そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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 ルビをつけ忘れがあったので編集しなおして再投稿しました。


第25話 恋心に気が付く時

 テストがオワッテから数週間。今日は、夏休み明けに行われる林間学校についての話し合いを行う時間があった。正直なところ、こんな話し合いなど参加する暇があるのなら家に帰ってゲームをやらせてほしいと思っている。

 エセ侍担任の説明が一通り終わって、今委員長の白河が司会を務めながら話し合いを進めているがよくもまぁあんな面倒な仕事を自分から引き受けるものだ。感心する。それにしても、何が悲しくて興味もないド田舎に行って大して仲良くもない連中と一つ屋根の下で寝なけりゃならんのだ。ゲームは持ち込み禁止(と言っても持ってくる馬鹿はいるだろうが)、就寝時間と起床時間はどちらも早い、自分の思うように動けないなど、俺にとっては劣悪な環境と言ってもいい所である。自分から劣悪な環境に喜んでいくほど、俺はまだソッチには目覚めてないし目覚めたくもない。

 

「天川君! 話聞いてるの!?」

「あ?」

 

 ぼんやりしている間に、いつの間にか白河に呼ばれていた。どうやら、何か意見を言う時間みたいだが……まぁ、話を聞いていないから何を言ったらいいかわからん。

 

「……何を話しゃいいんだ?」

「キャンプファイアーの時にやるクラスの出し物の意見よ! ちゃんと話し合いに参加して!」

「あぁ……テキトーに怖い話でもすればいいだろ」

 

 また何か茶番をやらなければならないらしいな。ご愁傷様だ。俺は参加するつもりはないし、どうせ他の連中も俺を除け者にするだろう。考えるだけ時間の無駄だ。

 それにしても、退屈だしなにより眠い。それもそうか。だって林間など俺にとってはどうでもいいものだから。ただでさえ林間自体がどうでもいいのに、その最中にやる茶番劇のことなどもっとどうでもいい。だから、俺は眠ることにした。

 

 

 ……それからどれくらい過ぎただろうか? 耳元で名前を呼ばれているような、けれど遠くから呼ばれているようなあやふやな感じがして重い瞼を開ける。するとそこには、かなりご機嫌斜めな顔をした白河が立っていた。どうやら、かなりの間眠っていたようだ。それにしても、まだ何か俺が発言しなきゃいけないような場面があるのだろうか?

 その答えは、白河の口から明らかになった。

 

「ねぇ、ちゃんと話し合いに参加してって、私言ったよね?」

「そうだったか?」

「……アンタ、今自分がどれだけみんなに迷惑かけてるか分かってる?」

「……まだ何か決めることあったのか?」

 

 正直、もう俺抜きでも十分話し合いを進められると思うのだが……何かそんなに俺の意見やらが必要な場面があったのか? と改めて思う。当然、俺には思いつかない。

 だが、俺の言葉を聞いた白河は何故か激昂し怒鳴ってきた。

 

「今は! 班決めの時間なの! アンタがどっかの班に入らないと話が進まないの!!」

「そんなもの、人数合わせで適当に足りないところに俺を入れとけばいいだけの話だろうが」

「それで決まらないから困ってるんでしょ!」

「ならくじ引きでもじゃんけんでもしてろよ。めんどくせーな」

 

 こうなることくらい予想済みだ。このクラスでまともな会話を交わしたのは白河とミクだけ。男子とはどうあっても合わなそうだったし、女子は基本論外だ。ミクがイレギュラーなだけであって、普通は目を合わせることすらない。

となれば、こういった班決めの時に俺があぶれることはもはや必然。だからこそ、勝手に他の連中が固まった後人数調整の時にどこかに捻じ込まれるか、どこかの班に(貧乏くじ)入れて(引いて)もらうことになるだろうと思っていた。

 しかし、この委員長は殊勝なことにこの俺にわざわざ意見を聞きに来たようだ。全く持って腹立たしいほどまでにマジメである。

 

「……ん? これはまた随分と修羅場な雰囲気でござるな」

「あ……先生」

 

 どうやら、真打登場らしい。さらに事が面倒になるなこれは。

 

「……またお主らか。して、今度は何があったのでござるか?」

「それが……」

 

