真紅き意志の串刺竜公 -Scarlet Will `Ţepeş`- 作:あるかなふぉーす
すいません。
では二話前編です。どうぞ!
1
彼ら四人の会話を流し続けること…多分数時間に及ぶと思う。
先ほどから彼らは先に注文しておいたのだろう料理――呼び出しのコールが鳴ると、大友坂秋が店先から
受け取ってきた。ちなみに、ラーメンや餃子、お好み焼きなど――を食っては、話し、食っては、話し、している。
それにしても、最近の高校生というのはよく話が持つものだ。
僕なんか、先ほどから生返事しかしてないのに、もう既に疲れ始めている。
よく話題に尽きないものだな、と思う。
多分、恐らくは皆、今日の為に家とかで必死に話題を考えてきたのだろう。
話が途切れると、空気的に痛いだろうから。
(そろそろ帰りたい…)
心底、そう思っている。
正直、僕は先ほどから会話には微塵も参加していない。
上辺だけの参加表明だ。
なので、そろそろ帰ってもいいじゃないのか、とも思う。
いやむしろ、もう帰りたい。
さっきから話題が近未来的すぎて理解できない。
げーむ?の話やら、からおけ?の話やら、ついったー???なんて全く知らない単語ばかり出てきて、
もう泣きそうだ。泣かないけど。
(帰っていいですか、もう…)
とりあえず、その節だけは言い伝えておきたい。
でも、あまり直接的すぎるのもアレなので、少しオブラートに包もうと思っている。
だが、肝心の口を挟むタイミングが見つからない。
何せ彼らは先ほどからひと時の休息も、息継ぎも、沈黙も置かず、淡々と話し続けているのだ。
僕が「あ、あの…」なんておずおず会話に割り込んでいけるような雰囲気じゃない。
それに僕は湊理隣の顔を立てるという意味でも、この場に居続けなきゃならない。
そう考えていると、秋が立ち上がった。
「皆、もう食べ終わったね。じゃあ――」
おお、もう終わるのか。
解放される、その嬉しさに胸躍らせていると、
「じゃあ、デザートと行こうか」
「えっ!」
「んっ?」
しまった。
驚愕につい、声が出てしまった。
おいおい、まさかこれからまた食べるのか。もう夕方だよ。
彼らの胃袋の空き容量と話題はあとどれくらいあるんだろう。
「皆、何食べたい?」
そう考えている最中に自ら使い走りを希望した湊理は、皆から品物を一人ずつ訊いた。
「私はクレープがいいな!ストロベリーで!」
と、待火。
「俺も同じものを」
と、秋。
「私は…アイス3段。オレンジ、メロン、ミントで」
おずおずと結構細かい注文の、閉矢。
彼らは言いながら一人ずつ湊理にお金を渡していく。
常連だから、あるいはあらかじめ確認しておいたのか、値段を既に知っているようだ。
湊理は、彼らからお金を受け取ると、僕に向かい、
「江崎くんは?」
と訊いてきた。
僕も正直、軽食というものを食べてみたいが、如何せん金もないし、
途中参加の新入りの分際で使い走りを頼むのは烏滸がましいように思えたからである。
「いや、僕はいいよ」
とりあえず、断っておいた。
「そう?」と、いって湊理はそのままお金を持ってデザートの陳列された店舗へと向かった。
湊理の姿は徐々に小さくなり、最終的には行きかう人々が壁となり、見えなくなった。
しかし、見えなくとも耳があれば十分だ。
「すみません。ストロベリークレープを一つと、三段アイスクリームを」
「アイスの種類は何に致しますか?」
などと、聞こえてくる。
「オレ…ジと、メロンと、ミ……」
声が騒音にかすれてき始めたため、聞き取るのを諦めた。
すると、隣に座る秋が、
「ねえ、君。湊理をナンパしようとした男たちを撃退したんでしょ。」
と、問うてきた。
不意に、秋から
なんだろう、これは憎悪?敵愾心?いや、いずれも間違いだろう。
これは、そんなものよりはかくも矮小で、かくも膨大な――
嫉妬?
「ちょっと、お話聞かせてよ。」
詰め寄ってくる秋。
彼の言葉から察するに、どんな感じで戦ったのかを教えてくれ、ということだろう。
どんなもなにも一方的なヴァイオレンスでしたよ。
しかし、それをまんま教えるのもアレなので、「そんな、訊くほどのことじゃないよ」
とでもはぐらかそうとしたところで、
(……ッ!!)
殺気。
と、でも言おうか。
そんな生々しい感覚が僕の肌をちりちりと
そして、殺気をちらつかせるような。
かちゃ。
不快な金属音。
僕は急いで立ち上がる。
そこは、そこにいるのは。
紛れもなく、
その数瞬後、
パァン!
