゆく夕陽が二人の影を長く長く映し出していた。
〜〜〜〜〜〜〜
8月12日 土曜日
今日は鋼夜と一緒にココモココへと行きました。
水着も買って貰ったし、言うことなしっ!
カフェの抹茶も美味しかったし、あっ、でもあれよく考えると「はい、あーん」だよねぇ!?
ちくしょー、もっと堪能しとくんだった!
まあ、でも良いよね。また今度、絶対に「はい、あーん」やらせてやる!