行進曲ではなく劫進曲!
四章プロローグ 愚者と道化の劫進曲《マーチ》
破滅へと向かうこの世を救うのは誰か、人々は口々に言う。
勇者、覇王、英傑、そして、英雄。
数えればきりがない。しかしそれらはそれぞれ違う人間を指すだけではなく、意味すらも違う。
勇者とは名詞である。
限りない勇気を持ち、強大なる敵に立ち向かう者を人は勇者と呼ぶ。
覇王とは動詞である。
人間でありながら、全ての人々を統治し、民を平和へと導く者を人は覇王と呼ぶ。
英傑とは形容詞である。
強い力や卓越した技術を持ち、軍を率いて民を守る為に戦う行いが出来るものを人は英傑と呼ぶ。
しかし英雄とはそれらどれにも当てはまらない。
何故ならば、英雄とはそれら全てを行う事が出来なければならないからだ。
勇気を持つだけでは無く、その勇気を持って敵を打ち倒し、民を統治するだけでは無く、民を危険から守り通し、強い力や卓越した技術を持つだけではなく、それらを駆使し、決して諦めない強い心を持つ者。それが英雄だ。
即ち、英雄とは名詞であり、動詞であり、形容詞である。
英雄たる行いを行える者がどれ位この世にはいるのだろうか。
私は英雄になる事は出来ない。
しかしもし、この世に英雄と呼ばれるに相応しき者がいるとすれば、世の全ての生命はその者に希望を託すであろう。
この滅びゆく国の中より、未来に生まれるであろう英雄に告げる。
願わくは、どうか世界を破滅から守って頂ける様に。
ーー限りない希望を貴方に託そう。
ーーとある滅びた国の書記官の手帳より抜粋。
〜〜〜〜〜〜〜
「ただいま帰還いたしました。白夜様」
北アメリカ大陸東部。そこは
その中のとある都市に白夜は居を構えていた。
静かに部屋の中に入って来るのは二人の少女。
二人とも全身が傷だらけで、生々しい傷跡がとても痛々しい。
「よく帰ったね、蛍、リュミル」
迎える白夜は笑顔を崩さない。そんな傷で彼女らを心配するのが意味ないことだと知っているから。
「で、首尾はどうだい?」
「ちゃんと、蒼天皇に私の『嫉妬』の魔女の力、ハーデスの怨嗟は発動させた。一人オマケが付いちゃったけど」
「リュミル!貴女白夜様の前でそんな口調を!」
「いや、良いんだ蛍。お前もそんな肩筋張らなくてもいいんだよ」
「いえ、白夜に拾っていただいた身ゆえそんな事は……」
あくまでも白夜に対しての敬意を崩さない少女に白夜は肩をすくめる。
この蛍という少女は自分に対して敬意を払ってくれるという事は素直に喜ばしく思う。しかし、歳もあまり離れているわけでも無いため、そんな敬意を払われ続けるとおかしな感覚に陥るのだ。
「そういえば、他のメンバーと『翼竜』はどうした?」
「他のメンバーは……突如現れた黒い影に全員飲み込まれた様です」
「黒い影?詳しくその時の状況を話せるかい?」
その言葉を受け、リュミルと蛍は自分の考察も含め、その時の状況を出来るだけ細かく白夜に話した。
いきなり黒い影がゼノギアを飲み込んだ事。
何の予兆も無かった事。
そして飲み込まれた者の行方が全く分からないこと。
それを聞いた白夜は深く考える様な素振りを見せる。
「アウターの技術はもうここまで……早くしないと『クルティナの予言』を阻止するのは難しいな……」
「?どうしたのですか?白夜様。何か心当たりでも?」
「いや?何でも無いんだ。それで『翼竜』はどうした?」
「恐らく『疾風』に負けて逃走したと考えられます。その後の足取りは不明です」
「まあいいか、あんな奴。元々僕達の作戦も、目的も、最終的な目標も伝えて無かったんだ。別にジュライアの所へ行ったって何でも無い」
