数えるのも馬鹿らしくなるほどの大量の敵。それに対し迎え撃つのはたった一人の男。
その男の名は朧火鋼夜。その後ろには幾重にも重なった死体。右手には血に濡れ真っ赤に染まった日本刀。左手には右手と全く同じ作りの真新しい日本刀。
左目には宵闇の如き漆黒の焔が灯り、右目には頭上にひろがる蒼天の如き焔が灯る。
その二つの焔は鋼夜の全身を包み、燦燦とその身を焦がす。
幾人もの人々が彼に願いを託す。この世界の命運を、その両肩に。
対する敵の先頭に立つはこの世の全ての怨み、怨念、怒り、絶望を体現したような闇を纏う漆黒よりも深き冥府の如き闇を纏う一人の男。
その名は朧火白夜。その右手には黒く変色した細身の美しき日本刀、対する左手にはこの世の全ての希望を体現したような眩い輝きを放つ一振りの長剣。
幾人もの人々が彼に願いを託す。この世界の運命を、その両肩に。
雲ひとつ無い満月の月の下、遂に二人は対峙する。
英雄と覇王。
彼らの一振りは大地を裂き、天空を割り、大海を穿つ。
その命運を巡る戦いを見つめる傍観者有り。
その少女この世の物とは思えぬ程美しく、気高く、誇らしい。
そして三日三晩の剣戟の後、遂に世界の命運は決まる。
その時彼女は微笑む。勝者を祝福する女神の如く。
そして世界はーー滅びと生存。どちらか片方を選択する。
此処に『クリティナの予言』は成る。
英雄と覇王。どちらが勝ってもその世界での『クリティナの予言』は成就する。
そして少女は歩き出す。
勝者を祝福する為に。
世界をその手に掴むために。
その日『ーー』の魔女は静かに微笑んだ。
〜〜〜〜〜〜〜
イージスの高速艇で6時間半。
ハワイ近郊の小さな人工島。ファニーオレンジ島に俺たちは脚を踏み入れた。
「うっわー!すっごーい!」
それもそうだろう、船着場で船を止めたすぐ側に有るのが俺たちが宿泊するこの島唯一のホテル、『イージス・レピスタリア』である。このホテル、とても一高校生が払えるような金額で宿泊する事の出来るものではない。おそらく高校生のお小遣いではランチすら危ういだろう。
しかしこのホテル、天剣が所有している関係で天剣十三将の関係者ならば宿泊費などなどは無料なのである。
よってたまにイージス主催の晩餐会などで使われる時もある。
「それじゃあチェックインしようか、まあ俺たちで貸切だから意味ないけどね」
目をキラキラさせながら色々見て回っているコバルト・シリウスのメンバーに一声掛けて、俺たちはチェックインをするべくホテルへと向かうのだった。
「『蒼天皇』朧火鋼夜様、並びにコバルト・シリウスの皆様ですね。お待ちしておりました。従業員一同、誠心誠意おもてなしをさせて頂きます」
出迎えてくれたのはホテルの総支配人の妙齢の女性だ。
師匠とも繋がりがあるらしく、快く出迎えてくれた。
「お部屋は幾つご用意すればいいでしょうか?」
「えっと、じゃあ全員分個室でーー」
「「「「「大部屋を一つで!!」」」」」
「えっ、個室の方がーー」
「「「「「大部屋で!!」」」」」
「あらあら、男性と女性のお部屋も一つでよろしいので?」
「「「「「はい!勿論!!」」」」」
満面の笑みでそういうもなにやらセルディが気付いたらしく、ティナにそっと耳打ちする。
「お嬢様、それはお止めになった方がよろしいかと」
「なんでよ、鋼夜と離れるなんて嫌よ」
「今此処にはオルト様もいらっしゃいますよ?」
「すみません!やっぱり男性用と女性用の大部屋一つづつで!!」
何やら女子がティナにブーイングを言っているが何やら一言言うとオルトの方を睨みながら渋々承諾した。
「なんかありがとうオルト」
「何でだ?」
「いや、なんか礼を言っとかないといけない気がした」
