真紅き意志の串刺竜公 -Scarlet Will `Ţepeş`- 作:あるかなふぉーす
誠にすみません。
それでは、第三話《前編》です。
どうぞ!
※追記
申し訳ありません。
タイトルを入れ忘れていたため付け加えさせて頂きました。
1
私、湊理隣は放課後、友人の待火古、閉矢閉、大友坂秋とともに学校近くのファミレス
で会食していた。
私たちの通う斎神庭高校は近くにカラオケやファミレスなどもあり、学生たちにとっては
嬉しい立地である。
そんなファミレス。店名『ハンガー』の、店の入り口から離れた窓際、ドリンクバーの近くの
ボックス席に私たち四人は陣取っていた。
というか、この店名『ハンガー』とはどういう意味なのだろう。
と、私は常々思う。
もし、『Hanger』即ち、洋服掛け、あるいはえもんかけという意味であった場合、
それはナンセンスの極みだ。
そして仮に、『Hunger』即ち、飢餓という意味であった場合、
それはかなりおどろおどろしい。店名の考案者の顔を拝んでみたいものだ。
さて、話を戻していこう。
私とボックス席を相席している、即ち友人の、待火古、大友坂秋、閉矢閉は
三人できゃっきゃっと歓談を交わしていた。
とても僅か数日前に大事件に遭遇したものとは思えない。
あるいは長時間の事情聴取に対する憂さ晴らしなのかもしれない。
と、私は勝手に予想した。
「それでさ、それでさ、そのゆーくんがね、突然……
どうしたの隣?具合でも悪いの?」
恐らく、私が先ほどからずっと沈黙していることに疑問を覚えたのか待火古は問うてきた。
「ううん、違うよ。大丈夫」
一応、違うっちゃ違うので否定しておく。
古はそれを聞いて、「そう?」と疑問形で納得した。
すると、不意に右隣から視線を感じた。
(?)
そちらを向くと、私の正面、即ち奥側の席に座った友人の一人・大友坂秋が
私を怪訝そうな目で見つめていた。
「何かな?秋くん」
「うん、いやあ。なあ、湊理。」
「何?」
秋くんは非常に言いづらそうに少しの間、逡巡し、そして、決断したかのように一泊
ついて口火を切った。
「もしかして、彼…江崎くんのことか?」
「え…」
当を得た、的を射た図星だった。
思わず私は声を漏らしてしまう。
「やはり、そうか」
ばれていたのだろうか。表情か、あるいは言動か。
「さっきからずっとアンニュイな表情してるからよ。心配なのか?」
私は肯定も否定もしなかった。
「まあいいさ、良さそうな奴だったし」
僅かに間をあけ、
「でもさ、湊理」
雰囲気を一変させ、秋くんは言った。
「彼、ちょっと匂わないか」
唐突に言った。
「どういうこと?」
「湊理も見ただろ。目隠しを解かれた後」
「!」
そうだ。
私も、紛れもなく見たのだ。
骨を折られ、関節をあらぬ方向に曲げられ、手ひどくやられたテロリスト達。
突如姿を消した彼。
そして、最後に聞いた。
『さぁて、どう
彼の声。
「江崎くんはそんなんじゃない!」
自然。無意識に私は反駁していた。
しかし、秋くんは極めて冷静だった。
「だけど、君も聞いただろ。君の鼓膜が破れてでもいなかったなら絶対に」
沈黙する私。
『バケモノ』
「そうさ。化け物。一体全体どんな状況でも見たらそんな言葉が出るんだろうな」
「で、でも、江崎くんは私を助けた」
もはや脈絡もなかった。
「そうだよ、それは紛うことなき事実さ。
でも、その直後だろ。
奴らがあの言葉を発したのは」
再び沈黙してしまう。
「君を庇って直後。彼は何をしたのか。奴らに『バケモノ』とまで言わしめるほどの
何をしたのか」
なおも続ける秋くん。
「銃弾を掴みとったかもしれない。あるいは砕いたかもしれない。
あるいはもう既に銃弾を食らった後で――随分と
ど――例えば
もう。もう。
「もうやめて!」
テーブルを叩いて、私は立ち上がり、叫んだ。
