そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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どうも、ご無沙汰しております。おにぎり(鮭)です。実は結構前から8割近くは書き終わってたんですが、最後の2割がなかなか書けなかったのとモチベが続かなかったのもあってこれだけ間が空きました…
恐らく、今後も更新ペースはこのままだと思うので気長に待っていてください


第27話 友達

 朝。お世辞にも寝心地の良い日だとは言えないが、ベッドの上で寝ていると不意に体が揺さぶられた。 

 

「駿、起きろ。父さん仕事行くから」

「んぅ…? かってにいきやがれよ……」

「朝飯作ってくれ」

「今何時だ…? ……まだ6時じゃねぇか。自分で作れよ」

 

 俺の起床時間は7時だ。あと一時間は眠らなければならん。故に朝飯くらいは自分で作ってくれと親父に言い放って再び目を閉じる。

 

「それでもいいが、冷蔵庫の中身勝手に使うぞ?」

「食材分の金は出せよ~…」

「だが断る」

「……わぁったよ…作ってやるから……」

 

 勝手に冷蔵庫の中身を使われるのは別に構わないが、問題なのはその量だ。すっからかんになるまでいろいろ使われちゃあ堪ったもんじゃない。

なので、眠りたい欲望を今持ち得るすべての理性で抑えつけ台所に立つ。まぁ、朝飯なんてトーストと目玉焼きくらいしか作らんけどな。

 

「米は?」

「食いたきゃコンビニでおにぎりでも買うんだな」

「相変わらず不健康な奴だなぁ」

「ほっとけ」

 

 口の減らない親父だ。朝くらいもう少し静かにできないものか。こっちは睡眠時間を一時間も削って活動してるんだから眠くて仕方ないってのに。

 

「ほれで? お前今日も学校あるのか?」

「口に物含んだまま喋るなと俺に教えたのはどこのどいつだクソ親父」

 

 自分で教えたことだ。教えた本人がそれを守らなくてどうするんだよ。などと思いながら俺は半分目を閉じながらトーストを頬張る。親父が今どんな顔をしているかは見えない。見るつもりもない。

 だが、口の中のものを飲み込んだようで再び同じ質問を俺に投げかけてきた。

 

「あるに決まってんだろJK」

「お前…そんなに女子高生が……」

「俺のJKは『常識的に考えて』の略だ」

「……できれば今後は俺が理解できる言語を喋ってくれ」

「考えといてやる」

 

 俺の返答にこめかみを抑える親父。しかし、それなら俺からも言わせてほしい。うちに来るなら事前にちゃんとスケジュールを教えろと。それをしなかったおかげで昨日はいろいろ大変だったんだからこれくらいは大目に見てもらっても罰は当たらないだろ。

 

「まぁいいか。じゃあ、今日迎えに行くわ」

「あぁ。分かっ……はぁっ!?」

 

 俺に自分が理解できる言語を話せと言ったそばから理解不能なこと言ってきやがった。何故そんなことをする必要がある? もう俺だってガキじゃあないんだから……

 

「何をそんなに驚いてるんだ? お前が帰ってこないと俺は家に入れないんだ。」

「ならスペアキー渡せば迎えに来る必要ないよな?」

「まぁ貰っても行くけどな」

「ふざけんな!」

 

 有り得ん。スペアキーがあるならわざわざ俺を迎えに来る必要性など皆無だろう。また俺はこいつのせいで恥をかかねばならないとでもいうのか? それだけは御免だね。

 

「なぁ親父、なんで俺を迎えに来る必要があるんだ?」

「ん? いや、大家さんから聞いたんだよ。お前、初音さんといつも登下校一緒だって」

「……迎えに来たらその顔に金属バット叩き付けてやる」

「おい! 俺は親だぞ!」

「思春期真っ盛りの子供のプライベートの奥底まで土足で踏み込む親があるか!?」

「ここにいるな!」

 

 よし、処刑決定だな。あとで親父の携帯借りて仕事を休む旨を伝えといてやろう。

 

     

     ☆

 

     

 朝、申し訳程度にかけていた毛布を蹴っ飛ばしていたことに気づいてもぞもぞとしていると、隣の部屋から駿君の怒鳴り声と大きな物音がした。

お父さんが帰って来て嬉しいのは分かるけど、朝くらいは静かに過ごしてほしいと思う。そんなことを思いながら寝返りを打った時、ふとあることを思い出した。

 

