そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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第32話 夢のような今

 ミクたちと電車に乗って早一時間。女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので―実際は四人ではあるが―ミクやリン達が中心となりメイコさんとルカさん達は思い出話だったりガールズトークに花を咲かせていた。

時折なぜかミクが俺に話を振って来たんだが、ぶっちゃけた話女子と今まで縁がなかった俺にいきなり振られても答えようがない。だのに何故リン達はこっちを睨んでくるというのか。無自覚無茶ぶりに理不尽な批判を受ける謂れはないはずなんだが……

まあ女という生き物はいつだって理不尽なものだ。それも群れを成すとなると男では逆立ちしても勝てないであろう理不尽さを身にまとって襲い掛かってくる。そういうものだ。

 

「ものすごく失礼なことを考えてたりしない? 駿君」

 

 ミクが怪訝な表情でこっちを見てくるが知らん。失礼でも何でもなく事実なのだから仕方なかろう。俺は悪くない。むしろ口に出さないだけずっとましだと思うんだがどうだろう。

 

「口に出さなくても顔に出てたら意味ないと思うだけどなあ」

「駿兄って結構思ってること顔に出るよね。いっそ口にすればいいのに」

「おうそうか。じゃあ取りあえずクソガキはもう少し静かにしてろ」

「なっ!? 誰がクソガキですって!?」

 

 ほら口に出すとすぐこれだ。全くやってられん。女という生き物はなんて面倒くさい生き物なんだろう。というか、いちいち叫ぶな。色んな人から冷たい目線で見られて辛いんだ。とにかく他人のふりだ、他人のふり。

というか、どうしてそんなに朝から元気なのだろうか。これから色々あるんだろうし、今の内からはしゃいでしまったら体力が持たなそうなものだが。

あれだろうか、子供特有の特定イベントを前にするとテンションが振り切れてスタミナゲージが全く減らなくなるあの現象なんだろうか。アフターリスク付きの強走薬…みたいな?

 そんな感じで電車に揺られ、乗り継ぎをしているうちに目的地である鏡音家別荘のある場所の最寄り駅へと到着した。

バッグを担いで電車の外へと出た瞬間殺人的な夏の暑さが俺達を取り巻いた。うええ、と思わず情けない声を漏らしながら皆とともに改札の方へと向かって歩く。

 先頭は勿論鏡音姉弟。というかリンだ。早く行きたくて行きたくて仕方がないらしい。レンはまあお約束というかなんというかリンに引っ張られるようにして歩いている。

そんな二人を後ろから見守るようにして俺とミク、そしてその後ろに大学生組が歩いていく。

 

「ふふっ。リンちゃん、よっぽと今日を楽しみにしてたんだね。全身からすごい楽しみにしてるオーラが出てるよ」

 

 そんな風にクスクスと微笑しながら呟くミク。そんなミクも電車の中では興奮気味にリンやルカさんの話を聞いていたんだから大して変わらないような気がする。

まあ、コイツにとっては初めての経験だし未知なる世界に足を踏み入れるようなものだから興奮するのも無理はない。

それに、生い立ち的にこんな風に皆でお泊り会なんてこともやったことないんだろうしな。お嬢様というのも中々に苦労をしているらしい。

というか、案外金持ちは金持ちの悩みがありそうなものである。あの黒田とかいうへんちくりんは別として、ミクのような―何を食べて育つとこんな菩薩様みたいに育つのか―性格の奴は友人関係とか、家族関係とかに板挟みにされていそうな気もする。

プライベートとパブリックを区別して生活しなくちゃいけないとか、息苦しくて俺なら窒息してしまいそうだ。それを考えると、別に貧乏でもいいような気がしてきた。

 というか『たられば』についてなんて今考えたって仕方がない。ミクは俺の友達…でいてくれるって言った。俺もそうであろうとしている。それでいいんだと思う。少なくとも、今は。

 

「駿君…? どうしたの、私のことじっと見て」

「ぁ? …ああ、スマン。考え事してた」

 

 いつの間にか、ミクのことを横目でとは言えじっと見つめてしまっていたらしい。とっさに反対方向へと顔を背け、誤魔化す。それで誤魔化せるとは思えんが…まあ、見つめっぱなしってのはもっと気まずいからな。

それに、何を考えていたのかなんて恥ずかしくて言えない。別に、内容的に聞かれても嗤われるようなことじゃない…とは思うけど。それとも、驚かれるんだろうか。

自分の性格はそれなりに把握しているつもりだ。何度も他人を遠ざけてきた俺が、突然友達がどうのなんていい始めたら天変地異が起こるのかなどと言われてしまうに違いない。

至極当然の反応だと、自分で自覚できてしまうのが何とも言えない。けど、やはりなんだか気にくわないというか、なんというか…微妙な気分になるのでできれば悟られたくないし、喋りたくない。

ミクと一対一の状況だったら、笑われたりすることはないだろうけど。

 本当に、我ながら変わってきているんだろう…と思う。もしかしたら何も変わっていないのかもしれないけれど。でも、わざわざ一人暮らしをしてまでこっちに来た意味はあった。お蔭で、ミクという友達に会えたんだから。

母さんが見たら、喜んでくれるだろうか。まだほんの数人だけど、こうして一緒に遊びに行くような仲の友達ができたことを。喧嘩もしたけれど、こうして今一緒に笑いながら並んで歩けている今を。

 ほんの数か月前までは考えようともしていなかった今。けれどもそれをいつも心のどこかで願っていた。ずっと独りは嫌だと、そう悲鳴を上げようとする心を無理やり押さえつけて。心をナイフで抉られるような思いをするくらいならと、自分から握りつぶそうとしていた。