声が大きすぎたのだろうか、ファミレスの客の視線が集まる。
店員さんもじろじろとこちらを見やってくる。
私は少し顔を染めて、委縮するように席に座った。
そして小さな声で
「江崎くんは、江崎くんはそんなんじゃないよ…」
搾るように感情の残りかすを吐き出した。
「そうか、悪かった。苦言が過ぎたみたいだな」
秋くんが席を立つ。
奥の席だったため、一度隣の待火が席を立ち、道をあけた。
帰るのだろうか。
「僕は帰るよ。でも湊理、気を付けた方がいい。
こんな世の中だ。どこに危険が潜んでいるかもわからない」
「うん、分かった」
そう、答えるしかなかった。
ただただ、そう答えるしかなかった。
「じゃあね、みんな」
そうとだけ告げてから、秋くんはファミレスを去った。
ついでに会計も済ませていた。
そして、ボックス席には私と古ちゃんと閉ちゃんの三人が残った。
「あの…隣?」
閉ちゃんはそう言いかけ、閉口した。
その後は誰一人とて喋るどころか呼吸することすらも忘れたような
感覚に襲われ、ただ気まずい雰囲気が流れるだけであった。
2
午後六時を過ぎ、日も落ちかけてきた頃合い。
私は古ちゃんや閉ちゃんと別れ、一人帰宅の途についていた。
辺りはバイトに向かう大学生、あるいは塾通いの学生たちでごった返していた。
そんな雰囲気に反して、私の心は目いっぱいに暗く、陰鬱としていた。
例の『蛮勇盟軍』テロ事件から二日後、
四十八時間という時間をかけても私の心は晴れることはなく、
むしろその暗さが倍増、いや累乗していくばかりだった。
その心情を描写でもしたのか、大通りから外れると
一気に人数は減り、閑散と、いや虚無とした空間が展開された。
乾いた心でもつつくようにゴミ捨て場にたむろする鴉たちがゴミ袋を破り、
生ごみを啄み、漁っている。
「はぁ…」
大きくため息をした。
「いつまで引きずってるんだろうな」
本当だ。誠にそうだ、私。
本当にいつまでどこまで執着しているのだろう。
出会ってたった二日、実際にともにいた時間はわずか数時間。
そんな人に私はなぜ憂鬱に思いをはせているのだろうか。
そして、思い出す。
赤いフードの少年を。
「こんな所にいたら、また不良に襲われる、って言われそう」
それとも、ここで。
この前みたいなナンパの不良でもいい。
性欲を持て余した小僧でもいい。
酔っぱらったおっさんでもいい。
殺人鬼でもいい。怪しい機関の人間でもいい。
――化け物でもいい。
なんでもいい。
とにかく、何か危険な奴に襲われて危険な目にでも遭ったら
彼は助けにでも来てくれるのだろうか。
いや、確率は極めて低い。
今、この場で誰か不審な奴に襲われ、尚且つあの赤いフードの少年
江崎レンが助けに参上してくれる公算は――こんなものを確率で言い表せそう
ではないけど――、恐らくこの場で白馬の騎士と邂逅するほどに極めて少なすぎる。
しかし、それは余りにもシンデレラストーリーだ。
「はぁ…」
本日二回目のため息をつく。
日も暮れる寸前、墨を流したような空が世界を覆い、
そして、深い夜が始まった。
人の気配は完全に消え、空間に私だけ取り残される。
不意に後ろを見やると、大通りは人通りもまだ多く、オフィスビルや外食店などの照明
で未だに明るく、『夜の街』といった風情だ。
そのため、閑静で静謐で無機質なこの細い通りとは明らかに対極さを
感じ、また私の気持ちは陰鬱に沈んだ。
「さて、今日はスーパーで何か買って帰ろう、っと」
無理やりにでも意識を切り替え、できるだけ明るい事象を考える。
そうでもしないと心中をもやもやとしたものに蝕まれそうだったから。
ご飯を作るには遅すぎたかな。
今夜は出来合いのものでも買って帰るとしよう。
と、いろいろと今夜の食事について思案していると、
「やあ、折角の未来計画中申し訳ないんだけどさ」
