そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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第17話 ミクの想い、駿の想い 後編

「じゃあ、今日の授業はここまで。号令」

 

 ようやく金曜日の授業がすべて終わり、残るはホームルームだけとなった。

これが終われば後は家に帰ってゲームをするだけだ。……宿題? そんなものやるわけねぇだろ。

 家に帰ってから一体何をしようかと内心すごくウキウキしながら、これからの行動の計画を練っていく。と、そこにがくぽ先生が教室に入ってきた。

 

「さて、ホームルームを始めるでござるよ。皆の者、席に着くでござる」

 

 先生の指示で教室のそこかしこで喋ったり騒いでたりしている連中が一斉に席に戻る。

全員が着席したのを確認すると、先生はホームルームを始めた。最も、俺はホームルームなんてやりたくないし、早く帰りたかったから先生の話は聞き流しているのがいつものことだったが。

 

(あ~あ……早く終わらねぇかなぁ……)

 

 いつものようにぼんやりしながら窓の外を眺めていると

 

「天川。おぬしは後で拙者のところに来るように」

 

なんて不意を突く言葉が耳に入った。

 

「は?」

 

 突然の呼び出しに思わず素っ頓狂な声を出す。

 

「おぬしには少し頼みごとをしたいのでな。これが終わったら拙者のところに来てくれ」

 

(ふざけんなよ……)

 

流石に教師相手に思いっきり毒づくとまた厄介なことになるので心の中に留めておいたが、早く帰ることができなくなったせいで、かなりのストレスが溜まった。

     ・

     ・

「……で、頼みごとってなんすか?」

 

 すぐに帰れないことへの不満を隠せず、自分でもわかるくらい明らかに嫌そうな声で先生に用件を聞く。

 

「まぁまぁ、そんなに大したことを頼むわけではないからそんなに嫌そうな顔をしなくてもよいではないか」

 

なだめるように先生が言ってくるが、その態度が逆に気に食わず余計にストレスが溜まる。

 

「こっちは早く帰りたいんすよ。さっさと用件を言ってください」

 

「やれやれ……」

 

こっちの態度にしょうがないといった表情で先生は用件を話し始めた。

 

「頼みごとというのはな、ミク殿に宿題やらその他もろもろを届けて欲しいのでござるよ。おぬしはミク殿の家の隣に住んでおるからな」

 

 つまり俺はただの運び屋ってことだ。しかも目的地が自分の家の隣。思ったより時間のかかる頼みごとでなかったことに、すこしだけ気が晴れる。

 

「で、どれ持ってきゃいいんですか?」

 

用件がわかったところで、さっさと頼みごとを終わらせるべく先生に質問をする。

 

「話が早くて助かるでござるよ。えーと……これでござるな」

 

そういって先生が取り出してきたのは、クリアファイルに入れられたプリント類と何かの封筒だった。

 

「………」

 

「よろしく頼むでござるよ」

 

「……なんすかこれ? プリントはわかりますけどこの封筒は一体……」

 

 思わず疑問に思ったことを聞く。何故なら差出人が学校ではなく学校長個人だったからだ。

 

「大人の事情ってやつでござる。あまり気にしないでくれ」

 

「はぁ……」

 

 明らかにはぐらかされたが無理に追求したところで時間の無駄だと思ったので、さっさと頼まれごとを片付けようと帰り支度を始める。

 

 身支度を済ませ、教室を出ようとした時

 

「あ、そうだ。天川、一つ聞きたいことがあるのだが良いか?」

 

と先生に呼び止められた。

 

「なんすか?」

 

「天川は、ミク殿を友達と思っておるのか?」

 

予想もしなかった質問に俺は一瞬硬直してしまったが、すぐに我に返り

 

「別に、ただの隣人兼クラスメイトですよ。初音だってそう思ってるでしょ」

 

と返答する。それで納得すると思ったが、先生は

 

「本当にそう思っておるのか?」

 

まるで俺が嘘をついているのではないだろうか、とでも言いたそうな表情でさらに問いかけてきた。

 その質問にイラついてきた俺は

 

「なんでそんなことを嘘つかなきゃいけないんすか?」

 

と先生を睨み付けながら言った。

 

