そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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第5話です。


第5話 意外な再会

「リン! ちょっと待てって!」 

 

 自らの数メートル先を走る少女を追って、少年が叫ぶ。

見た目からして中学生くらいだろうか? 決してがたいの良い体つき言えないが、それを補うかのように顔は整っており、そして最も目を引くのはその黄色い髪だった。

 

「ほらレン! もっと速く走ってってば!」

 

 少年の方を振り返りながら少女がそう叫ぶ。少年と同様に小柄だが整った顔立ちでその顔は少年にそっくりであった。大きな違いは、少女であると言うことと、その特徴的な色の髪の毛の上にリボンをつけていると言うところか。

 

「早くしないと置いてくよ~!!」

 

「待てってば! そんなに急いだって仕方ないだろ? 時間は決まってんだから」

 

 どんどん先に行こうとする少女をたしなめるように少年が言う。しかし少女は

 

「何言ってんの! レンは『善は急げ』っていうことわざを知らないの!?」

 

と腰に手を当てて少年を諭すように言い返した。それを見た少年はため息をつくが、そんなことはどこ吹く風と言った様子で少女が続ける。

 

「そ・れ・に! 早くお家に帰らないと、時間までに宿題終わらないじゃん! ……ってあれ?」

 

「ん? どうしたリン?」

 

先ほどまで生き生きとしていた少女の表情が急に曇りだす。一体今度はなんなんだと、少年が身構えていると

 

「お財布……落っことしちゃったみたい……」

 

顔を真っ青にした表情で少女が呟いた。

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「駿君! 一緒に帰ろう!」

 

 入学から数週間経ち学校生活にもだいぶ慣れたある日の帰り、ぼんやりとしていた俺をミクの明るい声が現実に引き戻した。

 

 

「ん? あぁ……ミクか」

 

「どうしたの? なんかボーっとしてたみたいだけど?」

 

「うんにゃ。何でもない」

 

 ミクが心配そうな表情を浮かべてこちらを覗き込むが、ぼんやりとしていた理由を知られたくは無いのでとりあえず適当に誤魔化す。

……まさかボケっとしてた理由が『ゲームのヒロインのことを考えていたから』だなんて口が裂けたって言えない。恥ずかしすぎる。

 

「そっか。まぁいいや! 早く帰ろ?」

 

「おぅ」

 

 そうやってミクに促されながら一緒に教室を後にする。その時、周りの男子からかなり睨まれていたが気にしない。どうやら俺はほかの連中には嫌われているようだが、別に誰かと友達になろうなんて思考は俺には存在しないから大した問題じゃない。

そもそも友達作ったところでそれほど得になんてならないだろう。作ったってどうせ喧嘩別れするのが関の山だろうし、それならいっそ作らない方が楽だ。

 とにかく、俺に友達は必要ない。今までも、そしてこれからもな。

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「ねぇ駿君、今日ちょっと公園寄らない?」

 

 そうミクが切り出したのは革靴に履き替えた時だった。

 

「あぁ? なんで今公園になんて行くんだ? 桜ならもうとっくに散り終わっちまってるぞ?」

 

今は既に4月の下旬である。桜は4月の初めに満開を迎えていたのだからどんなに運が良かったとしても花が散らずに残っていられるのはせいぜい1週間だろう。

しかしそれを承知の上なのかミクは

 

「そうだけど、なんとなく行こうかなって思ったからさ! どうせ駿君も帰宅部なんだから暇でしょ?」

 

と言い返してきた。

 確かに、俺もミクも今のところ部活には所属してないから放課後は暇なのであるが……

 

(早く家に帰ってゲームの続き、やりたいんだよな)

 

丁度今プレイしているゲームが良い場面に差し掛かっているのである。プレイヤーの立場としては一刻も早く続きをやってエンディングを見たいのだ。

 

「ん~……どうしようかなぁ……」

 

ミクとゲーム、一体どっちを取ろうかと迷っていると(こんなことに悩んでいること自体が俺にとっては異常なのだが)、ミクは

 

「いいじゃん、いいじゃん! なんかジュースおごってあげるからさ!」

 

なんていかにも餌で釣ろうという意図が丸見えな発言をしてきた。

 

「う……わーったよ……」

 

もちろんジュース目当てに了承した訳ではない。了承した訳ではないが、これで断ってしまうと後が怖い。前にミクからの頼まれごとを無理にでも断ろうとした時滅茶苦茶悲しそうな顔をされ、良心の呵責に耐えきれなくなって結局引き受けたという出来事があったからだ。

 

(あん時は一体何を頼まれたんだったっけか?)