そんな声が
随分と大人びた女性の声だった。
私が、声がした方向――上の方というよりは『左斜め前上』を見ると、
――騎士。
そこには、電信柱の頂点、狭い面積の上に見事なバランスで、
微塵の揺らぎもなく、ただただ屹立している。
騎士がいた。女騎士がいた。
いや、騎士という言い方は大仰すぎた。
正確に描写するなら、流麗な銀髪に深みのある碧眼、
ともすれば西洋人に見えなくはないが、その顔立ちはまさしく東洋人のそれだった。
顔つきは高校生のそれっぽいが、背格好は私よりもはるかに高かった(それはもともと
私の背が低いだけかもしれない)。
服装は単純に鎖骨を露出した漆黒の胸開きドレス。
さらには手足。その四肢に余すことなくガチガチに(この表現は少し大仰すぎたかもしれな
い。きちんと綺麗な白い肌も見えている)黒のベルトを巻いていた。
そして、その上からは肘上数センチの袖で丈は膝上五センチ程度の黒コートを
ボタンを閉めていない状態で羽織っていた。
最後に、最も特徴的だったのが、
剣だ。
というか、それが最も私に『騎士』という印象を深く植え付けた。
白銀の剣だ。
白銀の鞘に金色の装飾をあしらい、その刀身は人間の頭身ほどもあった。。
その形は十字架に近く、それがさらに神々しさを増させるのだった。
女の人は、その自分の背丈ほどもある大剣を背中にたすき掛けで佩刀していた。
女の人は私が見上げたのを見、微笑して、
「ねえお嬢ちゃん。不承不承この私、お嬢ちゃんに聞きたいことがあるんだ。
というのが私の情願」
そう言ってきた。
私が、そのあまりの突然さに沈黙というか茫然としていると、
女の人は私の混乱などいざ知らず、勝手に話を進めていった。
「うんうん?その沈黙は肯定ととっていいのかな?というのが私の疑問」
「…」
私が黙ったままなのを不審に思ったのか女の人は、
「ちょいと待ってよ、お嬢ちゃん。私の話聞いてくれてる?というのが私の生存確
認」
私は脳内の混乱と妙な動悸を抑えつつ、未知の生命体に接触するかのような
緊張ぶりで初めて答えを返した。
「え、ええ。聞いています…けど」
少しごもりがちな応答になってしまったが、致し方ない初心者に対する反応とは
こういうものなのではないだろうか。
女の人は私の反応に満足したらしく、「そうかそうか。よろしよろし」と
呟き、「じゃあ、本題に入ろうか」と話を切り出した。
どんな話をするかと身構えていると、
「君、赤フードの少年にあっただろう?」
そんなことを言い放った。
「えっ」
思わず声が漏れ出る。
赤フード。
それは間違いなく、先ほどまで脳内議題の本題ともいうべき彼、江崎レンに
間違いはないはずだ。
だとすれば。
何故わかったのだろう。
一緒にいるところを見られたとか、まさか
人質としていたのだろうか。
まあ、ともかく後者は可能性として低い。
私の記憶が腐れていない限りは、あの現場にこんな奇抜なファッションの人は居な
かったはずだ。
いや、この人が常にこの服装とは限らないけれど。
「あ、あの…なぜそれを」
とにかく、今、私が最大に気になったことを問う。
すると、女の人は僅かに眉間を寄せた。
「うにゃ?今は私が質問してる番だよ。質問を質問で返さないで。
ま、といっても、その反応から
し、というのが私の自己完結」
女の人は勝手に話を切り上げ、「僥倖僥倖」とまた独り言し、
「さらなる質問いいかい?というのが私の確認」
と前置きし、また勝手に話を進めた。
「あ、あの…その前に。こっちの質問いいですか?」
「え?あ、うーん。まあ、私も聞いたし、私だけってのも対等じゃないよね。
分かった。君も一回。これで差し引きゼロだ、というのが私の許可」
どうやら、いいよ。ということらしかった。
では、先ほど答えてもらえなかったことを訊く。
