結局、ミクの奴は一日中俺の部屋に居座っていた。
(まぁ、話の種が思っていたより尽きなくて俺も退屈しなかったからいいんだけどな)
そんなことをぼんやりと考えながらふと時計を見る。……いつの間にかもう既に午後4時を回っていた。それほど話に夢中になっていたのだろう。……俺にしては随分と珍しいな。他人と話すことなんて嫌いでしょうがないのに。
そんな俺にミクが好きな人はいるかって言う質問をしてきたから思っていることをそのまま口に出す。その時ミクの顔が少しだけ悲しそうな表情になったが、どうしてそんな顔をするのか俺には理解できなかった。
理解できないついでに、なんだか今日一日ミクを見てて思ったことがあったからそれを聞いてみることにするか。
「そーいえば俺の方からも質問があんだけど?」
……そんなに身構えんなよ。変な質問しねーから。
そんな俺の心の声も虚しくミクは俺がイヤラシイ質問をすると勘違いしたのか、スリーサイズと体重は教えないとかぬかし始めた。誰が聞くかそんなもん。興味ねーし、体重なんて見た限りじゃお前ぜってー軽いだろうが。それにスリーサイズってなんだよ。男子の俺に女子の専門用語出すんじゃねぇよ。
まぁ、そんなやり取りをした後に今日の様子がいつもと違っていることを指摘するとどうやら図星だったようで明らかに目を泳がせながらも誤魔化してきた。
だが、あまり深く突っ込むのも良くなさそうなので納得したふりをしておく。どうやらミクの方は本当に俺が誤魔化されたと思ったらしく一瞬安心した表情をしたがその直後に突然苦しそうな表情になり
「っ! は……ぁ……う……」
胸を押さえて苦しそうにし始めた。
「お、おい! 大丈夫かミク!?」
慌ててミクに近寄ったものの、一体どうすればいいか分からなかったんでとりあえず背中をさする。ミクの息が荒い。脂汗も額に浮かんでおり、どうやら演技とかそんなふざけたものではなさそうだ。
「一回部屋に戻れ。……立てるか?」
俺の言葉にミクは頷くものの、やはり苦しそうだ。これは肩を貸した方がよさそうだな。
「はぁ……はぁ……だ、大…丈夫だよ? 一人……で戻れる……から……」
一体どうしてこいつはこんなにも苦しそうなのに笑顔までも浮かべて必死に心配をかけまいとしてくれるんだろうか? それが解らず若干イラッとしながら
「まともに喋れねぇ奴が生意気言うな。黙って掴まれ」
そう言ってミクに肩を貸して玄関に向かう。
「ご……めんね……」
「…………」
ミクの謝罪は聞かなかったことにして玄関を抜け、隣のミクの部屋へと向かいミクから借りた鍵でロックを解除しミクの部屋に入る。この様子だと寝室に寝かせたほうがよさそうだと判断した俺は、ミクを寝室に連れて行きそこにあるベッドに座らせた。……それにしても綺麗な部屋だな、ここ。
「……で、大丈夫なのかお前」
さっきほどではないにしろ、まだ少し苦しそうにしているミクに向かってそう問いかける。まぁ、まともな返事が来るなんて期待してないけど。
「う……ん。大丈夫……だよ。ちょっと……息が苦しくなっただけだから」
「…………そうか。とりあえず、しばらく寝てろ。夕飯くらいになったら起こすから。どうせ、そんなザマじゃしばらく何もできねぇだろ」
「……うん。ありがと」
とりあえず、しばらくはこっちの部屋に居座ることになりそうだからいったんあっちの部屋に戻って標準装備、もといゲーム等々を持ってきてあっちの部屋をロックしておくか。
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『ミク! 危ない!!』
何が起きてるのか分からない。突然お母さんの声がしたかと思ったら体が突き飛ばされた。そのすぐ後にお母さんの悲鳴とガンッ! って言う鈍い音が聞こえてそっちの方を向くと、お母さんが宙を舞っていた。
『あ……』
そう声を上げるとのお母さんが地面にたたきつけられるのと、どっちが早かっただろう? とにかく、お母さんの所へ……
『来ちゃいかん!!』
行こうと思った瞬間、聞き慣れないおじさんの声がしてがっちりと抱きしめられお母さんがいる所とは反対の方向へ連れて行かれる。
『!? 離してよっ! お母さんの所へ行かせてよ!!』
おじさんを叩きながらそう叫んでいると、急に目の前が真っ暗になった。
次に目に飛び込んできたのは学校の風景。そこで今どういうこと状況かが分かった。
(あぁ……これは夢……なんだ……)
そう、これは夢。私にとってはトラウマ以外の何物でもない、忌まわしくて封印したい記憶の悪夢……
……どこからか女子生徒の声が聞こえる。
『ねぇ聞いた? うちのクラスの初音さん、やっぱり○○のお嬢様だってよ?』
『あ~知ってるよそれ! なんとなく聞き覚えがあると思ったけどやっぱりそうだったんだ』
『そうみたい。まったく、それなら最初からそう言えばいいのにそれを隠すなんて……お忍び気分で学校生活を送ってるつもりなのかな?』
