業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#84 引と斥

「お前は第七世代なんかじゃない。お前の能力は一つだ」

 

テミスの鎮魂歌を発動して、俺はリュミルを指差しながらそう言った。

 

「ふうん、本当に私の能力が分かったのか答え合わせしてあげる。言ってみなよ」

 

リュミルが一度手を止め、判断を仰ぐようにこちらを見据える。

それを見て俺は、自分の推測が外れている事を祈りながらそう言った。

 

「お前は、電磁気力を操るんだ」

 

俺は、相変わらず無表情のリュミルの顔を見つめながらその推測を話す。

 

「電磁気力。正確に言うと、分子と分子の間に発生する力そのものを操る能力。それがリュミル。お前の能力だ」

「凄い、良く分かったね。私の能力をこれだけの戦闘で暴いたのは貴方が初めて」

 

リュミルが初めて表情を変えながら言った。

どうやら正解の様である。俺の推測は当たっていたということだ。

 

「でも、この能力。制限が有るんだろう?」

「そこまで分かったの。本当に凄い、流石『蒼天皇』」

「お褒めにあずかり光栄だよ」

 

そう、リュミルのフリーダムナイツ、グラビレス・ローの固有能力、グラン・ドレンタの力は分子間力を操る能力である。

さらに簡単に言うと、全てのものを構成している分子を自由自在に引き寄せたり、引き離したりする事が出来る能力だ。磁力を金属以外にも使用可能にする、と言った方が分かりやすいであろうか。

 

「一つ目のティナのストラトス・ディーヴァを防いだ時は、地面にストラトス・ディーヴァとの引力を発生させた」

 

そのため、ティナのストラトス・ディーヴァの一撃は地面へと吸い寄せられるように着弾した。

 

「二つ目の爆発的な加速はリュミルと地面との間に斥力を発生させた」

 

よって、リュミルと地面との間が反発しあい、爆発的な加速を生んだ。

 

「三つ目の俺を吹き飛ばしたり、引き寄せたりした時は、俺とリュミルとの間に引力を発生させたんだ」

 

最後のリュミルの蹴りを食らった際に、鋼夜が離れられなかった理由はそのまま引力を発生させ続けたからである。

 

「更にお前の能力は一箇所にしか引力、または斥力を発生させる事は出来ない。それに、どちらか片方しか発生させる事が出来ない。そうだろう?」

「なんで、そう思うの?」

「そうじゃなければ、俺が引き寄せられた時に投げた刀を避ける必要が無い。斥力を発生させれば良いんだからな」

 

そうすれば勝手に鋼夜の投げた刀は斥力に従ってリュミルを避けるはずだ。

 

「本当に凄いね、貴方探偵にでもなれば?」

「お生憎様、俺は戦う事(これ)以外取り柄が無いもんでね」

「そう、残念。じゃあ、次から本気」

「ああ、じゃあこっちも全力で行かせて貰おう。〈時空をも切り裂く鋭利なる刃よ〉天羽々斬」

「それが、貴方の十聖剣。でも、私の能力を暴いたからって油断したら…だめだよ?」

 

俺の推測が正しければ、リュミルは攻撃と防御を両立させる事が出来ない。そして、引力と斥力という明確な力がそこに存在しているのならば、天羽々斬で切り裂く事が出来る。

これで、さっきの様に一方的な戦闘になる事は無い。

 

「じゃあ、いく。覆せ、グラン・ドレンタ」

 

リュミルはそこらに転がっている瓦礫を斥力で浮かせ、回し蹴りを放ちこちらへと飛ばす。

それを俺は剣翼で切り裂き、回避する。

 

リュミルの固有能力、グラン・ドレンタは適時発動型(アクティブ)

俺の剣翼は常時発動型(パッシブ)

威力ではリュミルの方が上、しかし手数では俺の方が上。

直接攻撃でない限り、対応する事が出来る。

と、不意に感じる引力。リュミルが引力を発生させ、俺を引き寄せたのだ。

 

「何度も、同じ手を、食うか!」

 

俺は引き寄せられながら、剣翼を操りリュミルの上空からから降らす。

リュミルはそれを防御する為に引力を解除し、自身の周りに斥力を発生させ……無かった。

リュミルの頭上から落とした剣翼がこちらへと向かって来たのだ。

 

「貴方とその刀の間に引力を発生させた」

「ちっ、面倒な能力だ」

 

俺は直ぐさま剣翼を解除し、向かってくる刀を宝力へと戻す。

と、不意に視界が大きく揺れた。そして後頭部に鈍い衝撃。物凄い勢いで飛んできた瓦礫が後頭部にぶつかったのだ。

 

「俺と一緒にさっき飛ばした瓦礫も引き寄せたのか」

「当たり、貴方なら二回目でも対応してくると思った。それはちゃんと当たった。だから、次」

 