 

 ふと何を頼まれたのか思い出そうとしたが、割とどうでもいいことなので止めた。むしろ思い出さない方が賢明に思えるし。

とりあえず

 

「……ほら、公園行くんだろ? 行くならさっさと行こうぜ」

 

「やったあ! じゃあ行こう!!」

 

 全く……遊園地に連れてってもらえる時の子供みたいなリアクションするなよ。周りの目がかなり痛いんだからな……

本当に、俺には『初音ミク』という人物が理解できない。

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「……やっぱり、散っちゃってるね……桜の花」

 

 公園に着いた俺達を出迎えたのはあの日の様な満開の桜の木々ではなく、今は青々とした若葉をつけた桜の木だった。当然と言えば当然だな。

 

「だから言っただろ? なのに何でここに来ようだなんて言い出したんだ?」

 

「なんとなく、って言ったじゃん」

 

「……そうか」

 

 なんとなくなら一人で来いよ、と言う口が思わず飛び出しそうになったが我慢してそれを飲みこみ公園の奥に向かって歩き始めたミク後を追いかけた。

 

「あれ? 今日は他にも誰かいるみたいだよ?」

 

「他にもって……そりゃ公共の場所なんだから俺達以外に人がいてもおかしくないだろ」

 

「まぁ、そうなんだけどさ……」

 

 分かってるならいちいち報告するなっての。面倒くさいんだよリアクションが。

そう言う訳で、特に何も気にせずにその場を後にしようとした俺をミクが袖を引っ張って引きとめる。

 

「んだよ……」

 

 こっちは早く家に帰りたんだ。大体ここに俺を引きとめる理由は何なんだ?

その俺の疑問は、ある意味最悪の形で答えが出された。

 

「ねぇ、あの子たちなんか困ってるみたいだからさ……助けてあげようよ!」

 

はぁ……その発想はいらなかったな。

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 と言う訳でトレジャーハンターよろしくそこら中の植木に手と足突っ込んでるなう。

何でこうなったかと言うと……

 

[ミク、中学生の二人を見つける→中学生が困ってみたい→助けてあげよう(俺も一緒に)]

 

と言う訳だ。どこのお人好しだお前は。……いや、お人好しは無理やり他人を巻き込んでまで人の手助けをしたりはしないか……

 

「えぐ……す、すいません……ひっく……わざわざ探してくれて……」

 

「……まぁ、どうせ暇だったし」

 

えぇい、落としたお前もお前だ。確か『リン』とか言ってたな。……分かったからそんな涙目でこっちを見るな。余計に逃げたくなるだろうが。

 ちなみに今リンの落としてしまったと言う財布を探している最中だ。なんでも、近道だとこの公園を通った時に財布を落としたらしい。本当にここにあるんだろうかね? 話聞いてる限りだとここ以外の場所で落としてる可能性も捨てきれないんだけど。

 

「白い財布だったっけか?」

 

「はい……」

 

 まぁ、茶色の土の上に真っ白な財布があったらそんなに探すのには苦労しないと思うけどな。……財布が泥にまみれて茶色になっていなければ、の話だが。

そんな悲観的なことを考えると突然ミクの声が公園に響き渡る。

 

「あ! あった!! みんな~、あったよ~!!」

 

 声のした方向へと皆で走っていくと、制服を泥だらけにしたミクが白い財布を片手に木々の間から出てきた。

 

「リンちゃん、これだよね?」

 

差し出された財布を受け取って、中身を確認したリンはミクの問いかけに

 

「うん! 私の財布です!……はぁ、見つかってよかった……」

 

と答えるが否やよろよろとベンチに座り込む。それを横目で見ながら、リンの双子の弟であると言う『レン』が

 

「すいません、リンの財布を一緒に探してもらって。本当にありがとうございます」

 

半分放心しているリンに代わって俺達に礼を言う。……まぁ礼儀作法はそれなりに出来るんだなこいつ。最近はマナーの悪い中坊が多いからな、ほんとに困る。

 そんなことを考えている俺の横でミクは

 