『そうじゃん? ほんっと、お嬢様はお嬢様らしくしてもらいたいよね~。変に平民を気取られてもムカつくだけだっての』
その言葉に思わず大きな声で言い返してしまう。
『そっ、そんなことないよ!』
その声に反応した女子生徒がこちらに向かってくる。……その顔はまるで黒い靄(もや)がかかっているようで、口元しか見えない。そして、その口元は笑っているのか唇がつり上がっていた。
『へぇ~? それじゃああなたはどうしてそんなに私達の『普通』でいたがってるの? あなたはあなたの『普通』で暮らせばいいじゃない』
『そ、それは……』
『そうそう! あなたは○○のお嬢様らしく暮らしていればいいじゃない。どうしてわざわざ私達平民の生活をしようとしてるの?』
『だ、だって……』
いつの間にか、目の前にはさっき会話していた女子生徒だけじゃなくてもっとたくさんの人がこっちを見ていた。……その顔はすべて黒い靄に覆われていて口元しか見えない。でも、その口元も全て目の前の女子生徒と同じく唇がつり上がっていた。
『や、やめて……そんな目で私を見ないでよ!!』
[あなたはお嬢様なんだから。私達とは違うんだから。あなたはお嬢様らしく生きていけばいいじゃない]
そんな声が四方八方から聞こえてくる。じりじりと後ろに後ずさっていくと、誰かにぶつかった。そこには…………
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「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「どうしたミク!?」
私の声に驚いた駿君が慌てた表情で部屋に飛び込んでくる。その姿を見て、夢が覚めたんだと分かった。途端に涙があふれ出す。そして、心配そうな顔をして近寄ってきた駿君に思わず抱きついてしまった。
「お、おい……大丈夫か?」
「ひっく……ぐずっ……」
「………………」
抱きついてきた私を見て、状況を理解してくれたのか何も言わずに駿君は私の頭をぎこちなく、でも優しくポンポン、と叩いた。
しばらくそうしていて、落ち着いた私は駿君から離れる。
「ごめんね、いきなり取り乱しちゃって……」
さっきの私を見てきっと駿君はびっくりしただろうからとりあえず謝る。
「……別に構わん。よっぽど嫌な夢でも見たんだろ?」
「うん………ごめん……」
「別に謝ってもらう必要はねぇよ。……とりあえず、ココアでも飲むか?」
「あ、うん。お願いします」
はいよ、と一言返事をして駿君が寝室を出ていく。ほんの少し経った後、駿君がコップを二つ持ってきて、片方を私に手渡してくれた。
「ありがとう……」
お礼を言って、手渡されたココアを一口飲んでみた。そのココアは熱すぎず、でもぬるい訳じゃなくてしかも丁度良い甘さでとっても心が落ち着く味だった。
「……おいしい」
「そりゃ良かった」
そう言って、駿君もココアを啜(すす)る。それから少しの間沈黙が流れた。
「……………」
「……………」
そんな沈黙を先に破ったのは駿君だった。
「明日、出かけられんのか?」
駿君の口から飛び出した質問は当然と言えば当然の質問。誰だって目の前で発作みたいなものを起こされたり悲鳴を上げて目を覚まされたりしたらそんなようなことを聞くと思う。
「うん。大丈夫。まだちょっと学校生活に慣れてないみたいでさ、疲れちゃってたみたい」
嘘じゃないけど、本当のことでもない気がする。自分でも、嘘をついているかそうでないかの区別が付かない。
「……そうか。ま、無理はすんなよ? 明日に響いたら困るしな」
どんな夢を見たんだとか聞いてこないところに彼の優しさを感じる。なんだかんだでやっぱり駿君は私のことを気遣ってくれているのかな?
「心配してくれて、ありがとう。でも、私は大丈夫だから」
そんな気を遣ってくれてる駿君に心配をかけないようにと、出来ているかどうか分からない笑顔を見せた。
「……隠せてねぇぞ、その気遣い。ま、せいぜい明日は遅刻しないようにな?」
「え……」
若干の呆れ顔とドヤ顔を混ぜたような表情でそう一言言った駿君は、じゃあなと手をひらひらさせて私の部屋から出て行ってしまった。
(……敵わないなぁ)
悠々と私の部屋を出ていく駿君を見ながら思わずそんなことを考える。私の考えていることなんて、もしかしたら彼にはすべてお見通しなのかもしれない。
そんなことを考えた後、私のトラウマが少しだけ頭の中に浮かんだ。またあの人に迷惑をかけないようにと、慌ててそれを打ち消す。
いずれは向きあわなきゃいけない時が来るかもしれない。でも今は……今だけは忘れていたかった。
「明日は、みんなに迷惑かけないようにしなきゃな……」
そう誰に言うでもなく呟いて、私は明日の準備を始めた。
しばらくは更新速度も一定になるかと思います。なんとか大学にも合格できましたし。
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