真紅き意志の串刺竜公 -Scarlet Will `Ţepeş`-   作:あるかなふぉーす

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書き溜めが…尽きそうだ。

やばし。


第四話 串刺 《前編》

1

 

とある日の午後一時過ぎ頃のこと。

 

僕は今、例の鉄骨ビルの上で悠然と食事を摂っていた。

 

さて、僕の目下の目標といえば、先の話題にも上がった『吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』なのだが、普通に見つ

 

け出そうともすればかなりの時間と苦労を要する。

 

なんせこの世界には七十億人、日本には一億三千万、市内にまで絞ってもウン十万人の人間がいる。

 

そんなものの中から、例え『吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』とはいえ、同じ人間を見つけ出そうとするのは草む

 

らの針を探すようなものだ。

 

これは非常に効率が悪い。

 

なので正攻法で探すのはやめ、

今回は相手が来てくれるのをただただ待つ、と

 

いう待ちのスタンスで行こう。

 

さて話を戻し、今僕が食事をしているという理由は言うまでもなく『吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』を名乗る逢

 

原玲を誘い出すためだ。

 

湊理が、僕と一緒にいたことを話してしまったのが、昨夜。

 

吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』・逢原玲が僕の想定通りの腕前の人間であれば、既に僕の居場所の足はついている頃だろう。

 

今頃は僕を尾けて、僕に感づかれない場所にて僕を監視している筈だ。

 

そして、接敵の時を見計らっている。

 

ならばいっそのこと襲わせてしまおう、というのが僕の考えだ。

 

あらゆる生物において、食事の時は警戒を怠るものだ。

 

これはもはや自然界の摂理である。

 

それならば今回はその自然の摂理を逆手にとらせてしまおう。

 

つまりは十分な警戒をしつつ、食事をしているフリをし、向こうが接触してきたところを迎え討とうという算段であった。

 

しかし、それは呆気なく失敗に終わった。

 

 

「やあ、吸血鬼くん。食事中にすまないね」

 

 

彼女、吸血鬼殺し・逢原玲は悠然とした態度で僕の座る鉄骨に近づいてきた。

 

僕の計画としては早まって攻めてきた所を迎撃する、といったものだったので、ここまで

 

悠々と近づいてこられては計画も意味を為さない。

 

ここで僕が攻撃を仕掛けてしまえばあっという間に立場逆転だ。

 

なので、僕は仕方なく近づいてくる逢原玲の一挙手一投足を警戒するしか術がなかった。

 

すると、逢原玲は頬をポリポリと書きつつ、

 

 

「あの…ちょっと降りてきてくんない?流石のお姉さんでもそこまで登るのは無理だよ。というのが私の情願」

 

 

と言った。

 

言いながらも彼女はその目を獲物を狙う鷹のように鋭く光らせていた。

 

どうやら下手に回る気はさらさら無いようだ。

 

ちなみに今、僕がいるのは鉄骨ビルの十四階である。

 

僕としてもこんな狭い場所でどんぱちを起こしたくはない――いや、やろうと思えばできるのだが、

 

それをしてしまうと恐らくこの脆い足場は鉄骨ビルもろとも巻き込んで全て瓦解崩落してしまい、

 

明日の紙面のトップを飾ることだろう。

 

そればっかしは僕としても避けたいところだ。

 

そういうわけで僕は大人しく降りることにした。

 

 

「あぁ、ありがとう。悪いね。私も一応人間だから」

 

 

そう言って逢原玲は、鉄骨ビルから降りた僕にさらに近づいてくる。

 

 

「で、何の用?」

 

 

僕が聞くと、

 

 

「この前の事件」

 

 

と、逢原玲は切り出した。

 

 

「この前の血液パックが盗まれた事件。やったのは君だよね。というのが私の確認」

 

 

「ああ、そうだけど」

 

 

突然の話題であったが、別に隠す必要もないので肯定する。

 

 

「どうやって侵入したの?病院のセキュリティは結構厳重だよ」

 

 

「なんでそんなことを知ってるんだ?」

 

 

「実際に侵入してきた。というのが私の解答」

 

 

「アグレッシヴすぎるだろ」

 

 

捕まってしまう危険性もあるというのに。

 

 

「まあ、それならアンタの質問には答えようなもんだろう」

 

 

「何故?というのが私の疑問」

 

 

逢原玲が問うてくるので、僕はハッ、と笑い捨てた。

 

 

「君たち人間にできることだ。吸血鬼の僕にできない筈がない」

 

 

そりゃそうだ、と逢原玲は笑った。

 

 

「ところで」

 

 

と、僕は話を切った。

 

