「ほらリン! さっさと起きろ!」
今日の日付は5月4日、日曜日で現在時刻は9時10分。
日曜日なのだからもう少し寝かせてやれば、という意見もあるかもしれない。というか俺もそれには賛成だ。だけど今日はそんなことを言っていられない用事がある。なのにリンの奴は……
「ん~……後ちょっと寝かせてよ……」
さっきからずっとこんな調子だ。ほんとにそろそろ起きてもらわないと集合時間に遅刻しちまうんだからさっさと起きてくんないかな……。しかもその用事を作ったのはリン自身だと言うのに。
「ほら! さっさと起きろってんだ!!」
我慢の出来なくなった俺はまたそのまま夢の世界へと旅立ちそうなリンの布団を引っぺがす。それに驚いたリンが慌てて飛び起きこちらを睨みつけた。
「きゃあ! ちょっとレン、何すんのよ! もし私が下着だったら考えない訳!?」
「誰がお前の下着姿なんかに興奮するか」
なにを~!? と両手をぶんぶん振り回しながら朝からぎゃあぎゃあわめき散らすうるさい姉の頭を押さえつけて
「文句言ってないで出掛ける準備しろ。このままだと俺達遅刻だぞ」
と言うとリンは予想だにしない返事をしてきた。
「遅刻って……今日学校じゃないでしょ?」
「……………はぁ」
「ちょっと! 何その呆れ顔とため息は!?」
てんで話にならない。まさか自分でミク姉ちゃんと遊びに行く約束をしておいてそれを忘れるとは……なんかもうなぁ……
仕方が無いので今日は何の用事があるのかリンに懇切丁寧に説明してやる。
「今日はミク姉ちゃん達と遊びに行くんだろ? お前この間約束してたろうが」
その言葉を聞いたリンの顔が一瞬にして真っ青になる。そして次の瞬間
「レン! い、今何時!? ねぇ何時!?」
と俺の方を思いっきり揺さぶってきた。おい……やめろ。そんなに揺さぶったら俺の朝飯が胃袋からリバースされるぞ……
・
・
「「いってきまーす!!」」
「はーい。気をつけてね」
俺達二人は声をそろえて家を飛び出し、母さんの声を背中に受けてそのまま集合場所に向かって走り……出す前にリンが止まった。
「おいリン! 何してんだ!? 早くしないと遅刻……」
「……集合場所どこだっけ?」
お前って奴はぁぁぁぁぁ!! と住宅街のど真ん中で叫ぶ訳にもいかないしそんな根性も無いので、俺は大きくため息をつきながら
「駅前だ。ほら、早く行くぞ」
そう言って駅に向かって走り出した。これ以上こいつの面倒見てたら本当に遅刻しかねん。もうついて来れないなら置いていくしかねぇな。
「レン! 遅い!!」
……前言撤回。ダメだ、このままだと俺が置いていかれる……って言うかリンの奴足早すぎだろ。あいつどんだけ全力疾走してんだよ。事故るぞ?
「ほらほら! もたもたしてると置いてくよ!?」
どこの青いハリネズミの決め台詞パクってんだよ。お前は音速で走んのか? そんなドヤ顔しなくていいから前を見ろ前を。
……普通はこのやり取り男の俺がリンの立場なんだろうけど生憎(あいにく)俺は運動が苦手だ。逆にリンの奴は運動が大好きだからそれなりに体力もあるし運動神経もいい。
世間一般では男子の方が運動神経が良いようだが、それはあくまで一般論。世の中全員が一般論に当てはまるんならきっともっと何事も上手くいく世の中なんだろうけど、現実は違う。だから別に女子より運動神経が無くってもいいじゃないか。人間だもの。
・
・
で、そんなことを考えつつも全力疾走すること数分。ようやく駅に着いた。もう無理だ……しばらく走れそうにない……。リンの奴も少しペース考えてくれたっていいだろうが……
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……あ、あれ? お姉ちゃん達……まだ来てないのかな?」
「ゼェ……ゼェ……し、知るかそんなの……」
こっちはお前のむちゃくちゃなペースに付き合わされて周りを見る余裕なんてねぇんだよ、とは言わなかった。と言うか言うタイミングが無かった。何故なら……
「お~い!! はぁっ……はぁっ……はぁっ……ご、ごめん……ま、待った?」
今にも倒れるんじゃないかってくらいに肩で息をしながら膝に手をついたミク姉ちゃんとそれほど疲れた様子を見せていない駿兄が来たからだ。
