イージスの専用ヘリコプターに揺られること8時間。
コバルト・シリウスの面々は、スウェーデンの首都ストックホルムに到着していた。
「綺麗……」
誰とはなしにそう呟く。ストックホルムは北欧のベネチアとも呼ばれるようにまるで水の上に街が浮かんでいるような都市である。
北欧に位置することもあり、イージス本部との距離が近い為、それ程被害は見受けられない。
コバルト・シリウスの面々がずっといたファニーオレンジ島とは異なる趣に、メンバーは感嘆の意を漏らす……が。
「くちっ」
美月が思わずくしゃみをすると、すぐさま赤くなり俯いてしまう。
しかし、そんなものにかまっている余裕はない。
みんなが、それに耐えているのだから。
そう、南国のファニーオレンジのとは異なり、北欧のストックホルムは寒いのだ。既に8月下旬である為、体感気温で20度程だろうか。
「と、とにかく、イージスの支部の中に入りましょうか」
「うぅー、賛成ぇー」
ティナがそう提案すると、ライラがすぐさまそれに乗る。
コバルト・シリウスの面々はヘリコプターから降りると、屋上から着陸地点であるイージスストックホルム支部へと入るのだった。
「やあやあ、遠路はるばるようこそおいでいただきました。イージスストックホルム支部へようこそ。私はストックホルム支部支部長のストラスと申します」
出迎えてくれたのは、恰幅のいい白髪混じりの中年男性である。
舐め回すような視線を女性陣へと向けられ、思わず顔が引きつるのを堪えながらセルディが鋼夜の代わりに挨拶をする。
「どうも、コバルト・シリウス副隊長、セルディ・ルナセリアでございます。此方に『強欲』の魔女が居ると伺ったのですが」
「おお!貴女が噂に名高き『疾風』殿ですか、いやー、お噂はかねがね、噂に違わずいや、噂以上の美貌ですなぁ」
「ははっ……ありがとう…ございます……それで、『強欲』の……」
「北欧は寒いでしょう、此処でゆるりとして頂けたら幸いです。では、私は少し用事が有るので、失礼」
そう言って、ストラスが部屋から出て行く。
バタンという音と共にドアが閉まると、後には唖然としたコバルト・シリウスの面々が残された。
〜〜〜〜〜〜〜
「ったく、何なのよあいつ!あぁー!もう!ムカつくわね!」
コバルト・シリウスの面々は、そば付きを命じられていたメイドに外出する旨を伝え、外に出てきていた。
勿論鋼夜とポーラは留守番だ。一応心配なのでオルトとエレナを置いてきている。
「ストラス・アルファーデス、父をイージス幹部にもち、親の七光りでストックホルム支部の支部長になった典型的な無能ですね」
そういうセルディの言葉に毒が混じっているのを見るに、セルディのイライラも相当溜まっているらしい。
結局何の情報も得られなかったし、支部の中は何故かメイドばかりであった。これで、更に無能とか呆れて物も言えないレベルである。
「なんであんなのが支部長なのよ、阿保じゃないの!?馬鹿なの!?死ぬの!?」
「確かに、あんな奴の下で働かなくて良くて本当に良かった。今日ほどストックホルムで生まれなくて良かったと思う日は無い」
イージスのシステムとしては、天剣を除き世襲制である。
時代錯誤の様にも感じられるが、有名な家系の出であるとこの時代いつアウターの襲撃が有るか分からないので、幼い頃より優秀な訓練を受けることが出来るため、効率を見れば良いのだ。
しかし、どうしても特権階級になってしまうためこの様な身の程知らずの馬鹿が生まれることもある為、最近天剣の反乱に伴って、システムの見直しが検討されている。
「作戦指揮経験、ゼロ。部下の多くが女性で殆どを妾としているようですね。一応イージスの幹部を親に持っている為、法律上問題は無いものの、目に余る行動が多く、親がイージス幹部出なければ、今頃獄中であるそうです」
ストックホルムはイージス本部に近いこともあり、あまり襲撃を受けることが無い。そのため、民衆に安全という意識が根付いてしまい、こんなのが支部長でも一応成り立ってしまうのだ。