「いや、おぬしは本当はそうは思っていないのではないかと思ってな」

 

 一体この教師はどこまで俺を怒らせたいのだろうか? ここ最近のストレスの原因である『友達』という言葉をとうとう担任の口からも聞かされ、苛立ちを抑えられなくなる。

 苛立ちをあらわにして俺は

 

「根拠のない詭弁なんて聞きたくないんすけど。俺はもう帰りますよ」

 

と吐き捨て、教室から出ようとした。だが

 

「本当にそれで良いのか?」

 

先生のその一言が、俺の足を止めた。

 

「何……?」

 

「本当に、おぬしは友達なんて必要ないと思っておるのか? おぬしは……それで良いのか?」

 

「なんで先生がそれ知ってるんすか?」

 

 友達はいらない、その想いはミク達以外の誰にも言っていないはずだ。ならば何故目の前の教師がそのことを知っているのだろうか?

そんな俺の疑問は顔に出ていたようで、すぐにがくぽ先生から知っている理由が語られる。

 

「ミク殿から聞かせてもらった。おぬし達最近喧嘩……いや、おぬしが一方的にきつく言ってしまったようでござるな?」

 

 どうやらミクがこいつに情報をリークしたらしい。流石に教師に怒りを爆発させる訳にはいかないので、必死に感情を抑え込みながら出来るだけ平静を装って言い返そうとした。

 

「それがどうしたんですか? 朝言ったように喧嘩の一つや二つ……」

 

 だが、そんな俺の反論をがくぽ先生は途中で遮り

 

「ミク殿はあれは自分のせいだといってずっと悩んでおったぞ」

 

とさっきまでとは違う厳しい目つきでそう言った。

 

「だからなんだってんですか? あいつがどう思おうと俺の知ったこっちゃない」

 

 実際その通りだ。ミクがあのことでどう思おうと俺には関係ないし、そのことで俺が負い目を感じたからといって状況が変わるわけでもないだろう。むしろ余計面倒なことになるだけだろうし。

 そう思っていた俺に

 

「この愚か者が!!」

 

と普段怒ったことのない先生が珍しく怒鳴ってきた。

 

「おぬしにはミク殿の気持ちがわからぬのか!? 自分の都合さえ良ければ後はどうでも良いとでも言うのか?!」

 

「ああ、そうですよ。実際人間なんてその程度の存在でしょう? 自分が良ければなんだっていいんだ。それは俺だけじゃない、先生達大人だって例外じゃないと思いますけど?」

 

 これだから教師は嫌いだ。自分達の都合のいい時に限って教師面して自分達とって都合のいい説教をしてくるのだから。相手の気持ち? 自分の都合? そんなもの、天秤に掛けたらどちらに傾くかなんて分かり切っている。世の中綺麗事だけでやっていけるなら戦争など起きるものか。警察だって必要なくなる。綺麗事ばっか並べんなクソったれ。

そんな大人に対する苛立ちを感じながら言い返すと

 

「……確かに人は皆自分勝手な生き物だ。拙者も自分の都合の良いように物事が進むべきだと思う時がある」

 

と意外にも認めた。俺としてはてっきりもっと怒り狂ってわめくと思った分、少し驚きを隠せんな。だが、これで俺が説教されるのはお門違いになった。

 

「なら別に説教される筋合いはないですよね?」

 

 だから、そう言って再び帰ろうとすると

 

「まだ拙者の話は終わっておらんぞ」

 

と、ついに先生は俺の進路に立ちふさがった。

 

「そんなに帰りたければすぐに帰らせてやる。だがこれだけは言わせてもらうでござるよ」

 

「ならさっさと言ってください。俺はもう帰りたいんだ」

 

 先ほどまでの厳しさを帯びた目つきをほんの少しだけ緩め、先生は俺にとってかなり衝撃的なことを言った。

 

「ミク殿は、おぬしと友達でいたいと言っていたでござるよ」

 

「………!!!?」

 

驚愕して目を見開いた俺に向かって先生は

 

「今ならまだ間に合う。しっかりミク殿に謝って仲直りするでござる。……さあ、もう帰っても良いでござるよ。すまなかったな」

 

そういって職員室のほうへ向かって歩いていった。

 

(……ミクが……俺と友達でいたい……だと?)

