真紅き意志の串刺竜公 -Scarlet Will `Ţepeş`-   作:あるかなふぉーす

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大変長い時間空いていました。

すみません。

完全にサボってました。


第三話 鬼殺 《後編》

3

 

買い物を済ませ、家に帰った私はまずテレビを見ようと思った。

 

リモコンの電源ボタンを押す。

 

映し出された画面では報道ニュースがあっていた。

 

内容は私のよく知るところの例のテロ事件についてであった。

 

『奇跡。スピード解決。怪我人ゼロ』

 

などと報道してはいるが、現場にいた人質たちからしてみればそれで

 

住むほど単純なものでもなかったし、私こそ、その人質本人であった。

 

 

「全く、いい気なものだわ」

 

 

そう愚痴り、私は手に持った買い物袋を床に置き、冷蔵庫に買ってきたもの

 

を入れようとする。

 

まずは飲み物から、と。私はペットボトル入りのアイスコーヒーと炭酸飲料

 

を掴み、冷蔵庫に入れようとしたところで、

 

ニュースの映像がひとしきり流れ終わり、アナウンサーが次のニュースを告げる。

 

 

『続いてのニュースです。病院から血液が盗まれました。』

 

 

血液――

 

ボトッ。

 

 

「あちゃ」

 

 

思わず、手に持ったペットボトルを落としてしまった。

 

それを拾い、冷蔵庫に入れてから、少しだけテレビの方を見た。

 

そこには病院の外観が映し出されていた。

 

 

『本日未明、市内の××病院の無菌室にて保管されていた、B型

 

 の血液パックが14パック盗まれていたのが当病院の職員によって

 

 発見されました』

 

 

そのようなことをアナウンサーはきわめて事務的に告げた。

 

 

『ーーなお、監視カメラの映像には犯人らしき人影は写っておらず、

 

 侵入経路は依然として不明です』

 

 

血液が盗まれた。

 

この事実に私は、最低にも一つ結論にたどり着いてしまう。

 

まさか、あの、江崎レンが…?

 

いや、そんなはずはない。

 

私は首を振った。

 

あの、私を助けた(立ったのだろう)、あの江崎レンが物盗り

 

をするはずがない。

 

そんな、確信めいた期待を寄せていた。

 

恐らくその心情の根底にあると思われるのが、

 

自分の知り合いが犯罪者であってほしくないという極めて

 

自分勝手な願望と、

 

あの女性、即ち、自称吸血鬼殺し・逢原玲の話が全くもっての

 

戯れ言であってほしいという、これまた自分勝手な希望的観測で

 

あると自己分析できてしまうまでに露骨だったためこれは

 

もう、自分でも失笑ものだった。

 

私はこの話はもうやめにしよう、と折り合いをつけ、

 

プラスチック容器入りの弁当を手にとり、電子レンジに放り、

 

もとから家にあった、量も残り少ないアイスコーヒーをトポトポと

 

コップに注ぎ、少し待っていると、チン!と

 

万国共通の小気味よい音が聞こえたのでレンジから弁当を取り出し、

 

それを右手に、アイスコーヒーを左手にダイニング

 

(ただし、ほとんどリビングと合体している)の

テーブルに

 

それらを置き、私も傍らに腰を落ち着かせた。

 

ちょうどその頃、『蛮勇盟軍』のアジトに警官隊の強制捜査が入り、

 

リーダーを含むメンバーの残党が皆、逮捕されたとの内容が流れていた。

 

これは世間的には、私も歓喜するべき事態なのだろうが、

 

何故だか私は特に喜ぶ気にもなれず、

 

(その理由は、単に興味を失ったのか、過去のことは過去のこと

 

 と割り切ったのか、理由ははっきりしなかったが、とちらにせよ

 

 私はとんだ浅薄な野郎というか女だった)

 

その後は機械的に、器械的に、奇怪的に淡々と食事をすませ、

 

入浴し、歯を磨き、明日の予習を済ませ、

 

あとはただ寝るのみとなり、瀕死の人間のようにベッドにごろん

 

と伏し、あとは坦々と瞑想と思考の世界に漂った。

 

目を閉じると、自然と意識が遠のいてきた。

 

相当眠かったのだろうな。と決断を下し、眠りにおちる直前、

 

 

「君じゃないよね…」

 

 

誰に祈るでもなく縋るでもなく話すでもなく、

私はそう呟き、

 

意識をおとした。

 

江崎レンは違う。

 