鳴り響く火薬の炸裂音。
遅かったか。
そして、その音は今まで、がやがやと騒がしかったフードコート内のざわめきを一瞬にして黙らせるには
十二分だった。
喧騒を掻き消す冷徹の音。
また、数瞬遅れて、
悲鳴。驚愕。困惑。戦慄。恐怖。
それらが入り混じった劈くような叫び声があちこちに木霊した。
即ち、それはここにいるほとんどの人間が音の正体とその危険性を認知したということだ。
人々が驚き、哀れに、惨めに、嘆き、逃げだす阿鼻叫喚の地獄絵図。
人々が入り混じり、圧倒され、それこそ本当に倒れ、それでも這って逃げ出す無間の地獄変相。
隣に座っていた秋が、
「何があったんだ!」
椅子を倒しながら、大声で叫ぶ。
しかし、その声すらも絶叫の中に呑まれてしまう。
閉矢、待火も何があったのか、と目配せをしてくる。
無情にも逃げ口たる二つの入り口はシャッターによって完全に封鎖される。
恐らく、何者かの幇助あってだろう。
人々が入り乱れる光景。
八方塞がり。
その光景すらも嘲笑うごとく、
パァン!!
――無慈悲な音。
「忠告だ!動くな」
一瞬にして静まり返ったフードコート内にはその音が恐ろしいほど鮮明に響いたであろう。
人々は泣き出す声を抑え、逃げ出そうとする足を止めて、絶望を噛みしめた。
威嚇発砲。
その単調な音だけで、人々は抗う意志を棄てた。
なお、ビャービャーと泣くものがいた。子供だ。
「黙らせろ!」
先ほどの男とは別の男が叫ぶ。
酷薄な脅しに恐怖する子供連れの家族は無理やりにでも子供に泣き止まさせた。
場が完全静まり返ったのをみて、発砲の主――重厚そうなゴーグル付ヘルメットと恐らくケブラー繊維製の
防弾服に防弾チョッキとコンバットブーツの重装備した男だ――は低く重い声で話し始めた。
「全員、動くなよ。今から俺の言うことに従え、さもなくば――分かるな?」
敢えて、末路を言わない。
その言葉に、人々が息を呑む音すらもが聞こえる。中には、カタカタと歯を震わせる者もいた。
「お前らは俺らの栄えある人質に選ばれた。
今から、お前らには携帯等の一切の通信手段を出してもらう。一切だ。
後で、露見すればただじゃ済まないぜ」
しかし、その後は沈黙だった。
誰もが恐怖で体を動かせなかったのだ。
いや、僕は単にそういった類のものを一切持ち合わせていないだけである。
幾許かの静寂。それにはきりきりと真綿で首を絞めるような窮屈さ、あるいは痛苦すらもあった。
男は、その無行動ぶりに業を煮やしたのか。
手近なボックス席のテーブルに座り、
ガンッ!
思い切り、その脚を踵で蹴った。
勿論、狙ってやったことだろう。
それに戦いた人々は最初のカラン、という
が置かれた音を皮切りに我先にと言わんばかりに連鎖的に機器の数々を取り出し、置いた。
秋たちも苦渋の面で取り出す。
すると、男は
「行け」
とだけ命令し、大多数いる(殺気から感じられるに約12人。ちなみに全員重装備)
仲間に置かれた
次々と携帯を拾い上げる。
男はこの集団のリーダー格を担う人物のようだ。
まあ、これまでの言動からしてそれは明確だったが。
かちゃ、かちゃ、と機器を拾う音が不愉快に響く。
その音一つ一つが、自分の助かる可能性を一つ一つ潰しているのだと思うと
僕でも多少の怖気はする。
すると、仲間の一人が僕の近くに来た時、
「お前。携帯は」
と訊いてきたので、僕は、
「そういったものは苦手なんで、生憎持ち合わせていません」
と、平坦な口調で答えた。
男はそれを聞くと、一時猜疑の表情を浮かべたが、『もし後で持ってると判明したら見せしめに
殺せばいい』とでも判断したのか、そのままリーダー格の元へと去った。
「
「店員の通信機器はすべて控室に置いてあるだそうです」
「ご苦労。お前らは人質の監視をしろ。少しでも怪しい動きをしたら俺に伝えるんだ」
「「「了解」」」
首領の指示にすべての部下が答えた。
すごい統率力だなあ、なんてのんきなことを考えてみる。
諸々の指示を終えた首領が僕たちの方を向き、
「さて、改めて言うが、お前らには俺らの人質になってもらう。
俺らに逆らう行動をとれば見せしめに命を奪うことも厭わない。
まずはお前らには目隠しと、あとは手を縛らせてもらう…行け」
再び、部下に命令をする。
部下たちは黒色の布と麻縄を持って、人質ざっと50人それぞれに目隠しと手の拘束をした。
無論、僕もだ。
僕なら、反抗するついでに、今、僕を拘束している部下の男を半殺しにした後逃げることもできるが、
そんな行動をして、死人が出ても困る。
だが、僕は逸脱した五感で空間のある程度を把握することができる。
しかも、その大抵を聴覚と、あとは気配で感じる。
