「な、な……」
「ふぅ、存外呆気ないですね『翼竜』」
一方その頃、『疾風』と『翼竜』の戦いは決着が付いた所だった。
「やはり、貴様、裏切り者なのか……」
「ええ、今はセルディ・ルナセリア。ただのコバルト・シリウスの副隊長です」
「何故、『天将』はこんな存在を許す……」
「ひとえに鋼夜様とルナセリア家の方々のお陰です。あの人達が居なかったら私はのたれ死ぬか、実験材料にでもされていたでしょうね」
「『蒼天皇』も知っているのか」
「ええ、あの人はそれを知って尚私の命を救ってくださった。ティナお嬢様はこんな私を見限ること無くずっと一緒にいてくださった。私の命はそのお二人の為だけにある」
もし、鋼夜が死ねと言えば死ぬ。
もし、ティナが身代わりになれと言えばなる。
もし、鋼夜が死にそうになったなら私が身を呈して庇う。
もし、ティナが死んだのならば私も共に死のう。
セルディ・ルナセリアの忠誠は海よりも深く、山よりも高い。
セルディ・ルナセリアの覚悟は鋼よりも硬く、何よりも強い。
セルディ・ルナセリアの死ぬときは朧火鋼夜とティナ・ルナセリアが死んだ時であり、もし二人が誰かに殺されたのならばその命が尽きるまでセルディは殺した相手とそれに組した者を殺戮し続けるのだ。
「貴様は自分の父に逆らえると言うのか、その手で殺せると言うのか」
「私はあの者を父とは思わない。あの日から父は狂い始めた。母を殺し、兄を強制的に戦わせ、私にもそれを強制しようとしたあの者を私は父とは認めない」
「セルディ・リル・リレーニア」
「その名は捨てた。私の名はセルディ・ルナセリア。我が忠誠を誓った私の命の恩人の家名だ」
そう言ってセルディはナイフを構える。
対する『翼竜』は既に満身創痍という言葉がぴったりな程に見るも無残な姿である。
皮膚はズタズタに切り裂かれ、フリーダムナイツはもう鎧としての体をなしていない。
二人の周りの木々は根元から切り裂かれ、なぎ倒されその戦闘の激しさを感じさせる。
「フェルリア・ヴォーネバイスと同類ということか」
「彼女は……彼女は私よりも強い。力がというわけでは無く、心が私とは比べ物にならない程に」
セルディがティナと鋼夜に支えられているのに対し、フェルリアは教員として皆を支える立場にある。
その境地にたどり着くまでにはどれほどの苦悩が有ったのだろうか、どれほどの悲しみを乗り越えてきたのであろうか。
互いに父。という存在に憎しみを抱いている二人である。
その気持ちは痛いほど分かるし、何度も恨み辛みをぶつけ合った。それでも互いに支えあい、励ましあい、今日まで生きていた。
それを可能にしたのは『嵐女帝』の存在だった。
彼女が私達を絶望の淵からここまで引き上げてくれた。
それに加え私には鋼夜様もティナお嬢様が、彼女は絶対に認めないだろうがフェルリアには『天将』殿と『爆炎砲』ことシアンがそれぞれ支えてくれた。
だから『嵐女帝』がイージスを裏切ったと聞いた時は何かの間違いだと思った。自分の事よりも私達、「ローゼンクローネ」のメンバーの事を第一に考えてくれていた彼女がイージスを、私達を裏切る訳が無い。そう思った。
だけど、彼女は裏切った。何故かはいまでも分からない。
だけど彼女の事だから絶対に何かがある。だから私は彼女を連れ戻そう。
あの日、絶望の淵から私に手を差し伸べてくれた様に。
今度は、私から彼女へ。
「だから、私は負けられない。鋼夜様を守る為に、ティナお嬢様を守る為に、隊長を連れ戻す為に」
「『嵐女帝』、アルシア・セラムか……もし、あいつがイージスを裏切ったのがお前の所為だとしたら?」
「なんだと?」
「『嵐女帝』がイージスを裏切ったのはお前と『業炎』の為だとしたら?と言ったんだ」
「それは、どういうーー」