それは怪物なんかではない、と、例の犯人ではない、という

 

二つの希望を込めた言葉であり、ある種の信用でもあり、

 

この時の私はその期待が果たして報われるか、否か、

 

その結末を知らない。

 

 

4

 

時刻は午後十二時を過ぎ、草木も眠る丑三つ時に入った頃、

 

僕こと命名・江崎レンは鉄骨の上に呆然と立っていた。

 

ここら辺はもともと住宅街であったが、再開発によりマンションが

 

建てられることになり、住民の立ち退きが決定された。

 

しかし、そのマンションの建設途中、鉄骨の落下事故が起こり、

 

数名が病院送り、数名があの世送りとなり、自然、工事は中断。

 

今じゃ組み上げられたら鉄骨だけが残っている。

 

まあ、すぐに再開されるだろうけど。

 

 

「近代的な世の中になったなあ」

 

 

 

達観したようにそう呟く。

 

しかし、その声も静寂のうちでは悲しいぐらい

に無様に

 

反響するだけだ。

 

僕は誰にでもなく言った。

 

 

「さあて、久し振りの夜食といこうかな」

 

 

5

 

謎の女性に衝撃のお話を聞かされたあの夜から三日ほど経った。

 

私は、今日は一人すき焼きにしようかな。と思い至り、現在私はそのスーパーにいた。

 

すき焼きのための牛肉、ネギ、しいたけ、あとは…卵は家にあったかな。

 

と、すき焼きの分の買い物はここで終わらせた。

 

その後、そういやガスボンベも忘れてたと、それをカートに入れ、

 

レジで会計まですませる。

 

 

レジ横の台でカートの籠からビニールの袋に商品を移していると、

 

ふとガラス張りの壁の向こうに見知った人影を見つけた。

 

赤いフード付きパーカーから覗かせる金髪。セルリアンブルーとダークブラウン

 

の虹彩異色の双眸。

 

間違いなかった。

 

あれは間違いなく、寸分の狂いなく、

 

私の探していた少年でもあり、吸血鬼殺し・逢原玲の探していた江崎レンだった。

 

見ると、江崎レンは、私の今いるスーパーの面する道路とは対岸の道路にいる。

 

気づいたときには私は走り出していた。

 

スーパーの袋を投げ出してーーなんていう展開の方がロマンチック

 

のだろうが、生憎そうするわけにもいかないのでスーパーの袋は持ったまま走らせてもらった。

 

江崎レンが路地裏に入ったので追いかける足を早め、車道を渡ろうとするも、これは不幸なことに赤信号。

 

 

(嘘…こんな時に…なんという不幸、私)

 

 

落胆しかけたところ、こんな不幸な私にも関わらず、

 

偶然にも車の通りは空いていた。

 

これは行くしかない!と決意し、

 

 

(戦略的、突撃!)

 

 

ダッシュをかました。

 

私は白黒の道をダッシュで駆け抜ける。

 

ふと前を見て、距離の確認。

 

この横断歩道は二段階ある。

 

まず、最初の横断歩道。

 

次いで、分岐帯を挟んでもう一つ。

 

といった具合。

 

 

(分岐帯まではあと七、八歩。対岸までは目測二十メートルちょい)

 

 

私は走りながら高速で算段をつける。

 

第一の横断歩道の踏破は確実なものであるため

 

早くも最後の横断歩道のことを考えていた。

 

そして(最後の横断歩道の)左右を確認しつつ、

 

 

(左から軽トラが来てるね。他もちらほらあるけど一番接近しているのは

 

こいつかな?)

 

 

視界からの情報をまとめる。

 

 

(距離は二百メートル強、か…最悪、出会い算みたいにごっつんもあるかもしれない。

 

全力疾走すれば多分間に合うと思うけど、最近身体動かしてないから

 

相当鈍っているという事態もありうる)

 

 

自己分析をしながら考える。

 

 

(トラックの時速は50km/hぐらいかな。私の全力疾走を6km/h

 

ぐらいと仮定すればいけなくはない)

 

 

そう、決定し、

 

 

(それに、いちいち立ち止まるのはチキンの極みだからね!)