「あの、どうして私が江崎く――赤フードの男の子と居たってわかったんですか?」
「ふんふん」
女の人は相槌をうち、
「匂い」
断言した。
「匂い?」
「ああ、匂いさ。
ものがある。正確にいうなら
血の匂い。
それは一体全体何なのだろう。
それよりも一つ異様なまでに引っ掛かりを覚える言葉があった。
「あの種族?」
そう、その言葉だった。
私の見上げた先の女の人は見るからに人間だ。
豚や牛のような家畜でも、虎や豹のような猛獣でも、鷹や鷲のような猛禽でもない。
紛うことなく人間だ。
ならば何故、この人間たる彼女はあの赤フードの少年・江崎レンを『あの種族』と称
したのか。
まるで、異種族でも指すように彼をそう言い表したのだ、彼女は。
『あの種族』。
それはもしかしたら違ったニュアンスの意味かもしれないし、メタファーなのかもし
れない。
だが、彼女は、意外にもあっさりと、躊躇なく、その真実を口にした。
「そうそう。彼は、というか奴らはもはや異種としか言い表せないね」
「い、異種ってなんなんですか?」
委縮しながら問うた。
「はいはい?あれれ、彼から聞いてなかった?それもそうか、わざわざ一般人に教え
ることでもないしね。まあ、特に秘密にすることでもないから――というか、多分
信じないと思うから――この際、言っちゃうよ」
そう前置きして、彼女は言った。
「奴は
私に混乱の隙も与えず、さらに追撃する。
「より正確にいうなら『
絶句の他無かった。
『
今日日、そんなおとぎ話じみたことを信じるのは小学校低学年までだろう。
荒唐無稽。
誰もがそう評する。
だけれども私は、
何故かその言葉を100%戯言であると断言できなかった。
「何を、言ってるんですか?」
「何もこうもないよ、『
悪いけど、これ以上の形容表現はないから」
「何なんですか、『
「いやいやいや、知ってるでしょ。そんくらい」
それは知っているとも。
だけど、あの人型。人間。江崎レンがどうしても異種。怪物。『
には思えなかった。
「あれが『
彼女はハ八ッ、と一笑した。
「一笑に伏す。一蹴に伏す。って?いやあ、確かにそれは仕方ないけどさ。
やっぱ信じられないか」
「はい」
そりゃそうだ。
「だけど」
彼女は逆接の意を示した。
「現実問題に切り替えれば、少しは納得してもらえるかな。というのが私の判断」
現実問題、か。
果たしておとぎワールドをどうリアル化するか。
「彼らはいわば亜種さ」
亜種。生物分類上の一つ上の種。
「人間のです…か?」
「いいや、チスイコウモリの亜種」
なんとも酷い亜種だった。
チスイコウモリ。
翼手目チスイコウモリ科の哺乳類。動物の生き血だけで生活する。
体長八センチ。前腕長五センチ内外。
「そ、それは流石に酷くないですか?」
「いいや、そんなものだよ。あいつらはチスイコウモリに怪物じみた『身体能力』を付与した
だけの存在さ。現に、奴ら。チスイコウモリとおんなじで、人間の生き血ばかり吸ってき
たから咀嚼ができなくて、臼歯とか胃が退化しまくっている。
そのうえ君の想像するところの
即ち、日光・流水・銀の銃弾・白樺の杭といったものに対するアレルギー反応も付与されている。
もはや劣化種といっても過言ではないね。というのが私の解説」
そうなのか。確かにそう言われると現実味も湧かなくもない。
ところで、一つ気になった点がある。
「あの…『身体能力』って?」
「随分と初めの方の言葉を拾ったね。まあいいや
――そんままよそんまま。怪力、剛腕、馬鹿力。
あいつらにかかれば、人間の体を炭素分子に還すことぐらい容易だし、
たった一夜で大都市の機能の三分の一を麻痺状態にすることだってできる。
それに加え神速無比の回復力。
銃弾を顔面に食らったって、ものの数十秒で無かったことにできる」
銃弾を、受けても、回復?