そうしてきつく握りしめていた拳は、たった一人の友達が…ミクが優しく包んでくれた。何度も突き放そうして、その一方で手を伸ばそうとしていた俺に優しく手を差し伸べてくれた。

 何故、どうしてと疑問に思ったことだって少なくないけれど、今はもうどうでもいい。隣にミクがいて、その周りに皆がいて…他の人からしたら当たり前な光景かもしれない。だけど俺にとっては夢のような光景だ。

 

「駿くーん? おーい?」

 

なんて夢見心地に浸っていると、またミクに声を掛けられた。一体どうしたのかとそちらの方を見る。するとミクが少し心配そうな顔をしていた。

 

「どうした? なんか俺の顔についてたか?」

「ハァ…何もついてないけど、強いて言うなら夢の国へのチケットが張り付いてそうな顔だったよ?」

「なんだそりゃ。訳が分からんぞ」

 

別にそんな眠そうな顔をしていたつもりはないのだが。それともニヤニヤしていたのだろうか。どちらにしてもなんだか恥ずかしい。鏡音姉弟には気づかれていないだろうか。出来ればまだリンがレンのことを振り回していてくれると助かる。

 まぁ、そう上手くいくはずもなく。ガキ二人は俺の方をニヤニヤしながら見ていた。なんかムカつく。特にリン。なんか微笑ましいものを見ているような、それでいて最高のネタを手に入れてやったぜみたいなドヤ顔をしている。絶対によからぬことを考えている顔だ。嫌な予感しかしない。後ろの大学生ズの顔は見たくない。見ないほうが精神衛生上良いに決まってる。こちらも見たらヤバい気がするので振り返りたくない。

 さてどうしたものかと視線を辺りに漂わせると、少し先に小さめとは言えゲームセンターが目に入った。

これ幸いとそこへと視線を集中させる。というか体が勝手にそちらへと吸い寄せられそうになっていた。が、特に抵抗しようとも思わない。遊ぶことはできなくてもせめてどんなラインナップなのかくらいの確認はしても罰は当たらないだろう…

 そう思ってふらりと足を踏み出そうとした瞬間、誰かが俺の襟首をひっつかんだ。ルカさんだった。

 

「こら。どこへ行こうっていうのかしら?」

「ぐぇっ!? い、いやちょっと……」

「折角みんなで遠くまで来て、まさかゲーセン行くだなんていうんじゃないでしょうね?」

「マサカソンナコトイウワケナイジャナイデスカ」

 

 我ながら見事な棒読みである。とは言え仕方が無かろう。行きたいものは行きたいんだ。こういう片田舎のゲーセンは都会ではもう稼働してない一世代前のゲームなんかが稼働している可能性がある。時代の流れに沿って数が減っている絶滅危惧種なブツを拝めるだけでも行く価値は十二分にあると言えよう。欲を言えばやりたい。小さな頃出来なくても今ならいいところまで進めるかもしれないし。腕試しとリベンジを兼ねることもできるのだ。

 

「ダメに決まってるでしょう。ほら、大人しくリンちゃん達についていきなさい」

「…へーい。くそう……」

「ホント駿君ってゲームのことしか頭にないんだね」

「頭の中ネギ畑のミクだけにはそういうこと言われたかねーけどな」

「なっ!? …そ、そんなことないもん!」

「否定まで若干間があった。ダウト」

「ほらほら、じゃれあってないでついていきなさいなお二人さん」

 

 メイコさんが何か言ったような気がするが特に気にしない。真に受けるとたぶん色々としんどくなる。が、まあいうことは聞かないと物理的にしんどくなるんだろうから脳内ネギ畑を否定するミクを尻目にそそくさとリン達のいる方へと歩く。どうやら、目的地まであと少しのようだ。別荘に着いたら、このうだるような暑さを凌げることを願う。

しかし、そんな俺の切なる願いはあっさりと打ち砕かれることとなった。

 

「とうちゃーく! で、皆には悪いんだけど数年単位でここ来てなかったから中結構埃っぽいと思うの」

「父さんと母さんが水とかが出ることの確認と、最低限の掃除だけはやってくれたらしいんだけど、本当に最低限しかやってないみたいでまだ結構汚れてるみたい」

「だからまずはその辺りの掃除からしていくよ! と、言うことで男共頑張ってね!」

 

 そういって荷物だけ置いて外に飛び出そうとするリンの足に自分の足を引っ掛けて転ばせるレン。が、リンはどこかそれを予想していたのか、上手く腕で衝撃を殺して地面とディープキスをすることだけは免れた。それだけの反応をするくらいなら最初から逃げ出そうとするなよ。阿呆が。

 

「お前がいなかったらみんなどこをどう掃除すればいいかわからないかもしれんだろ。逃げんじゃねー」

「えー。こういうのは男の子の仕事でしょー?」

「むしろこういう部屋の掃除は女の仕事じゃねーのかよ」

「そーいう男尊女卑な考え方するの止めなよレン」

「お前、男尊女卑の意味わかって使ってる?」

 

 そしていつものように口喧嘩を始める鏡音姉弟。本当によくも飽きないもんだ。見てて退屈しないのは確かだが、今はそれをゆっくり眺めているような場合でもない。早いところ掃除を終わらせてゆっくりしたかった。なんだかんだ言って、長時間の電車移動は疲れがたまる。この分だと今日はあちこち行くのは難しそうだ。 

 とにもかくにも、掃除を終わらせないことにはどうにもならないので喧嘩をエスカレートさせそうになっているガキンチョ二人をなだめて誰がどこを掃除するのかの分担を済ませた。

 さて、さっさと終わらせてだらだらするとしようか。とだらしないことを考えながら俺は担当の場所に向かっていった。

 

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