「別にお礼なんて言わなくていいよ! 私達はただ手伝いたくて手伝ったんだから。ね、駿君?」

 

「……ソウデスネー」

 

 俺の明らかな棒読みの同意に一瞬ミクの顔が引きつったがそんなのは気にしない。何故なら……

     ・

     ・

「何で俺が人助けなんざせにゃならんのだ。お断りだね」

 

 こっちはやりたいことが山ほどあるのだ、公園に来たいと言うミクの要望にはちゃんと答えたんだしもう帰っても良いだろう。……とは問屋が降ろさなかった。

 

「もう駿君! どうしてそう言う冷たいこと言うの!? ここであの子たちを助けなかった明らかに人を差別することになるよ!?」

 

「一体いつ俺がそんな差別になるような行動を取ってんだ? その辺を詳しく……」

 

「道に迷って困ってた私をアパートまで案内してくれたじゃん! それなのにあの子たちを助けないのは差別になるよ!」

 

「そ……それは……」

 

 まさかミクはあれを親切心からの道案内だと本気で思っていたと言うのだろうか? 実際のところは大家さんに手伝わされたくなかったって言うだけの話だったので親切心などこれっぽっちもないのだが。

だが、それを言ってしまうと余計に話がこじれてしまうのは目に見えているので……

 

「はいはい分かりました……やりゃあ良いんだろやりゃあ」

     ・

     ・

 と言う訳である。全く持って面倒くさい。おかげで貴重なゲームのプレイ時間がどんどんとなくなっていってるんだがな、これは一体どうしてくれるんだ?

そんなことを思い出していると、黄色い双子は俺達の前に立って

 

「「今日は本当にありがとうございました!!」」

 

と綺麗なハモりでお礼を言ってきた。……まぁ、悪くない気分だってことは認めてやるよ。

 そんな俺の横でミクは相変わらずの笑顔で

 

「どういたしまして。リンちゃん、もう財布落とさないようにね?」

 

と優しく言った。それを見た俺は

 

(……まぁ、確かにミクの笑顔はクラスの男子がミクに色目を使うのも納得がいく程の可愛さだということには同感だな)

 

なんて考えたがすぐにそれを打ち消した。だってこれじゃあまるで俺もミクに惚れた奴の一人になっちまいそうだろ? そんなのは願い下げだね。恋愛なんて俺にはきっと一生関係のないものだろう。

 

「……君? 駿君!」

 

「ん? あ、あぁ……なんだ?」

 

 自分のことについてぼんやりと考えていた俺はミクに呼ばれていることに全く気付かず、袖をひっぱられて初めて呼ばれていることに気付いた。そんな俺にミクは少し呆れたような表情をして

 

「なんだ? じゃなくてさ、もう夕方だしリンちゃん達をお家まで送っていこう?」

 

一体こいつは何を言い出すんだ。あれだけ強引に人を付き合わせておいてまだ足りないってのか?

 

「ふざけんな。自分の家に帰るくらいこいつらだって……」

 

後に続く言葉はミクの怒ったような声に遮られた。

 

「もう! 文句言ってないでついてきて!!」

 

「……ちっ。勝手にしろ」

 

 吐き捨てるようにそう言った俺だったが、それでもどこか付き合わされることを嫌がっていない自分がいることに気付いた。……ミクに出会ってから本当にそんなことばかりで調子が狂いそうだ。マジでどうしたんだろうな……俺。

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 早く家に帰りたいがために走っていた帰り道で財布を落としたことに気が付いた時は、それこそ心臓を鷲掴みにされてしまったかのような感覚が私を襲った。

どうして財布を落としたことにそこまでショックを受けたかって言うと、その財布の中にはお金はもちろん家の鍵とずっと昔、知らないお姉ちゃんがくれた大切なお守りが入っていたから。

 それは私達がもっと小さかった頃のお話。家族みんなで遊園地に来て遊んでいたのは良かったんだけど、私は途中でみんなとはぐれて迷子になっちゃった。

それで不安で泣いていた私に見た目的には私よりちょっと年上の女の子が声をかけてくれた。

 

『ねぇ、あなた迷子になっちゃったの?』

 

『うん……気が付いたらみんないなくなってて……もしかしたらもうみんな私を置いて帰っちゃったのかな……?』

 

