「ほら駿君! 早く行こうよ!」
「そんなに引っ張るなよ、そんなに急がなくたってカラオケは逃げたりしないんだから……」
私に引っ張られるような形で歩きながら呆れた顔をする駿君を無視して、私は駿君の手を引っ張りながら道を歩く。
おととい、喧嘩していた駿君と仲直りも出来て、昨日には私も風邪がすっかり治ったからカラオケに遊びに行こうって玉砕覚悟で誘ってみた。そしたら以外にも駿君が
「ん~、まぁ別にいいけど」
ってOK出してくれた。だからこうして二人で一緒にカラオケに向かって歩いているんだけど、はやる気持ちを抑えられない私はずっと駿君を引っ張る形で歩き続けていた。
「ほらほら、せっかくの休日の時間がどんどん無くなっちゃうから早く行こうよ!」
せっかく仲直りできて心なしか前よりも駿君との距離が縮まったように感じているから、もっとたくさん駿君と遊んだり喋ったりしたい私としてはもっと早く行きたいんだけど、駿君のほうは相変わらずで
「大丈夫だって、別に今日が最後になるわけじゃないんだからもっとゆっくり行ってもいいだろ?」
なんて言って、ぜんぜん歩調を速めてくれなかった。確かにそうだけどさ……
「それに……」
「……?」
駿君が再び口を開く。一体今度はどんな皮肉やら嫌味やらが飛んでくるのかと思っていたけれど、実際に飛んできたのは……
「お前、まだ病み上がりだろ。あんまりはしゃぎすぎるとまたぶり返すぞ」
これまた意外なことに私のことを心配してくれているような言葉だった。
「…………」
突然のびっくり発言に私はしばらく何も言えず、ただ黙り込むことしか出来なかった。そんな私を見た駿君は大きなため息をつきながら
「……あのさ、せっかく人が心配してやったのにそんな風に意外そうな目で見るの止めてくんね? けっこー傷つくぞ……」
って言った。その言葉で我に帰った私は、何だか笑いをこらえることが出来なくってクスクスと笑う。
「……なんだよ? 何もおかしいところないだろ」
クスクスと笑う私を見て不機嫌そうな顔をした駿君に、けれど笑いながら私は
「おかしいんじゃないよ。嬉しいんだよ! そうやって私のことを心配してくれることがさ」
と答える。すると、駿君は気まずそうな顔をしてそっぽを向いた。なんかぶつぶつ言ってるけど、まぁそこは気にしない方向性で。
そんなやり取りをしているうちに、いつの間にかカラオケボックスの前に着いていた。駿君の手を引きながら中に入り、カウンターに向かう。
「いらっしゃいませ~! 何名さまですか?」
そんな機械的な店員さんの問いかけに
「あ、待ち合わせです。鏡音リンが予約してると思うんですけど……」
って答えると、後ろから駿君が素っ頓狂な声を上げたのが聞こえた。ま、でも今は無視しよう。
「少々お待ちくださいませ………鏡音様は15号室になります」
「は~い。ありがとうございま~す。さ、行こう駿くん?」
「お、おい! ちょっと待てよミク」
店員さんにお礼を言って、いざ皆がいる部屋に向かおうとした私を駿君が呼び止めた。
「どうしたの?」
「今日は俺らだけじゃなかったのか?」
「え? 知らなかったの?」
「いや、知らねぇし。聞いてねぇし。……なぁ、俺……」
まぁ、知らないよね。だって言ってないし。それはそれとして、ここで駿君に帰られちゃ困るから
「帰っちゃだめだからね? 帰ったらカラオケ代2倍請求するから」
って先手を打っておいた。私の言葉に、げんなりとした表情を隠せないでいる駿君の手をとってそのまま15号室に入る。
「お待たせー!!」
「あ! お姉ちゃん!! 待ってたよー!! ……駿兄もちゃんと連れてきたんだね」
リンちゃんの言葉にご機嫌斜めの駿君が吐き捨てるように
「悪かったな招かれざる客で」
って言った。きっとこの前のままだったらまたここで喧嘩が始まっていたんだろうけど、今日は違った。
「駿兄」
駿君の名前を呼びながらリンちゃんが席を立つ。