 

 

そう言って私は分岐帯を踏み越え、第二にして最後の横断歩道を渡る。

 

車は手前の車線から迫ってきている。

 

最悪、この車線さえ渡りきればあとは徒歩でもいけるかもだ。

 

 

(結構よゆー)

 

 

思って、言葉通り手前の車線を余裕で通り抜けた

 

(と、言いながらも、両者の距離はそこそこ近くだった。

 

ので、思い切り、クラクションを鳴らされた。すまなく思っている)。

 

後は本当に余裕かな。

 

そう思った私は気を緩め、少し速度を落とした。

 

しかし、その気の緩みが命取りだった。

 

いや、例え気を引き締め、警戒していたとしてもこの結果

 

は恐らく必然のものだっただろうと思う。

 

結果から言うと、

 

バイクがいたのだ。

 

正確に言うと、

 

対向車線を利用して前の車、即ち軽トラを追い抜こう

 

としていたバイク(しかも、そこそこの大型だ)が

 

私の前に躍り出たのだ。

 

バイクは軽トラに隠れる形で併走をしていたため、死角となり、今の今まで完全に気づかなかったのだ。

 

完全に油断だった。

 

交通事故というのは自宅から数キロ圏内のところで起きやすい、

 

というのはもはや有名な話だ。

 

家がもうすぐ近くだという安心感からくる気の緩み、

 

自宅周辺の地理には詳しいという慢心からくる警戒の怠り、

 

これらの原因が合わさって交通事故が起こるのだ。

 

そして図らずも今の私がそれであった。

 

もう対岸だという、もう大丈夫だというその慢心故の失敗。

 

最悪だ。

 

本当に最悪の事態だ。

 

バイクも勿論私が死角になっていたため、気づくことなく、

 

アクセルを踏んだ状態でばく進していた。

 

このままぶつかってしまえば、私は何とも愉快な肉片になってしまうだろう。

 

バイクもやっと私に気づき、ブレーキをかけた。

 

しかし遅い。

 

バイクに限らず、あらゆる車で急ブレーキをかけたら

 

停止距離というものが生じる。

 

これはブレーキが効き始めるまでの移動距離――空走距離とブレーキが効いてからの移動距離――

 

制動距離の和なのだが、

 

仮にバイクが法廷速度の60km/hで走っていたとしても

 

その停止距離は約30mに及ぶ。

 

私とバイクの距離は僅か数メートル、恐らく五メートルもない。

 

絶望的だった。

 

未だにバイクの方はブレーキすら効いていないだろう。

 

数瞬後、ついにバイクと私の身体は紙一重の距離になった。

 

もう衝突も秒読みどころか瞬読みの段階に入っている。

 

 

(当たるッ!)

 

 

そう思って、私は思わず目を閉じてしまう。

 

視界が真っ暗になり、バイクとの距離すら分からなくなり、

 

余計怖くなってしまった。

 

恐らくこの行動の意味は、反射的な身構えでもあったし、

 

いってみれば現実逃避でもあった。

 

まあ、いくら目を塞いでも現実というものは拭いきれないのだが。

 

 

(あーあ、不幸だ)

 

 

そして最後まで、自業自得なのに、これすらも運とかの所為にして

 

しまうあたり、私は最期の最後まで救えないほどに愚かで最低な

 

奴だった。

 

そんな自虐も束の間、

 

バイクが私と接触するッ!ーー

 

身構えていると、

 

 

『またか』

 

 

という声が聞こえた気がして、

 

私は意識を落とした。

 

 

6

 

僕は大通り隣接の証券会社ビルの屋上のへりに立っていた。

 

随分と危険な行為だが、こちらの方が見晴らしがいい。

 

ふと、僕の腕の中のものに目を向ける。

 

それは江崎レンでも知っている人物だった。

 

 

「湊理隣、だったか」

 

 

そういう名前で間違いないと思う。

 

そして腕の中といっても、僕は湊理を抱きしめているとかという意味でなく、

 

単にお姫さま抱っこをしているだけだ。

 

「しっかし、また面倒事に巻き込まれて…いや、

 

今回は自ら起こしたのか?」

 

 

そう独り言を呟いていると、

 

 

「うッ」

 

 

腕の中から呻く声が聞こえた。

 

 

「起きたか」

 

 

「う、え…江崎くん」

 

 

僕が話しかけると、湊理は細目を開けて僕を見、状況が理解しがたいのか、戸惑っている風に答えた。

 

 

「私、何が…」

 

 

「意識を失ってた」

 

 

「え、てことは…」

 

 

「大丈夫だ、問題ないよ。ただの軽い脳しんとうだった」

 

 

「の、脳しんとう…」

 

 

見るに、湊理はさらに混乱を極めているようだった。

 

 

