そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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第3話です


第3話 新しい生活の始まり

ピピピピッ!

  ピピピピッ!

 

 枕元に置いてある目覚まし時計の起床時間を知らせるアラームが寝室中に響き渡る。

 

「ん~……」

 

 まだ眠気が取れずぼんやりとする頭のまま、しかし的確に目覚まし時計のアラームを止める。寝ぼけていてもちゃんと出来ることはできるのだ。……そのおかげで一体何度寝坊をしたことやら。

そんなことはさておき、時計のディスプレイに表示されている現在時刻を確認して今日がいったい何の日かを思い出す。

 

「あ~……今日は入学式か……」

 

 今日の日付は4月8日。つまり新しい学校生活のスタートラインとなる高校の入学式の日だ。

 

(……初音さんとの集合時間は8時だったな)

 

実は、今日一緒に初音さんと入学式に行こうという約束をしているのだ。……何でこんなことになったんだっけ?

     ・

     ・

「それじゃあ、ミクちゃんの引っ越しを祝って、カンパーイ!!」

 

 そう言いながらビールの注がれたコップを掲げる大家さんを見てやけにハイテンションだなと思えば、既に大家さんの頬は赤く染まっていた。

 

(何でこんな時間からすでに酔っぱらってんだよ……)

 

俺は目に映る光景に対して心の中で盛大なため息をついた。……ちなみに酔っぱらった大家さんもため息の原因の一つではあるが、もう一つ俺にため息をつかせる物体がちゃぶ台の上には乗っていた。

 

(ありえねぇ……。絶対ネギと飯の比率が間違ってるだろ……)

 

 そう、『私が言い出したから』と初音さんが三人分の夕食を作ってくれたのだがそれがまた俺の常識の範疇(はんちゅう)を超える代物だったのだ。だって考えても見ろ、明らかに米と同じくらいの量のネギが乗った丼(どんぶり)なんて普通ないだろ?

だが、流石に作ってくれた本人の前でそんなことは口が裂けたって言えない。なので

 

「いただきます」

 

と一言挨拶だけして、俺からすれば下手物(げてもの)当然のその飯を食い始めた。

 

(……なんだこれ。意外といける)

 

 見た目こそ下手物な代物だったネギ丼は、しかし一口食ってみればそこそこの味だった。というかどちらかというと美味い。少なくとも俺が作るよりは絶対に美味いだろう。

 

「今日はちょっと張り切って作ったんだ! お口に合うと良いんだけど……」

 

「ん……まぁ美味いよ」

 

 まぁ嘘はついてないし、実際にそう思ったのだから正直な感想を言った。するとその言葉を聞いた初音さんは

 

「ほんと!? 良かった!」

 

ととても嬉しそうな笑顔を浮かべた。……その笑顔に一瞬ドキッとしたがすぐに我に返って飯を食うことに集中する。

 ふと飯を食っているであろう初音さんの方を見て、俺は開いた口が塞がらなかった。なんでかって? だって丼一杯に盛られていたはずの飯がもう既にほとんどなくなっていたからさ。一応言っておくと、皆丼の大きさは一緒だから初音さんだけ量が少ないなんてことは無い。しかも丼からあふれんばかりの量が盛られていたんだ、俺だってこれを完食するのに10分はかかる。

 そんな唖然としている俺をよそに飯を完食した初音さんは

 

「あ~、美味しかったぁ! やっぱりネギが一番だなぁ!」

 

と満足げな表情を浮かべて箸を置いた。そして思い出したようにあっ、と声を上げると

 

「ねぇ駿君、もし良かったら入学式の日一緒に学校行かない?」

 

と笑顔を見せながらそう誘ってきた。

 

「……別にいいけど」

 

俺としては一人の方が気が楽でいいから断りたいところだが、財布を拾ってもらった上に飯まで御馳走になっているのだ。あまり無下に断るわけにはいかないだろう。一緒に行くくらいのお願いを聞くのは飯代ということでその誘いを了承する。すると

