そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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遅れて申し訳ありません。


第23話 他人からの評価

「始め!!」

 

 試験監督の先生の合図で周りの皆が一斉に回答用紙を表にして問題を解き始める。勿論、私も皆に遅れることなく素早く解答用紙を表にして問題を解き始めた。

 今日は二度目の定期テストの一日目。今やっている教科は英語で、前回のテスト終了直後に習ったところからテスト直前までに習った文法や単語とかが問題用紙に書かれていた。

 

(大丈夫……落ち着いてやればできるから……)

 

 緊張している自分に心の中で言い聞かせながら、問題を解く。英語は駿君や紅葉ちゃんと一緒に勉強してほとんど完璧にしたつもりだったけど、いざテストを受けてみると不安なことだらけだった。

 特に文法問題は解いてる途中で頭がこんがらがって訳が分からなくなっちゃったけれど、解答欄を全部埋めることだけは出来た。

 

「回答止め。筆記用具を置いて回答用紙を回収してください」

 

 試験監督の先生の合図と同時に張りつめていた空気が一気に緩む。そして、皆お互いにテストの出来を聞きあったり、人によっては次の時間のテスト勉強をし始。とりあえず、トイレに行くであろう駿君を捕まえて声をかけてみる。めたりしている人とかがいた

 

「ねぇ駿君。テストどうだった?」

「そんなものなかった」

「…………」

 

 会話終了。そういえば駿君、勉強がらみの話はいつもこんな感じのリアクションを返してくるってことすっかり忘れてた。今回はテストだからなおさらだと思う。そんな駿君に、まさかそれなりに上手くいったかもしれないなんて自慢話は出来ない。だってそんなことしたら確実に駿君は不機嫌になるから……

 返事を返すことのできない私なんかほっといて、駿君はトイレに行ってしまった。そんなあの人を見たクラスの人たちが、小さな声で彼を責める。

 

「なんなの、あの態度」

「ほんと、見ててイラつく。ミクちゃんが可哀想だよ」

「相変わらず調子のってんなアイツ。初音さんに話しかけられてあのリアクションとか、マジ有り得ねぇ」

「一回死んだ方がいいじゃないか?」

「同感だぜ」

 

 それは明らかに駿君を貶める言葉。そしてそれは、どうしてだか私の心に突き刺さった。私が責められているわけじゃない。むしろ私は被害者で、責められているのは駿君。それなのに、私の胸はナイフを突き立てられたかのように痛んだ。

 どうしてだろう? きっと皆にとって、駿君は責められるのにふさわしいことをしたんだろうからああやって悪口を言われているんだろうけど……でも、私にはそれが言いすぎなんじゃないかと叫びたくなった。

 

 でも、今はそれどころじゃない。次のテストまであまり時間が残っていないから、私は自分の席に戻って教科書を黙々と読み始めた。

     ・

     ・

     ☆

     ・

     ・

 定期テスト一日目が終わった。もう考えることも面倒くさく感じている俺は、自分の席に戻るとすぐに机に突っ伏す。ほかの連中は誰かとテストについてしゃべっていたり、既に明日のテストに向けて教科書を読んでいるような奴らもいたが、俺には関係ない。

 そして何より、眠い。マジで眠い。昨日も放課後ミクたちに付き合わされたから、寝る間も惜しんでゲームをやった結果寝不足気味になっていた。一先ずテストが終わり緊張の糸が切れた俺に強烈な眠気が襲ってくる。

 身体の要求に勝つことは不可能だと悟った俺は、そのまま目をつぶり夢の世界へと旅立つ。が、すぐにミクに肩をゆすられ起こされてしまった。

 

「駿君、一緒に帰ろう?」

「ん……もうちょっと寝かせろよ……」

「いやいや……もう帰りのホームルーム、終わったよ?」

「良し、帰るか」

「はぁ……」

 

 どうやら数分だけとはいえ爆睡していたようだ。ホームルームが終わったことも気づかなかったが、それはそれで嬉しい。何故なら、特に勉強会の招集がかかっていない今日ならばこのまま家に帰ってゲームが出来るかもしれないからだっ!