「私……駿君のお父さんを見たことがある…?」

 

 昨日会った時は色々あってすっかり忘れていたけれど、そう言えば前に駿君のお父さんっぽい人を見かけたことがあるような気がする。やけににぎやかな場所だったから、多分お父さん達が主催のパーティだったとは思うんだけど……

 基本的に私がそういうパーティに出ることは無いんだけれど、出る時は決まってうちが主催のパーティだった。

 私の髪の毛の色は、お母さん譲りで青緑色をしてるからそういう場所に行くと必ず目立つ。同時に、お父さんの財閥もこの国の中では大きい方だからネームバリューも相まって余計に覚えられやすい。

 となると、もしかしたら私のことを覚えているのかもしれない。出来れば私の思い違いであってほしいけれど……

 別に、見られたことも覚えられたこと自体も大して問題じゃない。私が一番怖いと思っているのは、私がお嬢様だってことをみんなに知られること。だって、私がそういう身分の人だって知られたら絶対にみんなは私から距離をとってしまうだろうから……

 

 なんてことを考えていたらいつの間にか目が覚めてしまった。仕方がないからベッドから降りて台所に向かい、朝ご飯を作る。

 よくよく考えてみれば、こんなに早く起きたのは初めてかもしれない。今まで、なんだかんだ言っていつもギリギリの時間に起きて慌てて準備をしていたからなんだか新鮮な気分だった。

隣の部屋からはなにやらどったんばったん聞こえるけれど、無視。流石に朝から突っ込んであげる気力は無い。

 

 朝ご飯も食べ終わって、学校に行く準備が終わるころには静かになっていたし早起きできてちょっと気分が良くなった私は鼻歌を歌い始めた。

 

     

 学校へ行く準備も終わって、時間に余裕が出来た私は少しゆっくりした後いつもよりも早く部屋を出てアパートの前の待ち合わせの場所に向かった。

勿論、日陰で駿君を待つ。まだ朝だというのに、外はもう汗ばむほど暑かった。こんなに暑い中、いつも彼は私のことを待っていてくれているのかと思うと少しだけ心が痛んだ。改めて、あの人の優しさを肌で感じる。

 そんな事を考えていると駿君の部屋からドタバタ聞こえてきて、勢いよく玄関の扉が開け放たれた。そのすぐ後に、彼のお父さんが押し出されるように出てくる。駿君はイラついたような、でもどこか楽しそうな表情をしながら、お父さんを蹴飛ばしながら私の方に歩いて来た。

 

「わり。待たせたな……って、何笑ってんだ?」

「ううん、ただちょっと…楽しそうだなって」

「楽しそう?」

「うん。駿君がお父さんと一緒にいる時、なんだか楽しそうだなって」

 

 その言葉を聞いて、駿君はどこか恥ずかしいそうな顔をした。ちょっと、かわいい。

 

「…親離れできてねぇのかな……」

「出来てないな、全然」

「親父こそ、もう少し子離れしたらどうだ」

「いいだろ、離れなくても。たった一人の家族なんだ」

「まぁたこっ恥ずかしいことをよくそんな平気な面して言えるもんだ」

「お前はもう少し素直になるべきだな。初音さんにも迷惑かけてるだろ、そんなひん曲がった性格じゃ。なぁ初音さん」

 

 いきなり私に話を振られて、家族のことを考えていた私は大いに慌てた。どう答えるべきかこれっぽっちも頭に浮かばない。

そんな私に助け舟を出してくれたのは駿君だった。

 

「親父…アンタも十分ミクに迷惑かけてると思うぞ」

「お前に比べりゃマシだ」

「てめぇ…俺が反論できないと知って……」

「ほら二人とも、早くいかないと遅刻するぞ」

 

 そういわれて腕時計を見たら、いつもの出発時間を過ぎていた。いつもだって結構ギリギリなのに、これは不味いと思う。

駿君もそれに気づいたようで舌打ちをして最後に一言、彼のお父さんに向かって言い放った。

 

「いいか! 迎えになんて来たらぶっ殺してやるからな! 絶対来るんじゃねぇぞ!」

「分かったよ。そんなに振られちゃ行くしかねぇな」

「グッ…この野郎…!」

「し、駿君…早くいかないと……」

 