「なんだよ? なんか文句……」
「ごめんなさい!!」
「!!? あ…え……?」
突然リンちゃんに謝られて、駿君は完全に固まってたけどすぐに状況を理解したのか
「……お、俺のほうこっそ……わ、悪かったな」
ってそっぽを向きながらこっちも謝ってくれた。
それを聞いたリンちゃんが
「よかった。駿兄また逆ギレするかと思ったよ」
と余計な一言を言って内心すごく慌てたけれど
「……俺だってそこまでガキじゃないさ。まさかいきなり謝られるとは思ってなかったけどな」
ってそっぽを向いたまま言った。その顔は、明らかにほっとした表情をしていたけれどきっと本人は気づいてないんだろうな。
そんな駿君に、リンちゃんの隣に座っていたルカお姉ちゃんも駿君に向かって謝った。
「駿君、私もこの間はごめんなさい」
「ルカさんまで……なんか俺悪者みたいだな……」
ちょっとばつが悪そうにつぶやいたのを聞き逃さなかった私は
「悪者みたい、じゃなくて悪者だよ? 今回は駿君が一番悪いんだから」
なんて意地悪なことを言ってみる。すると
「……すんませんした……」
って以外にも素直に謝ったからちょっとびっくりした。それはほかの皆も一緒だったみたいで、皆びっくりしいた表情をしていたけれどすぐに笑顔に変わった。
「それじゃあ仲直りも出来たことだし、思いっきり飲むわよ~!!」
そんな和やかな雰囲気を思いっきりぶち壊す勢いで、メイコさんがビールのジョッキを掲げながら大声で叫ぶ。
「……姐さん、少しは空気を読んでよ……」
美味しそうにビールを一気飲みするメイコさんを見て、あきれた表情のルカお姉ちゃん。そんなルカお姉ちゃんにメイコさんは
「良いじゃないの。それにルカ、空気は読むんじゃなくて吸うものよ?」
なんて屁理屈を言いながら、ジョッキにビールを注ぎ足していた。……そんなに飲んで大丈夫なのかな?
「もう……」
ため息をついたルカお姉ちゃんの横で
「まぁ良いじゃないかルカ。このところメーちゃんもお酒我慢してたんだからさ」
ってカイトさんがアイスを食べながらなだめる様に言った。そんなカイトさんにルカお姉ちゃんは
「一日にビール瓶が一本ずつ無くなる状況のどこが我慢なのよ……」
こめかみの辺りを押さえながらそう言った。……お姉ちゃん、苦労してるんだなぁ。
それはさておき、こんなやり取りを見ていた駿君が
「ミク……? 俺達は、カラオケに歌いに来たんだよな?」
って聞いてきた。……いやぁ、この状況を見たらパーティーって分かるんじゃないかな? ということでその旨を伝える。
「ん~、まぁカラオケって言うよりは仲直りを兼ねたパーティーって意味合いのほうが強いかな」
「ジーザス……!!」
「? 何か言った?」
「ナンデモアリマセン」
「??? まぁいいや。せっかく仲直りも出来たんだし、今日は思いっきり遊ぼう?」
駿君が何を考えていたのかは良く分かんないけど、せっかく来たんだから楽しもうって言う私の言葉に
「そうだな」
どこか吹っ切れた表情で駿君は相槌を打ってくれた。
「それじゃあ駿兄からなんか歌ってよ!」
そう言って、レン君が駿君にマイクを差し出した。
「ちょっと待て。おかしくね? なんでそうなるんだ?」
「そうね、せっかくだから駿君からがいいと思うわ。……うん、ここのたこ焼き美味しいわ!」
「いやだから……」
「リンも駿兄が一番でいいと思う!」
「なぁ、俺の話……」
「私も駿君の歌うところ見てみたい!」
「いや、俺……」
「良いんじゃないかしら? ここは遅れて登場したヒーローからってね。……あら、ビールもうないわね」
「いや、別に意識して遅れてきたわけじゃ……」
「がんばれよ~皆期待してるからな! あっ!? アイスこぼれた!」
「俺に拒否権は!!?」
「「「「「「無い」」」」」」
「コレハヒドイ」
そんなこんなで嫌がる駿君に無理やりトップバッターを任せて、仲直りパーティーが始まった。