 俺は下を向いているからエセ侍がどんな面をしているか分からんが、どうせ例のお優しい笑顔を見せながら白河に質問しているのだろう。目こそ二人の方には向けないが、話を変に捏造されてはこちらに不利(元から不利なことには違いないが)になる。だが、この委員長馬鹿馬鹿しいほどに正直にこれまでのことを話していた。将来馬鹿を見そうなタイプだな。

 

「……なるほど。それなら、くじかじゃんけんでどこの班に入れるか決めるしかあるまい。それでよいな天川?」

「最初からそうしてればこっちも助かるんすけどね」

「なっ……!? アンタねぇ!!」

「白河、落ち着きなさい」

 

 ざまぁ。本当に、こいつにはカルシウムが足りてないんじゃなかろうか? こんなにすぐに怒ってるようじゃあ、将来あっという間に禿げちまうだろうぜ。

 

「天川、お主ももう少し皆に協力しろ。お主一人のために時間を割いてやれるほど暇な時間はあまりないのだからな」

「チッ……」

 

 それなら放っておいてほしい。どうせ俺の意見なぞ誰も聞かないだろうし、聞くつもりもないだろうが。最も、俺自身聞いてもらいたいなんてこれっぽっちも思ってないしな。

 とにかく、俺を放っておけばそれで万事解決だと思う。にもかかわらず、突っかかってきて勝手にキレて……本当に身勝手な奴らだ。いっそ林間なんてサボっちまおうか。一人暮らしだから、仮病も使いたい放題だし。

 さて、これでアイツも懲りただろうし話し合いに参加する必要はなくなったな。夏休みの宿題でもやるか。学校があるうちにある程度終わらせておかないとヤバいだろうし。周りの連中? 知らんな。

     ・

     ・

     ☆

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     ・

 私にとってほとんど初めてともいえる旅行行事の林間学校。勿論、中学校や小学校の頃もあったけれど……あまりいい思い出は作れていないから思い出したくはない。だから、今日の話し合いの間ずっとワクワクが止まらなかった。

 けれど、そうじゃない人も中にはいたみたい。……特に駿君は話し合いに参加するつもりもなかったみたいで、紅葉ちゃんに怒られていた。一度目はすぐにちゃんと意見を言ったから紅葉ちゃんもそこまで頭に来なかったみたいだけど、班決めの時に気持ちよさそうな寝息を立てて眠っている駿君には我慢できなかったみたい。紅葉ちゃんが怒る前に駿君を起こそうとしたけど、もう遅かった。

 その後、がくぽ先生が来てそのいざこざは収まったんだけど、あれだけ皆楽しそうな雰囲気で話していたのにいつの間にか冷めた雰囲気に変わっちゃってた。……私がもう少し早く駿君を起こしてあげられたらこうはならなかったのかな……?

 

 

 結局、あの後駿君は一度も話し合いに参加しなかった……というより参加する気はこれっぽっちもなかったみたいで、堂々と宿題をやっていた。紅葉ちゃんは紅葉ちゃんで完全に駿君を無視して話を進めてたし……

 二人とも、私の大切な友達だから仲直りしてほしいんだけど……やっぱり無理なのかな。

 

「……駿君?」

「……なんだ?」

「あ、えっと……帰ろう?」

「……あぁ」

 

 やっぱり、駿君もイライラしているみたい。かなりピリピリした雰囲気だし、ぶっきらぼうな態度も取られた。それでも、一緒に帰ってくれるみたいだから特には何も言わない。出会ったばかりの駿君なら、こうはいかなかったかも。

 まぁでも、きっと二人ともいつか仲直りしてくれるかな、なんて考えながら二人で教室を出ようとした時、駿君ががくぽ先生に呼び止められた。

 

「天川、ちょっと話がある」

「……チッ。ミク、先に帰っててくれ。多分、時間がかかる」

「う、うん……」

 

 さっきより二割くらいピリピリした雰囲気を強く放ちながら先生の方に歩いていく駿君の背中を見送る私の肩が誰かに叩かれた。

 

「ミクちゃん、ちょっといい?」

「? あ、紅葉ちゃん。いいけど……」

 