 

「アンタ、何のためにここに来たの」

 

 

「君に会うためだけど。というのが私の解答」

 

 

「いや、そういうことじゃなくて」

 

 

そう言うと逢原玲は首を傾げた。

 

 

「そういうことじゃなくてさ。その、僕に会いに来た理由だよ。僕が聞きたいのは」

 

 

「あ~そうゆーことね」

 

 

そう納得すると、逢原玲は鋭い眼差しを僕に向け、

 

 

「注意喚起さ」

 

 

そう言った。

 

 

「注意喚起?」

 

 

僕はいまいちその意味を理解できなかった。

 

 

「そ、原因は分かるよね?さっき話した血液パックを盗んだ件。ただでさえ物騒な浮き世な

 

んだ。民間の病院で事件が起こりゃ皆病院に行くにも怯えでガクブルさ」

 

 

「そんなものかな?たかが、そのくらいで」

 

 

「たかが、でも人間にとっちゃ大事件だよ」

 

 

逢原玲は笑みを湛えた表情をした。

 

 

「ま、とにかく人間社会にあんまり迷惑かけないでね」

 

 

少しの沈黙が流れ、

 

 

「これは私の忠告だから」

 

 

逢原玲は笑みを崩さなかった。

 

 

2

 

闇夜に瀏々(りゅうりゅう)たる風一陣。

 

僕らは未だに一歩も動かず、口しか動かさず、

ただ単に向かい合って対峙していた。

 

お互い、迂闊にアクションを起こすことができない。

 

お互いの実力は初対面でもある程度分かる。

 

そして、お互いがお互いの行動を縛り付ける。

 

そんな相互的束縛でこの均衡は成り立っていた。

 

しかし直後、この均衡はあっさりと傾いた。

 

 

「ところで、確かめたいことが一つあるんだけど。というのが私の確認」

 

 

唐突に逢原玲はそう言った。

 

 

「何?」

 

 

と、聞いてからの逢原玲の動きは流麗にして迅速だった。

 

この僕でも認知するのが一瞬遅れてしまう程に自然な動作で彼女は自分の腰部――コートの裏

 

に隠れるように手を回すと――

 

と、そこで彼女の動きを一挙一動見張っていた僕の身体に異変が起きた。

 

それに気づくのにすらコンマ数秒程の時間を要したが、僕は腹部に鈍痛を覚えた。

 

何か何かとそちらを見やると、なんということだろうか、僕の横っ腹に風穴が空いていたのだった。

 

 

「…は?」

 

 

この程度の痛み、というレベルの痛覚だったため痛みに悶えるという程ではなかったが、

 

この僕が反応できないうちに脾腹が突貫されていた事態は流石の僕でも驚いた。

 

何をしたのか、急いで目を自分の腹部から攻撃の方向、即ち逢原玲の方へ走らせると、

 

逢原玲の前方からは今にも空気に掻き消されそうな白煙が立ち上っていた。

 

いや、それは正確には硝煙という奴だろう。

 

彼女は僕の腹を銃で撃ち抜いたのだ。

 

数瞬遅れて、ぱんっ、という間の抜けた音がしたので間違いはないだろう。

 

しかも腰だめ。銃口をコートの隙間から僅かに覗かせた程度の位置から撃ってみせた。

 

西部劇でもあるまいし、照星を一切見ずに僕の身体を正確に撃ったのだから、それは

 

すごい技術だ。

 

僕が着弾の衝撃でよろめいた体勢を立て直すころには、僕の銃創は完全に修復されていた。

 

その光景を見て、逢原玲は僅かに目を丸くした。

 

 

「試したいこと、ってその物騒な飛び道具の試し撃ちのこと?」

 

僕が皮肉混じりにそう言うと、逢原玲はアハハ、と笑って、

 

 

「ごめんごめん、いきなりすぎたかな。というのが私の謝罪。いや本当に。

 

 確認しときたかったことがあったんだよね」

 

 

人の脇腹撃っといてよく言うよ。

 

ところで、僕は些細な疑問を口にした。

 

 

「そういえば、銃で撃ったんだよね」

 

 

「そうだけど…ほら、『S&W(スミス・アンド・ウェッソン) M36』さ」

 

 

右手に携えた拳銃をかちゃかちゃと見せびらかす逢原玲。

 

警察用拳銃として携行性を重視し、小型化して製造されているので、女の逢原玲でも余裕で持ってみせることができる。

 

 

「特にこれは女性の護身用に造られた『M36 Lady S&W』だね」

 

 

「しかし、用途は明らかに護身用では無かったのだけど」

 

 

「そこは突っ込まない突っ込まない」

 