 慌てて私が止めると、駿君は彼のお父さんに向けて中指を突き立ててそのまま学校の方に向かって歩き始めた。私もその後に続く。

それから、学校につくまでは特に会話を交わすようなことは無かった。それでも、私からしたら十分なのだけれど。こうして一緒に登下校してくれるだけでも嬉しいから。

 

 学校でも、特に変わったことは無かった。私はクラスとの友達とおしゃべりをして、駿君は相変わらず一人で過ごしていたみたい。後、テストの結果が帰ってきた。でも、今回は色々と自信の無い教科があったから怖くて成績表は見てない。

 駿君も、もらってすぐに半分に折りたたんで鞄の中にしまっていた。見る必要が無いほどできていたのか、その逆なのか……。でも、駿君のことだからきっと『興味が無い』なんて理由だとは思う。

 

 そんなこんなで、ホームルームも終わった。皆がテストの話題で盛り上がっている中、私はいつも通り駿君のそばに行き一緒に帰ろうと誘う。するとどこか申し訳なさそうな顔をしてこんなことを言ってきた。

 

「朝聞いてたろうけど、親父が校門前で待機してる可能性があるぞ」

「? それがどうかしたの?」

「俺は男で、お前は女。今更だけど、並んで歩いて帰ってくるのを見たらそれを見た他人はどう思う?」

「えっと……そ、それは……」

 

 駿君の言わんとしていることは分かった。つまり、恋人同士のように思われてしまうということを遠まわしに警告しているんだと思う。

 

「特に俺の親父はあんな性格だ。俺たちが並んでアイツの前に行ったらどうなるか、想像するのは簡単だろ?」

 

 確かに簡単だけども、だからと言って一人で帰るのは寂しい。だから、私は咄嗟に

 

「大丈夫だよ。私達、そういう関係じゃないでしょ?」

 

って言っちゃった。言った後で、なんだか悲しくなったけど……。でも、これが事実であり現実。そんな関係になれたのなら、って思うけれど自分の想いを伝えるほどの勇気は今の私にはなかった。

 そんなことを考えている私をよそに駿君はそうか、と一言返事をすると席を立ち教室の外へ出た。どうやら、一緒に帰ってくれるらしい。なんだかんだ言って、嫌な顔一つしないでこうして一緒に帰ってくれるのはやっぱり彼が優しいからだと思う。

 なんてことを考えていると、左側からあまり聞きたくない声が聞こえてきた。見なくても分かる。黒田君のものだ。あまりのタイミングに、最早意図的なものを感じずにはいられない。

 

「おや、これは奇遇ですね。初音さんじゃあありませんか。これからご帰宅ですか?」

「黒田君……」

 

 何が奇遇なの、と言いたいところだったけどグッとこらえて彼の方を向く。駿君も、私が立ち止ったことに気づいて足を止めてくれた。

それに気づいた黒田君は馬鹿にするような口調で

 

「あぁ、君も一緒だったのか。害虫は害虫らしくゴミにでもたかっていればいいものを」

 

って言い放つ。その一言を聞いて、頭の中が真っ白になった。

 

 次の瞬間、辺りにパシィン! と言う音が辺りに響き渡る。それが、私が黒田君をひっぱたいた音であることに気づくのには数秒かかった。ようやくそれに気づいた時、私の口はまるで誰かに操られているかのように勝手に動いていた。

 

「駿君を! 私の大切な友達を馬鹿にしないで!! 貴方にあの人を馬鹿にする権利なんてない!」

 

 そこまで怒鳴って、はたと我に返った。辺りを見回せば皆こっちも見ていて、駿君も驚いた表情をしていた。

その途端、自分が何をしたのか気づいて急に居心地が悪くなる。周りからの視線が痛い。目の前にいる黒田君も、駿君とも顔を合わせられない。結局、今の私にできるのはその場から逃げだすことだった。駿君の私を呼ぶ声が聞こえたけれど、振り返ることも、立ち止まることも出来なかった。

 

 

     ☆

 

 

「お、おい! ミク!」

 

