そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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大分遅れてしまいました。今回は、いつもよりちょっと文字数が多めです。多分。


第22話 テスト勉強と遭遇

「……だから、この問題はこの方法を使えば簡単に解けるので覚えておくように」

 

 ミク主催の仲直りパーティーから数日後。俺はいつものように面倒なだけの授業を受けながら憂鬱な日々を送っていた。正直、だるいことこの上ない。いくらグローバル化が進んでいるからと言って、何も英語を無理に勉強させる必要はないと思う。俺からすれば暗号文を延々と聞かされているような気分になってくるわけで。理解できないものを聞かされてもストレスがたまるだけなんだからやめてほしい。

 怠くて仕方がないもんだから前で問題の解説をしている教師の話を右から左に聞き流しながらぼんやりと窓の外を眺める。既に梅雨の時期に入ったここ最近は、綺麗な青空を拝むことも叶わず、しかし雨が降り続けるというわけでもない中途半端な天気が続いていた。……いや、意外と夜の間降っているようだが、俺の外出活動時間外だからカウントはしない。

 とは言え、流石にこれだけ中途半端な天気が続くと気が滅入りそうだ。いっそのこと晴れるかどしゃ降りになるかの二択でいい。まぁ、曇りの天気の過ごしやすさは認めるけどな。

 

 つまらない教師のつまらない授業の話などこれっぽちも聞く気はないので、梅雨明けはいつになるのだろうかなどと考えながら窓の外を眺めていると、誰かに右肩をつつかれた。

専ら、誰がつついたのかなんてわかりきっている。

 

「……ミクか。どうした?」

「ねぇ駿君。この問題の解き方、あとで教えてくれない?」

「質問する相手を間違ってるぞお前。俺に者を教わろうという思考は今すぐ捨てるんだな」

「えっ!? ちょっ……そんなのないよ駿君~」

 

 困ったような表情をするミクだが、なんで俺に質問しようとしたのか理解に苦しむ。さっきから俺はずっと窓の外を眺めて、教師の話などこれっぽっちも聞いていなんだから解るわけがないだろう。一瞬嫌がらせなのかと疑ったが、リアクションからしてそうでないことは明白だ。……演技でない、という保証はないからもしかしたらそうなのかもしれないが。

 そもそも、俺に聞くよりマジメちゃんの白川辺りにでも聞いた方が圧倒的に確実かつ的確なアドバイスをもらえるだろうになぜ俺に聞くのか全くわからん。最も、そんなことを彼女に正面から言ってしまえば再び面倒事に発展しかねないから言わないが。

 ミクはそこまで短気な性格でもなければ、争い事に向いているような性質でもないから特に問題ないだろうが、厄介なのは白川をはじめとしたミクの取り巻きだ。奴ら無駄に仲間意識みたいなものが高いから、下手にミクを傷つけるような言葉を言うと一斉に騒ぎ立てやがる。男三人で文殊の知恵と言い、女が三人で姦(かしま)しいとはよく言ったものだ。女は集まると不必要に騒ぎ立てる生き物だからな。

 

 とは言っても、俺だって好き好んで他人を傷つけたいわけじゃない。ただ、望んでやっているわけではないがどうも俺の言動は相手にとって不快なものが多いようだ。後々考えれば確かに不快に思われるような言動をしていたと自覚できるんだが、その場その時ではどうしてもそれが分からない。短気な性格だからか、言い争いの場面なんかじゃ売り言葉に買い言葉で喧嘩に発展することも少なくなかった。

 そんな俺だから、ガキの頃から友達は少なかった。出来たとしても、すぐにトラブルを起こして絶縁なんてことも珍しくなかった。というか、中学にまで上がったころにはそれが普通にすらなっていたのだ。

 

 だから、親父に多少無理を言って地元から離れたこの高校に進学することを決めた。勉学に関しては特に頑張ってたわけじゃないが、もともとそこまで偏差値の高い高校でもない。だから何とか合格することができ、その後はさっさと引っ越しの準備を済ませて卒業とほぼ同時に引っ越した。嬉しいことや楽しいことが全くなかった訳ではないが、少なくとも思い出すことも苦痛でしかない記憶の方が多い地元からは早く決別したかったからだ。

 ついでに言うとこの町に引っ越してからは、もう友達なんてできるはずがないと諦め、また同時に作るものかと固く決意をしていた。が、そんな俺の決意はあっさりと崩されることになってしまったが。

 

「人との繋がりは、どこに行ったとしても断ち切ることは出来ないってことか……」

「……? どうしたの駿君?」

「なんでもねぇよ」

「そう?」

「あぁ、なんでもない」

「こら! 天川君、初音さん! 授業中の私語は慎みなさい!!」

 

