あまりそういう描写が好きでは無い方はご注意を。
黒い影にゼノギアが飲み込まれたかと思うと、突如轟音と共に後ろの地面がせり上がっているのが見えた。
そしてその地面の壁から先端が鋭く尖った岩のようなものが高速で飛翔しているのが目に入る。
そしてその延長上には鋼夜の姿。
「鋼夜っ!」
援護しなければ、そう思い私は鋼夜の方へと駆け出した。
だが、その岩の槍は鋼夜の剣翼によってガードされていた。その事に安堵するものの、剣翼が破られたのを見て再度焦燥に駆られる。しかし、鋼夜はそれを上空に避難する事で回避していた。
いま、私は鋼夜と鋼夜が戦っている相手を横から見ているような格好だ。だから、鋼夜が地面の壁を乗り越えて攻撃を仕掛けるのもよく見えている。
上空からの一撃、しかしそれはまたも地面から現れた壁によって阻まれていた。
鋼夜の戦っている相手の能力が何なのかは分からないが、鋼夜が苦戦するほどの相手だ。並大抵の使い手では無いらしい。
鋼夜の駆る蒼火桜は防御性能が著しく
そのため私が盾となろうとずっと決めていた。
それが騎士としての家系に生まれた私という人間としての義務であり、朧火鋼夜という一人類に惚れてしまった私という女の務めだと思っているから。
そして鋼夜が私の知る限り、唯一にして最強の技を放つ。
鋼夜が技というものに拘りがある事は聞いた。
なんでも滝沢秋水、鋼夜や私たちのチーム、「コバルト・シリウス」全員の師匠をなんだかんだ言って引き受けて入れた世界最強の武人の、更にそのまた師匠、それがあの有名なルディア・コールシス・アルクマだと言う。
『天帝』と呼ばれ、世界最強の軍人、一国を一人で滅ぼした女。流石に尾ひれが付きすぎだと思うが、そんな人の弟子だと言った。
そしてその人は技を作らない事で有名であった。
そんな人の弟子の弟子。そう思うと俄然やる気に満ちるのがわかった。
ルディアは誰にも真似できないからこその技であって。
誰かにその技が出来るのであればそれはもう既に技ではないと言っていた。
故にルディアの弟子たちは殆ど技というものはなく、しかしもしルディアの弟子たちが技というものを編み出したと言うのならば、それは凄まじいものだということも想像が付く。
その実、『シェムハザ』の防衛戦の時、初めて朧火鋼夜とイリーガル・ブルーの正体を知った時のあの戦いで鋼夜が見せた鋼夜の唯一の技は凄まじかった。
相手を空間ごと切り裂く斬撃。言葉で表すならばそれだけだ、しかし防御不可能で回避も不可能。しかも当たれば即死という不条理な技だ。
だから、私は目の前で何が起こっているのか直ぐにはわからなかった。
鋼夜の天地開闢が避けられた。私に分かったのはそれだけだ。だから、私は私が何故いきなり走り出したのか分からなかった。だけど私の体は私の意思とは関係なく動き始めていた。まるで細胞一つ一つが何かを失うことを恐れているかのように。
そしてその危惧は直ぐに確信に変わった。
天地開闢を放った後の鋼夜はあまりにも無防備だ。
更にその鋼夜の後ろにせり出していた地面の壁からまたも岩の槍の様なものが飛翔しようとしているのを私は見た。
「鋼夜っ!!危ないっ!」
そう叫ぶも鋼夜に聞こえている様子は無い。
もし聞こえていたとしても避けられないだろう。人間は宝力を一気に失うと体が全く動かせなくなる。今の鋼夜は恐らくその状態だ。
しかし何もせず指を咥えて待っているだけでは鋼夜があの槍に貫かれて死んでしまう。
それは、駄目だ。
「間、に、合えぇぇぇぇっ!!」
発射された槍は7本。一撃目を大盾で、二撃、三撃、四撃、五撃、六撃、あと一撃、だが大盾はどれも槍が半ばまで貫通しており、とてもでは無いが使用できる状態ではない。
もし無理に使用すれば大盾が耐えきれずに破壊され、結局鋼夜に被害が及ぶことになるかも知れない。
だから、私はその後の事は自分でも何をやっているのか分からなかった。
気がついたら私は鋼夜の後ろに鋼夜を守る様に両手を広げて立っていた。