というわけで何とかオルトとの2人部屋をもぎ取った俺は30分後にまたエントランスに習合する事として荷物を置きに割り振られた部屋へと向かった。
「うおっ、凄えなこりゃ」
「イージスの誇る一流ホテルだからな。まあ、こんなもんはイージス幹部の見栄と自己満足の塊だ」
「……中々に辛辣な意見だな」
「オルトもイージス幹部の奴らに会えば分かるよ、なんと言うか俺たちはこいつらの下で働いてるのか……って感じになる」
「でも、ティナの両親もそうなんだろ?」
「まあ、あの人達はいい人達だけどな。何事にも例外はあるって事だよ」
「……あんま考えたくねえなあ」
そんな豪華な内装の室内の一角に荷物を下ろし、支度を始める。
なんの支度かって?聞かれるまでもない。今日は1日オフにしてある。
今は夏、周りは綺麗な海。となれば海で遊ぶしかあるまい。
恐らくその海辺は明日からは地獄と化すのだろうが……主に訓練という名の。
「うっし!じゃあ行きますか!」
「そうだな!」
俺たちはもう既に服の下に海水パンツを履いているので着替えの必要は無い。タオルや必要な物を手に掴み、誰もいない廊下を走りながら裏口へと向かう。このホテルは裏口がプライベートビーチに繋がっており、そのまま海へと行けるのだ。
そしてそことドアを開けると……
「うっお!船の時は酔ってて確認できなかったけど本当に凄いな!」
正に絶景と言える光景が広がっていた。
真っ白な砂浜には足跡一つなく、打ち寄せる波の音以外は何も聞こえない。透き通った海は等間隔で押し寄せ、ひいていく。
まさに南国の楽園だろう。
「鋼夜っ!!」
と、背中に衝撃を感じ、振り向くとそこには背中に飛び乗ったティナの姿。
「探したじゃない、エントランスにいるって言ってたでしょう?」
「あっ、悪い。忘れてた」
「まあ、そうだろうと思ってたけど?だから此処に来たんだし」
そういうティナは勿論水着姿だ。まるでそれは妖精の様に美しく、まるで美の女神を彷彿とさせる。
隣でオルトがだらしなく鼻の下を伸ばしているのがいい証拠だ。
「ライラウルトラマジカルアルティメットハイパーチョーーップ!!」
「あいでっ!?」
そのオルトに鉄槌。双子の妹のライラの放ったチョップである。どうやら今のライラはハイテンションモードらしい。
そこへぞろぞろと姿を見せる女性が5人。
当然のことながら全員が水着であり、目のやり場に困る。
「あいでっ!?」
オルトはもう一発叩かれていた。
「あ、あまりジロジロ見るな!」
「おぉ、すまん」
美月に注意されてしまったが、仕方ないと思う。
コバルト・シリウスの女性メンバーは全員が全員、驚く程綺麗なのだ。世が世ならモデルとかやっていたのだろう、と言うほど。もっと簡単に言うとオルトが『シェムハザ』の一件の直後泣きながらお礼を言ってくる程。
みんながみんな俺の選んだ水着を着てくれていて、それだけで嬉しいと思う。やっぱり自分が選んだ物を着てもらうのは嬉しいよな。
全員が全員、違う色の水着でなんというか色鮮やかな感じになっていた。
「さあ、じゃあ早速遊ぶ……」
「ちょっと待ったぁぁーー!!」
「なんだよ、ティナ」
「ほらほら、女の子が水着を着てるんだよ?何か言うことあるんじゃないの?」
「いや、別に選んだのは俺だし……」
「あ・る・ん・じゃ・な・い・の?」
「……はぁー、褒めればいいんだろ?褒めれば」
「うんうん!よく出来ました偉い偉い」
そう言ってティナが目だけで続きを促す。
「じゃあ俺が先に……」
「「「「「シャラップ!!」」」」」
哀れオルト。既に涙目である。
あっ、水滴を垂らしながら走ってった。
「「「「「「「さあ、感想を!」」」」」」」
あれ、なんか人増えてね?
俺の戦いはここからのようだった。