そよ風に歌声を乗せて   作:おにぎり(鮭)

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第6話 惰眠は妨げるもの

 ピン……ポ~ン

 

「………………」

 

 ピン……ポ~ン

 

「……ん~……」

 

 5月3日、土曜日。

皆大好きゴールデンウィークに入り、思いっきり惰眠(だみん)を貪(むさぼ)っていた俺の耳にインターホンのチャイムの音が飛びこんでくる。が、めんどくさいので動かない。

 

 ピンポ~ン

  ピンポ~ン

 

「……あぁ? 誰だよこんな朝っぱらから……」

 

しかし、どうやらチャイムの鳴らしている奴は意地でも俺に会いたいらしい。最初は控えめにならされていたチャイムも、だんだんとテンポが短くなってきた。このまま無視し続けたら、きっと休日特有の気持ちいい睡眠時間は確実に失われてしまうだろう。

 

 ピンポ~ン!

 

「……あ~はいはい今行きますよ!」

 

 さっきまでの眠気はどこへやらと自分でも思いたくなるくらい素早い動きで玄関に向かい、ドアを開ける。……寝巻のままだが、まぁ普通のジャージに半袖だから問題あるまい。とにかく早めにお引き取り……

 

「もうっ! 駿君起きるの遅すぎだよ!!」

 

「……ミク?」

 

 一体どんな奴が訪ねて来たのかと思えば、すぐ隣の部屋の初音さんじゃないですか。一体こんな朝っぱらから何の用事なんでしょうね? それで何でこの人はさっきからどこぞのハムスターよろしく頬を膨らませているんですかね?

そんな俺の疑問はすぐに解消されることになった。

 

「今何時だと思ってるの!? 10時半だよ? 今日はリンちゃん達と遊びに行く日でしょ!」

 

前言撤回。最初の疑問は解消されたがすぐにまた新しい疑問がわいて出たからプラスマイナス0、いやむしろマイナスか? とにかくそれは確認せねば。

 

「遊びにって……こないだの話か?」

 

 実は、リン達と出会ってからまたすぐにあいつらに会う機会があったからその時に決めたんだが今度のゴールデンウィークの日曜日に皆でお出かけに行こうと言う話になっていたのだ。

しかし、今日は土曜日のはずだ。だからこそ、俺はさっきまで惰眠を貪っていた訳なんだけどもしかして日付間違えたかな?

 

「そうだよ! 皆でお出かけしようって言ったじゃん!」

 

「あぁ……でもあれ、日曜日って言ってなかったっけか? 今日土曜日だぜ?」

 

その途端にミクが動揺したのかもじもじし始めた。……これ、もしかしてミクの奴、曜日間違えた感じか?

 

「えっ……? え……今日、日曜日じゃなかったっけ?」

 

「……いや、今日は土曜日だな。ほれ、見てみろ」

 

かなり動揺しているミクに証拠だと言わんばかりに携帯のディスプレイを見せつける。そこにはバッチリと[5月3日 土]と表示されていた。

 

「あ……ほんとだ……」

 

「…………」

 

「…………」

 

数秒の間、何とも言えない沈黙が二人の間を支配する。その沈黙を先に破ったのはミクの方だった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ったく……いくら楽しみだからって、ちゃんと日付の確認くらいしろ。おかげで俺の貴重な睡眠時間が削られたろうが」

 

「ごめんごめん! でも、折角だからどっか行かない?」

 

「折角の意味が解らん。それにどこにも行かねぇよ。明日一日出かけるんだから今日くらい家に居させろっつーの」

 

 正直な話、二日連続で外出をするなど俺の体力的にも財布の中身的にもかなり問題があるので今日くらいは家でおとなしくさせていただきたいのだ。そんな訳だからそそくさと玄関のドアを閉めようとしたその時

 

「それじゃあ、駿君の部屋にお邪魔するね?」 

 

とミクがさも当たり前のように俺の部屋へと上がり込んできた。

 

「ちょっ……!? 誰も入っていいなんて……」

 

そう言いながら慌ててミクを止めようとするも

 

「いいじゃん! どうせ隣なんだし、一階駿君の部屋見てみたかったしさ。ね、良いでしょ?」

 

「……っ」

 