 やれやれ……面倒なことになった。またほかの男子にガンつけられそうだぜ、これは。

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 今日もいつも通りに帰りのホームルームを終わらせ、辺りは生徒たちの喧騒に包まれる。

 何の変化もないありふれた日常。来週末には生徒の過半数が嫌いであろう定期テストがあるが、それすら奴らにとってはありふれた日常の中のちょっとしたイベントにしか過ぎないのだろう。

 テストの点数を競い、勝者には何か奢るなんて賭け事をしている奴らも居れば、真面目に教科書とにらめっこしている奴らや連れだって他の場所へ勉強しに行く奴らなんてのもいた。どうせやったところで自己満足して終わるだけだってのに、ご苦労な奴らだ。

 

 俺はと言えばテストの結果なんて大して気にもしていないのでそのまま家に帰る支度をしていた。俺的にはゲームできる時間が増えるから嬉しいんだなこれが。

それに、今のところは授業にもついていけているし教師たちも授業の内容が理解できていれば赤点を取ることはまずないと言っていた。よって俺はその言葉と俺の記憶力をあてにすることにして、勉強はせずにゲームを家でやりまくる! あぁ、俺にとって至福の時間がもうすぐそこに……!

 

「ねぇ駿君。一緒にテスト勉強しよう!」

「だが、断る!」

「うん! わかった。じゃあ一緒にやろうね!」

 

 会話が成立していない。なぜ断ったのに誘いを受けたような流れになっているんだ。そして気が付いたらミクはもう俺の制服を握っている……!

 

「さぁ、早くいこう?」

「しかしだなぁ、俺には家で……」

「そうだね! 早くいかないと席なくなっちゃうもんね?」

 

 ……なんだろう。目の前のミクの笑顔が怖い。純粋な可愛い笑顔を見せてくれているような気がしないでもないけど、俺にはそれ以外の何かを感じる。

 俺の直感が告げている。逆らってはいけないと。これは逆らったら死んでしまうと言う気がしてならない。あぁ……俺の至福の時間が遠ざかっていく……!

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 昼休みに「放課後一緒にテスト勉強しよう」とミクちゃんに誘われたから、勿論OKしたのは良かった。けれど、どうして彼も一緒にいるんだろう? 気まずいし、なんか彼も不機嫌そうな顔をしていてちょっと癪に障る。

 

「随分ご機嫌斜めね? 天川君」

「アンタに言われたかないね」

「まぁまぁ。駿君も紅葉ちゃんもその辺にして勉強しよう?」

 

 ちょっと慌てた感じのミクちゃんが間に入ったからまた喧嘩するなんてことにはならなかったけど、正直私は納得がいかなかった。どうして彼とも一緒に勉強をしなければならないのだろう?

はっきりいって、彼がちゃんと授業を受けているようには到底見えないし、かと言って学習塾なんかに通っている訳でもないと思う。そんな不真面目な人と一緒にやっても効率や雰囲気も悪くなるだけだろう。

 結論、天川君は邪魔。……とは流石に正面切って言えないけれど、出来れば途中退場と化してくれると私的にはとても嬉しいし気分的にも楽になる。そんな私を嘲笑うかのような言葉を、ミクちゃんが直後に言ったけど。

 

「駿君、途中退場は禁止ね。途中で帰ったら今日の夜ポストに長ネギ突っ込むから」

「はぁっ!? おま……それなんて脅迫!?」

「五月蠅いわよ。ほかの人の迷惑じゃない」

 

 しまった……思わず突っ込んでしまった。しかもこれで天川君と最後まで一緒に勉強しなくなっちゃったじゃない! ミクちゃんめ……

 そう思っていたのは私だけではなかったみたいで天川君もミクちゃんを睨んでいたけれど、睨まれている当の本人はと言えばどこか楽しそうな、それでいて嬉しそうでもある表情で笑っていた。とっても可愛い、女の私でさえ見とれてしまうような笑顔で。

 当然、そんな笑顔を見せられてしまったら怒る気力も、文句を言う気力も失せてしまった。ちらりと見れば、天川君も同じだったみたいで渋々と席に着き勉強の準備をしていた。ミクちゃんも、それに倣って彼の隣に座って準備を始める。

 

「さて…と。じゃあ、始めよっか?」

「そうしよっか」

「………はぁ」

 