 

 今まで感じたことがないくらいの衝撃を受け、しばらく俺はその場から動くことができなかった。

がくぽ先生の言葉に真実がどれほど混ざっているかなど、想像もつかない。だが、全部が全部嘘ってわけではないだろう。

そう思った根拠はない。ないが、心のどこかで直感的にそう感じた。……とにかく、一度家に向かおう。悩むことくらいならその後からでも遅くはない。

     ・  

     ・

     ・

     ・

     ・

「うぅ……」

 

 結局、朝になっても熱は下がらなかったから、今日は学校を休むことにした。

 

(結局、今週は駿君に謝れなかったな……)

 

 最近の一番の悩み事を解決できなかったことを考えて、私は溜息をつく。出来れば早めに解決してまた一緒に学校に行きたいっていうのが今の私の願いだった。

まだ、出会ったばかりなのにこれから先話すこともなくなっちゃなんて……私は嫌だ。

 それに、早く仲直りして、またみんなと一緒に遊びたいっていうのもあったからなおさら駿君に会いたかった。会ってちゃんと謝ろうと思っていたけど、こんな状態じゃそんなことも出来るわけがない。

 

「はぁ……」

 

今日何十回目かの溜息をつきながらふらつく足で、何とか薬を片付けてベットに戻ろうとしたとき

 

   ピンポーン……

    

とインターホンがなった。

 

「はぁい……?」

 

 ふらふらした足取りで玄関に向かい、恐る恐るドアを開けるとそこには駿君がいた。

 

「あ……」

 

予想外の展開に思考が止まる。一気に胸が早鐘を打ち始める。

 

「……今日配られたプリントとか届けに来た」

 

そういって駿君はかばんからプリントの入ったクリアファイルと封筒を取り出した。

 

「あ、ありが……とう……」

 

かろうじてそれだけ言ってファイルと封筒を受け取る。

 

「じゃあな」

 

 荷物を渡し終わるとそそくさと駿君は部屋に戻ろうとした。それに気づき、慌てて

 

「駿君待って!!」

 

と呼び止めながら後を追おうとしたけど、足がもつれてバランスを崩す。これから来るであろう衝撃に備えてギュッと目をつぶった。

 

「……!」

 

 けれど、そんな私を待っていたのは固い地面とぶつかる衝撃じゃなくて、誰かの優しい腕に抱きかかえられる感覚だった。

ゆっくりと目を開けると、駿君が私を支えてくれていた。でも、その顔は私の方には向けてくれていなくてどんな顔をしているかまでは分からない。

 

「…………」

 

「ぁ……ごめん……まだ……熱下がってなくて……」

 

 頭がずきずきと痛んだけど、我慢して謝った。

 

「でも、聞いて欲しいことがあったから……」

 

 そういって駿君のほうを見る。まだ駿君はこっちを見てくれない。それでも、これは伝えないと……

そう思って、口を開こうとした時

 

「……何か言いたいことがあるならさっさと風邪を治してからにしろ」

 

駿君はそういって部屋に戻ろうとした。

 

(だめ……! 今言わなかったらいつ言うの?)

 

転ぶのを覚悟で帰ろうとする駿君のシャツを掴む。

 

「だめっ! 今聞いて……!」

 

「……っ!?」

 

私の行動に驚きの表情を隠せない駿君を見ながら、私はずっと言いたかったことを言った。 

 

「この間は……ごめんなさい……もうあんなことはしないから……だから……」

 

 視界が霞み始める。頭がぼーっとし始める。それが涙と緊張とかから来る何かなのか、それとも意識を失う前触れなのかは分からない。

それでも、今一番私が伝えたいこと、お願いしたいことを駿君に向かって言った。

 

「私と、友達でいて……お願い……」

 

「!!!!!」

 

 そこまで言いきった私の意識は、それきり闇の中に落ちていった。

     ・

     ・

     ・

 再び目が覚めた時には私の部屋のベットの上だった。

 

「う……」

 

まだ少しぼんやりする頭で辺りを見回す。

 

「夢……だったのかな……」

 