「うへえ、ライラあいつ嫌い」
「私もだ、人を見かけで判断する訳ではないが、性格も駄目となれば尚更だな」
えらい言われようである。
「どーせ親の金の力で圧力とかねじ伏せてるんでしょう?あんなのに構う必要ないわ、さっさと『強欲』の魔女の話だけ吐かせて行きましょうよ」
「そうですね、お嬢様。私もあの支部にずっと居るのは推奨しかねます」
セルディ、ティナ、ライラ、美月の四人は一通りストックホルムの街を散策している。
どうやら街中にはいないらしいので、ストックホルム郊外に住んでいると思われる。そのため、このご時世ただでさえ交通手段が乏しいのに毎回食料やら何やらを買いに行くのは面倒である。そのためめぼしい店を見つけに出ているのだ。
と言うのは建前で、あいつのいる空間から少しでも離れたかったというのが本音では有るのだが。
「にしても、無いわねえ。スーパーマーケットは」
ティナがそう呟く、確かにまだ10分程しか歩いていないが、スーパーマーケットどころか、人も余り見かけない。
だが、しかしそんな考えも30分歩く程には確信に変わっていた。
「ねえ、セルディ。おかしくない?」
「ええ、そうですねお嬢様。さっきから人を殆ど見かけません」
「しかも、人を見かけてもその顔は何だか魂が抜けてしまっている様な感じだしな」
「みんな、元気ないよ?なんでなんだろう?」
ティナ、セルディ、美月、ライラの順にそれぞれ疑問符を浮かべる。
四人が30分歩いて出会った人の数はおよそ50人程、この大きさの都市ならばもう少し会っても良いはずだ。しかも時間は昼を過ぎて最も活発になる時間。会った50人の内の半数以上がイージス関係者だと言えば、その異常さが分かる。
「おかしい、街に被害は無いがあまりにも人が居ない」
「あっ、あの人に聞いてみようよ。何か知ってるかも」
そう言うとライラが、目の前から歩いてきた女性に話しかける。
「すいません、この街人が少ないみたいなんですけどどうしたんですか?」
すると明らかにその女性はビクッとした様子で肩を震わせる。
「あ、貴女達、イージスの人?」
「はいっ!といってもストックホルム支部じゃあ無いですけど」
「えっ!?じゃあもしかして貴女達、ストックホルムを救いに来てくれたの!?」
「「「「救う?」」」」
女性の放った救うという言葉に一同は首をかしげる。
「ええ、取り敢えずこのストックホルムの状況を話すわ。家に来てくれる?」
そう言うと女性はさっきとは違い、希望を見つけたような顔で歩き始める。一同は首を傾げながらもその女性についていくことにしたのだった。
「挨拶が遅れたわね、私の名前はミオ・ベーティア。ミオって呼んで?」
ミオと名乗る女性はストックホルムの状況を話し始めた。
「この街にはね、悪魔が居るのよ」
「悪魔?」
「それって、あのストラスとかいう支部長の事?」
「ああ、あの豚の事じゃ無いわ」
「じゃあ、悪魔って?」
「そう、あれは三日前の事だったわ」
そう言うとミオは静かに話し始めた。
「三日前のお昼まではね、この街はもっと活気があったのよ。悪魔が現れる迄は」
「何が有ったんですか?」
「三日前の、そうねえ3時頃にいきなり地面から悪魔が現れたのよ。黒い影みたいなやつだったわね、それはいきなり現れてストックホルムの人々を次々に飲み込んでいったわ」
それを聞いて四人は驚愕する、それはファニーオレンジでコバルト・シリウスが遭遇した現象とあまりに酷似していたからだ。
「いきなり訳も分からず、隣の人が悪魔に飲み込まれていって、みんながみんな家族を失った」
「そんな!イージスはなにもしてくれなかったんですか?」
「最初は、悪魔に攻撃を仕掛けていたらしいけど効かないと分かった途端、あの豚は自分を守る為だけに支部に閉じこもったのよ」
「そんな!」
「勿論抗議したわ!でも、我々の出番ではありませんの一点張りで……それからストックホルムの人々はその悪魔に怯えながら家族を失った悲しみと過ごして居るのよ」