その表情は、ゼノギアに乗っていた白夜の直属部隊が行方不明と聞いた時には見せなかった、心の底からどうでもいいという表情だった。
「しかし、この黒い影のお陰で我々の戦力は大きく削がれました。長い年月をかけて、折角集めたのに」
「そうだな、
「なら、どうするの?」
「いるじゃないか、最近
「イージスの裏切り者を引き抜くのですね?」
「ああ、無能なジュライアの事だ。殆ど何の審査も無く、使い捨ての駒が増えたという程度の認識しかあるまい。ならば僕たちはその裏をかく」
「イージスのスパイがいる、と仰っていたのは白夜様では?」
「スパイがいるなら居るで良いんだ。むしろ居て欲しい位だね」
「何故でしょう?我々の仲間に引き入れる以上、我々の最終的な目標も伝えておかねばなりません。『クルティナの予言』の阻止などとイージスに、ひいては『天将』にバレるのは良くないのでは?」
「いいや、もう鋼夜には伝えてあるしね。むしろ『天将』がそれを聞いて、『クルティナの予言』の不自然さに気が付いてくれれば儲け物だ」
そう言って白夜は遠い日を回想するような、そんな表情を見せる。
「必ず、必ず、僕は『クルティナの予言』を阻止して見せる。その為ならば、僕は喜んで覇王になってやろう」
だが、次の瞬間にはリュミルも、蛍でさえも見たことのない白夜の憤怒の表情に驚きを隠せなかった。
「白夜……様?」
「ーーっ!いや、すまない。少し嫌いな相手を思い出してね」
「だけど、何で蒼天皇を取り逃がしちゃったの?此処に置いておけば良いじゃない。『クルティナの予言』の事を、世界の真実を伝えれば蒼天皇だって……」
「いや、ダメだ。まだその時じゃない。それに、ここは多分
「そっか……でも、計画通りに進んでるんだよね?」
「うん、大丈夫だ。まだこの世界の運命は僕の手の中にある。同志を失ったのは痛いけれど、まだ破綻する程じゃない」
「じゃあ、次は……」
「ああ、そうだな。出来れば、鋼夜達のチームの誰かに『強欲』の魔女の力を手に入れて欲しいものだね」
「でも、あいつらは甘ちゃんだから、『強欲』の魔女は殺さないと思うよ?」
「大丈夫だ。さっき通信が入って、ジュライアが『強欲』の魔女の住処を突き止めたと言っていた。だが、アウターにくれてやるらしいな」
白夜がまるで仇敵を見つめる様な顔をする。
「では、我々も動きますか?」
「いや、此処で待とう。僕達の『イヴンブルグ』は今は待機だ」
「仲間を増やすんだね?」
「ああ、
「あれ?そう言えば、アリスは何処へ行ったのですか?」
蛍が部屋を見回す。しかしその部屋の中には白夜と蛍、リュミルしか居ない。
「アリスには、ちょっと長い任務に出てもらった。元女優のアリスにしか出来ない任務だ」
「そうですか、やかましいのが一人居なくて、やけに静かだと思ったんです」
「ん、アリスはうるさいから」
「まあ、ちょっと長い任務だと帰って来る頃にはもう爆発寸前なのではないのですか?」
「そうかもしれないね。だけどそれがアリスの可愛い所だ」
蛍はアリスの顔を思い出しながら、苦笑をする。
「じゃあ、ゆっくり休んで来なよ。もう夜も遅いし」
「はい、ではお言葉に甘えさせて頂きます」
「うん、分かった」
そう言って白夜は二人の少女を部屋の外へと出す。
そして、ゆっくり椅子に腰掛けると、小さく言葉を漏らした。
「ジュライア……ディルマ……お前らは絶対に僕が……『クルティナの予言』は絶対に阻止して見せる……僕を何時までも傀儡にしておけると思うなよ、クルティナ・リファーティア」