 そんなわけで、俺は鞄をもって素早く席を立ち昇降口に向かって歩き始める。ミクが慌てて俺を追いかけてくるが特に気にしない。下手に構うと、周囲の男子どもからいらぬ反感を買ってしまうからだ。とは言え、ミクを放置したらしたで反感を買ってるんだけどな。現実は理不尽なものである。

 いつも通り、本当にいつも通り周囲から殺意にも似たオーラをぶつけられながら昇降口に向かって歩いている時、突然隣を歩いていたミクが転びそうになった。

 

「きゃあ!?」

「うぉっ!? あぶねぇ!!」

 

 ほぼ反射的にミクの腕をつかんで転ばないように支える。その瞬間、近くにいる男子からの殺気が一層高まったような気がするが気にせずミクの腕を引っ張って起こす。本当に、おっちょこちょいな奴だと思う。もう少し周りに注意を払うべきじゃなかろうか?

 

「しょうがないじゃん! 何かふんじゃったんだから!」

「俺は何も言ってないぞ?」

「顔に書いてあったの! もっと周り見ろみたいなこと考えてたんでしょどうせ!」

「お前、読心術でも持ってんのか?」

「駿君が分かり易いだけ!」

 

 俺はそんなに思ったことがそのまま表情に出るような人間だったのか? そう考えるとちょっとショックな気がしないでもない。まぁ、だからと言ってそれを直すことなどできやしないのだからどうだっていいけれど。

 一先ずここから出るために周囲から放たれる殺気を右から左へ受け流しながら、ミクの手を引いて歩き出す。

 

「ほら、さっさと帰ろうぜ」

「えっ……う、うん……」

 

 さっきまでふくれっ面だったミクが突然大人しくなったことにやや疑問を覚えながらも、そのまま下駄箱へ向かおうとした時、明らかに俺達へ向けられた悪口が誰かの口から吐き出されたのが聞こえた。

 

「ねぇ、なんかあの二人ムカつかない?」

「分かる~特に女子の方……三組の初音さんだっけ? あんな顔しちゃって何アレ。ちょっと自分がかわいいからって調子のってんじゃないの?」

「ほんと、リア充ぶっちゃってさ。死ねばいいのに」

 

 それは決して大きな声ではなかったが、俺達に聞こえるような大きさで交わされていた会話。あの手の悪口は、中学時代に嫌と云うほど聞いてきた。今更、腹を立てるようなことでもないし、いちいち反応するほどの価値のあるものでもない。言いたければ勝手に言っていればいいと思うし、言うだけアイツらが惨めになるだけだから俺には関係のない話だ。

 しかし、ミクにとってはそうでもなかったようだ。こっちもこっちであからさまに傷ついた表情をして、半分泣き出しそうな雰囲気まで漂わせていた。ここで泣かれると、また厄介なことになりかねないので早いところ学校から出た方がいいだろうと判断した俺は、ミクの手を引いたまま足を止めることなく下駄箱に直行。靴を履きかえてすぐにミクの背中を押すように校門の外へと出た。

 

 アパートまでの帰り道、ミクはいつものように俺に話しかけることなくずっと黙りこくって俺の後ろを歩いていた。いつもはアパートにつくまでずっと話しかけられているから、黙られるととても静かな下校になることを今日、改めて実感した。今後の予定を頭の中で立てやすい、と言う点ではこれ以上もない状況だが、なんだか近くにミクがいるのにここまで静かだとなんだか調子が狂う。

 そんなことを考えながら歩いていると、不意にミクが話しかけてきた。

 

「ねぇ駿君……」

「ん~?」

「私って、嫌な人かな?」

「さぁな。……まださっきのこと気にしてるのか?」

「だって……」

「ああいう類の悪口は、受け流せ。この先、嫌と言うほど聞くことになるさ」

 

 正直、ミクは友達を作るのに最適な容姿と性格を持っていると思っているが、裏を返せば敵を作りやすいともいえる。人気者は、いつだって陰で嫌うものが出るものだ。それは、いつの時代、どんな場所に行ったとしても変わることはないだろう。自分に無いものを持っている人や、自分より優れている人が恨めしいほど輝いて見える思いは、きっと誰にだってあるはずだから。

 

「ねぇ、駿君」

「なんだ?」

「駿君は私が嫌な人だって思ったこと……ある?」

 

 ミクが、今にも消え入りそうな声で聞いてくる。どうしても、今すぐ結論が欲しいんだろうか? そんなに、自分が他人からどう思われているかを知りたいというのだろうか?