ミクお得意の天使のごとき微笑みを返され一瞬硬直してしまう。そしてその隙に上がられてしまった。

 

(…………なんか、もうどうでもいいわ)

 

この様子だと強行手段に出ないとミクを追い出せそうにない。だが、流石にそこまでやらなければならないほど見られたくないものも無いし、何よりめんどい。ということで

 

「ミク、俺ちょっと着替えてくるからその辺で待っててくれ。間違っても物壊すなよ!」

 

それだけ言って返事も聞かず寝室に入って着替え始めた。

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

「……ここが駿君の部屋かぁ」

 

 駿君の部屋に上がらせてもらって、彼が着替えに行っている間に部屋に置いてあるテーブルのそばにあった座布団の上に座る。そして何か面白いものは無いかと辺りを見回す。でも、視界に入ったのは綺麗に整頓されたゲームカセットの置いてある棚と漫画や小説の並べられた棚ぐらいしかなかった。

 

(思ったよりも綺麗なお部屋なんだなぁ……)

 

 正直言って、普段の駿君の言動からもっと色んな物が散らかってる部屋だと思ってたから予想以上に整理整頓がされている、って言うのが本音だった。

まぁ、そんなことを面と向かって言っちゃえばまた駿君は不機嫌になっちゃうだろうからそんなことは言わないけれど。

 

「とりあえず、テレビでも見させてもらおうかなぁ」

 

 ただ待っているだけっていうのもなんだか退屈でしょうがないので、とりあえずテレビでも見ようかと思ってリモコンを探してみる。

 

「…………どっちがテレビのリモコン?」

 

リモコンらしきものはすぐに見つかったけれど、駿君の部屋のテレビは私の部屋のブラウン管のテレビと違って比較的新しいテレビだったからリモコンの形がどんなものかは分からなかった。

いや、でもリモコンって大抵似たような形してるからすぐに見つけられるはず……。って言うか見つけたんだけど……その見つけたリモコンの隣に良く似た形のリモコンがあってどっちがテレビのものかが分からなくて今すごく悩んでたりする。変に触って壊した日には何されるか分からないし……

 

「おいミク、何やってんだ?」

 

「ひゃあ!! も、もう駿君! びっくりさせないでよ!」

 

 真剣にどっちのリモコンがテレビのものか悩んでいるうちに駿君が着替え終わってたらしくて、後ろから声をかけられてた。でもいきなりのことだからびっくりして大声をあげちゃったけどこれは私のせいじゃない。むしろいきなり声をかける駿君の方が……

 

「いや、俺のせいじゃないだろ。それにいきなり声をかけられたって普通に寝室のドアの音聞こえなかったのか?」

 

「!? なんで私の考えてること分かったの!?」

 

「なんでって……あからさまに『いきなり声を掛けられてびっくりしたのは私のせいじゃない』みたいな顔してるからだ。しかも責任転嫁する気だったろ?」

 

「うっ……」

 

痛いところを突かれて、何も言い返せず言葉に詰まる。そんな私を見た駿君は大きなため息をひとつ吐いて

 

「……ったく、大方そのリモコンのどっちがテレビのか分からなかったんだろ? テレビのリモコンは右側だ」

 

そう言いながら机を挟むように私の向かい側に座った。

 

「あ、ありがとう」

 

 とりあえずお礼を言って右側に置いてあるリモコンを手に持ち電源ボタンを押す。

 

「……で? 何見るんだ?」

 

机に頬杖をつきながら私の方を向いて駿君が聞いてきたけど、それに対して私は少し苦笑いをしながら

 

「いや、別に何かを見ようって思ってたわけじゃなくて駿君が来るまで暇つぶしに見ようって思ってただけだから」

 

って答えた。

 

「あ、そう」

 

「…………」

 

 なんだか気まずい雰囲気が漂い始めてきた。それでも、あんまりわがままばっかり言って駿君を困らせる訳にもいかない。だから我慢をしていたけれどとうとう限界が来た私は思い切ってどこかに出かけないか問いかけてみることにした。

 

「ね、ねぇ……やっぱりどこかに……」

 

「行かねぇっつったろ。そんなにどっか行きたいいなら一人で行ってくれ。俺は金銭的にも体力的にも無理だからな」

 

「…………う」

 