僕の視界も封じられ、手首を縛られる。
数秒待つと、布の擦れる音もなくなり、作業が完了したのだとわかる。
予想通り、数秒と待たずに部下の一人が首領に作業の終了を報告していた。
長くとも、短くとも感じられる沈黙の時。
しかし、遠く、即ち、外からはけたたましいほどのサイレンが聞こえる。
パトカーが到着したのだろう。
他にも複数の足音がパラパラパラとほぼ間隔なしに聞こえる。
現着した刑事や機動隊、あるいはSATが忙しく動き回っているのだろう。
とうとう事が大きくなってきたよ。
その空気を打ち消したのは一つの音。
プルルルル。プルルルル。
考えるまでもなかった。電話のコール音だ。
電話などの類を一切使わない僕でも分かるほどの有名さだ。
一瞬、人質から回収された電話が鳴ったのかとも思ったが、違ったようだ。
「やっと来たぜ」
その首領の声はどこか嬉しそうというか喜ばしそうと言う感じの口調だ。
そして、「首領」と訊いてきた部下に、
「取れ」
と一言だけ告げ、電話を取らせた。
その時、ガチャ、と何かを取り外す音と、状況から察するに、これはフードコートの内線電話
ということが分かる。
部下は「もしもし」と荒っぽい口調で受話器を取った。
その後、数秒ほど部下は沈黙すると、
「首領。刑事部テロ対策室からです。あんたらの親玉を出せ、と」
「オーケー、貸せ」
言うと、首領は内線の方に近づき、受話器を受け取る。
「もしもし」
『貴方が首謀者ですね』
警察側は女性の声だった。
当たり障りの無いようにだろう。
「そうだな、俺がその親玉とやらだ」
そう、受け応える。
その後、幾度かの応対が為される。
ちなみに、僕には受話器の向こうの声もおぼろげに聞こえている。
警察の思惑としては、交渉の時間を引き延ばすとともに、会話の中から現場の詳しい状況をプロファイリング
できれば望ましいのだろう。流石に専門分野すぎて詳しくはわからないが。
最後に警察側は「貴方たちの要求は?」と、問うた。
それに対し、首領は無情の答えを告げる。
「おっと、言おうとしていたが。まあ、そっちから聞いてくれてもよかったぜ。
俺たちの要求は三つ。
まずは俺らの同胞、詰まる所の死刑囚・柿沢一、稲光迅の釈放だ。
次に、金、一億円。そして、逃走車の手配だ」
『ッッ!!!!!』
向こうの戦慄がこちらにまで伝わってくる。
その後のどよめきまでもだ。
金と逃走車を用意しろというのはこういうシチュエーションにおける要求の定番だが、
問題は首領が口に出した柿沢、稲光死刑囚だ。
街頭の巨大モニターで見た。
――4月4日、国内初の実用型リニアモーターカーの第一号である『Air Spirits』の
運行開始記念セレモニーでプラスチック爆弾による爆破事件を起こし、鉄道会社『スピリッツ』
社長を含めた会社関係者およびセレモニーに参加していた116名が死亡。237名が重軽傷を負ったとされている。
今年に入って最大レベルのテロ事件を起こしたのがこの二人なのだ。
つまり、彼らを釈放するということは、あの惨劇を再び繰り返しかねないということである――
警察の慌てふためく様子を直に耳にしている首領はさも楽しげにクククッ、と笑み、
「どうだ。呑めるか?」
『それは流石に不可能だ』
当然の答えだった。
「そうか。俺だってそんな条件を呑んでもらえるとは思わねぇ」
だから、と、首領は冷笑した。
「そうだ。ちなみに経過、十分ごとに一人殺すとしよう」
『!!!』
この発言に驚いたのは電話の声も含め、恐らく僕以外全員だろう。
やはり、そう来るのか。
ああいう奴の思考じゃ、よくやりそうだよ。
『待ってください!それはやめてもらえませんか』
その答えに向こうも動揺を隠しきれない。
つまり、警察の観点からしてみれば、人質の命か、日本の未来か、ということだ。
ここで首領は一気に攻勢に打って出た。
「おいおい、警察もチープになったな。
この俺らに懇願かよ」
『殺さないわけにはいかないですか』
「駄目だ。絶対に殺す。それぐらいしないと甘く見られちまうからな。
こちとらダラダラとあんたらとの交渉に付き合ってる暇はないんでね」
相手はほとんど沈黙しきっている。
それに念を押すように首領は強めの口調で言い放つ。
「いいか!十分後だ!十分後に一人殺す!
犠牲者を作るか作らないかはお前ら次第だぜ!」
そして、一方的に電話を切った。
フードコート内は完全に殺戮に対する恐怖で時間でも止めたかのように静まった。
外から発せられるサイレンの音が妙に不快だった。
書きだめ尽きそうです。
次はいつになるやら今月中にもう二話はいきたいところです。