 俺には、ミクの気持ちがよくわからなかった。だから質問を質問で返す。

 

「それは、否定してほしいのか? それとも、そう言ってほしいのか?」

「えっ……そ、それは……」

「まぁ、人によってはお前は嫌な奴かもな。でも、お前が好きな連中だっているだろう。リンとか辺りが。それじゃ不満なのか?」

「あ……」

「一人でもお前を好いてるやつがいるんだ。それでいいだろ」

 

 言いながら、自分は一体今までどれだけの人と親しくしたか思い出してみる。そんなことをしたところで、片手で数えられるくらいの数しかいないことくらい元から分かっていたのだが。思えば、高校に入ってミクに出会うまで、静かな……いや、静かすぎる生活を過ごしてきた。

 学校に行っても誰とも話さず、家に帰ってもゲームばかり。俺より少し年上の幼馴染とは、中学に上がった時から連絡を取ったことすらなかった。話し相手は、たった一人。親父だった。

 いつも、大して面白くもないバカ丸出しな言動ばかりでイライラさせられることも多かったけど、俺が一人暮らしをするために仕事の時間を伸ばして必死に金を稼いでくれていたたった一人の家族。

 

(そういえば、こっちに来てから一度も連絡してなかったな……元気にしてっかな、親父)

 

 不意に、そんなことが頭をよぎる。あの親父だから特に問題はないと思うけれど、少し心配と言えば心配だった。高校受験に向けての勉強が本格的に始まった辺りから、親父も今まで以上に仕事をしていたようで、疲れ切った顔で帰ってくることも多かったのだ。俺がいなくなったことで、さらに仕事する時間を増やしているんじゃないだろうか。

 今度親父と話す機会があったら、無理はしないように釘を刺しておこう、なんて考えているとミクが心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいた。

 

「……なんだよ」

「いや……駿君、呼んでも反応無かったし……それに……」

「それに?」

「……ううん。何でもない」

「そうか」

 

 相変わらず、ミクの考えていることが分からない時がある。こいつが一体何を思っていたのか全く分からないし、どうしてそんなに心配そうな表情を俺に向けるのかも全然理解できなかった。何か、心配されるようなことをしていたのだろうか?

 結局、どうしてあんな顔をしていたのかを聞くことも出来ず、一緒に勉強をしようとも誘われることも無かったので俺達はいつも通り自分達の部屋の前で別れた。玄関を開けると、整理整頓をさぼっていた結果の物が散らかり放題な汚い部屋が出迎えてくれる。まぁ、しばらく誰かを呼ぶ予定もないわけだし、別に問題はないと思っているから整理整頓をするつもりはさらさらないのだが。

 そんな散らかった部屋の片隅に鞄を放り投げると、家電の留守番電話を知らせるランプが点滅していることに気が付いた。誰からかと思いながら、ボタンを押して留守電を再生する。

 

『もしも~し。俺だ駿。お前の大好きな父ちゃんだ。テスト勉強頑張ってるか? かわいい女の子は見つけたか? ま、それはともかくとして、近々仕事でそっちに行くからよろしくな。息子よ、たくましく生きろよ?』

 

 どうやらさっきまでの心配は杞憂だったようだ。こんなふざけた留守電を残せるくらい元気なら、心配する必要もないしむしろ心配するなんて馬鹿馬鹿しくてやってられない。俺のために頑張ってくれていることには感謝はするけど。

 今度、礼の一つでも言っておこうか、などと考えながら俺はテレビの前に座り込み、ゲームを起動した。

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     ☆

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 駿君と別れて自分の部屋に入ってからすぐに、一緒に勉強しようと誘うことを忘れていたことに気づいた。

 でも、今から一緒にやろうと誘ったところで駿君がOKしてくれるかどうかはかなり怪しいし、何より私の部屋はいろいろ散らかっていたり、流石の駿君にも見せられない物(選択で干した下着とか)をしまっていなかったりしたから一人で勉強することにした……んだけど、その前に散らかり放題の部屋を片付けることから始めた。

 その結果、気づいたころにはもう日も暮れていて、すごく貴重な時間を無駄にしてしまった。そのかわり、散らかり放題だった部屋はとっても綺麗になって、大きな達成感も得られたんだけどね。

 それからは、ご飯を食べたり、お風呂に入ったりとか色々とやっているうちに夜も遅くなってきちゃって勉強なんてほとんどできなかった。

 明日は、ただでさえ私が苦手な教科のテストがそろっているっていうのに、どうして掃除なんて始めちゃったんだろう。と、自分の行動を悔やみながらベットに潜り込む。その時、不意にこの間会った黒田君のことが頭をよぎったけれど、あの人のことはあんまり考えたくなかったからそのまま眠ることにした。

 




次回の投稿は、しばらく先になりそうです。
 感想等、何かありましたらよろしくお願いします。
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