その時、セルディの耳にも甲高い悲鳴が届いた。
そして、あの殺気も。
「これは……鋼夜様?」
セルディが一瞬『翼竜』から目を離したその隙を『翼竜』は見逃さなかった。
手に隠し持った苦無をセルディに投擲し、逃げ出す隙を作り、限界近いフリーダムナイツを酷使し、セルディから距離を取る。
「ふはははっ、お前と『業炎』の出生と『嵐女帝』の性格をよぉーく考えてみると良い。自ずと答えは出るだろうさ」
高笑いを残しながら、『翼竜』は海岸の方へと駆けて行った。
「くっ、取り逃がしましたか。追うか?いや、それよりもこれは間違いなく鋼夜様の殺気。それにその直前に聞こえた悲鳴も気になります。あれは、多分ポーラ様の悲鳴。何かあったと考える方が自然でしょうね」
そう考え、セルディは宝力節約の為にイノーマス・ストームを解除し、ホテルの方角へと走り出した。
すると暫くして、漆黒よりも黒き黒焔を視界に捉える。
(あれは?何ですか?あの焔からは宝力を感じます。ということは固有能力?しかしあの中にこんな能力を持つ者は居ましたか?)
ホテルに残してきた仲間の中にこんな黒い焔を使える能力を持つ者はいない。有るとしたら美月が第三世代能力に目覚めたという可能性だ。
(あれが、美月様の能力?いえ、やはり違いますね)
もし、美月が第三世代に進化したのだとしたらいきなりあんな凄まじい能力行使をしたら直ぐに宝力が切れてしまう。
すると、直ぐにその黒焔は収まった。
(やはり、美月様の能力?もしくは……)
ゼノギアの中に一人だけ居た明らかに別格の女の能力だろうか。可能性としてはそれもあり得る。
あの黒焔がどんな能力かは分からない。しかし感じる宝力としてはかなり危険な部類の能力だ。
フリーダムナイツの能力は大きく2つに分けられる。
一つは能力を発動したら解除するまでずっと発動し続ける
もう一つは一回使ったら直ぐに消えてしまう
前者の利点としては一度発動するだけで強制的に解除されない限りずっと発動できるという点。
後者の利点としては一回一回発動しないといけないものの、その能力が前者よりも高いという点。
前者の例を挙げれば鋼夜の剣翼や、ミーシャのスフィンタリア。
後者は、ティナのストラトス・ディーヴァや、フェルリアのインフェルノである。
(そして恐らくこの能力は
感じた宝力ではあの規模の能力行使は不可能だ。
そう、それは宝力とは別の
(あの能力は行使者の感情に左右されている?そんな能力が存在するのか?)
少なくとも今までは聞いたことが無い能力だ。
(もし、行使者の感情によって能力の効果が左右されるとしたら……)
それは凄まじいリスクを伴う事となる。
もし、行使者の精神が不安定なままその能力を発動したら最悪の場合暴走する事だって考えられるのだ。
暫く走り続けると、不意に視界が開ける。
(これは……周りの木々が先刻の黒焔に焼かれたのですか?)
セルディの周りには根元から焦げて、黒焦げになった木々が立ち並んでいた。それだけでも先刻の能力がどれだけ凄まじいか想像が付く。
そう、それはまるで神の怒りに触れたかの如く全てを灰燼と化していた。
そしてセルディは視界の先にホテルを捉える。
(着いた!良かった、皆様は無事ですね)
美月、ポーラ、グレース、そしてグレースに抱かれるようにしているミーシャ。取り敢えず全員生きている様だ。
「皆様!無事ですか!?」
「ああ、『疾風』殿」
「?どうしたのですか?グレース様」
「あれを……」
そしてセルディはみんなの視線の先に目を向ける。
するとそこにはーー
ーー左目に漆黒よりも黒き黒焔を灯し、それが全身を覆い尽くしている鋼夜の姿。
それを見てセルディは一瞬自らの目を疑った。
だって、その状態の鋼夜がたった一人で蛍とリュミルを圧倒しているのだから。