 

「お~? 何だ駿君やっぱり初音さんのことが気になってるじゃないかぁ!」

 

と酒臭い息を撒き散らしながら大家のオッサンが絡んできた。……こっち来んな酒臭いんだよ。あと変なひと言を言うんじゃねえ誤解されるだろ。

 

「ちっ……。大家さん、そんなに酔いを醒まされたいですか? 良いですよちょっとばかし過激にやりますけど」

 

 本当にこの人とかかわるとロクなことが無い。まだ1カ月近くの付き合いだけど、一度くらいは痛い目見せたほうが良いかもな。ということで8割くらい本気の脅しをかけてみる。

 

「おぉ、おっかないねぇ~? そんな怖い顔しちゃうと初音さんが怖がっちゃうぞ~?」

 

ダメだ。これは一度本気でぶん殴らないと気が済まない。

苛立ちに身を任せ大家さんを殴るべく立ち上がった俺を見た大家さんは、何を血迷ったのかそれとも本格的に酔いが回ったのか

 

「おーし! 今日はとことん飲んで騒ぐぞ~! さぁ駿君も一杯やろうよ!!」

 

とビールを飲ませようとコップを俺の口につけてきた。

 

「!!?」

 

 突然のことに反応できず決して少ないとは言えない量の酒を飲みこんでしまう。

分かってると思うが俺はこれから高校生になるんだ。まだまだ成人には程遠い訳だから酒の耐性など持っているわけでもないし、飲んだことがある訳でもない。にもかかわらず酒を飲まされてしまったのだ、当然俺も酔っぱらってしまう。

 

「っ!! ぅ……き、気持ち悪……」

 

「あっ!! し、駿君!? 大丈夫!?」

 

 大丈夫な訳があるか。こっちはいきなりアルコール飲まされたんだ、マジで気持ち悪い吐きそうだ……

 

「さぁさぁ、盛り上がっていきまっしょー!!」

 

(あのクソオヤジ、さっさとアル中で死ねばいいのに!!)

 

 その後、アルコールを飲まされグロッキーになった俺は初音さんに介抱されて自分の部屋に戻ると言う何とも情けない結果になってしまった。

     ・

     ・

(……思い出さなくて良いことまで思い出した気がする)

 

 3日前の出来事を思い出して、思わず顔をしかめる。あれはもう間違いなくトラウマと黒歴史リストに載ることが確定したな。

そんな陰鬱(いんうつ)な想いを振り払うかのように時計の方へと顔を向け現在時刻を確認する。

 

(今は……何だまだ7時40分か。まだ余裕だな)

 

 3日前の出来事を思い出しながらもしっかりと手を動かして高校へ行く準備を進めていた俺に残された準備は、既に制服を着るだけとなっていた。

真新しく、着なれていない違和感まみれの制服にその身を包み念のためにおかしなところが無いか鏡の前に立って確認する。

 

(少し早いけど……もう集合場所に行っちまうか)

 

集合時間は8時だが、部屋に居てもやることが無く暇なのでさっさと集合場所に行くことにした俺は戸締りをしっかりとして玄関に向かった。

 

「行ってきます」

 

 別に俺以外にこの部屋に住んでる訳じゃないから言わなくても良いんだが、今までの癖というかそんなノリで挨拶をし部屋を後にした。

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     ・

(……それにしても遅い。もう10分も遅刻だぞ)

 

 やることが無いからと早めに家を出てきたのは良かったのだが、肝心の初音さんが集合時間の8時を過ぎても姿を現さず俺のストレスは徐々に溜まってきていた。

 

(もう置いていくか)

 

 約束した手前、来るまで待つ方が礼儀なのだろうがこっちは既に30分以上も待たされていているのだしそもそも自分で8時と集合時間を決めておいてそれに遅れてくる奴の方が悪い。それに俺はそこまでお人好しじゃないから、待たされて我慢できる人間でもないのでもう学校へ向かおうと歩き始めた時