「お、お姉ちゃん大丈夫? すごく辛そうだけど……」
肩で息をして未だ呼吸の整わないミク姉ちゃんにリンが心配そうな声をかける。でも、ミク姉ちゃんは笑顔を見せて
「大丈夫……だよ! ちょっと久しぶりに走ったから疲れちゃっただけでさ」
と答えた。まぁ、本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なのかな? そんなことを考えているとミク姉ちゃんの隣に居た駿兄が
「だから、もう少しゆっくり走れっつったんだ」
ため息をつきながらそう言った。それに対してミク姉ちゃんは
「だってそしたら遅刻しちゃうでしょ!?」
って反論したけど、もとはと言えば寝坊するお前が悪いとあっさり駿兄に切り捨てられて若干ぶすっとする。そんな様子を見て、なんとなくお互い女子に振り回されてるなって駿兄に親近感がわいたけどそれは言わない。……言ったらどんなちょっかい出されるか分からんしな。主にリンに。
「皆~! 早く行こうよ~!!」
そんな噂のリンはいつの間にか改札の目の前に立って、俺達の方を向いて声を上げる。周りの人からかなり視線集めるんだから公衆の目の前で大声は出さないで欲しいんだけどな……
・
・
・
・
・
遅刻ギリギリになってリン達との集合場所である駅に到着した俺達は、早く行こうとリンに引っ張られる形で改札を抜けた。
「……それにしても、今日は一体どこに行くんだ?」
昨日ミクに聞こうと思っていたのだがその本人があの状態だったから聞こうにも聞けず、結局どこに行くか良く分からないまま今日を迎えてしまった。
そんな俺の呟きを聞いたのか、隣を歩いていたレンが若干呆れたような表情で
「駿兄、どこに行くか聞いてないの?」
と問いかけてくる。……ガキの癖になんか生意気な奴だな。まぁ、俺がこいつの立場でもおんなじような態度を取るだろうけど。
そんな考えは表に出さず、頭を掻きながらレンに問い返す。
「あぁ、まぁ昨日聞きそびれちまってな。で、今日はどこ行くんだ?」
「遊園地だよ。なんかやたら名前が長くて正式名称は覚えてないけど」
どんな遊園地だよ。正式名称が長すぎて覚えられないとか、それでいいのかサービス産業。……いや、逆に覚えられないことでインパクトを与える寸法なのか?
「……で、今日はそこに……って駿兄聞いてる?」
「ん? あ、あぁ……なんか言ったかレン?」
「……何でもない」
しまった、ついどうでもいいことを考えてレンの話を無視してたわ。おかげでレンはへそ曲げちまったみたいだが……。ま、行き先が遊園地だって分かっただけまだマシか。
それにしても……
「ねぇねぇ! ミクお姉ちゃんは遊園地言ったらいつもどんなトラクションに行ってるの!?」
「り、リンちゃん……声大きいってば」
本当にリンは中学生なのだろうか? たかだか遊園地程度で周りが見えなくなるほど興奮するのは小学生くらいで卒業しろよ。
ふと隣を見ればレンの奴が思いっきりため息をついていた。この様子からするとどうやらリンは年がら年中この様子みたいだな。レン、乙。
そんな呆れる俺達をよそにリンの奴は未だ大声でミクに話しかけ続けていた。
「ところでお姉ちゃんはジェットコースターに乗ったことある!?」
「だからリンちゃん、声大きいってば……」
いつも元気で活発なミクも、流石にリンのパワーにはたじたじのようだ。周りの人の視線を気にしながらおろおろして何とかリンとなだめようとするも、まるで効果は無かった。
どうしようもなくなったミクは、どうやらリンをなだめるのをあきらめ会話に応じることにしたようだ。
「えっと……私、実はジェットコースター乗ったこと無いんだ……」
おずおずとそう言ったミクの言葉にリンがさらに声を張り上げる。
「えぇ~!? お姉ちゃんジェットコースター乗ったこと無いの!?」
「ちょっ……リンちゃん声大きいってば!」
またもミクが慌ててリンを制止するが、まぁ当然その制止は意味をなさず周りの人からの視線が一気に集中する。……流石にここまで来ると他の乗客からの視線が厳しいものになるな。
が、そんなものはお構いなしに未だリンは大声でミクに話している。そろそろ本格的に俺も止めに言った方が良いのだろうか?