予想はしていたけれど、案の定断られてしまった。よくよく考えてみれば駿君の言う通りで、この人だって一人暮らしをしているんだし見たところバイトをしている訳でもないのだからそんなに毎日遊びに行けるくらいお金に余裕がある訳が無い。

 

(やっぱり私は皆とは違うんだ……)

 

 私は一人暮らしでもそれなりにお金に余裕がある。もちろん自慢の意味でなんか言ってるわけじゃない。でも、他の人からすればとても羨ましいことなんだろうけど、それは私にとってはある意味当たり前のことだった。

 そんな私は一人暮らしをし始めてから私の『普通』は皆の『普通』と違っていることを痛感させられることがとても多くて、その度に思い出したくない昔のことを思い出してしまうことが多かった。

今日だって、本当は土曜日だって知ってた。知ってたけれど、忌まわしい昔の記憶の夢を見て到底今日一日を一人っきりで過ごすことなんてできそうになかった。

だから、曜日を間違えたふりをしてちょっと無理やりにでも駿君の部屋に上がらせてもらうことにした。……やっぱり怒ってるかなぁ。

 そんなことを考えていると突然駿君がテレビの方を見ながら私の名前を呼んだ。

 

「なぁミク」

 

「……なぁに?」

 

一体なんだろうって思って駿君の方を向くと……

 

「お前、彼氏とかはいないのか?」

 

「えっ………?」

 

あまりにも突然過ぎる、そして絶対にこの人の口からは聞かないだろうなって思っていた質問が彼の口から飛び出してきて頭が真っ白になった。

 

「あ、やっぱ彼氏いるのかお前?」

 

真っ白頭のまま、かろうじて駿君の質問を理解した私はつっかえつっかえになりながらも

 

「え……い、いや……私は彼氏なんていないよ?」

 

って答える。そんな私に駿君はさらに質問を重ねてきた。

 

「ふぅん? じゃあ好きな人は?」

 

どうして駿君はこんな質問を私にしてくるんだろう? そんなことを聞いてこの人はどうするつもりなのかな?

 

「……えっと……」

 

いないよ、と言いかけてそこで言葉に詰まる。……だって『好きな人』って呼べるかどうかは分からないけれどそれっぽい気になっている人が今、私の目の前に居るから……

 そんな私の沈黙を肯定の意味だと思ったのか、それとも単に興味を失ったのか駿君は言葉に詰まった私の方を見て

 

「まぁ、答えたくないなら無理に答えてもらうことも無いけどさ。仮にそう言う人がいるんなら早いとこ俺の部屋から出てった方が良いと思うぞ? もしそう言う人にお前が俺の部屋から出てくるところを見られたら変な誤解をされかねないだろうしな」

 

そう言った。その後に本当に小さな声で

 

「ま、クラスの連中からも嫌われてるみたいだしな、俺」

 

って言ったことも私は聞き逃さなかったけれど。……それを聞いて心がずきっと痛む。どうしてだろう? 私が嫌われている訳じゃないのに、まるで私が嫌われているかのような錯覚すら覚えてしまった。

 

「……? どうしたミク?」

 

「あ……ううん! 何でもないよ?」

 

「……? そうか。ならいいけど」

 

(……何だろうこの気持ち。なんだかくすぐったいような……それでいて心が締め付けられるような感覚……)

 

 なんだか、最近になってからだけど駿君の前に居るとこんなような気持ちになることがたまにあった。それと同時に、この人が悪口を言われているのを聞いたりするとどうしようもなく悲しくなったりもすることがあったりもした。

確かに、今駿君はクラス内ですごく嫌われてる。人付合いが悪いとか、態度がなんかムカつくだとかそんなことばっかりを聞いているような気がする。実際、その通りなんだから仕方のないことと言えばそれまでなんだろうけど。……厄介なのはそれを本人も自覚はしてて、直す気なんてないってこと。

 それでも、傍から見れば人を遠ざけているようなことばっかりしているような駿君はどうしてだか私に対してはそんなに避けようとしていなかったりする。私がどこかへ行こうと誘えば文句を言いながらでもついて来てくれるし、何かと気を遣ってくれることだってある。

そこにほんの少し矛盾を感じたけれど、それがいったいどういうことかが分かるのはもう少し経ってからのことだった。

     ・

     ・

 それからしばらくの間はただ二人でボーっとテレビを眺めているだけだったけど、お昼ごろになって駿君のお腹が盛大な音を立ててなったのをきっかけに二人でお昼ご飯を食べることにした。

その時にお昼の材料を自分の部屋から持ってきたら

 

「……ミク? お前ネギを5本もどうするつもりだ?」

 

って駿君に聞かれたから迷わず

 

「もちろん、お昼ご飯に使うんだけど?」

 

そう答えたら、そうか、となんだか疲れたような表情でため息をつかれてちょっとムッとした。良いじゃんネギの5本くらい!