『大丈夫だよ! きっとあなたの家族はあなたを探してくれているから! 私が一緒に探してあげるから泣かないで!』

 

 そう言って、泣いていた私の手を引っ張ってみんなを探してくれた。

 

『そうだ、あなたの名前は?』

 

『ひっく……鏡音リン……』

 

『そっか! 私は初音ミク! よろしくね!』

 

そんな自己紹介をしながら歩いてしばらく経った頃、同じく私を探しまわっていたみんなと再会することができたからお姉ちゃんにお礼を言った。

そうしたら

 

『どういたしまして! もう迷子になっちゃだめだよ? ……そうだ、これ私とリンちゃんのお友達の印のお守り! リンちゃんにあげるね!』

 

そう言って、青緑色のビーズで出来たブレスレットをくれたと思ったらどこかに走っていってしまった。……ブレスレットもだけどあの時見せてくれたお姉ちゃんの笑顔はとても明るくて今でもはっきり思い出せるくらいだった。

 その時にもらったお守りは今も大切に取ってある。でも、そのお守りも財布の中に入っていたからこそ財布を落とした時すごく大きなショックを受けた。だってあのお守りがあればきっとまたお姉ちゃんに会えると信じていたから、それが無くなったって言うことは私にとって望みが断たれるのと同じ意味だった。

でも、たまたま通りかかったらしい高校生の二人が一緒に財布を探してくれてなんとか見つけることが出来た……と言うより私は何も出来なかった見つけてもらっただけだけど……

 

(あの時のお姉ちゃん、元気かな……?)

 

 お守りのことを思い出しながら、あの時出会ったあの人に想いを馳せる。きっとまたいつか会える。そう信じて空を見上げると突然、女子高生の人の方が

 

「そういえば、二人の名前ちゃんと聞いてなかったよね? 何て名字なの?」

 

って聞いてきた。

 

「あ、俺は鏡音レンっていいます。んでこっちのドジっ子が俺の双子の姉のリンです」

 

「ちょっと!! ドジっ子ってひどいでしょ!? 私そこまでドジじゃないって!!」

 

 レンの言葉に思わず声を上げて異を唱える。でもレンは私の言葉には耳も貸さないで

 

「それで……あの、あなた達は……?」

 

なんて高校生の人の名前を聞いていた。もう! ちょっと私がミスをしたからってそんなことしなくても良いじゃん!

 

「あっ、そうだね! 私は初音ミク! よろしくね!」

 

「えっ……!?」

 

 ずっと前に聞いたその名前。ずっと会いかったその人の名前。それが、まさかこんな所で聞けるなんて思いもよらなくて思わず声を上げてしまう。

 

「なんだよリン。いきなり声あげたりして……」

 

レンが呆れたような声で何か言うけれど私の耳には届かない。ただ、私の頭の中に会ったのはただひとつ……

 

「おねえ……ちゃん?」

 

あまりのことにまわらない頭と口では、その一言が精一杯だった。けれどその一言で十分。だって目の前に居るその人も私と同じように驚いていたから。

 

「リンちゃん……もしかして私達……」

 

「うん! 昔、遊園地で会ったよ!」

 

 その一言で私にも、お姉ちゃんにも喜びの表情が浮かぶ。

 

「「久しぶり~!!」」

 

綺麗にハモりながら私たちは抱き合う。

 

「リンちゃん、元気にしてた?」

 

「うん! また会えたね! ずっと会えると信じてた!」

 

「私も、きっといつか会えると思ってた!!」

 

 何年前に会ったかもわからない。けれど、願いが叶ってまたお姉ちゃんに会えた。……こんなに心から嬉しいって感じられるのはいつ以来だろう!

 

「そうだ! ほら、お姉ちゃんがくれたお守り、ちゃんと持ってるよ!!」

 

そう言いながら、財布からあの青緑色のブレスレットを出して見せる。それを見たお姉ちゃんは

 

「まだ持っててくれたんだ……嬉しい!」

 

って言って笑顔になった。……あの、とっても印象に残る明るい笑顔に。

 

(きっと、こういうのを運命、って言うんだろうな)

 

 そんなことを考えながら、数年ぶりの再会の喜びを私は噛みしめた。

 




明後日の大学推薦受験の結果次第で投稿時期が変わります。なので、次回の投稿もいつするかは未定です。
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