リュミルが凄まじい勢いで、こちらへと向かってくる。斥力を発生させたのだ。

普通、刀剣で戦う場合には相手の足を見る。相手の足の運びを見て、踏み込みの動作を見極めるのだ。しかし、リュミルには踏み込む動作が無い。それもそうだ、必要が無いのだから。

だから、リュミルの足を無意識の内に見ていた俺は致命的に判断が遅れた。

咄嗟に回避しようとするも、腹を浅いが切り裂かれた。

 

「まだ」

 

リュミルが斥力で地面ごと自身を浮かせ、まるで大岩に乗っているかの様な図となる。

 

「まるでファンタジーの世界だな」

 

そして岩の内部で斥力を発生させ、鋭利な破片に分ける。

 

「これは、どう?」

 

それを、地面との引力を発生させ、高速で落下させる。

剣翼の無いこの状況では、防ぐ術は無い。更に腹部を切り裂かれているため、回避もままならず、俺は右手と左手で顔を覆う事しか出来ない。そして、そんな致命的な隙をリュミルが見逃す筈もない。

 

地面との引力で、自身の体を高速で落下させ、薙刀を上段に構える。

 

「これで、終わり」

 

薙刀が、振るわれる。直前、その刃は持ち手を残して根元から切り落とされた。

 

「残念、そんな簡単に死ねないんでね」

 

俺が直前で天羽々斬で根元から切り裂いたのだ。

更にその勢いで、裏拳をリュミルの腹部に放つが、左手で庇われてしまう。しかし、嫌な手応えがあった。骨が折れるようなボキッという音と共に。

 

「痛い、薬指が折られた」

「あんな危険を冒して、与えたダメージが薬指の単純骨折だけとは」

「でも、まだ戦える」

「だが、これで薙刀と左手は使えない」

「問題ない、まだ右手と両足がある」

 

これ見よがしと右手をプラプラさせる。

そして、不自然に地面が隆起して、壁の様にせりあがる。

そしてそこからまるで槍の様に鋭く尖った地面が俺を襲う。

 

「剣翼っ!」

 

俺は咄嗟に剣翼を広げ、身を守るように刃を重ねる。

断続的な衝撃音と共に、ミシッミシッ、という音が聞こえてくる。どうやら、刀に亀裂が入っている様だ。

111もの刀の壁がこの一瞬で破壊されようとしていることに戦慄を覚えるものの、今立ち止まったらこのまま串刺しだ。

俺は背後のブースターを起動して、上空へと逃げる。すると一秒もしないうちに剣翼の壁が破壊されているのが目に入った。

 

(剣翼をいとも簡単に突き破るか、修復に時間かかるしこれは、ちょっと厳しいか?)

 

剣翼を破壊された事で残る鋼夜の武装は右手に持った天羽々斬と左手に持った光華紫電のみである。

対するリュミルは薙刀こそ失ったものの、周りの全てのものを武器に出来る能力だ。

戦力差は圧倒的と言える。

 

「だったら、短期決戦しかないよな」

 

俺はそのまま上空から地面の壁を乗り越える形でリュミルへと接近、リュミルもそれは予想していなかったのか、明らかな動揺を見せた。

そしてそのまま天羽々斬を一振り、地面の壁を発生させるものの、なんの抵抗もなく切り裂く。が、リュミルはその隙に後方へと逃げた様だ。

 

だが、この世で速度の面で蒼火桜に勝てるものは無い。

目にリュミルを捉えた瞬間、ブースターを起動させ全速力で駆ける。

狙うは首。一撃で仕留める。

 

「天地開闢 天照」

 

自身の唯一にして最強の技を一時的とはいえ音速を超えて光速へと最も近づくその速度で放たれたその斬撃はリュミルの体を引き裂くことは無かった。

 

「覆せ、グラン・ドレンタ」

 

本来、この速度で動いている俺に斥力を発生を発生させようが、どう考えても斥力よりも慣性の方が強い。

だがら一見リュミルが斥力を発生させたのは無意味に思える。しかし、意味はある。だってリュミルの思惑は俺を止めることでは無く、自身の体を後方へと逃す事なのだから。

その瞬間、天地開闢の速度は全く同程度の速度としてリュミルを後方へと押しやる力に変化した。

だから、振るわれたその斬撃は当たらない。だって相手も同じ速度で動いているのだから。一生当たる訳がない。

 

天地開闢は一瞬だけ人類の到達できる最高点へと速度を昇華させる技だ。その反動は凄まじく、宝力が恐ろしい勢いで減る。だから、鋼夜が見せるとっておきなのだ。

そしてそのとっておきを外した反動は、倒せなかった時に致命的な隙となる。

 

振り向かなくとも分かっていた。

風を切る音が全てを物語っていた。おそらく先ほどの地面の壁から地面の槍がこちらに飛んできているのだろう。

しかしどうすることも出来ない。反動で宝力を一気に失い、暫く歩く事も出来ない。

そしてその地面の槍はーー

 

 

 

 

 

ーー六つの花弁型の大盾と、一人の少女に突き刺さった。

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