 まぁそんなこともあったけどお昼頃からは午前中と違って駿君もお話してくれたからたくさんおしゃべりをして時間を過ごした。

 

「……でね、おいでって言ったらその野良猫、私の方に近寄ってきて体を擦りつけてきてくれたの! もうすっごく可愛くてさ!!」

 

「あぁ、そう言う猫いいよな。あとあごの下撫でたりすると喉鳴らしてくれる奴。マジで癒されるわ~」

 

「そうだよね! やっぱり猫って可愛いよね!!」

 

「でも、犬も結構可愛いと思うぞ? 犬種によるけど」

 

「ん~……犬も確かに可愛いけどさ。ちょっとなんか元気過ぎて苦手って言うか……」

 

「そうか? それくらいが犬らしくて丁度良いと思うけどな?」

 

 正直なことを言うと自分でもこんなに楽しく男の子としゃべるなんて初めてだと思った。それに駿君と意外にも話が合ったことに驚いたし、それと同時になんだか嬉しくも思った。

 

「……ねぇ、そういえば駿君って彼女とか好きな人っているの?」

 

 なんとなくそのことが頭に浮かんで、思わず聞いてみる。そんな私の質問に駿君はだるそうな表情で

 

「あ? ……いるわけねぇだろ。俺がそんな奴に見えるのか? つーかそもそも彼女とかいらないし。もっと言うと恋愛とかめんどいし。やってらんねーし」

 

「そっか……」

 

『彼女なんていらない』。その一言を聞いて心がずきっと痛む。そんな私をよそに駿君は私の方を向いて質問をしてきた。

 

「そーいえば俺の方からも質問があんだけど?」

 

「えっ……な、何?」

 

 ここでいきなり変なこと聞かれたら恥ずかしくて死んじゃいそうだから先に先手を打つことにしようかな。

 

「す、スリーサイズと体重は教えないからね!」

 

よし。これで大丈夫。これで恥ずかしい思いは絶対にしない。……だって私、胸小さいし……間違ってもそんなこと男の子の前とかじゃ言えないし……。体重だって恥ずかしくて教えらんないし……。

 

「……あのな、そんなアホみてぇなこと聞かねぇから。そんなこと聞いても俺わかんねぇし。つかスリーサイズってなんだし」

 

「え……?」

 

驚いた。まさかスリーサイズを知らない男の子がいるなんて。ま、まぁ、それはいいとして……

 

「そ、それより聞きたいことって?」

 

「ん? あぁ、お前なんか今日やたらと様子おかしいけど大丈夫か? 明日出掛けるんだし、体調悪いなら早めに自分の部屋戻っといた方が良いんじゃねぇの?」

 

「あ……」

 

 まさか気付かれているなんて思ってもみなかった。確かに、嫌な夢を見て目が覚めて一人で痛くないからって無理やりに部屋に上がってきたらそれはやっぱり気付かれちゃうかな。

 

(でも、ここで駿君に心配をかけたくはないな……)

 

正直に言ってもいいかもしれないけれど、そんなことを言ったら馬鹿にされちゃうかもしれない。高校生にもなって怖い夢にビビるのかって……。もしそうでなくても、変な誤解をされそうだし。

そう考えた私はとりあえず誤魔化すことにした。

 

「き、気のせいだよ! 私は至っていつも通りだし、別に気分が悪い訳じゃないから大丈夫だよ!」

 

……上手く誤魔化せたかな?

 

「…………そうか。ならいいけどさ。余計なお世話だったみたいだな? 今のは忘れてくれ」

 

何とか誤魔化せたみたい。そのことに少しだけ安心した瞬間、突然昔の記憶がフラッシュバックしてきて息が苦しくなった。

 

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