「え、で、でも私は車道で…」

 

 

「ああ、あのままだと君は確実に轢死してた。ので、

 

僕が助けた」

 

 

「江崎くんが…?」

 

 

「状況。分かってくれた?」

 

 

「え、あ、うん…」

 

 

話が早くて助かるね。

 

それで、と僕は本題を切り出した。

 

 

「で、なんで君はあんなことしたの」

 

 

「いや、江崎くんを追いかけようと思って」

 

 

はあ、何故そんなことをしようと思ったのだろうか。

 

僕なんか、追いかけてて楽しいような奴には見えないが。

 

 

「あ、あの…聞きたいことがあったから」

 

 

「それは何?」

 

 

僕に聞きたいこととは何だろうか。

 

何者?とか、どこからきたの?といった質問をされると非常に困るのだが。

 

湊理は一拍おいて、決心したように話した。

 

 

「君は、吸血鬼なの?」 

 

 

驚愕した。

 

表情にこそ出しはしなかったが、確かに僕は驚愕した。

 

まさかそこまでバレていたとは。

 

僕は見るからに人型だし、吸血鬼の人外な能力さえ使用しなければ

 

普通、バレるはずはないのだ。

 

僕は湊理の見ている前でそんなものは使った記憶は微塵もない。

 

つまり――

 

 

「誰に聞いた」

 

 

――つまりは、他人から聞いたことになるのだが、

 

一般人に僕の正体を看破できるはずもないため、湊理に

 

リークした人物は僕と同種、あるいは奴らであると考えられた。

 

僕は声色を変えて問うた。

 

少し脅すような形になつてしまったのは申し訳ないが、

 

口を割らせるにはこっちの方が効率よかった。

 

案の定、湊理はすぐ吐いた。

 

 

「女の人」

 

 

「銀髪碧眼の、でも日本人にも似てたし、ハーフかクォーターかも、

 

 大きな剣を持ってて、名前を『逢原玲』と名乗ってた」

 

 

湊理の話したことは見事に現実離れしており、

 

聞くからに冗談どころか妄想の世界にしか聞こえないのだが、

 

ここは信じるしか術はない。

 

 

 

「で、ほかには」

 

 

僕がさらに追及すると湊理は、あっ!といって僕に言った。

 

 

「『吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』って名乗ってた」

 

 

なるほど、そっちか。

 

となると、結構やばいかもしれない――

 

主に僕の安泰な生活が。

 

思い立ったが吉日。早めに手を打つとしよう。

 

そう思って僕はお姫様抱っこをしていた湊理をゆっくりと下ろし、へりに立つ足に力を入れた。

 

 

「ね、ねえ――」

 

 

湊理が何かしゃべろうとしていたが、それを聞く暇もなく、僕はビルの彼方に跳躍した。

 

 

7

 

江崎レンは『吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』という単語にやや反応を見せた。

 

というより、あからさまに得心して見せた。

 

それは江崎レンが吸血鬼であるかもしれないと裏付ける判断材料ではないか。

 

とも考えたが、それだけで江崎レンが()()であると断定するのは

 

まだ早い。

 

いや普通ならここで決めつけてもおかしくはないのだが、それができない私はどうしようもなく

 

独りよがりで偽善だった。

 

そうだ。

 

ならば確実的で明確的で絶対的な言質を取ろう。

 

江崎レン本人の。

 

これならば疑う余地も皆無だ。

 

 

「ね、ねえ――」

 

 

そう訊こうとして、私はいつの間にか地面(というか屋上)に一人で立っていることに気づき、

 

そして、江崎レンは消えていた。

 

三百六十度見回してもその姿を捉えられることはなかった。

 

それは霧散という言葉に相応しいように霧となって消えたのかもしれない。

 

現に伝承における吸血鬼は霧にもなれたと聞く。

 

しかし、いなくなってしまった人物に声は届かないし、意思思考の第六感概念は尚更だ。

 

早すぎた。時期尚早だったのだろう。

 

いや、やはりそれは違う、むしろ遅すぎたんだ

 

そう考え、自業自得か、と私は一旦手を退引くことにした。

 

そこで私は、江崎レンにナチュラルに

 

()()()()()()をされていたことに気づいた。

 

そして私は、

 

非常に今更だが、顔に熱が籠もるのを感じた。

 

 

 

 

 

 




今回はここで終了です。

しかし事故の一部始終をつらつらと殴り書きするお話があっていいものかは

議論の余地が残るところです。
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