「ジェットコースターに乗ったこと無いなんて……お姉ちゃん人生の4割は損してるよ!!」
(いや、それはないだろ。っつーか4割ってまだずいぶんと中途半端な数字だな)
心の中でそうツッコミを入れるが、口には出さない。と言うか出したところで本人には届くまい。
そんな俺をよそに、ミクがリンの熱血PRに反応を示した。
「え、そんなに面白いの? ジェットコースターって」
その言葉を聞いたリンは、待ってました! と言わんばかりに断言する。
「そりゃあもう! 乗れば分かるよ!」
だが、そんなリンの反対側、俺の隣に座っていたレンがかったるそうに
「わりぃけど俺はパス」
とジェットーコースターにおることを拒否した。その言葉に驚いたリンがレンも一緒にと
「え~っ! またレン乗らないの!? せっかく皆で来たんだから一緒に乗ろうよ!!」
そう言うもののレンは態度を全く変えずに
「断る。あんなただ高速でグネグネ移動する乗り物の何が楽しいんだよ?」
と吐き捨てるように言った。途端にリンの顔から笑顔が消えて半泣き顔になる。
「レンの馬鹿! せっかく皆で来たのにどうしてそんな意地悪言うの!?」
「あぁ? お前がわがまますぎんだよ。遊園地で何に乗ろうが俺の勝手だろ」
あ~あ、また随分と面倒な展開になってきたな。こりゃお互いをなだめすかすのも一苦労だぞ……。とはいえこのまま遊園地に行っても気分が悪いままになりそうなのでレンをなだめることにする。
「レン、流石にちょっと言い過ぎじゃないのか?」
状況的にはレンの方に非があるのだろう。だが俺は説教はしない。いや、出来ないと言うべきか。だから声をかける程度にしよう。
そんな俺から顔をそらしながらレンは
「別に……これくらいいつものことだから」
と言った。その表情に反省の意は見受けられない。だが、その代わり
「……あんなものに乗ったら俺の寿命が縮むっての」
なんてレンの本音がぼそっと聞こえた。……これはいいことを聞いたな。
恐らくレンがジェットコースターを拒否した理由は……
「おいレン。お前、もしかしてジェットコースターにビビってんだろ?」
これだ。リンもリンならレンもレンだな。お前ら双子はどこまで言っても似た者同士だと思う。怖いからって屁理屈を並べるのは子供のやることだろうに。
なにはともあれ、そこは男のプライドを捨てられないレン。思わず俺に向かって反論を始める。
「なっ……!? そ、そんなわけねーじゃん! あんなもの怖くもなんとも……」
そこで止めんなよ。せっかくなら最後まで気づかないで言い切れよつまらんな。ともかく、俺の罠に気付いたレンは慌てて口をつぐむが時すでに遅しだよ。
「へーそうか。じゃあ乗っても大丈夫だよな? と言う訳でリン。レンはジェットコースターに同乗するぞー」
「ぐず……ほんとレン? 一緒に乗ってくれる?」
うわ、でたよ女の必殺『上目遣い+涙目』。これは流石のレンも断れないだろ。俺がミクに同じことをやられても負けそうだし。
「お、おう……乗ってやるよ……」
結果、退路を完全に断たれたレンはジェットーコースターに乗ることになった。一瞬レンが殺意のこもった視線を俺の方に送ってきたようだが、割とどうでもいいのでスルーだスルー。
そんなレンから顔をそらすと、丁度ミクと目が合った。そんなミクはウィンクをしながらこちらにVサインを送ってきたのでこちらはとりあえず親指を立てておく。
しかし……今回のことから学んだこと、というか俺にとっては再確認だけど。それをレンに伝えておくか。
(……って半分逝ってんじゃねぇか)
どうやら行きたくないアトラクションに乗ることになりかなりの絶望を覚えているらしい。目が半分逝ってしまわれている。が、とりあえず人生の先輩としてアドバイスくらいしておくか。
「女ってのはな、泣かせない方が良いんだぜ? 後で何されるか分からんからな」
最近小説の執筆よりゲームにばっかり手が行ってしまって全く執筆できない……
失踪しないようには気をつけます……