そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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第31話 いざ、旅行へ出発!

 じりりりりっ! と、目覚まし時計のけたたましい音がまだ半分夢の中の俺の頭の中に飛び込んでくる。緩慢な動作でそれを止めながら、もう一度夢の世界へとダイビングしないように洗面所へと向かった。冷たい水道水で顔を洗い多少は眠気が飛んだところで鏡に映る自分を見る。

 

「あ~…寝癖直さねぇとなぁ…めんどくせぇ」

 

 誰に言うでもなくそう呟きながらも洗面所を後にして先に朝食を食べに台所へと向かう。寝癖直しは別に今すぐやらずとも後で朝シャンする際に直してしまえばいい。

そんなことを考えながら冷蔵庫に無造作に放り込んであった食パンとハムを取り出してモソモソと食べる。相変わらず覚醒しきれていない頭で食事をしていると、ふとあることが気になった。ミクのことである。

 アイツはご存知の通り寝坊助なので今日も寝坊する可能性が大いにある。ちなみに現在時刻は5時40分。リンから通達された集合時間と場所は7時に駅前だ。俺は遅刻などしたくないので(したら身の安全にもかかわりそうだし)、基本的に10分~15分前には集合場所に到着できるようにする為早め早めの行動を心掛けてかなりの早起きをしているが、ミクがそうだとは限らない。と言うかそこまでアイツがやれるだなんて微塵も期待していない。

 かと言ってアイツを置いて一人で集合場所にでも行こうものならリンを始めとする女性陣から何をされるか分かったものではない。それはそれで怖いので、とりあえず予防線を張っておくこととしよう。まずは、食パンを片付けた後にモーニングコールか。

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 飯を食い終わった後、片手間で出来そうな準備をしながらミクの携帯にコールする。案の定留守番電話サービスに繋がった。もう驚かない。このくらいは想定の範囲内である。が、その後何度コールしても全くリアクションが見られないので流石の俺も焦り始めた。仕方がないので一旦コールすることを諦めシャワーを浴びに行く。

 シャワーを浴びて寝癖も直し、いつでも出発できるようにしてから今度は出てくれよとある種の願いをしながら再度モーニングコールをかける。これで起きないのであれば最悪隣の窓辺りから侵入するしか……いや待て早まるな俺。そんなことをしたらまず間違いなく殺される。ミクでなくその他の女性陣に。

兎に角電話に出て貰わないとどの道俺の命が危ない。よって早く電話に出て、あわよくば支度してる最中で会ってくれるととてもうれしい……のだが。

 

『…ふぁい?』

「……おはようミク」

『うん…おはよう…珍しぃ…駿君から電話なんて……』

 

こちらは命の危機にさらされて気が気でないというのにコイツときたらのんきなものである。なので取りあえずその旨を伝えてやろう。

 

「お姫様がお目覚めの所こういうこと言うのもアレだが、今何時でしょう?」

『んぇ? …………ぁ』

「そういうことだじゃあな」

 

 あちらさんが気づいたようなので即座に電話を切る。その直後隣の部屋から絶叫が聞こえた。あんなもの電話口で直接聞かされた日には鼓膜の一枚や二枚確実に壊される。

兎に角これで最悪の事態だけは回避できそうだ。女性陣…特にリンは怒らせるとめんどくせぇからなあ…

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「「行ってきまーす!」」

 

 危うく遅刻確定の大寝坊をしそうになったけれども、私にしてはとてもスムーズに身支度が出来たのでなんとかゆっくり歩いて行っても遅刻しない程度の時間に家を出ることが出来た。この先…特に電車に乗ってから先は私達が案内しなくちゃいけないんだけど、別荘に行ったのなんてもう何年も前の話で正直最後に行ったのがいつなのか思い出せないくらいだった。そんな場所なのだから当然行き方も覚えていない。お母さんが地図を渡してはくれたけれどそれでも不安なものは不安だった。

 レンはと言うと地図読み間違えなきゃ余裕だろなんて言ってくれちゃう始末で、全然問題視していないみたい。一体誰が道案内役をやると思っているのだろう? 私だけの役割じゃあないんだからもう少し真剣に考えてくれてもいいんじゃないかと思う。ま、それで迷ったらレンのせいにするけどね。

 

「安心しろ、お前みたいなヘマはしない」

「聞き捨てならないねぇ? まるで私が失敗すること前提みたいな言い方だけど」

「お前が地図通りに目的地にたどり着けたことって、一体何回あるよ?」

「なっ!? 何それまるで私が地図も読めない方向音痴みたいないい方じゃん!」

 