 ため息を吐くなら帰ってよ天川君。そしてポストに長ネギを突っ込まれてしまえ。

     ・

     ・

     ・

 帰りたい。いや本気で。ゲームがしたいとかもはやそんなことはどうでもいいレベルに帰りたい。でも帰れない。ミクが怖い。

 だってこの間ミクがらみで喧嘩したばかりの白川と一緒にいるだけでもかなり気まずくて居心地悪いのに、さっきから図書室内にいる男子たちの視線が背中にザクザクと突き刺さるからだ。

これじゃあ勉強に集中できねぇよ。人によっては俺たちの後を通ると舌打ちまでしてくるしさ。もうヤダこの修羅場。今だけは心の底からミクと白川の人気がウザったく感じる。こいつらのせいで俺は周りの男子から無駄に敵視されていると言っても過言ではないからな。

 ミクもその辺まで考えてから俺を誘えよ。苦行とか、もうそんなレベルじゃない。これはただの拷問だ。それに斜め前に座っている白川からも結構プレッシャーが放たれているんだぞ。こんな状況でどうやって勉強すればいいんだよ。

 と、まぁそんな状態が二時間近く続き、放送部員の流す最終下校時間を知らせる放送が聞こえたところで勉強会と言う名の拷問は幕を閉じた。もう二度とやりたくないと思った。心の底から。

 俺を誘ったミクはと言えば、何食わぬ顔で勉強道具を片付け

 

「さぁ、二人とも帰ろう?」

 

 と元気な声で言ってきた。……一体こいつの元気の源はどこにある? リンほどじゃあないと思うが、どうしてこう……いつもこんなに元気に振る舞えるのだろうか? 人体の神秘ってすごいと思う。

 白河は白河で終始ピリピリしていたしな。今も結構ヤバい。こいつ癇癪持ちだから、取扱い注意物だと思うんだ。この間みたいに怒鳴り散らされるとまた教師が絡んできそうだから気を付けないと。この状況でいらぬ誤解を招きたくはない。

 

「駿君? 何ボーっとしてるの? 早くしないと昇降口閉められちゃうよ!」

「ん……あぁ、今行く」

「全く……貴方もう少しシャキッとした方がいいんじゃない?」

 

 誰のせいでこんな状態になっていると思っているんだ、という文句を必死に呑み込んで二人の後を追う。ここで言い返すと確実にまた口論に発展するのは目に見えていた。というか白河はいい加減にその臨戦態勢を何とかしろ。俺の体力と気力がストレスでマッハになるから。

 そんなことを考えながら先を行く二人に追いつこうと歩く速度を上げた途端、ミクが急に止まった。当然、相対速度は増すことになるから俺も慌てて止まらないと追突することになってしまうから、前につんのめりそうになりながら思いっきり足に力を込めて止まる。いっそ、バックステップした方がよかったかもと一瞬後悔した。

 

「なんだよミク、いきなり止ま……」

「あ……く、黒田君……だっけ?」

「名前を覚えてくれて光栄です。でも、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」

 

 ……一体どういう展開なんだろうか? 見たところミクとは顔見知りみたいだが、珍しくミクにいつもの元気さが見られない。普通、こいつは知り合いに会えば笑顔を振りまく奴なのに。今は、背中越しでミクの顔が見えないけれどそんな表情をしていないことはわかった。だって、ミクの前に立っている白河がどこか心配そうな表情をしてミクを見ているから。

 

「まぁ、いいですよ。とりあえず、立ち話もなんですしジュースでも飲みながら座って話しませんか?」

「えっ……い、いや……私…は……」

「何、そんなに時間が取らせませんよ。さ、行きましょう」

「あっ……ま、待って……私は……!」

 

 ほとんど無理やりと言っても差支えないほどに勝手に話を進め、ミクを連れて行こうとする黒田とやらに白河がついに我慢できなくなったようで明らかに怒った表情でミクの手をしっかりと掴む。

そして、噛みつくように黒田に文句を言った。

 

「ちょっと! ミクちゃん、嫌そうにしてるじゃないの! 止めなさいよ!」

「……なんだい君は? 君たちに用はないんだ、とっとと帰るんだな」

「……っ! なんですって……」

 

 うわ、これはヤバい。ただでさえ爆発寸前の爆弾が、もう臨界点まで達してるぞこれ。ここで止めねば、俺までとばっちりを食らいかねない。

 

「なぁなぁ黒田さんよぉ、あんまり女を怒らせるようなことをするもんじゃあねぇぞ」

「下衆は黙ってるんだな。君のような下品な人間に用はない」

「言ってくれるねぇ……でも、こっちもこれからこの三人+@で飯の予定が入っててね、遅刻するわけにはいかないのさ」

「少しくらい遅れたって問題ないだろう?」

「そうもいかない。あいにくその+@が時間にうるさくてね。遅刻するとおへそを曲げちまうのさ」

 