 

「あっ!! 待って駿君!!」

 

と背後から初音さんの声が聞こえたので立ち止まり振り返る。

 

「遅ぇ。10分遅刻だ」

 

「ごめんごめん! 寝坊しちゃってさ……」

 

何故入学式から寝坊するんだ、気が緩んでるんじゃないのか。という言葉敢えて口に出さず学校へ向かって足を運ぶ。

 

「ねぇねぇ、今日って何時までに学校行けばいいんだっけ?」

 

 相変わらずの笑顔で初音さんが俺に質問してくるが出来れば一人で居たかった俺は

 

「知らん。大体9時くらいに居れば良いんじゃねえの」

 

と素っ気ない返事を返した。

 

「そっか。ところでさ……」

 

 そこから学校に着くまで初音さんに質問攻めを受けたが、面倒だったので全部適当に返事をした。ほんの少し初音さんが不満そうな表情をしていたが、別にそれに対しては罪悪感のかけらも感じない。そんなにしゃべりたければ他を当たれ。

     ・

     ・

 ようやく学校に着き、昇降口に張り出されたクラス分けの紙を見て自分の名前を探す。

 

(……俺は3組か)

 

俺以外の入学生の人混みにもみくちゃにされながらも、何とか自分の名前を探し当て所属クラスを確認した俺はそそくさと人混みを抜け自分のクラスへと向かう。

 

(学校なんてどうでもいい。どうでもいいから早く帰らせてくれ)

 

 歩きながらそんなことを考えていると、いつの間にか初音さんとはぐれていることに気付いた。が、どうせ別のクラスなんだろうから大丈夫だろうと結論付けて気にせずクラスに向かってひたすら歩を進めた。

     ・

     ・

 何とか迷わずに自分の教室を探し当て、指定されている自分の席に座る。教室にはすでに半分くらいの生徒が集まっており、知り合い同士とみられる連中はそれぞれ集まって喋っていた。いくら中学以上に広範囲から様々な生徒が通うのが高校とはいえ、それほど偏差値が良い訳でも名門でもないこの高校は近辺の町から通っている連中の方が俺の様な遠くに住んでいたやつより圧倒的に多いのだからそんな光景など珍しくもなんともないだろう。

 知り合いなど誰もいない俺は暇なのでとりあえず時間まで寝ることにして机に突っ伏した。突っ伏した直後、隣の椅子が引かれる音が聞こえたかと思うと

 

「もー! 駿君置いてくなんてひどいよぅ」

 

聞き覚えのある声が聞こえた。もちろん今この状況で馴れ馴れしく俺の名前を呼ぶ奴は一人しかいない。

 

「……なんだ、初音さんも同じクラスだったのか」

 

「なんだ……ってリアクション薄いなぁ。もっと喜ぼうよ! せっかく一緒のクラスになったのに」

 

「別にいいだろ」

 

 俺の返事にもう! と言いつつ頬膨らませ前を向いた初音さんを無視して再び寝ようとした時

 

「皆の者、着席するでござるよ」

 

という声が聞こえた。

 一体どんな輩が入って来たかと顔を上げると、そこには着物に身を包み腰には模造刀(ガラクタ)を提(さ)げた男性が立っていた。

 

「拙者は今日からこの有賀島高校1年3組の担任になる『神威(かむい) がくぽ』でござる。自己紹介は後ほどやるとして、今から今日の日程について説明するでござるよ」

 

 ……この学校、大丈夫だろうか? こんな変人まがいの人を教師として雇うって、色々とまずいんじゃないのか?

