真紅き意志の串刺竜公 -Scarlet Will `Ţepeş`-   作:あるかなふぉーす

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第一話で早くも作者の駄文っぷりが露見してしまった。

バレンタインにカップルを見ながら、リア充どもに一日に五回顎が外れる

呪いをかける作者です。


第一話 湊理 《前編》

 

 

ここ、日本に来てから早、八十四年。

 

表現上、同音である八十余年も、まあ間違いじゃない。

 

それは、人間に換算するところの約一生涯分の時間だ。

 

でも。

 

僕はそれほどの久遠の時間を経てしても、

 

現代日本の生活に馴染むことはできなかった。

 

 

1

 

五月某日、喧騒に満ちた市街を江崎蓮はただただ一人、歩いていた。

 

空は蒼く澄み渡っており、雲一つない。暖かな陽光が降り注いでいる。

 

まさに、五月晴れというやつだ。

 

しかし、残念にもこの晴れ晴れとした日光は僕にとっては毒でしかない。

 

 

「うーん」

 

 

気候だけは実に心地良いので思わず伸びをしてしまう。

 

 

「さて」

 

 

手をパーカーのポケットの中にひっこめ、

 

そして、周囲をきょろきょろと見渡す。

 

今日は特に予定もなく、適当に、適当なルートをぶらぶらしていただけなので、

 

今、僕がいる場所はどこなのか、なんてことは一切把握していないし、知る気もない。

 

そうやって、挙動不審すぎる程にきょろきょろしていると、雑踏の中ですれ違う、あるいは追い抜かれる

 

人たちが否が応でも目に入る。

 

つい、興味が湧いて、個々個体を観察してしまった。

 

通りに犇めく若者たちは皆、…なんだあれ?

 

さまざまなカラーの、すまほ?なるものを親指でこすりこすりしている。

 

愛玩動物か。

 

あんなのをなでなでしてどこが楽しいんだか。

 

やはり、現代人の思考は分かりかねる。

 

さてここで、お得意の人間観察も中断だ。

 

これからどうしようか、あるいは、どこへ行こうか、なんて諸々のプロセスを大胆にも全部スキップして、

 

再び、適当にぶらぶらを始める。

 

そんな感じで歩き続けること約数分。

 

「テナント募集」の張り紙がなされたビルを通り過ぎたあたりで、

 

 

「い、いや…」

 

 

不意に左方から声がした。

 

見れば、路地裏の入り口あたり、

 

複数、というか三人の大学生くらいの男たちが一人の少女――これは高校生ぐらいか?を、

 

ちょうど背後が壁になるように囲んでいる。

 

 

「やめてください…」

 

 

それは、ともすればすぐに大気中で消え入りそうな、本当に、か細くて、か弱くて、かすれ気味で、嗚咽交じりの

 

声ではあったが、この僕の聴力からすれば、まだまだ大きい方だ。

 

状況から判断するに、一昔前から断続的によく行われる、所謂「ナンパ行為」だ。

 

最近は、昔と比べると結構、過激になったものだ。

 

なんて、過去の懐古に耽りつつ、状況観察だ。

 

視界の開けている前方を三人の男に囲まれてはいるが、まだ視界の隙間はある。

 

少女は必死にその隙間から道行く人に視線で助けを求めるが、

 

誰もが気にしない、関わらない、即ち、無視、不干渉を決め込んでいた。

 

まあ。それも当然の行為だろう。

 

本当はここで助けに行くなり仲裁するなりするのが、倫理的にも人道的にも道徳的にも正しい。

 

しかし、果たして、この状況を見てそんなことができるだろうか?

 

恐らく、大抵はNoだ。

 

ここで、ヒーロー気取って、登場して、格好良く彼女を助けに乗り込む人がいたとして、

 

最終的には男全員からフルでリンチされて、ハイ、終わりだ。

 

男たちは皆、体格もいい方だ。結末は目に見えている。

 

そう、そしてそれを誰もが知っているから、誰も助けようとしない。

 

詰まる所、自分の身が一番、大事な訳だ。

 

自分の身を傷つけてまで行動に及ぶまでの状況ではないのだ。

 

ハイリスクローリターン。

 

他の理由はまあ、「目立ちたくない」のだろうか。

 

多くの人間は人から群れの中から突出するのを嫌う傾向がある。

 

「出る杭は打たれる」なんていう言葉が昔からあるくらいだから、それはもう本能的なものだろう。

 

即ち、ここで目立って正義漢面してもろくなことにはならないからしない方がいい、

 

という日本人独特の謙虚な精神が反映されているわけだ。

 

だから誰もが無視。誰もが無関心、そして不干渉。

 

まるで最初から彼ら彼女がいないかのように決め込む。

 

関心を示しても、やはり何もできずに、ただ見てるだけとなる。

 

皆、傍観者に徹するのだ。

 

 

「こんなのを、『傍観者効果』っていうんだっけ」

 

 

ぼそっと、小声で呟いた。

 

なら、僕も。郷に入っては郷に従え、日本式ルールに従って、僕も傍観者と相なろうか。

 

僕も成り行きをひっそりと見守った。

 

これぞ、人間観察の極みだ。

 

 

2

 

「ねえ、お嬢ちゃーん。いいでしょ?学校サボるくらいだったら俺たちと遊ぼうよ」

 

 

あの娘、学校サボってんのか?