 正直、バレバレな嘘だと思う。とは言え、咄嗟に思い付いたのがこれしかなかったからにはやるしかないだろう。ここで止めるとまた面倒になりそうだしな。

 

「……君のような出来損ないにしては良くできた嘘だ。褒めてあげるよ」

「信じる信じないはアンタの自由さ。だけど、俺たちとしては可及的速やかに下校し待ち合わせ場所に行きたい」

「僕がそれを信じるとでも?」

「同じことを二度は言わない。が、アンタのそのお話とやらは今日今この瞬間でなくともいいんじゃあないのか?」

「…………」

「決まりだな。それじゃあ俺たちはこの辺で。行くぞミク、委員長」

 

 黒田のわずかな隙を見逃すことなく、ミクの手を掴み白河の後ろに立たせて昇降口へと向かう。そんな俺に向けて黒田から再び言葉をかけられる。

 

「……君は、君は一体初音さんのなんだっていうんだい?」

「…………」

「答えろよ。それとも、このまま尻尾巻いて逃げだすつもりかい?」

「ひとつ教えてやる。これは逃亡じゃない、戦略的撤退っつーんだよ。あと俺たちはただのクラスメイト兼隣人だ。それ以上でも、それ以下でもない。今のところはな」

「まるでいつか初音さんと結ばれるみたいな言い草だな。君は馬鹿かい? そんなことは絶対にありえないよ」

「なんて言って数か月後にくっついていたりしてな?」

 

 はっきり言おう。こいつ嫌いだ。だから、はったりでも何でもいいからとりあえず言うだけ言って怒らせてやる。どこのボンボンだか知らねぇけど、礼儀作法を間違って覚えているみたいだしな。とは言え、かなりリスキーなことをしている自覚はある。だから、さっきから心臓はバクバク言ってるし、冷や汗も止まらない。そろそろ真面目に逃げ出さないと、ぼろを出しそうで怖い。

 

「まぁいいさ。精々今のうちに粋がっているといい」

「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。御機嫌よう、お坊ちゃま」

「……愚図が」

「聞こえんなぁ!」

 

 そう言った瞬間、女子二人の背中を押して駆け出す。もう限界だった。そんな俺の背中を追いかけるように黒田の口から汚い言葉が飛び出したが、それに対抗する気力はもう残ってなかった。

     ・

     ・

 黒田から無事逃げ切った俺たちは、締め切られる直前の昇降口から押し出されるように飛び出した。その瞬間、張りつめていた緊張が解け思わず膝に手をつく。心臓は未だ早鐘を打ち、呼吸を整えることも難しかった。

 

「はぁ……はぁ……や、ヤバかった……色々と今日は体に悪いことが重なりすぎた……」

「駿君……大丈夫?」

「随分な格好ね。さっきまであんなに堂々と嘘をついていた人とは思えないわ」

「やかましい……ハッタリかますのは得意じゃねぇんだよ」

「でもまぁ……助かったわ」

「? 悪いもんでも食ったか?」

「……前言撤回。明日も勉強会やるわよ。ちゃんと来なさいよね。それじゃ」

「あっ……紅葉ちゃん!」

「なんなんだあいつ……」

 

 言いたいことだけ言ってそそくさと帰ってしまった白河に唖然とする俺たちだったが、すぐ我に返って、黒田に追いつかれてはたまらないと急ぎ足で校門を出た。

 帰り道、ミクが黒田に対して取った態度が珍しかったと言うと

 

「私にだって嫌いな人は一人くらいいるよ」

 

と返された。それもそうだろう。あんな奴、誰だって好きにはなれないと思う。いたらそいつは間違いなく変人だ。

 その後は他愛ない会話を二、三交わして別れて自分の部屋に入り一通りのやるべきことを済ませた。

 ベットに寝っ転がって、俺の頭によぎったのは今日初めて会った黒田のこと。あの高慢ちきな態度、そして『黒田』という姓、ミクがアイツに取った態度。何か引っかかるんだが、それがなんだかさっぱりわからなかった。

 考えることが面倒くさくなった俺は、そのまま寝ることにした。いつか、わかる日が来るだろうと軽く考えながら。

 




 遅れてしまい申し訳ありません。馴れない一人暮らしや、初めての大学の講義に体力を持っていかれ、挙句の果てにはニコニコ動画に現を抜かすという体たらくのせいでなかなか投稿ができませんでした。

 まだしばらくごたごたしそうなので、更新ペースは遅いままですがこれからもよろしくお願いします。
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