 全く持って予想外だった。アイツが来た時点で俺に何かしら突っかかって来ることは予想できていたが、まさか黒田とやらの言葉でミクが逆上するとは……普段から怒りとはほとんど無縁そうな言動をしていただけにこの状況はちっとも予想できなかった。

引っぱたかれた黒田はと言えば、余程ショックを受けたのか呆然とその場に立ち尽くしていた。ざまあみやがれ。

 兎に角、このままアイツを放っておくのもなんだかよくない気がするのでミクが消えた方向へと歩き出す。すると、後ろから明らかに後をついてくる足音が聞こえた。恐らく、黒田の奴だろう。

だが、相手をしてやる義務も気力もない。週明けから面倒事は御免だ。俺は面倒が嫌いだからな。けれども、どうやら相手をしなければならないらしい。何故なら、黒田が声をかけてきたからだ。

 

「一体、君は初音さんの何だっていうんだ?」

 

 少し震えた声だった。それは怒り故か、それとも泣くのを堪えている証か。まぁ、前者だろうが。兎に角、無視をしてもどうせ逃げられやしないのだろう。だから、一言だけ返した。

 

「その答えは、さっきミクが言った」

「友達…か。君のようなゴミが、どうしたら彼女にそこまで言わせるんだ? 強請っているのかい?」

「そんなことばかり言ってるから、アイツにひっぱたかれんだよ」

「君がゴミなのは事実じゃないのかい?」

 

 俺は答えない。何故なら、視界の中にミクの姿を捉えたからだ。もういっそ、からかわれてもいい。今は、早く抜け出して親父に下らないジョークの一つでも言って欲しい気分だった。

 

「ミク」

「っ!?」

 

 声をかけると同時に、ミクの手を掴んでそのまま昇降口へと向かおうとする。だが、黒田がそれを許してくれなかった。

 

「その手を離せ。初音さんが穢れる」

「そこをどいてくれ。俺達を待ってる奴がいる」

 

 どうやら意地でも逃がしてはくれないようだ。さて、どうしたもんか……

 

 

     ☆

 

 

 黒田君をひっぱたいてから、誰とも顔を合わせられなくて闇雲に校舎の中を駆け抜けたけど直ぐに息切れしちゃって立ち止まった。立ち止まった途端に、自分が何をしてしまったのかを改めて実感して落ち込む。

 これからどうしようと考えていると、後ろから名前を呼ばれたと同時にいきなり手を握られてそのまま引っ張られた。ふと顔を上げると、駿君だった。そして、私達の行く手を遮るように黒田君が立ちはだかる。

 

「その手を離せ。初音さんが穢れる」

「そこをどいてくれ。俺達を待ってる奴がいる」

「待たれているのは君だけだろう」

「ところがどっこいそうでもない」

 

 もう何でもいいから早くこの場から逃げ出したかった。でも、駿君は私の手をしっかり握って離してくれない。

 

「物分りの悪い人だ。誰が待っているのか知らないけど、君や君を待ってる人には到底釣り合うような人じゃないんだよ。初音さんは」

「何時からこの学校は身分制度が出来たんだ?」

「学校とかじゃあないさ。それ以前だよ。生まれが違うんだ、君たち負け犬とは」

 

 黒田君の言葉に、もう終わりだと思った。体から力が抜けていく……だって、これで私が皆とは違うってことが駿君にばれちゃったから。きっと、これでまた私は独りぼっちになるんだろうな……

 そんな絶望する私の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。

 

「成程、ミクが財閥関係者ってのは本当だったのか」

「え…!? 駿君…知って…!?」

 

 これには驚いた。ずっと秘密にしてきたし、ばれるような要因は一つもなかったはず。だから、今の今まで私が財閥令嬢であるということは知られていないと思っていたのに。

 

「へぇ、知っていたのか。それなら一応聞いておこう。何故身分が違うと知っていながらそんなに彼女と馴れ馴れしくしているんだい?」

 

 駿君の口から私の正体を聞かされ、一瞬驚いた表情をした黒田君が直ぐに我に返って彼にそう問いかける。その眼は、どこか怒っているようにも見えた。

対する駿君は、もうどうでもいいと言わんばかりの表情で答える。

 

「二度も同じことを答えるつもりはない」

「友達だから…? そんなくだらない理由でかい?」

 

 黒田君の言葉に、思わずまた勝手に体が動きそうになる。でも、それは駿君に止められた。

 