気がついたら岩の槍が私を貫いていた。
〜〜〜〜〜〜〜
ポタッ、ポタッ、と血が流れている。
俺は一瞬、何が起こったのか分からなかった。
想像していた衝撃は遂に俺には届かなかった。代わりにミーシャが岩に貫かれていた。
「ミーシャ…?」
「こ、うや……怪我、無い?」
「ミーシャ……おい、何やってんだよ、血出てるじゃねえか。おい!」
「良かったぁ、無事かぁ」
ミーシャが貫かれている場所は腹部。
血がフリーダムナイツを使ってポタポタ垂れている。
俺がどれだけ拭おうとも血が止まらない。
ミーシャのナイトリオンが解除される、宝力を維持する意識が失われかけているのだ。
「鋼夜、泣くなよ……かっこいい顔が……台無しだぞ?」
「おい、ミーシャ!目を開けろ!意識を保て!!」
「大丈夫、私は死なないよ。それよりもあいつを倒せよ、『蒼天皇』だろ?」
「分かった、分かったから……死ぬなよ、ミーシャ」
「絶対に死なないさ、私はイリーガル・ブルーの……お嫁さんに……」
「おい!ミーシャ……ミーシャ……」
記憶が掘り起こされるのが分かった。
7年前のあの日、同じ事が起こった。
「『生きて』」
記憶の中の紗夜の姿と、今のミーシャの姿が重なって見えた。
その瞬間、俺の心の何かが、カチャリと音を立てて外れた。
「あぁ……あぁあ」
憎い。
「紗夜……」
憎い、憎い。
「ミーシャ……」
憎い、憎い、憎い!
「誰の所為だ」
目の前に立つあいつの所為だ。
「殺してやる」
あぁ、そうだ殺してやる。
「俺が…絶対に……」
あいつがいなければ。
「あいつがいなければ」
死なずに済んだんだ。
「紗夜も」
あいつがいなければ。
「ミーシャも」
傷付かずに済んだ。
「殺してやる」
憎しみを燃やせ。
「憎い、憎い、憎い!」
貴様の生きてきた意味はなんだ?
「復讐」
貴様が守りたかった約束はなんだ?
「誰も死なせないこと」
だが、しかし今此処であいつを殺せばその約束は守られんぞ?
「そんな事どうだっていい」
そうだ、復讐の方が大事だよな?
「その通りだ」
だったら、分かるよなぁ?
「あいつを殺す」
だったら、紡げよ。
その、力を。
感情が黒く塗りつぶされていく。
そして頭に言葉が浮かぶ。まるでずっと共に生きてきたかのようなその言葉が。俺に、呼べと言ってくる。
「〈地獄の業火よ、我が身を焼け、我が敵を焼き滅ぼせ〉
そう叫んだ瞬間。
俺の意識は途絶えた。
〜〜〜〜〜〜〜
「その結果が、鋼夜様のあの姿……」
それがセルディがティナから聞いた事の顛末だ。
幸いにしてミーシャは急所を外れていた為、大事には至らなかったらしい。グレースがそう言ってくれた。
しかし目の前でミーシャが刺されたショックで鋼夜はああなってしまったのだろうと言う。
「にしても、鋼夜様のあの力は、やはり固有能力?」
「それについてですが……」
どうやらグレースが何かを知っているようだ。
「『天将』殿から、聞いておりました。いざという時のための抑止力だと」
「抑止力?」
「ええ、お察しの通り『蒼天皇』殿のあの力は固有能力です」
「しかし、蒼火桜の第三世代能力は、あの剣翼では?」
そのほかに美月との双刃夜月があるが、あれは心音夫妻が誕生日プレゼントとして贈った翡翠のネックレスが蒼火桜と雪時雨に反映されたもので厳密に言えば蒼火桜の能力ではない。
「いえ、蒼火桜の第三世代能力は「蒼天崩獄」、剣翼は只の固有武装です」
「では、何で鋼夜様は自分の能力を把握しておられなかったのですか?」
「それは……『天将』殿があの能力は余りにも危険だと判断されたから。『蒼天皇』殿もそれに同意して、記憶に封印をかけたのです」
「秋水様が危険だと言わしめるほどの、固有能力……」
「あれは、人が辿り着いてはいけない領域です」
そういうグレースの顔は険しいものであった。
師匠の「心身武闘」とグレースの「レイジング・ボルト」、鋼夜の「蒼天崩獄」はよく似ているのですが、それは次回説明します。