 確かに駿君に『友達でいて』と言った記憶はあったけど、それが現実だったのかそれとも夢だったのかわからなかった。それくらい、さっきの出来事は現実味が無かったから……

 

「……水飲もう」

 

 夢かどうかはさておき、なんだかのどが渇いていた。とりあえず喉の渇きを潤したいからキッチンに向おう。考えるのはその後でも十分できるし。

そう考えて、寝室を出てキッチンに向かうと……

 

「……よお。起きたか」

 

駿君がお湯を沸かしていた。

 

「…………え? 駿君……何してるの?」

 

「お湯沸かしてんだけど?」

 

「いや、それは見れば分かるんだけど……なんで私の部屋にいるの?」

 

目の前の光景が全く理解できなくて、矢継ぎ早に質問を投げかける。すると駿君に

 

「さっきそこで『友達でいてくれ』っていって気絶したのはどこのどいつだ?」

 

ってあきれた顔をされた。

 

(………夢じゃ……なかった!)

 

 駿君が私の部屋にいる理由が分かったことより、自分の言ったことが現実であったことの喜びとこの後の駿君の言葉への不安がない交ぜになって、気がついたら涙がこぼれていた。

 

「お、おいっ……なんで泣いてんだよ!?」

 

「だ、だって……ひっく……」

 

 喋ろうにも涙があふれて言葉に詰まってしまう。自分でもどうしたらいいか分からない。そんな私を見た駿君は

 

「……とりあえずお湯沸かしたから。んでここにココア置いといたから後は自分で…」

 

とだけ言って帰ろうとした。そんな駿君に、私は一言だけ

 

「…やだ」

 

って言う。

 

「は?」

 

 私の言葉に驚く駿君。さっきからあからさまにこの場から逃げようとする駿君を絶対に逃がすまいと

 

「私、病人だもん。駿君がやって」

 

ってちょっとわがままを言って逃げ道を塞いだ。

 

「………」

 

 逃げ道がなくなった駿君は観念したような表情をしてココアを作ってくれた。

     ・

     ・

     ・

「ほら」

 

「ありがと」

 

ココアを受け取って一口飲む。

 

「やっぱり駿君の作ってくれるココア、おいしいね」

 

「………」

 

素直な感想を言ったけど、駿君は何も答えない。

 

「………」

 

「………」

 

沈黙が流れる。先に沈黙を破ったのは私だった。

 

「ねぇ、駿君」

 

「………」

 

「さっき言ったこと、覚えてる?」

 

「………」

 

駿君は答えない。私と目を合わそうともしてくれない。

 

「私は、駿君のこと友達だって思ってるから……」

 

 それでも、自分が思っていることを素直に伝えた瞬間、突然駿君が口を開いた。

 

「俺なんかと友達になってどうする?」

 

「え?」

 

 駿君の言葉の意味が分からず、思わず聞き返す。

 

「だから、俺なんかと友達になってどうすんだって聞いてんだよ!? ただ損するだけだぞ!? それはこの間分かっただろ!!」

 

怒っているのか、大声でそう怒鳴ってきた。けれど、その表情は怒っていると言うよりは……

 

「……先生の言ったとおりだね」

 

「何……?」

 

 私の言葉に驚いてこっちを見た駿君の目を見て私は言った。

 

「駿君、ほんとは友達ほしいんじゃないの?」

 

 そんな私の言葉に

 

「違う!! 友達なんて俺にいらないんだよ!!」

 

とやけになって反論してきたけど、それに怯まずに

 

「どうして友達がいらないって言うの?」

 

と聞き返す。これで、私の疑問は確信に変わった。

 

「…っ!!! そ、それはどうせ友達作ったところでみんな俺のとこからいなくなるんだ! そんなら最初から作らねぇほうがよっぽど楽じゃねぇかっ!!」

 

 やっぱり、思った通りだった。そして、先生の言ったとおりだった。

がくぽ先生は、駿君が私達に言っていた『友達なんていらない』と言う言葉は嘘で、本当は逆なのだろうと言っていた。ただ強がっているだけなのだと。

 けれど駿君はそのことに自分で気が付いていなかったのか、今までに見たことがないくらい取り乱していた。きっと、ずっと一人で寂しかったんだと思う。けれど、それを認めたくなくて……それなのに今私にそれを自覚させられた。だからこれほど取り乱しているんだと思う。