何だ違うのか?と笑いながら前を行くレンの頭を後ろから思いっきりはたく。パシーン! と小気味良い音を立てた手で地図を掴みレンに押し付けて走り出した。

 

「痛っ! おいリン!!」

「レンのバーカ! 私に追いつけたら私が案内役やってあげるからここまでおいでー!!」

「はっ!? ふざけんなよおい!」

 

 地図を握りしめて慌てて走り出すレンを尻目に私はしてやったりと笑いをこらえながら走り続ける。普段から部活とかで走り回ってる私と違ってレンは屋内にこもって何かをしてばかりだから追いつけるはずもない。私をさんざん馬鹿にしたんだからね。これ位やっても罰は当たらないでしょ!

 そんなこんなで走っているとあっという間に集合場所の駅前についていた。駅前にはもうルカお姉ちゃんたちがいたけれど、駿兄とミクお姉ちゃんはまだ来ていないみたいだった。

少し乱れた息を整えながらルカお姉ちゃんたちに挨拶をして、チラリと腕時計に目をやる。

時計の針は既に6時50分頃を指していて、集合時間まで残り10分を切ったところだった。流石にあの二人も家を出ていないと間に合わないと思う。まあ、遅刻の理由はミクお姉ちゃんが寝坊をして駿兄がそれを待っていたって言ういつも通りの展開だとは思うけれど。

 

「おい…リン…お前さっさと行きすぎ……」

 

 そんなことを考えていると、ぜえぜえと肩で息をするレンがようやく追いついて来た。普段から体を動かさないからこういう時に直ぐに体力が無くなって困るんだよねー。男なんだからこのくらいは余裕でこなしてもらわないと姉としては不甲斐なくて泣きそうだよ。

 

「お前、男に対して偏見持ちすぎだろリン」

「そーでもないよ? インドア派の男の子もありだと思ってるし」

「じゃあなぜ俺にこんな運動を強いるんだよおかしいだろ」

「ん~? インドア派の男の子もありとは言ったけど体力まで無くてもいいとは言ってないんだよなぁ~」

 

 そう言いながらふとミクお姉ちゃんたちの家の方を向くと、丁度二人が走って向かってきているところだった。…後ろから何か聞えたような気もするけど気のせい。決してレンの愚痴とかが聞こえたわけじゃない。

 そうしてるうちに二人がちょうど私達の傍まで来た。ぜえぜえと肩で息をしながら膝をつくミクお姉ちゃんに対して、駿兄はほんの少し上がった息を直ぐに整えて余裕そうな表情をしていた。そうそう、いくらインドア派って言ってもこのくらいの体力はあってくれないとね。

 

「はぁっ…はぁっ…ま、間に合ったぁ~…」

「お前が寝坊するのはもうお約束だけど、そろそろそのお約束も律儀にやる必要ないんじゃないですかね」

 

 集合時間に間に合って安心した表情のミクお姉ちゃんを見下ろしながら駿兄がそう言う。その表情はいつも通りの呆れた顔だったけど、前に比べてどこか優しげな雰囲気が漂って…いるわけないよね駿兄だもん。見間違いかともう一回だけちらりと駿兄の方を見たけれど、そこにはやっぱりどこか気怠そうな雰囲気を漂わせたいつもの駿兄しかいなくて。何か変な事を言おうものなら即座に嫌味で返してくるんじゃないかって感じしかしなかった。

 そんなことを思っているとお姉ちゃんがふくれっ面で駿兄にこういいかえしていた。

 

「むぅ~…私はもともと早起きが苦手なの! むしろあれだけの大寝坊をしたのに遅刻せず来れたことを褒めてよ!」

「あーはいはいすごいですねー」

「わぁ~清々しいくらいの棒読みだー」

 

 ……やっぱりこの二人、くっついてるんじゃないのかぁ。やり取りがカップルのそれに似てる気がしなくもないんだけども。それにしてもほんとに仲いいなあ……人目を気にせずじゃれあっちゃってるよ。

 そんな二人をカイトさんが宥めた後、私達が皆に今後のスケジュールを教えた。その後各々切符を買って改札を通り抜けてホームで電車を待つ。ちょっと慌ただしい出だしではあったけれども、きっとこれから楽しい数日が始まるに違いないと思った。

これから皆で何をするか、そんなことを頭に思い浮かべながら電車を待つ私はもしかしたら頬が緩むのを抑えられていなかったのかもしれない。隣のレンからジト目で睨まれていた気もする。

 だけどそんなことはどうだってよかった。今までで一番楽しい夏休みなったらいいなと、それしか私の頭の中にはなかったのだから。

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