 

単純な奴だなあ。

 

恐らく彼女にとって世界の『吸血鬼(ヴァンパイア)』以外のことはどうでもよいことではないのだろうか。

 

まあ、『吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』の興味の矛先なんて、それこそ僕からしたら興味は皆無なんだけど。

 

それで長い前置きだったが、ようやく質問をする。

 

 

「銃で打った割には銃声が小さかったような…」

 

 

そんな僕の疑問に逢原玲はハハハ、と笑った。

 

それは心底下らないことだ、言うまでもないことだ、と言わんばかりの笑いだった。

 

 

「あれ?君、『サイレンサー』知らないの?」

 

 

「悪いけど、僕にとって『さいれんさー』なる単語は初耳だよ。

 

 生まれてこの方、見たことも聞いたこともない」

 

 

「おっとそりゃ、いきなり難しい言葉使って悪かったね」

 

 

彼女はそうおどけて見せた。

 

 

「『サイレンサー』ってのは、その名の通り発砲音を軽減出来る装置さ。

 

 『サウンドサプレッサー』とも言ったりする。

 

 サプレッサーってのは大まかに言うと、銃の発射時の光や音を抑制するものだ。

 

 構造的には幾つかの空気室を作って、発射したときの火薬の燃焼ガスを空気室に送り込んで

 

 徐々に減圧して外に放出することで、火薬燃焼ガスが銃口から放出するときの破裂音を

 

 軽減できるっていうわけなんだよ。というのが私の説明。

 

 どう?わかってもらえた?アンダスタン?」

 

 

「ああ、はい…説明ご苦労様」

 

 

ああ、長ったらしい。後半の方は全く聞いてなかった。

 

 

「そうか、そうか。それなら良かった」

 

 

一方、僕のそんな事実を知る由もない逢原玲は一仕事終えた、といった感じで充足感に

 

満ちた顔をしていた。

 

 

「ああ、そういや」

 

 

と僕は彼女の持つ銃を指差し(多分もう腰裏のホルスターあたりに仕舞っていると思うが)、

 

 

「それ、銃刀法違反」

 

 

と言った。

 

対して彼女は

 

 

「君は、窃盗罪しかも侵入罪」

 

 

「アンタの方が量刑は重いだろう」

 

 

「結局お互い似たり寄ったりのことしてるじゃないか。つくづく不本意だけど」

 

 

と言い返してきたので、これ以上の甲論乙駁は無駄足と悟り、さっさと閉口した。

 

ところで、今まで会話が凄まじく脱線事故していたため話題の隅に放置されていたが、

 

 

「ねえ、確認したいことって何だったの?」

 

 

「ああ、それね。ていうか、自覚あるんじゃない?というのが私の指摘」

 

 

自覚?果たして何のことだろう。

 

僕が考え込んでいると、逢原玲は正面から僕の顔をのぞき込んできた。

 

 

「あれ?その表情から察するに自覚ない?というのが私の分析」

 

 

「さあ、僕にはさっぱり知りもしないし、知ろうとも思わない」

 

 

「そうなの?でも自分のことは一応把握してた方がいいと思うよ」

 

 

ケラケラと笑いながら、逢原玲は僕の脾腹を指差して言った。

 

 

「治癒力さ」

 

 

「治癒力?」

 

 

「そう、正確には自然治癒力かな。君たち吸血鬼は薬剤を一切必要とせずに人間

 

 の百倍以上のスピードで創傷の治癒を行えるのさ」

 

 

「そんくらいは知ってるよ」

 

 

「まあまあ黙って聞いてなさい」

 

 

僕が口を挟むと、逢原玲は僕を窘めてきたので、仕方なく黙ることにした。

 

 

「で、主に人間の自然治癒の過程は創傷の場合、流血による血栓が行われ、

 

 次にマクロファージや白血球、好中球による異物除去が為される。

 

 その後、毛細血管が新しく造られるとともに創の表面に肉芽細胞ができ、

 

 コラーゲン線維が生成され、グロースファクターで刺激された表皮細胞が遊走分裂し、

 

 表皮が造られて創が塞がる。といった感じ。というのが私の講義」

 

 

「……」

 

 

――あっ、終わってたの。ごめん長すぎて眠りかけてた。

 

 

「え、えーと。御講釈どうも。

 

 で、結局君は何が言いたいの?」

 

 

俺が無理やり話を終わらせようとすると、逢原玲は不服そうに顔をしかめた。

 

いやでもですね。あなた前置きばっかり長くて全然本題に入らないんですもの。

 

 

「あーあー、ごめん前振りが長すぎたね。

 

 じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」

 

 

なら最初からそうしてくれよ。僕は生物の授業を受けにきた訳じゃないんだから。

 

 

「我々、というか大抵の吸血鬼には周知の事実だが、君は知らないようだから教授しとくよ

 

 ――君たち吸血鬼の血管内には特殊な細胞が流れてる。

 

 特に命名する気もないし、未知の細胞という意味で『X細胞』と私たちは呼んでいる。

 

 『X線』とネーミングの意図はおんなじだ。まあ、業界用語と捉えてくれるといいよ」

 

 

え、『X細胞』?何だよそりゃ初耳だよ。

 

でも逢原玲の話し方からするに、他の吸血鬼や吸血鬼殺しの逢原玲は知っているみたいだ

 

し、僕の情報弱者っぷりは否めない。

 

『無知は罪なり』とは聞いたことあるけど、『未知』はセーフだよね?無罪だよね?

 

 

「ちなみに私たち『吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』はその血中の『X細胞』を含んだ血液を嗅ぎ分ける能力を

 

 生まれつき有している。

 

 そうやって私たちは人間と吸血鬼の判別をしているんだよ」

 

 

へえ、そいつはいい情報を聞いたな。

 

なるほど、『X細胞』か。確かにその存在をしれてよかった。

 

もしかしたらその『X細胞』の血液の匂いさえ何とかできれば、以降安穏で長閑な生活

 

を遅れるかもしれない。

 

などと実現困難な未来を想像していると、

 

 

「あ、ちなみに今のは企業秘密ね。というのが私の注釈」

 

 

「おい」

 

 

思わず突っ込んでしまった。

 

なら言うなよ。

 

 

「大丈夫なの?言ってしまって」

 

 

「ま、バレなきゃ大丈夫でしょ」

 

 

凄まじいほどの楽観的思考だった。

 

 

「せいぜい同業者の恨みを買わないようにね」

 

 

流石の僕も自らの天敵にもかかわらず、少し心配してしまった。

 

 

「ハハハッ!吸血鬼なんかに心配されるようじゃ、吸血鬼殺し・逢原玲もあがったりだよ」

 

 

「そうですか…」

 

 

余りの楽天家ぶりに言葉を返すのさえ憂鬱に感じてしまう。

 

 

「まあ、それにしても意外だったね」

 

 

「何がかな?」

 

 

「僕らの治癒力に細胞が作用していた、ということ」

 

 

「そんなに意外かな?」

 

 

いや、意外も意外だった。

 

僕ら吸血鬼(ヴァンパイア)の治癒力は、こう、何というか…妖力とか魔力とか、そういったいわゆる霊妙、神妙がかった

 

ものに基づくものだと思っていた。

 

というか、伝承の吸血鬼(ヴァンパイア)のイメージなんて、そういうものだろう。

 

スーパーな細胞で治癒してたとはお世辞にも信じにくかった。

 

その旨を逢原玲に話すと、

 

 

「アッハッハハハハハハ!」

 

 

盛大に笑われてしまった。

 

盛大に大受けしてしまった。

 

どこに笑うツボがあったよ。

 

失礼すぎる。

 

 

「いやはや、失礼。というのが私の謝罪」

 

 

随分と軽々しい謝罪をしてくれた逢原玲だった。

 

 

「しかし、笑うのも仕方がない。君はもしや今まで吸血鬼という生物が、そんな珍妙不可解なリソースで

 

 構成されたものだと思ってたのかい?だとしたら大笑いだよ。それは君の自信過剰さ。勘違いも甚だしい。

 

 これは周知の事実だけど、君ら吸血鬼はヒトとチスイコウモリの混合種(ハイブリッド)だ。

 

 いくら間違えても『鬼』だなんて思ってくれるなよ。それは迷信だ。

 

 その点で言えば、君らを構成しているのは嘘と誇張と迷信と畏怖畏敬だ。勘違いしてくれないでね。

 

 そしてその混合種(ハイブリッド)に、何を間違ったのか驚異的な代謝と運動能力が与えられてしまった。

 

 全く、この世界の神も血迷ったことをするね。

 

 結局のところ君らはどこまで問いつめても、究明しても、あくまでも生物の範疇だ。

 

 決して、妖怪や怪異や怪物や化け物や魔物なんて大それたものじゃない。

 

 君らはれっきとした生物学上で生物と認められた生物だ。」

 

 

僕は妖怪や怪異や怪物や化け物や魔物なんかではない。

 

あくまでも生物だ。

 

その言葉は、人間社会を忍んで生きる僕にとっては都合のいい話であり、さして悪いことではないはずなのだが、

 

どこか、自分の存在を否定された気がして素直に喜べなかった。

 

まさに悲喜交々だ。

 

 

「ああ…教えてくれてどうも。話進めてどうぞ」

 

 

僕はとりあえず気分を切り替えたくて、逢原玲に話の続きを促した。

 

 

「えーっと、どこまで話したっけ?…ああ、『X細胞』のとこまでだったね。というのが私の

 

 自己完結」

 

 

またあの長ったらしい講義を聞かないといけないのか。

 

そろそろ僕も付き合うのに疲れてきた。

 

何だよ、この吸血鬼殺しは?