無かったことに…
『あるいはもう既に銃弾を食らった後で――随分と
ど――例えば
まさか。
でも、可能性は捨てきれない。
まさか。
本当に。
まさか。
彼が『
そうそう容易に信じられる話ではないけれど、何故かそこにはおぞましいまでの信憑性が
あった。
人外突出の怪物。
何故、あるいはどこで、またあるいは何によって彼らは生み出されたのか。
「なんで、そんなものが生まれたんですか」
「そんなの私の知ったことじゃないよ。君だって、君の起源を完全に知っているわけじゃあ
ないだろう。まあ、私がいえるのは、というか一般通念に基づけば、彼らの発祥は
皆さんご存知『ルーマニア』さ」
女の人はさも愉快そうに続ける。
「しかし、奴らが一体全体何をもってしてこの世に生まれたかは私なんかには皆目見当もつかないさ。
異常気象、突然変異、あるいは人口交雑・遺伝子操作。どれがどれだか。
本当に奴らを生んだ原因というものさえでも判明できれば…」
そう。
その吸血鬼に対して一応の知識を有していているであろう
彼女をもってしてもその真相は闇の中だった。
そもそも、よく考えてみれば、私たち人類がこの地球上で何のためらいもなく
繁殖して生きているのと同様に、彼らもまたそれが必然てあるかのように
生きているだけに過ぎないのではないか。
そんな考えがふと頭をよぎった。
ここで空間が静まり返。
女の人は俗にいう絶対的に『喋ってはいけない雰囲気』といったものを
つくっていた。
少しして女の人は、「おおっと、悪い悪い」とおちゃらけて、
「質問。終了だね。いやいや、有力な情報を手に入れたよ。というのが私の感謝
これで君のここ数日の行動範囲を当たれば奴の居場所は割れるだろうね」
と会話を切り上げた
うん?
そういえば、彼女は江崎くんを探してる風であった。
何のために?
「あの」
「なんだい?」
「何のために、えさ――その少年の動向を探っているんですか?」
「ああ」
瞬間。
灼き付くような空気が場を支配した。
女の人を見ると、表情を一切変えてないのに底冷えのするオーラを放出していた。
中身だけ取り換えました、みたいな。
「理由ね」
そして、告げる。
「
明言した。
私は硬直した。否、むしろ凍結したという表現が正しい。
テロ事件で聞いた江崎くんの声。
あれも生物味がなく、人間(彼女は人間ではないと言うが)がこんな声を出せるのかとい
うぐらい、冷酷無比な声だった。
女の人も相当だった。
心臓の小さいマウスぐらいだったら数百匹は殺せそうな絶対的な威圧感を彼女は放ってい
た。
だが、そんな空気も数瞬後には弛緩する。
「ああああ、ごめんね。怖がらせちゃったか。というのが私の反省」
「い、いえ」
口では否定するものの口調は完全に怯えきっていた。
「悪かったね。じゃあ、私はここでクールに去らせてもらうよ」
「は、はい」
彼女は私に背を向け、夜闇と向き合った。
私は今しがた気づいたようにその背中に声をかけた。
「あ、あの!」
女の人は首だけで振り向く。
「はい?」
「あなたは…一体全体何者なんですか」
彼女は、「ああ、はいはい」と独り言を呟きながら体を半回転させ、私に向き合った。
彼女は笑みを浮かべる。
その笑みは美麗ともとれるし凄絶ともとれる。世界の終わりすらも達観したかのような
笑みだった。
「
そのさらに数瞬後、瞬きをし終えたころには彼女の姿は、既に電柱の上には無かった。
「『
私にはその言葉を反芻することしかできなかった。
そろそろ楽しい楽しい春休みも終わりが近づいてきましたね。
結局今年は花見なんて行けませんでした。
というか、ここ三年近く行ってませんでしたから。
では次回も、どうか温かい目でご観賞ください。