「お前にとってはくだらない理由なんだろうが、少なくともミクにとってはそうじゃないらしいぜ。これ以上、こいつの逆鱗に触れるようなことを言うならお前の身の安全は保障できない」

「そんな脅し文句が僕に効くとでも?」

「ならもう一度ミクにぶっ叩かれればいい。俺は警告した」

 

 その場を沈黙が支配する。いや、正確には沈黙なんてないのかもしれない。そこかしこから私達の様子をうかがっている人達の視線を感じるし、こそこそと話し声が聞こえるから。

でも、なんだ今この時には世界に私たち三人しかいないような錯覚を感じた。

 

 永遠に続くかと思えるほどの沈黙。黒田君は不愉快な気持ちを隠すことなく出しながら駿君を睨みつけ、駿君はいつも通りの気怠そうな表情でフラフラしている。私は……どうしたらいいかわからなくてその場に立ち尽くすことしか出来なかった。

 このままではらちが明かない。けれども、私にはどうすることもできない。どうしたらいいか悩んでいると、不意に黒田君が口を開いた。

 

「…ふん。まぁいい。今日の所はそういうことで納得しておくよ。君とは長い付き合いになりそうだしね」

「出来れば金輪際顔を合わせたくないがね」

「君が初音さんから離れればそれも可能なんだけどね。それじゃあ、僕は先に帰らせてもらうよ」

「…………」

 

 そう言って、黒田君は立ち去って行った。未だに、何が起きてるのか分からなくて立ち尽くすだけの私の手を駿君が引っ張る。

 

「…大分寄り道したな。親父が待ってる。帰ろう、ミク」

「う、うん……」

 

 それから、校門の前についた時本当に駿君のお父さんが待っていた。相変わらず駿君は嫌そうな表情を隠そうともせずに自分のお父さんに向けて、嫌味を言ってそれを軽く流されるっていうやり取りをする。

ついさっきまでの出来事がまるで嘘みたいだった。それこそ、教室で居眠りをして悪い夢でも見ていたんじゃないかって思ってしまうくらいに。だから、思わず私は駿君に聞かずにはいられなかった。

 

「ねぇ駿君……」

「ん?」

「その…さっきのこと……」

「さっき? ああ、お前寝てたもんな。後でメールしとくわ」

「え……」

 

 やっぱり、夢だったのかな?

 

「なんだ、初音さんでも居眠りをするのか?」

「親父だって学生の頃居眠りの一回や二回してるだろ?」

「そうだな。よく屋上で授業サボって寝てたっけか」

「このダメ親父」

「で、いつも母さんに蹴っ飛ばされてたよ」

「ざまぁみやがれ」

 

…駿君だっていつも居眠りして先生にたたかれているってことは言わないでおこう。血は争えないっていうのはこういうことを言うんだろうなぁ。

 結局、あの時の出来事のことを聞くことができないまま駿君たちとは別れてしまった。夢だったらいいのに、と言う気持ちと現実だったらいいのにと言う二つの想いが混じり合ってごちゃごちゃしたまま。

 

 その夜、モヤモヤした気持ちのままベッドの上でゴロゴロしていると突然携帯が鳴った。……駿君からのメールだった。

そのメールに書かれていたのは

 

『ミクが誰だろうと、俺には関係ない。それに、そんな簡単に友達を辞められるほど俺も器用じゃない』

 

と言う文章だけ。でも、それで十分…いやこれ以上ないくらいの言葉だった。あの人は…私が財閥の令嬢だって知っても友達のままでいてくれると言ってくれた。たったそれだけ。でも、私にとってはこれ以上もないくらい嬉しい言葉。

今まで皆が私の立場を知って離れていったけれど、ここに来て初めてそれでも友達でいてくれると言ってくれた人が現れた。それが、とても嬉しくて自然と涙が溢れ出す。

 

「ありがとう……本当に…ありがとう……」

 

 どうせ聞こえやしないけど、涙で顔をくしゃくしゃにしながらしばらくの間私は彼にお礼を言うことしか出来なかった。それと同時に、いつか必ず面と向かってあの人にお礼を言うことと、あの人が困っている時に助けになろうと誓った。

 その日、部屋の窓から見えた夜空はどこかいつもよりも綺麗に見えたような気がした。

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