 私の肩を叩いたのは紅葉ちゃんだった。なんだか、すごく難しい顔をしてる。

 

「そっか、良かった。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、付いて来て」

「え……うん」

 

 そう言ってどこかへと歩いていく紅葉ちゃんに付いて行くと、見覚えのある教室の前にたどり着いた。ここは、駿君と喧嘩したときに一人で泣いてた場所だ。まさか、こんな形で来るとは思わなかった。

 そういえば、ここがどういう教室なのか知らなかったななんて考えてふとプレートを見上げたけれどプレートの文字は掠れて読めなくなっていた。

 

「どうしたの? ミクちゃん」

「あ……ううん。何でもない。でも、ここって勝手に入っても……」

「大丈夫大丈夫。そんなに時間取らせるつもりないし、いけないことをしようって訳じゃないから」

 

 ちょっと不安だけど、紅葉ちゃんがそういうならきっと大丈夫なんだと思って私も後に続く。相変わらず色んなガラクタがそこかしこに積み上げられている上に、とても埃っぽい。窓はカーテンが閉め切られているし、そのカーテンの前にガラクタが積み上げられているから開けることもできない。

 そして何より、暗い。暗いのが苦手な私にとって、この部屋はいつまでも居たいと思えるような場所じゃなかった。そりゃ……一人になりたいときは絶好の場所だとは思うけど。

 

「ね、ねぇ……紅葉ちゃん、聞きたいことって何?」

「ん? えっとねぇ……」

 

 どうしてだろう、紅葉ちゃんは普通にしているはずなのに部屋の雰囲気と相まってなんだかいつもの紅葉ちゃんじゃないみたい。ちょっと、怖い。こんなところに連れてこられて、二人っきりになって聞きたいこと……だんだん、危ないことなんじゃないかなんて想像をし始めちゃった。

 でも、紅葉ちゃんの口から出てきた質問はとっても普通なものだった。

 

「どうして、ミクちゃんは天川君と仲良くしてるの?」

「えっ……? な、なんでって……それは勿論友達だから、だけど……」

 

 余りにも自分の想像からかけ離れた質問に、思わず素っ頓狂な声を上げちゃったけど直ぐに気を取り直して自分が思っていることを当たり前のように言う。けれど、紅葉ちゃんにとってはあんまり納得の行く答えじゃなかったみたい。

 

「どうして……? あんなに自分勝手な人と友達で、嫌じゃないの?」

「確かに、駿君は自分勝手な人かもしれない」

「でしょ?」

「でも、自分勝手な人だけど……ほんとはとても優しい人」

 

 ほんの一言二言、話すだけなら確かに駿君に対して良い印象を持つ人はほとんどいないと思う。私だって、最初は冷たい人だって思った。だけど、これまで一緒に過ごしてきてその印象を掻き消すには十分な程、あの人の優しさにも触れてきたのも事実。だからこその言葉だったけれど、やっぱり紅葉ちゃんは納得できないみたい。相変わらず難しい表情をしたまま私の方を見ていた。

 

「……やっぱり、私には彼が優しい人には思えないよミクちゃん。だってあの人は風邪で学校を休んだミクちゃんのことなんかまるで気にしてなかったよ?」

「あぁ、あの時はたまたま喧嘩しててさ……でも、あの後ちゃんと仲直りしたんだよ?」

 

 ちょっとだけ、あの時のことを思い出して笑う。そういえば、仲直りした後駿君のこと殴っちゃったんだよなぁ。ネギで。あれから、何日か駿君は私がネギを持つとすっごく怯えてたっけ。……そんなにしょっちゅう叩いたりしないからそんなに怯えなくてもいいのに、って思ったりもしたけど仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。

 そんな私を見て、紅葉ちゃんは忠告するような口調で私にとって聞きたくないことを言ってきた。

 

「……ミクちゃん、私友達として一応言っておくけれど……天川君と一緒にいるのは止めた方がいいと思う。クラスの皆もあの人のこと嫌ってるみたいだし、ほかのクラスの人だってそうみたい。そんな人と一緒にいたら、どんな言いがかりつけられて嫌な思いをするかわからないよ?」