 

そういや、今日は平日だっけ。

 

まさか、補導員じゃなくて、あんなナンパ軍団につかまってしまうなんて彼女もついてない。

 

 

「い、いえ…今日は学校の創立記念で…ちょっと都市中をふらついてただけで」

 

 

別にサボっていたわけではなかったのか。

 

にしても、あの少女はぶらぶらするのが趣味か。

 

と、僕が共通の趣味の人間の発見に僅かに歓喜している(別に趣味と決まったわけではないだろうに)と、

 

少女がいやいや、と首を横に振りながら、目尻に僅かな涙を浮かべて抗弁すると、

 

男たちはその子犬のような哀れな仕草に、互いに顔を見合わせ、フゥゥゥ!と興奮する。

 

 

「良いじゃん。良いじゃん。最高じゃん。つまり、合法ってことでしょ

 

 なら、折角の休みなんだし、お兄さんたちと遊びに行こうよ!」

 

 

どこに合法な要素があったかは知らんが、男たちに籠絡され、今や連れて行かれんとしている少女は

 

もうすぐで涙腺の堰が決壊しそうだ。

 

僕が、内心アワアワしながら傍観していると、

 

その時、目が合ってしまった。

 

少女と。

 

状況をずっと見ていた僕に一抹の、最後の希望を見出したか、少女は救世主でも見るかのような視線で

 

必死に「SOSかーらーのメーデー」サインを送ってくる。

 

やばいな。

 

退っぴきならない状況だ。

 

昔から、この縋る、求める視線が苦手なのだ。

 

そんな柄でもない人間だってことぐらい、当の昔から知っているのだ。

 

だが、それに反し、思わず、足が動きだしそうだ。

 

 

(おいおい、動いてくれるなよ僕の足!)

 

 

必死に僕はそれを自制し、その場に立ちとどまる。

 

自己葛藤の傍らでは。

 

 

「ったく、じっれたいな、おい。もういい、早く来いよ」

 

 

ついに業を煮やした男が少女の腕を強引に掴み、引っ張り、連れて行こうとする。

 

周囲に集まっていた、僕と同じ傍観者(ギャラリー)からは、「あっ」なんて声も上がる。

 

少女は、消えかけの声で「嫌ッ!」と慟哭しながら、腕を引き、抗っている。

 

ああ、連れていかれる。

 

 

「限界だ」

 

 

そう、もう僕は、

 

誰かを見捨てたくはないんだ。

 

 

「とんだ、偽善者だよ」

 

 

自虐的に呟き、僕は傍観者(ギャラリー)の群れを飛び出した。

 

自然、人々の視線が僕に集まる。

 

もう、視線。大嫌い。

 

僕はそれらを払拭するかの如く。

 

 

「やめろ」

 

 

それは、呟く程度の声ではあったが、その明確な冷気、重量、殺意とともにこの場、全て人々の耳には

 

届いたであろう。

 

男もそれに気づき、ゆっくりと顔をこちらに向ける。

 

少女の腕を掴む力が緩んだのか、少女は男の腕から逃れる。

 

 

「あぁ?!誰だ、お前」

 

 

と、眼垂れてきた。

 

しかし、僕はそれに一切構うことなく、怯むことなく、戦くこともなく。

 

 

「やめとけ」

 

 

端的に反復した。

 

その殺意をこめた言葉に、呼吸は消え、空気が凍りつき、ともすれば時間も止まった。

 

人々はそんな感覚を覚えただろう。

 

男ももちろん。

 

だが、その声の主が僕だと分かってか、それは一気に弛緩した。

 

 

「んだよ。誰かと思ったら貧弱そうなガキじゃねえか」

 

 

男は余裕あふれる声で嘲笑した。

 

傍観者(ギャラリー)たちも「こいつ、大丈夫か?」みたいな目で見てる。

 

だから、視線。嫌い。あと、痛い。

 

貧弱、ね。

 

確かに、僕の姿を見れば、そうかもな。

 

胴体に加え、四肢まで、ちょっと触れただけで折れそうな細見の肉体。

 

穢れを知らないような真っ白な肌。

 

中学生ほどにしか見えない低身長。

 

真っ赤なパーカーを着て、髪を隠すほどに深くかぶったフード。

 

確かに、悪く言えば、つい数日前まで自宅に引きこもってました、といった様相だ。

 

見えなくも、ないや。

 

ちょっとは鍛えようかな。

 

内心、自虐的に笑んで、

 

 

「とりあえず、その子を離してあげて、嫌がってるよ」

 

 

当たり障りのない、極めて優しい受け答えをした。

 

しかし、男は僕の、お気楽そうな態度を不快に思ったか、怒気を孕んだ口調で、

 

 

「あぁ?!テメェ舐めてんの?」

 

 

と、応えた。いや、応答にはなってないや。

 

とりあえず、「あぁ?!」とか言ってりゃ脅しになるとか、そう思うのはやめにした方がいい。

 

