業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#79 雷剣と疾風

 

「では、邪魔者もいなくなりましたし、正式に騎士の礼に則って挨拶を。お初にお目に掛かります、天剣十三将序列十位『雷剣』グレース・アルキオスと申します」

創生龍(ティアマト)副総帥朧火白夜、直属部隊『イヴンブルグ』副隊長『黒翼の瞬蝶』雛岸蛍。名前は覚える必要は無い。これからお前は死ぬのだから」

「いえ、死にませんよ?何せ愛する娘の結婚式を見ていないのですからね」

「それは、ご愁傷様。来世に期待をしとけ」

 

そう言って蛍は長剣を構える。対するグレースは長剣を抜いたままの自然体のままだ。

その事にイラついた様で蛍は軽く舌打ちをしながら、油断なくグレースの事を観察する。いくら蛍が強くても相手は天剣十三将、楽に勝てるとは思っていない。しかし負けるなどとは微塵も思っていないのだが。あくまでも楽に勝てないだけである。

 

「〈時の間を駆ける道を示せ〉瞬燐陽炎(しゅんりんかげろう)

 

先に動いたのは蛍だ。固有能力を使い、グレースの背後へと転移して、上段からの斬りおろしを仕掛ける。

 

「肩の力が入りすぎです、それに目線で後ろに転移するのが見え見えです。そんな事では私に一太刀浴びせる事などできません」

 

蛍のその一撃はグレースが紙一重の動きで避けられてしまう事となる。しかし蛍にとってそれは想定内とまでは言わないものの、ある程度予想出来た事であった。それでもこんなに綺麗に避けられるとは思ってもみなかったが。

 

「ふん、戯言を。そんな事を出来るのならば貴女は今頃もっと天剣の中でも序列が上の筈だ」

 

蛍はもう一度固有能力で距離をとると、これからの作戦の立案も兼ねて、時間稼ぎをする事とした。私が『蒼天皇』と戦えなかった事は作戦とは違ったが、『疾風』は『翼竜』が押さえ込んでいる筈だし、あそこにはリュミルが居る。あいつならば十分に『蒼天皇』とも戦えるだろう。

 

「別に私は地位などに興味はありません。私はただ、自分の力を試す為に天剣に入ったに過ぎませんので」

「ならば、我々の方へ付かないか。そうすれば貴様の言う力試しとやらを人類相手に存分にする事が出来るのだぞ?」

 

内心蛍はグレースを見下しながらそう言った。それは、今まで創生龍(ティアマト)に入った天剣と名乗る奴らは全員この言葉に靡いたのだから。

こいつも天剣(戦闘狂)ならば、『天将』や他の強い人類と戦える事を望んでいるに違いない。そう思っているのだ。

天剣は人類を守る為や、世界を救う為、などという反吐の出るような崇高な理由(偽善者)ではなく、ただ自分の私利私欲の為に動いている。だから、蛍は天剣というものが嫌いなのだ。勿論前者の崇高な理由(偽善者)も嫌いだが。

 

「いえ、それは無いですね。貴女達の様な反吐の出る様な組織に与するなど絶対にありません」

「ふん、ちっぽけな偽善や良心やプライドが邪魔して貴様の命が縮まるだけなのだがな」

「それともう一つ、貴女の様な頭の悪い戦闘員を指揮官にする組織になど未来は無いと忠告しておきます」

「何?」

「言葉で敵を惑わせ、仲間が敵を始末する為の時間稼ぎをするなど愚の骨頂。そんな事が分からない小娘を指揮官にする副総帥は頭がイカれていると言っているのです」

「貴様っ、白夜様を愚弄する気かっ!」

「愚弄?正当な評価という事すら分からないとは、本当に滑稽ですね」

「貴様っっ!!絶対に殺してやる、この世で最も残酷な方法で時間をかけながら死にたいと懇願するまで甚振り尽くしてやる」

「馬鹿ほど口が回る」

 

しかし対するグレースも内心ため息を吐いていた。先刻まで言った言葉は本心だ。一片の偽りもない。しかし、そんな分かりやすい言葉に激昂し、挑発に乗って来るとは、流石にため息も吐きたくなるというものだ。

 

「もういいです、貴女の言葉を聞いている時間が無駄だ。貴女が仕掛けて来ないと言うのならば、私から行きましょう。『雷剣』の実力、とくとご覧あれ」

 