「……っ!」

「ね、まだ間に合うと思うよ? 今からでも……」

「やめて……」

「ミクちゃん、貴女が優しいのは知ってるけど……これ以上天川君と一緒にいるのは……」

「やめてって言ってるでしょ!!」

 

 もう、限界だった。勿論、皆が駿君のことを嫌っているのは知ってる。いつもいつもあの人に向けられている視線はどれも彼を嫌悪するようなものばかりだったから。周りの人にそうさせるような振る舞いをしてきた駿君が悪いってことだって分かってる。だけどそれだけじゃない。皆の話によると、実感は沸かないけど私は学年の中でもそれなりに知られているらしくて、特に男の子たちには人気……って噂も聞いた。もしそれが本当なら、私と一緒にいるせいで駿君に向けられている視線が厳しいものになってしまっているかもしれないのだ。

 ただでさえ嫌われ者な駿君をさらに嫌われものにしているのが私のせいなら、責められるべきなのはあの人一人だけなのはおかしい。だというのに、皆駿君ばかりを責めて私は悲劇のお姫様扱い。自分にも責任があるかもしれないのに、大切な友達だけが責められて自分は全く責められない。私にも責任があるかもしれない、そうクラスでよく話している皆に言った時皆はそんなことは絶対にないって口を揃えて言った。悪いのは全部駿君で自業自得だとも。

 

 そんな風に、彼を非難するような言葉を聞くたびに私の心は痛んだ。貴方たちにあの人の何が分かるの、何にも知らないのに駿君を悪く言わないで。そう叫びたくなることだって少なくない。でも、そんなことを言ったところで皆はきっと信じてくれなかったと思う。むしろ、また私の株が上がるだけかもしれなかった。

 友達なのに助けてあげられないのが悔しくて、悪口を言われても我慢しているあの人を見ているのが辛くって、私の心の中にはいつからか澱のようなものが溜まっていった。でも、さっきの紅葉ちゃんの言葉で溜まっていたものがすべて破裂してしまった。

 

 気づいたときは大声で何かを色んなことを紅葉ちゃんにまくし立てていた。何を言っているのかは、自分でもよく分からない。けれど、溜りに溜まっていたものをただひたすら口に出して叫んでいたのは分かった。

 一通り言い終わった頃には、ぜいぜい言っちゃうくらい息が上がっていてしかも頬が濡れていたけれど、それ以上に私の意識は目の前でショックを受けた顔をしている紅葉ちゃんの方に向いていた。何故なら、紅葉ちゃんはどこかショックを受けたような表情をしていたから。その顔を見て、自分のしたことがどれだけ愚かなことであるかを悟るのに、たっぷり十数秒はかかった。

 

「あ……ごめん……つい、カッとなっちゃって……」

「ううん。私の方こそゴメンね? ミクちゃんのためと思っていったんだけど、よくよく考えたら私も馬鹿なことを言ったと思ってる。友達をあんな風に言われたら、誰だって怒るよね……」

「紅葉ちゃん……」

「さぁ、帰ろうミクちゃん。もしかしたら天川君に会えるかもしれないしさ」

 

 そう言って手を差し出してきた紅葉ちゃんの手を取りながら私も笑顔で返事をして一緒に教室を出ようとして、そこで気づいた。

 

「駿君に会えるかもしれないから?」

「そ。だってミクちゃん、天川君のこと好きなんでしょ?」

「え………」

 

 突然の言葉に思考が止まる。確かに、駿君に対しては友達以上の感情を持っているかもしれないけれど、好き……? それってつまり私は恋愛対象として駿君を見てるってこと……?

 

「ミクちゃん、戻っておいで」

「え、あ……うん」

「クスクス……やっぱり好きなんだね。顔、真っ赤だよ?」

「っ!!? あ、いや……これは……その……!」

 

 なんとか言い返そうと思うんだけど、なんて返したらいいかさっぱり思いつかない。けれど次第に混乱していく頭の片隅で、どこかパズルのピースがはまった様な感触がしたのが分かった。

 

(あぁ、私はあの人のことが……好き、なんだなぁ)

 

 からかう紅葉ちゃんに顔が火照っているのを感じながら大声を出す傍ら、そう確信した私がいた。

 




 次回投稿は来週末以降となります。
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