 

「いやいや、ただ、こんな真昼間から。恥ずかしくないのかな、って」

 

 

少し、挑発の意味を込め、男に言った。

 

男はその挑発にまんまと乗った。

 

 

「テメェ、ガキ!やっぱ舐めてんだろ!」

 

 

男は少女に目もくれず、僕との間合いを一歩ずつ詰めてきた。

 

そして、僕との距離が僅か5メートルほどになったころで、最後の挑発。

 

 

「舐められる価値もないでしょ」

 

 

男、完全に切れる。

 

そんな映画のタイトルっぽい(いや、全然っぽくない)ことを考えてから、内心、自言自笑してから、

 

男の方を中止すると、男は右手を振りかぶり、今まさに殴り掛からんとしていた。

 

だが、僕はそれで倒せるほど甘くない。

 

バックステップ、からの首を左に僅かに傾けるだけでそれを回避する。

 

男は、次いで左ジャブを放つが、僕はそれを首を後方に傾け、拳が顔面すれすれを通るように回避した。

 

男は前傾の攻勢を崩さず、右ストレートを放った。

 

 

「ガキが、粋がって英雄(ヒーロー)気取りかァ!」

 

 

ヒーロー?英雄?

 

 

(笑える。…やっぱ、笑えないや)

 

 

僕はそれを先と全く同じ動作で回避し、僕の顔横部分を通った拳を右手でつかんだ。

 

僕はその掴んだ右拳を、半身を使って反時計回りに360度回転させる。

 

その回転方向は、男にとっては手首関節の稼働しない方向だ。

 

よって、男は僕の放った捻動力の一切を受け流せず、その全てを受けてしまう。

 

その捻動力は右拳、右腕、全身へと伝わり、男は空中で大きく一回転した。

 

小さな右拳から大きな全身へ捻動力を伝達する。

 

輪軸の法則無視の力技だ。

 

ただし、手加減はしている。

 

見事な空中一回転を切った男は地面に背面から激突し、その衝撃を諸に受けてしまう。

 

おいおい、受け身も取れないのか。対人戦闘ど素人かよ。

 

周りからはヒュー、とかわぁー、などの歓声が聞こえる。

 

こいつら、こんな公開ヴァイオレンス執行を見てて、楽しいのか。

 

まあ、やってるの僕なんだけど。

 

この光景。あの時を思い出すなあ。

 

と、とある過去の忌まわしい記憶を少しよぎらせつつ、顔をしかめた。

 

まあ、周りは置いとき。

 

僕はその視線を、壁際でがくがく振るえてる男二人に向ける。

 

どうだどうだ、この視線。

 

辛いだろう。

 

……ばっかじゃなかろうか、僕。

 

僕は彼らを睥睨した。

 

男二人はハイエナに睨まれたバンビのように「ヒィィィィィッ!」と身を縮こめ、怯えている。

 

先の少女と立場逆転だ。

 

僕が彼らに一歩一歩近づくと、二人のうちの一人は戦慄する足で仲間を置いて逃げてった。

 

そして、残された一人。

 

男は周囲を見渡す。

 

僕の視線と傍観者(ギャラリー)と、あとは少女の視線を一斉に受けている男に、もはや

 

味方はいない。

 

終始、視線をきょろきょろと彷徨わせた男は、数瞬俯く。

 

追い詰められた男は、特攻まがいの突撃をかまし、

 

 

「オラァァァ!死ネェェェ!」

 

 

と、別に半殺しにすらならないような素人丸出しのハイキックを側頭部向けて放った。

 

僕は、それを躱すでもなく、ただ顔の横に出した、曲げた腕の肘部分で制した。

 

自然、肘は相手の足に刺さることになる。

 

しかも、むこうずねだ。

 

 

「グワァァァアアアァァ!!」

 

 

男は声を挙げて悶絶した。

 

 

「そりゃ、痛いよね。弁慶の泣き所だし」

 

 

あっけらかんとして僕は言った。

 

男はそれにうんともすんとも言わない。

 

あまりの痛みに、周りの声も音も聞こえていないようだ。

 

数秒待つと、阿鼻叫喚の叫び声も静まった。

 

 

その静寂からは僅かに、喝采あるいは安堵のため息が漏れ聞こえる。

 

傍観者(ギャラリー)の方を向くと、大半がまるで路上イベントが終了したかのように立ち去り、

 

残った者のは、何をするでなく茫然としているか、例の愛玩板(スマホ)でパシャパシャ音を立てている。

 

僕は倒れた二人の男と傍観者(ギャラリー)を無視して、先ほどから空気になりつつある少女に声をかけた。

 

 

「君、大丈夫?」

 

 

僕が聞くと、少女は数秒ぽーっとしていたが、話しかけられていることに気づき、いそいそとこちらに顔を向けた。

 

 

「は、はい」

 

 

「早く、ここから離れよう。すごく目立ってる」

 

 

視線、痛い。

 

僕は少女の手を引いた。

 

 

 




閲覧いただき、ありがとうございます。

後編は少し間を空けさせて頂きます。

不安定な投稿になるとは思いますが、よろしくお願いします。
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