「ともかく、ここでグズグズしていても仕方がないわ。一旦ミーディア学園に戻りましょう」
鋼夜とポーラを救う為の僅かな希望を見出した立役者、ティナがそうみんなに告げる。
「ええ、そうですね。しかしとにかく今は時間が惜しい。船で帰るのは下策でしょう」
「ならば、足の速いフリーダムナイツ二人がミーディアへと先に帰るべきだ。二人をおぶってな」
「足が速い…となると、やっぱりセルディよね?」
勿論今この状況で、一番速いのは鋼夜であるが、今の鋼夜は『嫉妬』を受けている身である。あまり無茶はさせたくない。もしかしたら、海上でまた激痛に襲われ、そのまま太平洋へダイブ。という事も考えられるのだ。
とすれば、次に足が速いのはセルディである。
「ええ、確かに私です。しかし、私が1人を背負うとしてもう一人は誰が背負うのでしょう?流石に私一人では宝力が持ちません」
次に足が速い者。となると言葉に詰まるのが現状だ。
セルディの次、と言われても殆ど団子状態で誰が行っても変わりない。
とすれば、遠距離飛行が特技な者となるのだが、それもあまり大差無いので困ってしまう。
そんな状況に、救いの手を差し伸べたのは、以外にもライラであった。
「そういえば、ブースターはこのホテルには無いの?あれがあるなら誰が行っても一緒だと思うんだけど」
その言葉に皆が一斉に、近くにいたホテルの支配人に顔を向ける。しかし、帰ってきたのは残念な報告であった。
「有るには有るのですが……先ほどの戦闘で全て破損してしまったようでございます」
その言葉に、一同が落胆……しなかった。ライラとオルトが目配せをして、支配人にブースターの有る場所へと連れて行って貰う。
そして、事も無げにこう言った。
「大丈夫。三十分頂戴。これ位直して見せるっ!」
「俺たちは整備士だぜ?戦闘じゃ何にも出来ないけど、こういうのは得意分野だ」
「本当!?」
「うん、本当だよっ!待ってて、出力二割増しにチューニングするからねっ!」
言葉とは裏腹に、ライラとオルトの手は、話している最中も迷いもなく動く。
幼い頃よりフリーダムナイツや、その装備の整備をずっと見て育った二人にとって、壊れたブースターの修理など、ドライバー一本と簡易溶接具さえあれば余裕であった。
そしてきっかり三十分後、ホテル前には全員分のブースターが新品同様の姿で置かれていた。
「では、お手数をおかけしました」
「いえいえ、貴方方のお陰で我々は助かったのです。こちらこそお礼申し上げます」
「そんな、我々がいなければそもそも此処が襲われる謂れも無かったのです。本当にすみません」
「気にしてなどおりませんよ。我々もイージスの端くれ。どうか『蒼天皇』様にも宜しくお伝えください」
見送ってくれたホテルの従業員達に手を振りながら、コバルト・シリウス一行はファニー・オレンジ島を後にするのだった。
ブースターで加速しながら一行は太平洋上を猛スピードで駆け抜ける。
セルディが鋼夜を、ティナがポーラを、グレースがミーシャをそれぞれ背負う格好だ。
エレナ、ライラ、オルトは行きに乗ってきた船で帰っている。唯一誰も背負っていない美月が一応警戒しながら、一路ミーディア学園への帰途へ着いた。
〜〜〜〜〜〜〜
「『嫉妬』の魔女の力か……面倒もんにやられたな」
ミーディア学園に着いて直ぐに、秋水の元へと向かう一行、背負われた鋼夜とポーラを一瞥するなり何があったのかを察した秋水は二人を保健室のベッドに寝かせ、そう言った。
「ミリア、やっぱ無理か?」
「うん……無理に私の力を……『怠惰』の力を発動させたら……二人の命が危ない……」
「でだ、確かに『強欲』の魔女の力を使えば二人の命を助けられるだろう。だがな、そうは言ってもその肝心の『強欲』の場所が分かんねえんじゃあ……」
「大丈夫です、師匠。『強欲』の場所は分かっています」
「何!?本当か!?」
「ええ、ルナセリア家本家から連絡がありました。場所はスウェーデンの首都ストックホルム」
「スウェーデンだと?何でそんな本部に近い所に居たのに分からなかったんだ?」
「自身でも気が付いていなかったようです。最近になって自覚し始めたとか」
「まだ、生きてるんだな?」
「はい。お父様直々の報告ですので、まず間違いないかと」
「なら、さっさと『強欲』の場所に行くべきだな。鋼夜とポーラも連れて行くべきだろう。コバルト・シリウス総員で行ってこい」
「待ってください」
それに待ったをかけたのは、セルディだ。
全員の視線がセルディに向くが、気にせずセルディは秋水に質問をぶつける。