そして初めてグレースは長剣を構える。

 

「〈空より出でし雷よ現れたまえ、我が身に宿りたまえ〉レイジング・ボルト」

 

バチッ、という音が鳴るとともにグレースの長剣に電気が這う。それは更に膨張し、長剣を包み込む。

 

「確か貴女は第五世代でしたね?そして、春に私の娘を甚振ってくれた。子供の喧嘩に親がでる様でみっともないですが、神は私にチャンスをくれた、この機を逃す訳にはいきません」

 

そして電気は更に膨張し、グレースの体をも包み込んだ。

 

「さあ、我が雷の剣、受けてみるがいい」

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「お久しぶりですね、『疾風』セルディ・ルナセリア殿」

「貴方の顔なんて見たくもなかったですがね」

「まあまあ、そう言わずに。久しぶりの再会を楽しもうではありませんか」

「貴方と話すことなど何もありません。さっさと始めましょう」

「つれないですねぇ」

 

セルディと劉は一対一で対峙する。

 

「〈疾風よ、天を纏い、地を撫で、大いなる旋風となれ〉イノーマス・ハリケーン」

「〈古の世界を統べし竜よ、我が心と共にあらん事を〉ドラゴリア」

 

セルディの体を風が包み込み、風が発生し瞬く間に乱気流となる。

それに対し、劉のフリーダムナイツ、ワイバーンの背中からは宝力で出来た翼が生える。鋼夜の様に空中に浮く独立した日本刀の翼ではなく。ちゃんとフリーダムナイツから宝力が翼状に生えているのだ。

 

そして劉がその翼をはためかせると宝力がまるで抜け落ちたかのように硬質化しながらセルディめがけ飛翔する。

しかし、それをセルディは完璧に見切りながらナイフで一つ一つきちんと弾き飛ばす。

お返しとばかりに、セルディは風を切るように足を振り抜く。セルディのフリーダムナイツ、ストーム・テンペスターの固有能力、イノーマスハリケーンはストーム・テンペスターに触れた部分に爆発的な風を起こす能力である。それを利用して、セルディは真空波を引き起こしたのだ。

しかし、それを劉は自身の固有能力、ドラゴリアで宝力の羽を飛ばし、相殺する。

劉のフリーダムナイツ、ワイバーンの固有能力、ドラゴリアは宝力で出来た翼を自分の背中から生やす能力である。それは自由自在に分離可能で、さっきの様に羽を硬質化させ、飛ばす事や、自分の身を守るように翼を広げ丸める事で自分の身を相手の攻撃から守る事、さらには本来の翼の用途である飛翔する事も可能になる能力である。

 

さらに劉のワイバーンの固有武装は爪と苦無(くない)である。いくら天剣に実力者が多いといえど一機のフリーダムナイツで2種類以上の固有武装を持つ天剣は『翼竜』しか居ない。

苦無とドラゴリアで中距離から遠距離攻撃、手に付けた4本の爪で近接攻撃という隙の無い布陣で戦える。それが元天剣十三将序列六位『翼竜』劉翔萎である。

 

対するセルディにはこれといって強力な中距離以上の攻撃を仕掛けられる術は無い。しかも固有武装も、超近距離型の武装である爪よりも更に近距離型のナイフである。一応ナイフであるので投げる事は出来るのだが、あまり殺傷能力は無いし、それに手元からナイフが離れるのはかなり辛い。

 

よってセルディは真空波を適度に起こし、目くらましと牽制をしながら接近戦に持ち込むしか無いのだ。しかしそれは相手の『翼竜』も当然知ることである。当然『翼竜』はそれを阻止するために全力を尽くすだろう。中距離からの攻撃でじわじわと体力を削る戦法を取るに決まっている。

近距離同士の戦闘ならばセルディに軍配があがる。しかし今は中距離の攻撃を持つ『翼竜』の方が有利と言えた。

 

(さて、皆様の前で啖呵を切って一人連れ出した以上何かしらの戦果を上げないと格好がつきませんね。あちらには『雷剣』様と鋼夜様がいらっしゃいますし大丈夫でしょう。ならば。私も久々に本気を出す事にしますか)

 

銀の髪を持つ美人メイドは静かに、しかし確かに微笑んだ。

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