 それでも、やっぱり自分のプライドを保とうとしているのか駿君は取り乱した表情のまま

 

「とにかく、俺なんかと友達になってもお前にメリットはない」

 

って言ってきた。だけど、ここで引く訳にはいかないし何より……

 

「メリットとか、そんなのはどうだっていいよ。私はあなたと友達でいたい。それじゃダメなの?」

 

「!! だけど俺なんかと絡んでたら周りの連中から……」

 

 一体どこまで逃げる気なんだろう? この際だからがっちりと逃がさないようにつめておこうかな。

そう思った私は、何かを言いかけた駿君の言葉を遮った。

 

「周りの人がなに? 私は、そんなことを気にして友達を選ぶような人にしか駿君には見えないの?」

 

「…………………」

 

「私は、駿君と友達でいたい。だってあなたが本当は優しい人だって知ってるから。皆が嫌うあなたは仮面を被っているだけだってことを知ってるから」

 

「…………!!」

 

 よし、このまま押し切ってしまえ!

 

「そうでしょ? だって皆が嫌う駿君が本当の駿君だったら、どうしてこうして私の看病をしてくれたの? どうして私のわがままに付き合ってくれたの? その気になれば断ることだって簡単だったでしょ?」

 

「………………」

 

 駿君は何も言わない。ただただ黙って下を向いているだけだった。その姿は、まるで必死に泣くのをこらえている子供みたいな印象すら私に与えた。やっぱり、本当は友達が欲しかったんだ。けれど他の人との接し方が分からなくって、プライドもあって今までずっと一人だったんだと思う。

でも……

 

「……もう、無理しなくていいんじゃない? 『友達なんていらない』なんて言わないでもいいんじゃない? だってこれからは私があなたの友達になるんだから」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 しばしの沈黙。すると、駿君が突然静かに笑い始めた。

 

「くっくっくっくっくっく……」

 

 何か私がおかしいことを言ったかと、思わず問いかける。すると駿君は

 

「初めてだよ。ここまで必死に俺と友達になろうとする物好きは」

 

って笑いながら言った。その言葉にムッときて思わず言い返す。

 

「ちょっと! せっかく友達になろうって言ってるのに物好きって失礼じゃない!?」

 

 そんな私の言葉に

 

「物好きさ。なんせどっかの小説のワンシーンみたいな説教までしてくれるんだからな」

 

って駿君は笑って、けれど涙を流していた。もちろん、私に見えないように隠しているつもりみたいだけど。バレバレだよ?

 

「……まぁ、これからもよろしく」

 

そっぽを向きながら突然そう言った駿君に驚いたけれど、すぐに私は

 

「うん! これからもよろしくね!!」

 

って答える。よかった……これでまた一緒にこの人と居られる。また一緒に皆と遊べる。また一緒に笑える。そう考えたら、心の底から喜びが沸き上がってきた。

 そんな私に、涙を拭いた駿君がこっちを向いてとんでも無いことを言った。

 

「ところでミク。なんでお前、冷蔵庫の中にネギしか入ってねぇんだ? お粥も作ってやれねぇぞ、あれだと」

 

「………え? み、見たの?」

 

 突然の彼の言葉に、頭が真っ白になる。それからすぐに、恥ずかしさがこみ上げてきた。

 

「………し」

 

「し? どうしたミク?」

 

「駿君のばかぁぁぁぁ!!」

 

 誰にも見られないからいいかと、考えていたのが間違いだった。まさかネギしか入ってない冷蔵庫を見られるなんて……!! もう恥ずかしくて死にたい!! とりあえず、ここできっちり口止めしないと!!

 

「み、ミク!? 落ち着け! お前病み上がりだろ!?」

 

「関係なぁぁぁい!! ばかばかばかぁぁぁ!!」

 

「うわっ!? やめっ……!? ネギで殴りかかるな!! 危ないから!! ちょっ……ぎゃぁああああ!! 目がぁぁぁぁ!!」

 

 夏も間近に迫った夕方の歌田音アパートの一室に駿君のム○カみたいなセリフの絶叫が響き渡った。

 

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