 

僕を精神的に殺ろうとしてるのか?

 

 

「アンタ、これ以上だらだらとした話を続けるんなら、いい加減帰ってよ。

 

 吸血鬼は夜に活動し、昼に寝るんだ。

 

 僕も大概動き疲れたから休みたいんだよね」

 

 

「おいおい、そんな湿気たこと言うなよ。吸血鬼くん。

 

 お姉さんこれでも友達少ないんだから寂しいんだよ。

 

 そんな可哀想なお姉さんの雑談ぐらい、付き合ってやる度量を持ちなよ。というのが私の主張」

 

 

友達少ないからって僕に迷惑はかけないでもらいたい。

 

そもそも、僕と逢原玲は『吸血鬼(ヴァンパイア)』と『吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』同士。

 

つまりは相反する存在。敵対する存在。

 

決して慣れ合ってはいけない。なあなあになってはいけない。

 

アリとアブラムシになっては駄目だ。

 

互いに狩り場を争う肉食獣であれ。

 

僕と逢原玲。

 

どうみても穏やかに雑談を交わしあう間柄ではない。というか僕一度銃で撃たれてるんだが。

 

しかし、構ってやらないと帰ってくれそうにないし、そんなもので僕の貴重な睡眠時間が

 

奪われてしまうのは、なかなかに辛い。

 

 

「わかったわかった、ちゃんと吸血鬼くんの

意向に添ってちゃっちゃと話しますよ~」

 

 

軽口を叩いてはいたが、その底の知れない、闇に潜む大口を開けた魔物のようなオーラだけは残しつつ、

 

逢原玲は話を続けた。

 

 

「君たちの『X細胞』は人間のマクロファージや好中球なんかとは類比するのもままならない

超上位互換版さ。

 

 炎症反応から異物除去、瘢痕治療までを僅か数秒でやってみせるハイスペックの細胞だよ」

 

 

「もはやそれは廃スペックだね」

 

 

「あはは…あの、文字にしないとわからないようなネタはやめてもらえる?というのが私の感想」

 

 

逢原玲は苦笑いをしていた。

 

うー。流石に今のボケは自分でもないとは思った。

 

何だよ廃スペックって、廃スペックってさあ。

 

 

「悪かったね」

 

 

込み上げる恥ずかしさを表情に出さないよう抑えつけて僕はとりあえず話を保たせる。

 

おかげで逢原玲はさっきの滑ったボケをなかったことのように話を続けてくれた。

 

 

「それで、スーパー上位細胞『X細胞』はそれこそ吸血鬼の自然治癒に天晴れな貢献をし、

 

 浅い切り傷ならコンマ数秒、深い切り傷でも三秒以下、筋肉の断裂は二十秒以下、切断の場合は指で十秒以下、

 

 骨折で一分以下、腕や脚なら一分から三分、上半身と下半身がサヨナラしても僅か数十分程度だね」

 

 

「すごいですね」

 

 

「自分のことだろう?他人事みたいに言うなって」

 

 

そう言って笑った。

 

 

「ああついでに言うなら部位によって治癒の時間にも差がでる。

 

 主要な内臓や中枢神経、脳などをやられると時間のかかるもので五時間はかかったりする」

 

 

と、逢原玲は付け加えた。

 

そして彼女はシニックに笑んで、言った。

 

 

「ちなみに頭部の爆散なら少なくとも三時間だよ」

 

 

、と。

 

頭部爆散。三時間――!

 

目の前を見ると、彼女の表情は冷厳だった。

 

冷酷に笑んでいた。

 

冷徹に見ていた。

 

心臓を一握りされるような感覚。

 

臓物を散りばめれる感覚。

 

僕は初めてこの人間に危機意識を抱いた。

 

いや、よくよく考えてみれば、彼女が『吸血鬼殺し(ヴァンプキラー)』という時点で警戒しなければいけないのだが。

 

 

「ようやく気づいたか、自分の奇怪さに」

 

 

逢原玲は尚も笑みを崩さなかった。

 

 

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