     ・

     ・

「ただいまより、第39回、有賀島高等学校の入学式を始めます。新入生、入場」

 

 司会者のアナウンスと同時に1組から順番に入場していき、俺達の番になったが特に何も気にせず前の人に続いて歩いていき用意された椅子に座った。

それから入学式は順調に進んでいった。……校長の話までは。

 

「校長式辞」

 

視界のアナウンスと同時に校長らしき人物が壇上に登る。

 

「私はこの学校の校長を務めます甲趙(こうちょう)です」

 

 校長の自己紹介が体育館に響いた瞬間、そこらじゅうで笑いが巻き起こった。俺は全く笑えなかったが。

 

(一体今のどこに笑える要素があるんだか俺には理解できないね)

 

呆れながらもふと横を見ると、必死に笑いをこらえている初音さんが目に入った。笑いをこらえながらもこちらに気付いた彼女は、笑顔でこっちを向いて手を振って来た。なんとなく気まずかったので目をそらす。

 それから、10分近くにわたって校長が熱弁をふるうも誰も聞かずそのまま校長は泣きそうな顔をして壇上から降りて行った。

 

「以上で第39回、入学式を閉会いたします。一同、礼!」

 

 長かった入学式もようやく終わりを迎えた。司会のアナウンスで退場し教室に戻ってきてしばらく経った頃、例の侍まがいの担任が戻ってきた。

担任は教壇に立つと

 

「それではとりあえず皆で自己紹介をしよう。まずは拙者から。拙者の名前は神威がくぽ。好きなものは茄子と自然で、嫌いなものは新しいものでござる。これから1年間よろしく頼むでござるよ」

 

となんかわけのわからない自己紹介を始めた。そして、その後は出席番号順にそれぞれ自己紹介をしていく。普通の自己紹介をする奴、面白おかしくやる奴、途中でなんか語り始めちゃったりする奴。色々いたが俺の番が回ってきたのでとりあえず教壇に立つ。

 

「え~天川 駿です。好きなものはゲーム。よろしくお願いします」

 

それだけ言うとさっさと自分の席に戻る。戻る途中で

 

「なんだあいつ。暗いな」

 

「根暗な人だよね」

 

「感じわる~」

 

などと聞こえたが無視する。言いたきゃ勝手に言ってろってんだ。

 俺の次はどうやら初音さんの番だったようだ。初音さんが教壇に立って自己紹介を始める。

 

「えっと、初音ミクです! 好きな物は歌を歌うことで、高校ではたくさん友達作りたいと思います!! これから1年間よろしくお願いします!!」

 

初音さんが自己紹介をすると一気に教室がざわめく。

 

「おい、見たかあの子。めっちゃ可愛いじゃん!!」

 

「良い子っぽそう!」

 

 俺のときとはまるで反対のリアクション。当り前だろうな。別に羨ましいとも何とも思わないけど。

     ・

     ・

 自己紹介が終わって、明日の連絡が済んだ後すぐに解散したのでそのまま家に帰ろうと教室を後にする。初音さんは既に人気者になったのかクラスの連中に囲まれていたので放置することにした。

一人での帰り道、校門に差し掛かった辺りで聞き慣れた声がまたもや背後から聞こえた。

 

「はぁはぁ……もう! 駿君置いていかないでよ!!」

 

「別に良いだろ。初音さんはお友達が出来てたみたいだったしさ」

 

 なんとなく皮肉を込めてそう返事をする。しかし、返って来た言葉は予想もしないものだった。

 

「まだ友達は駿君一人しか出来てないよ?」

 

「…………」

 

 本当にこいつは理解できない。一体何を持って俺を友達と言うんだ?

そんなことに頭を悩ませていると、急に手を引っ張られた。

 

「ねぇ! 折角だからちょっと街を歩こうよ!!」

 

「はぁ? 俺は家に……」

 

「まぁまぁ、そんなこと言わないで一緒に行こうよ!」

 

まるで答えは聞いてないと言わんばかりの勢いに抵抗できず、俺は家とは反対方向に引っ張られていった。

 本当なら手を振り払えたはず。でも、何故かそれが出来なくて、どうして出来ないのかが分からなかったけれども一つだけ分かったことがあった。

 

……どこか、嬉しいような楽しいような感情が生まれていたことが。

 




次回の投稿時期は未定です。
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