「一つ。聞きたい事があります」
「なんだ?セルディ」
「鋼夜様の固有能力は何なんですか?」
その言葉に全員の動きが硬直する。
確かにそうである。あの不可解な固有能力、いきなり理性を失った鋼夜。それを師匠である秋水が知らないという訳はない。
「ちっ、この馬鹿餓鬼。使いやがったのか。原因はそこの嬢ちゃんか?」
秋水は治療を終え、眠っているミーシャに目を向ける。
「だあぁ、分かったよ、話す。ミリア、フェルリア呼んでこい。あいつもいた方が報告の手間が省けて丁度いい」
「……面倒くさい」
「後でなんか菓子買ってやるから」
「…………しょうがない」
そう言ってトテテテ走っていった。
何ともこの場の空気に不似合いな少女である。
暫くして、フェルリアに引き摺られながら、ミリアが戻って来た。
そして秋水がおずおずと、鋼夜について語り始める。
「まあ、その。隠しといてすまんかった。だがな、あいつの能力は本当に危険なんだ」
「それは良いのです。見ていて、分かりましたから」
そう、本当に見た者しか分からないが、蒼火桜の第三世代能力、蒼天崩獄は不自然なのである。
まるで、
「あいつの第三世代能力は蒼天崩獄。能力だけで見たら俺やグレースと同じような能力だ。だが、あいつの能力と俺たちとは全く違う隔たりがある」
そう言って、秋水はその能力についてみんなに話し始める。それを聞く皆の表情は険しい。
「んでもって、あいつがこれを忘れてた理由は俺が忘れさせたからだ。あいつが第三世代能力に目覚めた時、あいつはこの能力を使ってその時戦っていたグリモア全てを全滅させた。代償に都市一つ壊滅させたけどな」
それに危機感を感じた鋼夜と秋水が鋼夜同意の上鋼夜の蒼天崩獄に関する記憶を深層心理の奥底に封じ込めたのだ。
だが、しかし、
「状況を聞くにそこの嬢ちゃんが刺された場面を見て、思い出しちまったんだろうな」
「思い出す?何をです?」
「決まってんだろ、7年前の事をだよ」
7年前、その単語を聞いて美月が肩をビクッと震わせる。
鋼夜はコバルト・シリウスのメンバーには全員7年前の事を話しているため、全員理解したらしい。
7年前、その単語さえあれば、想像するのは難しくないからだ。すなわち、ミーシャが貫かれたことによって、鋼夜の妹である紗夜が殺された時の記憶を思い出し、深いトラウマと共に、深層心理の奥底に封じ込めていた筈の蒼天崩獄の記憶を掘り出したのだろう。
復讐を果たす為に、さらなる力を得る為に。
「では、また封じ込めるのですか?」
「いや、それはしない。今は言っちゃ悪いが世界の危機だ。その危機を救う為にも馬鹿餓鬼の力は封じ込めるわけにはいかん」
「しかし!」
「分かってくれ、ティナ」
「……そうだぜ。俺を信じろ」
なおも不満そうな顔をするティナ、鋼夜の姿を見ている者ならば当然だろう。あんな辛そうな鋼夜を見るのは忍びない。しかし、それを止めたのは、他でもない鋼夜だった。
「……あの力を……使いこなせれば……俺はもっと……強くなれる。そうすれば……もう誰も……失わずに……済むかもしれない。ですよね?……師匠」
「その通りだ……苦痛を強いるな……すまん鋼夜」
「……はっ、師匠が謝るとか……槍でも降るかな?」
「はっ、ぬかせ」
その言葉にティナは渋々ながらも言葉を収める。
そうである。他の相手ならばいざ知らず、その言葉を放ったのは鋼夜である。
鋼夜が信じろというならば、信じるしかあるまい。
「では、鋼夜の蒼天皇の剣翼とは?固有能力でなければ、あれは?」
「蒼火桜の武装だよ。後付武装だかな」
「後付武装?あれが……ただの武装?」
その言葉に一同は戦慄を覚える。それもそうだ、あれは固有能力だと言われてもなんの不思議もない程に強い。
それが、ただの武装だと言うのだ。
驚くしかない。
「馬鹿餓鬼の『蒼天皇の剣翼』の本当の名称は《フェンリル》世界唯一の武装だよ」
《フェンリル》とは蛍の《ラーヴァナ》と並び、扱う者を極端に選ぶ武装だ。いずれもイージスや
「まあ、俺から言えるのはそんな事だ。他に質問は?」
誰も声を上げない。
驚き過ぎて声が出ないのだ。
そうして夜は更けていく。
保健室に響き渡るのは二人の苦しそうな呻き声だけであった。
今更ですが、鋼夜のコバルト・シリウスはコバルトが蒼。
シリウスは天狼星という意味を掛け合わせております。
だから、蒼き天狼ですね。
鋼夜の剣翼の本当の名前が明らかになりましたが、つくづく鋼夜には狼に縁があるようです。